超次元ゲイムネプテューヌ 衝動へのリベリオン【完結】 作:ジマリス
宿の部屋は豪華とも貧相とも言えないなんとも普通の部屋であった。
部屋に入ってすぐ左側にはトイレ、左側奥にはベッド、右側奥にはテレビと机とイスがある。
俺は装備していた大剣と刀を外し、机の上に置く。
重い大剣をしばらく装備していたため、外した瞬間身体が軽くなった。
「う~ん」
しばらく考え、大剣を手に取る。
ずっしりと重いそれは、持つことはできても振り回すことは不可能に思える。
だがネプギアたちの話によれば、俺はこれを軽々と扱っていたという。
そんなことをした記憶が俺にはない。
「う~ん?」
いくら考えても納得のいく答えがでなかった。
俺は大剣を机の上に戻した。
「そうだ」
俺はしまっておいたファイルを取り出す。
ケイから受け取った、俺についての情報が載っているファイルだ。
ちょうどいいし、今見るか。
ファイルをパラパラとめくると、俺の写真が数枚挟んであった。
最後のページ、そこに俺についての事が書いてあった。
『滝空ユウ
プラネテューヌの端にあるヴァティ村出身
5年前、見聞を広めるために旅に出る
旅に出ているときの武器は刀
危険種を一人で倒すほどの実力を持っている
現在では刀と大剣を装備している
本人の話によると、記憶喪失であり、滝空ユウ自身のことについては覚えていない様子である』
俺は普通の旅人だったみたいだな。
村出身の、好奇心旺盛な青年だったみたいだ。
旅の道筋も書いてある。
様々な国を旅していたようで、その旅路は世界を二週したあと、プラネテューヌで途切れている。
ここで旅が終了しているのか、それとも情報がないのか。
俺は次のページをめくった。
『滝空ユウは2年前、死亡しているのが見つかっている。
検死の結果、どうやら強力なモンスターに襲われたようである』
突然目に入ってきたその文字を何度も見る。
だが、『死亡』の二文字は変わらない。
「死んでいる?」
そんな馬鹿な。
俺は最後のページをめくる。
そこには手書きでのメッセージが残されていた。
『ユウさんへ
ケイだ
これを見ているということは、「滝空ユウ」の死亡を知ったということだね』
ケイの手書きのようだ。
この情報を見たときに、彼女はいったい何を思ったんだろう。
『プラネテューヌに保管されている「滝空ユウ」の死体と、君の髪の毛から採取したDNAを比べさせてもらった』
いつの間にそんなことを…。
いや、今はそんなことどうでもいい。
プラネテューヌに「滝空ユウ」の死体が保管されているということは、俺とその「滝空ユウ」は別人なのか?
『一致したよ』
俺の推理は一瞬にして崩れ去った。
『つまり、君と「死亡した滝空ユウ」は同一人物だということになる。
僕にも何が何やらわからないが、言えるのはそれだけだ』
俺が
二人いる?
すぐ寝ようかと思ったが、もやもやした気持ちが邪魔をする。
一旦頭を冷やすためにもう一度外に出るか。
俺は上着を着なおし、念の為に刀だけ装備した。
宿の外は道路に面していたが、今は深夜だ。
車どころか人っ子ひとり見えない。
「……」
断片の記憶。
大剣を扱った俺。
時折現れる黒い感情。
死亡している滝空ユウ。
真実を掴むには余りにも情報が少ない。
とりあえず俺のことに関しては置いておくか。
大きく伸びをし、深呼吸。
吐いた息が白く染まる。
うん、ちょっとスッキリしたかな。
さて、部屋に戻って寝るか。
「見つけたぞ、滝空ユウ!」
力強い声が聞こえた。
振り向けば、紫の髪を肩まで伸ばし、鋭い青色の眼を持つ女性がそこにいた。
歳は俺より少し下、二十歳前後くらいだろうか。
赤いトレンチコートが闇の中でよく映える。
「誰だ?」
「私を忘れたのか、
篠宮オルガと名乗ったその女は鋭い目で俺を睨む。
「相変わらずふざけた奴だ。この人殺しが」
「人殺しだと?」
この女、俺を知ってるのか?
