超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】   作:ジマリス

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59 未来を見つめて

暗く、光の差さないコンクリートの部屋。

その真ん中の、木材やわらが敷き詰められた台座にオルガの身体を横たわらせる。

その顔には文字通り生気はなく、ただただ無表情だった。

血は固まり、胸を中心に赤い血が染みのようにこびりついている。

 

「みなさんを呼ばなくていいんですか?」

 

この場には、俺とイストワールだけがいる。

オルガの死体を運んだことも、この二人しかいない。

俺は首を横に振った。

 

「休んでるところに暗い話題は余計滅入るだろうし」

 

ネプギアたちはいまごろゆっくり休んでいるだろう。

俺もコンパの治療のおかげで傷はほとんどふさがっている。

 

「それに、オルガはそんなに騒がしいのは好きじゃない」

 

マッチを台座に落とす。

火はすぐに燃え上がり、オルガの身体を灰へと変えていく。

 

「いままでさんざん騒いだんだ。最後くらいは静かに、な」

 

目を閉じる。

浮かぶのは、俺が殺した人たち、前の次元で出会った仲間たち、エリカ、オルガ。

ってことは、まだ捨てたもんじゃない……と思う。

 

「もう会うことはない……な」

 

燃え盛る火がゆらゆらと揺れる。

視界が滲んで、その火すらもまともに見えなくなる。

 

「それでは私は戻ります。それと、ここは一応防音になっていますので」

 

そういうと、イストワールはこの場から去っていった。

扉が開いて、閉まる音がした。

 

「………」

 

わらや木材とともにオルガの死体が燃える音以外は何も聞こえない。

何も。

 

何も。

 

「終わったよ、オルガ」

 

もちろん、返ってくる言葉はない。

 

つー、と頬に涙が流れた。

一度流れたらもう止まらない。

 

 

 

 

 

「よおっし!」

 

「あっ!ちょっとネプテューヌ、いまのはずるいわよ!」

 

「ここはネプテューヌを狙うべきね」

 

「ふふふ、ハメ技を覚えた程度じゃ、私の相手にもなりませんわ」

 

教会のみんなが集まる広間には、すでに元気よくゲームを囲んでいる四女神とゆかいな仲間たちがそろっていた。

 

「ゆっくり休むってのは、そうかみんなで騒ぐことを言うのか…」

 

ケガなんてないようにはしゃぐみんなを見て、呆れると同時に安堵した。

 

「あっ、ユウさん」

 

そんな俺に気付いたのはコンパだった。

 

「よう。ありがとうな、コンパ。おかげでもうほとんど治ったよ」

 

「前にユウさんを満足に看病できなかったので、いっぱいいーっぱいお勉強したですぅ」

 

次に向かってきたのはユニだ。

 

「ユウ、心配したわよ!」

 

「心配したならもうちょっと心配したなりの顔をしてくれ」

 

「あいたっ」

 

怒った顔のユニにデコピンして、そして頭をなでる。

 

「大きな傷も無くてよかったよ」

 

「それはこっちのセリフよ…」

 

ユニは顔を赤らめながらも、いまは素直に撫でられていた。

 

「しかしずいぶん甘やかしてるな」

 

「みなさんよく頑張りましたからね。いまだけは好きにさせておこうと決めたんです」

 

ふよふよと近づいてきたイストワールは嬉しそうに言う。

一番の懸念事項が消えて安心しているのだ。

 

「ユウさん、今回の事件はあなたに負担をかけすぎましたね。申し訳ありません」

 

「いやいや、俺のほうこそこっちのことで巻き込んですまなかった」

 

「まあまあ、お互いさまってことで」

 

ぺこぺこ頭を下げる俺とイストワールを、いつのまにか現れたアイエフが止めた。

 

「それにしてもよく勝てたわね。あんな力を持ったやつに」

 

