「ここ、どこだ?」
見渡す限り木々に囲まれ、空はどこまでも続いているかのように澄み渡り、地面には草がそこらに生えている。足の裏に感じられる感覚は土を踏みしめているようだ。
どこからどうみても森の中としかいえないような場所に今自分はいる。
自分の意志でここにいるのではない。何者かにつれてこられたもしくは、神隠しにあったか、とにかく明らかに異常事態なことは確かである。
というのも、ここに連れてこられる前、俺は部屋の掃除をしていおりその時懐かしいものが出てきたため、手を休めてそれを眺めていた。出てきたのは遊戯王のカードで、自分が子供の頃に遊んでいたものだった。
遊戯王は小学生のころにブームとなり、友達と対戦して遊べる貴重な遊び道具だった。あまり家が裕福ではなかったため大量購入とはいかなかったが、デッキを強化するため親にねだってはパックを買ってもらったものだ。
社会人になった今ではもうしていないが、思い出の品として捨てずに取っておいたのだろう。
そうやって思い出に浸っていたときにそれは起きた。
突然、部屋全体を包むほど強烈な閃光が発生した。閃光は手元のところから光っているようだったが、あまりの光量に目を開けられず、しばらく収まるのを待って目を開けたところ、見えている風景はすでにここのものだった。
始めは突然の閃光に失神してしまい夢でも見ているのかと思ったが、あまりにも感覚に現実味がある。
閃光弾かなにかでで意識を失った後拉致された可能性も考えたが、拘束されていないどころか近くに人がいる気配もない。
となると、一体何が自分の身に起きたのだろう。
人は自分が抱えきれる量以上のことが起こった時かえって冷静になるというが、どうやら本当にそうらしい。
とりあえずこの近くに人がいないか確かめてみるべきだろう。
「すみませ~ん! 誰かいませんか~!」
......残念だが反応はない。正確には声に驚いた鳥が飛ぶ音などが聞こえてきたが、人のものらしき物音はしなかった。
弱ったなぁ、ここから動こうにも森の中を素人が一人で歩くなんて危険すぎるだろうし、何よりどの方向に向かえば人のいる場所に行けるかがまったく分からない。いざ歩いて向かった先が森の奥なんて笑い話にもなりそうにない。
一先ずこの付近に何か手がかりになりそうな物はないか......ってあれは!
慌てて駆け寄り地面から拾い上げたのは、ここに来る直前自分が眺めていたカード達だった。枚数としては多くなく20枚から30枚ほどだろうか。
どうしてこんなところに......それに枚数も少ない。
手がかりになるかどうかは別として、この状況に関係するのかもしれない。そう思いポケットにカードを入れ、またどうしたもんかと考えに耽ろうとしたところ、なにやら背後の林から物音が聞こえてきた。
もしや、誰かが近くにいてさっきの声を聞いたのかも。期待に胸を膨らませいざ後ろを向き見えてきたのは、四足歩行に凛々しい牙を持ち、目を爛々と光らせこちらを見ている......『狼』だった。
「って、えええええええ!!」
に、日本にまだ野生の狼っていたんだっけ。っていうか、明らかにこれ俺のこと獲物としてみてるよね。
あまりのことに一瞬時が止まったように感じたが、むこうは待ってくれないらしく勢いよくこちらに向けとびかかってきた。
「うわああああああ」
なんとか一撃目を交わすことに成功し、一目散に後ろを向いて逃げ出した。もうどの方向に向かえばいいかなど考えている余裕もなく、とにかく狼から逃げることだけ考えて逃げて行った。
☆
「ハア、ハア、......」
どれ程の距離を走っただろう。すでに明るかった景色は夕闇に飲まれようとしている。
普段走ったこともないようなでこぼこした道を全力で走り、尚且つ後ろから迫ってくるプレッシャーもあり、もう全身が疲労困憊で、心臓も破けんばかりに鼓動している。
遂に手と足のバランスが崩れて体を倒してしまう。
も、もう付いてきてないよな……
木にもたれかかりながら来た道を見やる。しばらくの静寂があり、緊張で自分の鼓動が大きく鳴り響く。やったと思えたのも束の間、悠然たる動作で木の陰からヤツは現れた。
その姿を見ればヤツは息を切らすこともなく、疲労を感じさせない動きでゆったりとこちらに近づいてくる。むしろ今思えば途中で追いつくこともできたが、こうやって獲物を疲れさせるのが目的だったのかもしれない。
クソっ、ヤツの思い通りだったということか。
悪態を付くがもうどうしようもない。逃げるだけの体力はもうなく、近くに助けてくれそうな人もいない。ヤツの顔を見ると嘲笑するかのように口角を上げている。獲物にありつけることが大層ご満悦のようだ。
ゆっくり、ゆっくり一歩づつこちらに歩いてくる。
ここまでかと腹をくくったその時、突如としてカードをしまっていたポケットから光が溢れだした。
以前より弱い光であったが、あの時見た光と同じものだ。藁にも縋る思いで俺は急いでポケットからカードを取り出した。カードから発せられる光により辺りが明るく照らし出される。
むこうもさすがに予想外のことなのだろう、警戒心をあらわに様子を見ているようだ。
それにしても一体この光は......、ええい、破れかぶれだ!!
俺はカードを頭上に掲げながら叫ぶ。
「頼む、助けてくれ!」
すると光は輝きを増し、カードから何やら飛び出すような軽い反動があった後、目の前に美しい毛並みをした狼が現れていた。
いや普通の狼ではない、ヤツよりも体長はひと回り大きく、鋭利な牙が口元から顔をのぞかせ、白銀に輝く毛は光を反射し発光しているかのようだった。
あ、あれは『シルバー・フォング』だ!
間違いない、遊戯王にカードとして存在していたはずの『シルバー・フォング』が現実にいる!
気が動転してしまい呆然としている俺とは裏腹に、場はすでに動いていた。
一瞬の虚を突き、目にもとまらぬ速さで『シルバー・フォング』が襲い掛かる。狼もとっさに反応し避けようとするがそれは叶わず首元に牙が食い込んでいる。
そのままマウントポジションをとり、しばし取っ組み合いをしていたが、最後に喉笛を噛み切ったらしく狼の動きは徐々に弱くなり、ついには動かなくなった。
「俺を助けてくれたのか?」
グルルルル!
こちらを向きどうだと言わんばかりに顔を上げている『シルバー・フォング』を見ると、どうやらこちらに敵意はないようだ。しかし、顔の周りについた血が凶暴な顔つきと相まって正直かなり恐ろしい。
目の前まで近づいてきたので逃げ出したい気持ちに駆られたが、目を見ると意外に可愛らしくおそるおそる頭を撫でてみる。
すると嫌そうな仕草一つせず、すんなりと受け入れてくれた。
ふふ、意外と可愛いやつめ。
そうして極度の緊張から放たれたせいか、しだいに暗くなるのにも気づかず俺は撫でまわし続けるのだった。
今回のカードはこちら
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シルバー・フォング 地
☆☆☆
【獣族】
白銀に輝くオオカミ。見た目は
美しいが、性格は凶暴。
攻撃力 1200
守備力 800
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