あの後、酷い虚脱感を感じながらその場で放心していたが、目の前の脅威が去ったせいか強烈な喉の渇きと空腹感に襲われた。
このままでは餓死してしまうと危機感を感じ、考えるのを後回しにし、取りあえず川を探して飲み水を手に入れようと思った。しかし、川の場所など分かる筈もなく、また暗闇の中むやみに歩き回るのは自殺行為だと考えどうしようかと途方に暮れていた。
今日のところは我慢して木の根元でやり過ごし明日の朝にでも動くことを視野に入れ始めた時、主人の悩みを察したのだろうか、シルバー・フォングがぐいぐいと袖口を引っ張ってくる。
「ん? どうしたんだ?」
顔を覗き込んで見てみるととまるでついて来いと言っているようだ。
どうしたもんかと逡巡するが、一度助けられた身だ信頼するしかあるまいと腹をくくり促される方へ足を向けた。
☆
スルスルと木々をかわしながら先を進むシルバー・フォングに遅れないよう付いていく。えっちらおっちらとこちらが歩くのに対して速度を合わせてくれるようで、その背を見失うことはなかった。
それにしても、夜の森というのは予想以上に恐ろしい所だ。
冷たい空気が風と共に吹き、静寂が辺りを支配している。細々と虫の鳴く声が聞こえたかと思えば、鳥の羽ばたく音が辺りに響く。月明かりでは満足な光源とならず、先が見えないのも不気味さを増している。
疲れた体を引きずり、しばらく歩いていくと徐々に川のせせらぎの音が聞こえてきた。
やった、川だ!!
喜びを抑えきれずに、前にいるシルバー・フォングを追い越し川の音がする方へと急ぐ。
茂みのむこう側に川が見えてくると我慢できずそのままの勢いで茂みを突っ切ろうとした。
「うぐっ!」
しかし、いざ茂みに入ろうとしたその時、横合いから強い衝撃を受け俺の体はいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。と同時に、先ほどまでいた位置に鞭が叩き付けられるような大きな音がした。
痛みに耐え転がりながら顔を上げると、地面から太い幹を伸ばし綺麗な花弁の真ん中にトカゲの顔を持つモンスターとシルバー・フォングが相対していた。
あ、あれは『マンイーター』じゃないか!
マンイーターはいくつもの触手をうねうねと動かしながら攻撃しているようだが、シルバー・フォングは器用にひとつずつひらりとかわしている。
そして徐々に距離を縮め、一気に跳びかかり顔の下の幹を噛み千切ってしまった。
しばらく苦しみ悶えるように動いていたが、やがて動きも弱くなり死んでしまったようだ。
「あ、ありがとう......」
グルルルルル
近づいてきたシルバー・フォングを礼を言う。最初に突き飛ばしてくれたのもこいつだったのだろう。こいつが突き飛ばしてくれていなかったら今頃、あのモンスターに食べられていたと思うとゾッとする。
......それにしてもカードから現れたシルバー・フォングといい、先ほどのマンイーターといい遊戯王に登場するモンスターが現実に現れるなんて。
もしや、ここに自分がいることと何か関係があるのかもしれない......
とりあえず考えるのは後回しにして今はこの喉の渇きを癒す方が先決だろう。
そう決断を下し、今度はちゃんと周囲を警戒しながら茂みを越えていった。
そして目の前に現れてきたのは、月明かりを反射しキラキラと輝く美しい川だった。
水の中に不純物が入っていないせいか、透明度が高く川の底が見えていた。
これなら飲んでも大丈夫かも知れない。恐る恐る川の中に手を入れ、水を掬う。
ゴクッゴクッ......ぷはぁ!
歩き続けて熱を持った体に冷えた水が染み渡っていき、疲れが癒されるようだ。
隣にいるシルバー・フォングの口元に付いた返り血も一緒に拭ってやる。
ふう、やっと一息つける。
今日一日のことを振り返りながらしみじみとため息を付く。
いきなり森の中に放り出されたと思えば、狼に追われ、カードからモンスターは出るわ、架空のモンスターが実在しているわで今日だけで何回驚かさせられたか。知らず知らず精神的に疲労が積もっているのだろう。
ぐるるるる~
お腹が鳴り、体が食事を欲しているのを訴えてくる。しかし、手元には食べられるものなんて持っていないし、今から食べ物を探すのも無理だろう。
ん?そういえば、カードからこいつが出てきたってことはもしかしたら他のカードでも......
微かな月明かりを頼りに手持ちのカードを眺めていく。
その中にこの状況にピッタリなカードが見つかった。
それは現実のデュエルではあまりに微妙すぎる効果のため使われないが、実際にある店の名前を使っていることで有名なあの―――
「魔法カード モウヤンのカレー!」
カードを持ち唱えるとまたもやカードが光り、辺りを照らす。目を細めて待っていると光の中から黄金の器に入ったカレーが現れ、手の中に静かに収まった。
本当に出るなんて......と、とにかく食べてみよう。
カレーはできたての如く暖かいようで、湯気が出ており、容器を持つ手も温めてくれる。
奇妙な形をしたレンゲの様なものを取り、口に運ぶ。
「うっ美味い!!」
あまりの美味しさにひと口ふた口と食が進み、ものの数分で全て平らげてしまった。食べた後の容器は効果が切れたということか、光の粒子となって消えていった。
不思議なことに食べきった後、どうもいままであった疲労感が抜けているようで、先ほど痛めた場所も痛みが引いている。これはカードに書いてあるLP回復の効果が表れたということなのだろうか。
どちらにせよ食べ物を食べるだけで傷が治るなど、科学で説明できる範疇を超えているだろう。
腹も膨れ、岩場に腰を下ろし落ち着いたところで明日からのことを考える。
ここがどこなのかは分からないが、元の世界とは違うことは確かだろう。
そして、遊戯王のモンスターが実在する世界だとしたら常に死の危険が付きまとう。今はまだマンイーター程度のモンスターしか見ていないが、仮に上級モンスターと出会ってしまったらシルバー・フォングじゃあ相手にならない。
早く、安全を確保しないとな......
一人で生きていくのにも限界があるし、この世界に人が生きていることを願うばかりである。
今夜はもう寝ようと決め、川辺の柔らかい土の上に横になろうとすると、シルバー・フォングが体に寄り添い温めてくれる。
ふさふさの毛並みが羽毛のように包み込み、非常に心地よい。
「何かあったら起こしてくれよ」
バウ!
シルバー・フォングと顔を合わせ語り掛け、その体にもたれかかる。
起きた時に元の世界に戻っていますようにと願いながら目を閉じ、慌ただしい一日は過ぎていった。
今回のカードはこちら
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マンイーター 地
☆☆
【植物族】
人喰い人面花。毒のある触手で攻撃
してくる
攻撃力 800
守備力 600
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モウヤンのカレー 魔
【魔法カード】
ライフポイントを200ポイント
回復する。
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