「まあエリカの技はよく知ってるし、なによりあの力を手に入れたばっかで慣れてなかったんだろう」

 

犯罪神の力を理解し、それを受け入れて全体的な力が増してるとはいえ、それを短時間で扱いきるのは不可能だ。

 

「後悔してる?」

 

「いいや、放っておいたら危なかった。あそこで殺したのは……」

 

言葉に詰まる。

エリカを殺したことは犯罪神を倒したことになるのだろうか。

犯罪神はその魂さえあれば器を求めてさまよう。その器であるエリカは、犯罪神の力を全て己がものとするためにその魂を自らの身体に閉じ込めたため、彼女の死亡とともに犯罪神も消滅した。

そう、犯罪神は消滅した。

エリカを殺すことでしか、犯罪神を倒すことはできなかった。

だからといって殺すことが正しいなんて俺には言えなかった。

それが正しいならば、俺もまた殺されるべき存在であり、人間を名乗ることはできない。

 

「間違っていません」

 

ネプギアがきっぱりと言った。

 

「誰がどう言おうと、あなたは私を…私たちを救ってくれたことに変わりありません」

 

そうかな。

そうなんだろうな。

ネプギア、お前がそう言うなら俺はそう思うようにしよう。

 

 

 

 

そのあとはみんなに混じって遊びまくった。

ゲームなんてしたのは久しぶりで、しかもグラフィックやシステムが進化しすぎていて俺はついていくのがやっとだった。

テレビゲームだけでなく、人生ゲームなどのボードゲームも楽しんだ。

仕事していた教祖を引き込んでの大混戦になったときは、ボードを囲む円が大きくなりすぎて手が届かなくなったくらいだ。

 

「ふう…」

 

ごはんを食べるのも忘れて、みんなはまだはしゃいでいる。

もうすでに夜。

俺はバルコニーに出て、熱気にあてられた身体を冷ます。

 

「や、やっと抜け出せました…」

 

「久々だね、あんなに遊んだのは」

 

「イストワール、ケイ…」

 

俺と同じように、教祖二人が外に出てきた。

 

「どうだった?」

 

「できました」

 

イストワールが飾り気のない、銀の腕輪を差し出してきた。

俺はそれを受け取って、眺める。

 

「ああ、ありがとう。でも、こっちの意味じゃなかったけど」

 

「要望通りの次元転送装置だよ」

 

ケイが補足説明する。

この腕輪は、俺が頼んで作ってもらったものだ。

こことは別の場所に行くために。

 

「ずいぶん小さいんだな」

 

「一番必要なのは膨大な力ですからね」

 

「ユウさんの力を解放すれば、打ちこんだ座標の次元にいけるはずだよ」

 

俺は右腕に輪をはめた。

ただ銀色に光るだけのそれは、見るところ不思議な力はないようだ。

 

エリカが最後に残したのは、彼女の最後の記憶だけではなかった。

彼女がこの次元に来てから学び、実験した事も含まれていた。

 

犯罪神の力に関して、それを応用する方法をイストワールたちに話し、利用しようと考えた。

俺がここに来たように、違う次元にも行けるはずだと。

 

思ったよりも早くできたのは、誤算だったが。

 

「力を…ね。こんな小さな機械に耐えられるのか?」

 

「それは大丈夫なはずだよ。たぶん…」

 

「たぶんっておい」

 

「あははは…大丈夫だよ、きっと。そういうふうに設計した」

 

あっけらかんと笑ってみせるケイをわざと睨んだあと、俺も笑った。

 

「信じさせてもらうよ」

 

見せつけるように腕輪を掲げる。

短くても濃い旅だった。

この二人にはよく助けてもらった気しかしない。

信じるには足りすぎる。

 

「それじゃ、僕たちはいこうか」

 

「ええ、そうですね」

 

イストワールとケイは何事もなかったかのように中へと戻っていった。

中からの騒ぎ声がいっそう増したことから、またゲームに巻き込まれたに違いない。

 

