ストーリーは基本的に原作準拠となりますが、原作を読んだのが大分前になるのでもしかしたら微妙に違っていくかもしれません。
設定の矛盾、誤字脱字、要望等ありましたら指摘してくださるとありがたいです。
「我が名はモニカ・コイルトン。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ」
青空の下、心地よい風が吹き抜ける草原に、上ずった声で紡がれた呪文が響く。
春の使い魔召喚の儀式。そこでモニカは、多くの同級生と顧問の教師の見守る中、進級をかけた魔法を唱えた。
数瞬遅れて、呪文を発した彼女の前に、白く眩くゲートが出現する。直視できないほどの強い光を放っているそれを、モニカは目を細めつつも視線をそらすことなくじっと見つめる。
やがて光が弱まり、ゲートが消失するとそこには一匹の白い蛇があった。体長は1メイルを超える程度。くねらせた体に模様はなく、太陽の光が淡く鱗に反射して陶器で出来た作り物のようにもみえた。
モニカと同様に、現れた蛇もまた、首をもたげチロチロと舌を出しながら彼女を赤い瞳で見つめていた。
(よかった。成功だわ)
滞りなく召喚が成功し、モニカはほうっと息を吐いた。
練習こそ幾度となくしてきたが、実際に唱えるのは初めての呪文。決して難易度の高い魔法ではないが、クラスメイトが注目する中、ぶっつけ本番で行うのはやはり緊張する。
張り詰めていた肩の力を抜き、改めて自らの使い魔となるものを観察する。
真っ白な蛇とは珍しいが、幻獣の類ではないようだ。ボーンチャイナの如く透き通るような白い鱗は、高価な磁気にも負けないつややかな輝きを放っている。猛でも怖れるでもない静かな赤い瞳で自分を見つめてくる白蛇に、モニカは気づかぬ間に見とれていた。
「ふむ、蛇か。召喚は成功のようだね。さあ、ミス・コイルトン。契約をしたまえ」
召喚した使い魔と向き合ってぴくりともしない生徒にしびれを切らし、コルベールは契約を促した。
「は、はい。コルベール先生」
引率の教師の指示に従い、少し慌てた様子でモニカはコントラクト・サーヴァントの呪文を唱えた。慣れない手つきで蛇を持ち上げ、チロチロと真っ赤な舌が出入りする口許に口付けをする。数瞬遅れて白蛇の額に細い光が走り、ルーンが刻まれる。晴れて使い魔となった蛇は、ルーンが刻まれる痛みからか、わずかに身じろぎをしてみせるがそれ以上の反応は示さない。
やがて額にコインほどの小さなルーンが描かれ、懐いているのかモニカの左脚に巻き付いた。
我慢強くて、従順。それに周りに大勢の人間と幻獣がいるにもかかわらず怖気づく様子も見せないことから、度胸もある。自分には勿体ないほどの使い魔だ。モニカはそう思った。
「あなたに名をあげないと。このところ忙しくて考える暇もなかったけれど、ええと……白くてキラキラしているから、パールでいいかしら」
自分でも単純だと思ったが、気の利いた名前をつけることがモニカは苦手だった。
「契約は済んだかね。次の生徒が控えているから下がりなさい」
「わかりました」
あまりもたもたしていては授業の進行に差し支える。そう考えてモニカはそそくさと立ち上がった。とはいえ、残りはあと一人しかいないのだが。
手に持った杖を懐に仕舞いモニカは召喚の場から立ち去る。脚に巻き付いていたパールは歩き出そうと一歩踏み出したところで地面に下り、一歩下がった位置をつかず離れずついてくる。
入れ替わり、次に使い魔を召喚する女生徒から『十分に』離れて、若草の上に腰を下ろす。コモンマジックとはいえ、異なる地点を結ぶサモン・サーヴァントは高度な魔法だ。土のドット、しかもゴーレムすら満足に作れないモニカにとっては、一度行えば全身を倦怠感が襲うくらいにはなる。
額にたまった汗を拭って、傍らでトグロを巻いているパールを撫でていると、突然激しい爆音と衝撃波が彼に叩きつけられた。それでも、焦ったりはしない。彼女の従順な使い魔は尻尾を震わせ、爆心地に向かって威嚇しているが、モニカにとって、この場にいる全員にとってはこれまで毎日のように、何度も遭遇してきた事態だった。
「パール。大丈夫、落ち着いて」
警戒心を最大限引き上げている相棒を宥め、改めて爆発が起こった場所に視線をやる。
砂煙で視界は霞んでいるものの、そこには杖を掲げ憮然と佇む桃色の髪の少女、ルイズの姿があった。爆発に最も近い場所に居たにもかかわらず、不思議なことに怪我どころか艶やかなブロンドヘアが乱れてさえいない。
華奢な身体に小さな顔と美しい髪。年齢の割に体の起伏は少ないが、名だたる芸術家が手がけたような彫刻のように整った顔立ちは、幼さを感じさせる体つきと相まって、たおやかな印象を見るものに抱かせる。同姓のモニカから見ても、本当に可愛らしい人だと思う。 黙ってさえいれば、周りの男子連中が放ってはおかないのだろうが、現実はキツイ人当たりや高飛車な態度、杖を振るたびに起こる爆発がルイズのチャームポイントを帳消しにしていた。