ならゆっくり教えて…
「とぼけるんじゃない!」
…もらえそうにもないな。
目つきがさらに鋭くなったオルガは、腰の後ろに着けてある鞘から刀身が少し湾曲した刃物、ククリ刀を取り出した。
油断していた俺はあっという間に間を詰められた。
繰り出されたククリ刀の一撃をなんとか避けるも、続いて強烈な蹴りを受けてしまい、数メートル吹き飛ばされた。
「ぐっ…」
随分な挨拶だな。
ダメージを受けた腹をさすりながら、なんとか立ち上がる。
「悪いけど記憶喪失でね。俺のことを知ってるなら教えてくれよ」
煽るように言うと、オルガはさらに激高した。
「ふざけるな!記憶喪失だと……忘れただと!?」
ククリ刀の先をこちらに向ける。
「仲間を殺しておきながら!まだふざけるのか!!」
俺はその言葉に衝撃を受けた。
俺が殺した?
この女の仲間を?
いったい何なんだよ。
俺という人間は、「滝空ユウ」はいったい何者なんだ。
「あの時と同じだ…。道化の仮面をかぶっておきながら、それ以上の笑顔で人を殺す」
オルガは俺の方に近寄る。
仕方なしに、俺は刀を抜く。
「信じていたのに!」
オルガはククリ刀と体術で攻撃を仕掛けてきた。
「何人!」
流れるような攻撃を、なんとかさばく。
「何人殺したと思っているんだ!!」
なんとかしようと試みるも、オルガの攻撃が激しく、こちらの反撃の隙がない。
「私は貴様を許さない!!」
オルガがさらに素早くなり、防御が間に合わなくなってきた。
なんとか避けてはいるがこのままだと…。
「遅いっ!」
不安を感じ、一瞬おろそかになった俺の隙を見逃さずに、オルガはククリ刀を一閃する。
間一髪、上体を反らして攻撃を避け、距離を取る。
この女強いな。
少なくとも俺一人じゃ勝てない。
さて、どうしたものか。
素直に教えてくれそうにもないし。
ちょっと煽ったのがまずかったか。
聞きたいことはたくさんあるが、ここはひとまず退散させてもらおうか。
さすがにほかの人を巻き込むようなことはしないだろう。
俺はちらっと宿の方を見た。
それほど距離はない。
少し虚を突けば中に逃げれそうだな
「逃げれると思うな!」
視線で俺の考えていることを悟ったのか、オルガは鎖を放った。
鎖は俺に巻き付き、全く身動きがとれなくなってしまった。
オルガの左手から伸びているその鎖は頑丈で、例え刀を振っていたとしても斬れなかっただろう。
「喰らえ!」
電流が鎖を伝って流れてきた。
「ぐああああっ!」
なんだ、今のは。
魔法か?
麻痺効果でもあるのか、俺の体は指一本動かせなくなった。
オルガが近くに寄ってくる。
手に持つククリ刀の先は、まっすぐ俺に向けている。
「地獄に堕ちろ!」
オルガが俺の頭にククリ刀を振り下ろした。
その瞬間、アイエフがカタールでククリ刀を跳ね飛ばした。
ククリ刀は少し遠くに落ち、オルガは距離をとった。
「大丈夫?」
相手を警戒しながら、アイエフは俺に巻き付いている鎖を解く。
「ああ、助かったよ」
少し痺れる身体を無理やり動かし、刀を構える。
「どうする?二対一だぞ」
オルガはククリ刀を拾った。
「ふん……」
オルガはククリ刀を腰の鞘に収め、その場を去っていった。
追うのは危険だ。
去っていくオルガの姿が見えなくなったところで、大きく息を吐いた。
「ありがとう。よく気づいたな」
「戦う音と、あんたの叫び声が聞こえたのよ」
アイエフはもう誰もいなくなった道路を見た。
「誰なの、あいつ?」
「さあな、でも俺のことは知ってるみたいだった」
いつか、あいつから話を聞ける日が来るのだろうか。
『人殺し』
オルガが言った言葉が俺の頭の中を支配していた。
人殺し、か。
しかもオルガの言うとおりならば複数人、それもかなりの人数を殺したようだ。
俺は空を見上げた。
月の怪しい光だけが、俺を照らしていた。