「ご愁傷さま」

 

俺は腕を空に掲げて、光る腕輪を今一度眺めた。

紋章や、文字さえも刻まれていない。

 

「少しくらいは飾り気があってもよかったんじゃないか」

 

とはいえ、戦いのなかではそれらが邪魔になることもあり得る。

なにも無い、というのはそれはそれで便利なものだ。

 

腕を下ろし空を見上げると、世界が滅ぶかもしれなかった戦いなどなかったかのように、変わらずに輝き続けている。

誰かが死んだなんて知らないというように、いまも光を放っている。

 

「綺麗ですね」

 

ネプギアが俺の隣に立った。

あの二人が入った隙を抜け出して出てきたのだろう。

 

「……」

 

こんなときに気の利いたことの一つも言えない自分が少し情けなくなる。

 

「もう、行く気ですか?」

 

図星をつかれて、俺は内心驚く。

ネプギアの言う通り、俺はもう旅立つことを決めていた。

エリカといい、ネプギアといい、世の女性は鋭い。もしくは俺がわかりやすすぎるのか。

 

「最後にエリカと交わした約束がある。だから行ってくるよ」

 

エリカとの最後の約束。

エリカを忘れないように死ぬまで戦い続ける。

 

こんどこそ、俺は約束を守りたい。

 

「行ってくるって……そんな軽く…」

 

ネプギアは俺の袖をつかんだ。

 

「私はできるだけ、行ってほしくないです…」

 

その顔は伏せてしまっていて、表情がくみ取れなかった。

 

「でも、ユウさんが決めたことなんですよね」

 

ネプギアは手を離し、とびっきりの笑顔を見せてくれた。

 

「ユウ、ちょっといいかしら」

 

「ああ」

 

ユニがこちらに来ると同時に、ネプギアは中へと戻っていった。

その暗い表情を見ないふりをして、俺はユニのほうを向いた。

 

「ネプギアと何を話してたの?」

 

「ちょっとな」

 

その言葉に何かを察したのか、ユニは何も言わずに外を見た。

 

「平和ね」

 

「……」

 

「お姉ちゃんたちがあんなに笑ってゲームしてるなんて、三年前じゃ予想もできなかったわ」

 

「きっとお前たちだけでもなんとかできたさ」

 

「それでもアンタが来てくれてよかった」

 

ユニはぐいっと近づいてきた。

 

「アンタにしか救えなかった人がいて、アンタにしか救えなかった世界をアンタが救ったの。そんなアンタに会えたからこそ、アタシは強くなれた」

 

助けられたのは俺も一緒だ。

そして強くなったのは俺も同じだ。

 

強くあろうとするユニに、俺は魅せられた。

その強さがたとえ対するものに及ばずとも、その生き方に意味がある。

 

ユニの姿は、俺の目には眩しく映っていた。

 

冷たい風が吹いた。

ユニはぎゅっとこぶしを握った。それからまっすぐ俺を見る。

 

「これからどうするの?」

 

「戦い続ける」

 

俺は即答した。

 

これまでの戦いが正しかったかどうか、俺にはそれを見極めたい。

それにはまだまだ多くの出会いと戦いが必要になる。

 

「いなくなるのね」

 

気丈に振る舞ってみせるが、その身体は震えている。

外が寒いからではない。

 

ユニを見ないふりをして、俺は中へ戻った。

 

 

 

 

 

翌日の早朝。

俺は誰にも告げずに教会の外へ出ていた。

声を聴いてしまえば躊躇してしまうようで、進めなくなってしまうようで。

顔を見てしまうのが怖くて、みんなが寝ている間に教会から出てきたのだ。

 

「さてさて」

 

俺は腕輪に触れた。

腕輪を囲むようにいくつもの数字が緑の光となって浮き出した。

その数字群のいくつかに触れると、触れたところの数字だけが変わる。

 