もっとも、前者に関しては彼女の産まれと境遇を思えば当然のこと。むしろ、卑屈にならず前へと進み続けようとする姿は、皮肉抜きにたいしたものだとモニカは思っている。
「ルイズ、サモン・サーヴァントで平民を呼び出して平民を呼び出してどうするの?」
何度かの爆発を経て静かになったと思ったら、今度は嘲笑するかのようなクラスメイトたちの笑い声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
級友たちの囃し立てる声にルイズは顔を真っ赤にして反論している。
何事だろうかと思ってルイズの方に目を遣ると、そこには見慣れない格好の少年がいた。 中肉中背の身体に見たことのない服を着込んでいる。年の頃はモニカと同じくらいだろうが、彫りの浅い顔立ちが少年を実年齢よりも幼くみせていた。
どうやら、何処の生まれかも知れない人間を、ルイズはサモン・サーヴァントで呼び出したらしいとモニカは理解した。
状況が理解できていないのか、ゼロ、ゼロとバカにされている主人(になる予定のルイズ)をかばう様子も見せずに、ぼうっと座り込んでいる。
何を唱えても爆発しか起こせないルイズを随分と変わった娘だとモニカは思っていたのだが、今回のコレは極めつけだった。
「まさか人間を召喚するなんて……」
思わずそう独り言を呟いてしまう。
使い魔は、その主人である人物のメイジとしての実力や才能、系統に概ね一致するといわれている。優秀なメイジならドラゴンや幻獣を、モニカのようなドットメイジなら鳥や犬猫などの小動物が現れる確率が高い。
では今回のコレはどうなのだろうか。
召喚された少年は見たところ貴族とは思えない。そうなるとメイジでない可能性が高いだろうが、使い魔の格としてみた場合、平民はどの程度高位な存在だと考えれば良いのか。
犬猫よりは上だと思う。でもドラゴンと同等以上かと問われれば、違うと答えるだろう。別に、平民を蔑むつもりはない。モニカは大抵の人間よりもドラゴンの方がより高等な生物だと思っていた。
犬猫以上、ドラゴン未満ならルイズのメイジとしての才覚はラインかトライアングルということになる。魔法を一度も成功させたことのないルイズが、だ。
しかし、よくよく考えてみればルイズが引き起こす爆発の威力は並みのメイジじゃ生み出せそうにない。考えるほどに不思議な事態だった。
やっぱり変わった娘だわ。
モニカは改めてそう思った。そして俄然、使い魔の少年とルイズに興味がわいてきた。
系統は、やはり火だろうか。でも、爆発が起こせて発火ができないというのは、なんとも解せない。それに、気の抜けた様子の少年と火のイメージは似つかわしくないようにも思える。
ああ気になる。けれど、ルイズとは親しく会話したことがない。いきなり話しかけて変な顔をされないだろうか。いや、でも、やっぱり……。
そんな益体もないことを考えていたら、地面についた手首にパールが巻きついてきた。
何事かと思ってパールを見ると、首を空中にまっすぐ伸ばして何かを指し示している。
その方向に顔を向ければ、クラスメイトたちがフライで学院の建物に戻っていくのが見えた。
「いけない、置いてかれちゃった」
全員が無事、召喚の儀を終えて授業はお開きのようだ。モニカも学院に戻らないといけないが、腰を上げるのも億劫なほど疲れきってしまっていた。
まあ、いっか。少し休んでから戻ろう。
そう考えて、あげかけた腰を再び芝生の上に下ろした。どうせこの後には授業の予定はないのだから、急ぐ必要もない。それに、学び舎までは結構な距離がある。フライならばすぐだがモニカには使えない。精神力的な面でも、技術的な面でも。
ルイズはどうするのかと目を向ければ、ちょうど彼女の拳が召喚された少年の顔面にめり込んでいる場面であった。
「うわぁ・・・・・」
無意識のうちにモニカの口から声が漏れた。どうしてそうなったかは彼女には解らない。ルイズは短気なほうだけれども、すぐに手が出るような人物ではないので、なにかよほど不興を買うようなことを少年が言ったのだろうか。
殴られた少年は気絶したのか、地面に伏せたままピクリともしない。
殴ったほうのルイズはといえば、少年を見下ろして肩で息をしていたが、暫くすると立ったまま固まってしまう。気絶した少年を学院まで連れて行かなければならないことに気付いて、途方にくれているのだ。
遠巻きに観察していたモニカはそれを悟り、助けを申し出るため未だ重い腰を上げてルイズの元に向かった。
「あのう、運ぶの、手伝いましょうか?」
「……? だれ、あんた」
モニカが背後から声をかけると、ルイズは怪訝な様子で振り返った。
