そのまんまではないですが。
時の流れは速い物で、気づけば六月。
クラスは学年別トーナメントの話題で持ちきりになっていた。
二人でペアを作って出場するようなのだが…
二人組…体育…うっ頭が……
「頭抱えてどうしたんだ?咲」
「なんでもない…」
ちなみにデュノアは織斑が何とかしてくれたらしい。
IS学園にいる間は企業からの干渉を受けなくて済むんだとさ。
織斑がそんな事を知っていたのには驚いた。
そしてボーデヴィッヒさんとの仲は全く進展していない。
というか完全に無視されとる。
初日の高い高いが相当嫌だったのか…
「なんとか話だけでも聞いて貰えねえかなあ…」
『こういった時は菓子折りを持って寮に直接突撃すればよいのでは?』
「それだ」
なんか甘い物でも持っていけば、少しは態度が軟化するかもしれない。
まぁそう簡単に行くとは思わんが…
とりあえず情報収集だな。
授業終了後。
「おりむらせんせー」
「茅野か。どうした?」
最近この人の俺への当たりが柔らかくなった気がする。
気がするだけだろうが。
「いや、ボーデヴィッヒさんの好物とかって知りません?」
「あいつの好物…?そんな事を知ってどうするつもりだ?」
とりあえず菓子を持って行くことを伝えてみた。
「そういう事か…あいつは基本的に好き嫌いは無いぞ」
「Oh…」
これは賭けに出なきゃならんな…
「まぁあいつも女だ。甘い物なら何でも大丈夫だと思うぞ?」
「何でもっていうのは人を困らせるんですよ先生。織斑に言われませんでした?」
織斑はこの人の飯も作っていたらしいし、確実にあった筈だ。
かく言う俺も、束の飯作りで随分苦労した。
「い、今は関係ないだろう。私はもう行くぞ」
逃げられたか。
何作ろうかなー…
『ここは無難に和菓子で良いのでは?』
和菓子で普通に美味いって言ったら…
「んじゃあ苺大福でいくか。食堂に材料あったよな?」
男子が二人…一応三人か?
それだけしか居ないこともあってか、食堂の人とは随分仲良くなった。
女尊男卑主義者も居ないしな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
放課後。
「うっし完成っと」
自分で言うのもなんだが、料理スキルはそれなりにあると自負している。
前世での一人暮らし+束のオーダーに答えなきゃいけなかったからな。
嫌でも上達する。
ちなみにお菓子はこっちに来てから覚えた。
「部屋どこだっけ?」
『ご案内致します』
廊下を歩くこと五分。
部屋の前に着いたわけだが…
「…良く考えたら女子の部屋に行くとか人生初じゃん…」
ヤバい。緊張がヤバい。
心臓バックバクやで。
『落ち着いて下さいご主人様』
「そうは言ってもだな…」
前世では女子、というか家族以外の人間と関わるという事が殆ど無かった。
そうだよぼっちだよ。笑えよ。
「さっきから煩いぞ…っ!」
扉が開いて、如何にも不機嫌そうなボーデヴィッヒさんが出てきた。
よし、落ちつけ俺。紳士的に対応するのだ。
「…茅野咲、何の用だ」
「いや、この前のお詫びって事で菓子折りを」
「いらん。去れ」
即座に引っこみ、鍵を閉められた。
「………」
お兄さんちょっと怒っちゃったぞ?
【Key!】
ドアの鍵を強制解除。こうなったら意地だ。
絶対食わす。
「人の好意は素直に受け取っとくもんだぜボーデヴィッヒさんよォ…」
「貴様…痛い目を見ないと分からないらしいな…」
食わせようとする者と、それを拒む者。
傍から見れば不毛な争いである。
「いいから大人しく食ってみろ美味いから!」
手には苺大福を持ち、叫ぶ。
「黙れ!」
部分展開されたISの攻撃を何とか躱す。
部屋の中なので、大きく動き回ることができないが…
「短距離ならこっちに分がある!」
【Zone!】
後ろに回り込んで…
「貰ったァ!」
「しまっ…」
ぱくり。
「……」
無言で咀嚼するボーデヴィッヒさん。
なにこれ超可愛い。
もぐもぐすること一分。
結局一つ食べ終わり、一言。
「…まだあるのか?」
…アカン。可愛い。
箱を差し出すと、それごと奪い取って食べ始めた。
癒されるわぁ…
「えーと…美味いか?」
「っ!」
我に返ったようだ。
おーおー顔真っ赤にしてまぁ。
「べ、別にこんな物…」
「あーそうかー不味かったかーじゃあこれはもういらないなー」
箱を取り上げて持って行こうとすると、
「あっ…」
捨てられた子犬のような眼をしておられる。
「…」
箱を左に持って行くと目線も左に。
右に持って行けば右に。
やだもう可愛い。
「はい、どうぞ」
「…!」
花が咲いたような笑顔とは、この様な顔の事を言うのだろうか。
それくらいの良い笑顔だった。
もぐもぐ…
はむっ…
もきゅもきゅ…
結局六個あったのを全て平らげてしまった。
いやいいけどさ。
「えーと…この前の事は、これで勘弁な?」
「あ、ああ…」
人の心を掴むにはまず胃袋からというが、本当だったな。
菓子作りのきっかけを作ってくれた束に感謝だ。
というかこれで許してくれる所を見ると、根は良い子なのだろう。
「んじゃ、俺はこれで…」
「む…」
何か言いたげだな。
「アリーナでは、私も悪かった。その…すまなかった」
おお、まともな謝罪だ。
やっぱええ子やん。
「怪我も無かったし、別にいいさ。次は気を付けてくれれば」
「そ、そうか」
「そうだ」
……………
(間が持たねえ…)
茅野咲、こういった空気は非常に苦手であった。
「じゃ、じゃあそういう事で!お邪魔しましたー!」
こういう時は逃げるが勝ちだ。
足早に部屋を去り、自室へ戻った。
「とりあえずあれで良かった…か?」
『及第点、と言ったところです』
厳しいねえ。
まぁとりあえず仲直り?はできたようだし、良しとしますか。
ラウラ可愛い。
ただそれだけです。
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