これが次元の座標だ。

あとはこれに力をこめるだけ。

 

「ユウさん」

 

いまからだ、というときに教会から声が聞こえた。

振り向くとネプギアがそこに立っていた。

 

ネプギアだけじゃない。

みんなが揃っていた。

この次元でともに戦った仲間たちが。

 

「やっぱり一人で出ていくつもりだったんですね」

 

「みんなといると、決心が揺らぐ」

 

実際、いまみんなを見るとここにいたい気持ちが強まる。

それを必死で抑えつけようと、俺はみんなから目をそらすようにネプギアを見る。

ネプギアもできるだけ目を合わせたくないようだ。

見ようとしても逸らしてくる。

 

「それなら、みんなも呼んできたほうが正解でした」

 

「言ってくれる」

 

乾いた笑いで半分冗談を言うネプギアに俺も笑って返す。

 

それきり、俺もネプギアも黙った。

周りのみんなも、喋らない。

ネプギアはみんなの代表なのだ。

しばらくの沈黙のあと、口を開いたのは俺だ。

 

「さびしくなるな、ネプギア」

 

「はい…」

 

「不満か?」

 

「不満はもちろんあります。あの…その…私は…」

 

何を言っていいか、何を言いたいのかわからずにネプギアはどもる。

 

「ネプギア」

 

俺はネプギアの肩に手を置いた。

 

「戻ってきたらゆっくり聞く。だから何を言いたいのか整理しておいてくれ。次に会うまでに」

 

「…はい」

 

少し強引だったが、その返事に満足して俺は振り返り、前へ進んだ。

 

「ユウさん!」

 

ネプギアが叫ぶのを、背中で聞く。

 

「私……まだユウさんとやり残したこともたくさんあって……やりたいことがたくさんあって……話したいことも、遊びたいゲームももっとあって……お姉ちゃんのことも、私のことももっと知ってほしくて…だから……だから…」

 

すう、と思い切り息を吸う音が聞こえた。

 

「絶対に帰ってきてください!!」

 

ネプギアの最後の言葉に、俺は手を挙げて応える。

 

「ちゃんと帰ってくるよ。俺もまだやり残したことがある」

 

腕輪が起動し、目の前にちいさな黒い光球が現れる。

 

光球の闇は広がって、俺の全身を包んでいく。

最後に俺は振り返り、みんなを見た。

 

涙するものは一人としていない。

俺への気遣いに、またしてもここにいたい気持ちが爆発しそうになり、手を伸ばす。

ネプギアも俺に向かって手を伸ばす。

 

それは、俺の全身を覆う闇に阻まれた。

 

この先には道が広がっている。

 

それはマジック・ザ・ハードが示したように、悪魔になる道。

それはドゥームが示したように、誰かに押しつける道。

それはエリカが示したように、誰かとともに歩む道。

 

だけど俺はそれらの道を進むことはしないだろう。

それぞれを否定して、斬り伏せた俺には選択しえない道だ。

たとえいばらの道であろうと、たとえ死に向かう道であろうとも、俺は自分の道を進む。

一寸先も見えないような暗い道を恐れず突き進もう。

 

誰にも押しつけず、誰とも分かつことない道を。

 

オルガやエリカ、ドゥーム。さらには俺の次元のネプギアたち。

彼女たちがそこにいた記憶、流れる血、冷めゆく体温、消えゆく身体の感触は俺の中にしか残っていない。

それもまたいつかは絶えることになるだろう。

 

死んでいった者の魂はどこに行くのだろうか。

次の場所へと移ったか、消滅したか。

身体から離れた魂の行方は誰にもわからない。

ゆえにつかもうとしてもつかめない。

 

だけども俺は一瞬でも長く残していたい。彼女たちが戦った証を、生きていたという印を。

この命がある限り、それは証明される。

滝空ユウという人間がいる限り、彼女たちは存在する。

 

 

俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。

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