「ええっ!? ひどいなあ……2年からずっと同じクラスだったじゃないですか」
名前どころか、顔も覚えられていないことに、モニカは肩を落とした。
「そうだったかしら。で、なんていうの?」
「既にクラス紹介のとき名乗ったのですが」モニカは不満そうに唇を尖らせた。「でも、覚えていないのなら仕方ないですね。モニカです、モニカ・コイルトン」
モニカの自己紹介を聞いて、ルイズは違和感を覚えた。
「コイルトン? 聞きなれない家名ね」
「うう……一応、ガリアとの国境の警備を仰せつかっています。でも、ヴァリエール領とは反対側ですし、新興の子爵家ゆえにルイズ様が知らないのも仕方ないですね」
そう言って、モニカは自嘲気味に笑った。なんとなく気に入らない笑い方だと、ルイズは思った。貴族とはいかなる時も自分の家柄を誇りとしなければならない。それが彼女の信条なのだ。
「そう」と、承知してルイズは頷く。「なら、ミス・コイルトン? 『これ』をわたしの部屋まで運んでちょうだい」
台詞と同時に、ルイズは己の足元に白目をむいて横たわっていた少年を指差す。
「ああ」モニカはポンと手のひらを打った。「そうでした。でも、手伝うとは言いましたけど、一人で運ぶにはちょっと」
決して大柄ではないとはいえ、気絶した人間を動かすのは大変である。モニカは同年代の女性よりは筋力があるほうだと自負しているが、さすがにここから学院まで人ひとり運ぶには役者不足だった。
「なによ」今度はルイズが口を尖らせた。「レビテーションで運べばいいじゃない。私と違って使えるんでしょ」
『私と違って』をやけに強調してルイズは言った。
モニカは拗ねた様子の彼女を見て、内心面倒に思いつつも、穏便に済ませるために表情には出さない。
「確かに使えますけど……その、実はあまり得意でなくて」間違っても自慢話にはならないので、自然、ぼそぼそとした喋り方になった。「本を持ち上げることがせいぜいで、人間なんてとても無理です。それに、さっきの召喚で精神力はほとんど使い切ってしまいましたし……」
実際、今すぐにでもベッドにはいって眠りたい気分だった。気を抜けば瞼が下りてくるので、立つことで眠気を防いでいる状態である。
しかし、それを聞いてルイズはますます納得がいかない。
「はあ? じゃあ何で、手伝う、なんて言ったのよ?」
「それはだから、そのままの意味です。一緒に運びましょう」
そう言ってモニカは両手で少年の足を持ち上げた。
それを見てルイズは顔を引きつらせる。
「物理?」
「はい。わたしはどちらかというと、化学が得意なのですが」
にっこりと笑うモニカを見て、変なのに絡まれたな、とルイズは思った。
結局、学院まであと半分といったところで少年が目覚め、そこからは徒歩でルイズの部屋に向かうこととなった。
*
「それほんと?」
「嘘ついてどうする」
学院の寮の一室、ルイズの部屋。そこで自らがここに至ることになった経緯を説明した少年、サイトに、ルイズは怪訝な表情でその真偽を問うた。
気絶から目覚めたサイトをとりあえず部屋へ案内したルイズだったが、そこで聞かされた話は俄かには信じがたいものだった。
「信じられないわ」
「俺だって信じられん」
魔法使いがいなくて、月がひとつしかない別の世界。そんな場所からサイトはやってきたのだという。
「そんな世界がどこにあるの?」
「俺が元いたところはそうなんだよ!」
説明をしてもいっこうに信じようとしないルイズに、サイトはつい声を荒げてしまう。怒鳴ったことでいよいよ空気が悪くなり始めたが、それを晴らすようにテーブルを挟んで向かい合った二人に、部屋の隅から声がかけられた。
「異世界、ですか。それはなんとも、珍しいところから来ましたねぇ」
モニカである。緊張感のないセリフをはなった彼女は目覚めたサイトをルイズが部屋まで連れて行く傍ら、面白い展開になりそうだと一緒に部屋までついて来たのだった。
「なあに、ミス・コイルトン。あなた、こいつの言ってること信じるの?」
「全部が全部、本当なのかは分かりませんけど、服装とか顔立ちから考えてもとりあえずはとても遠い場所から来たことは間違いなさそうです。仮にこのハルケギニアの外ならわたしにとっては異世界も同じですね」
「はぁ。まったく、他人事だと思って……」暢気といえば暢気なモニカの考えに、ルイズはため息を漏らした。「でも、そうね。一理ないこともないわ。じゃああんた、なにか証拠を見せなさいよ」
モニカに視線を向けていたルイズは、再びサイトと向かい合った。
「証拠?」
「そうよ。ハルケギニアじゃない別のところから来たってのなら、なにか証拠を見せなさい。モノ次第で、信じてあげてもいいわ」
上から目線で言ってくるルイズに、なにか言ってやりたいサイトだったが話が進まなくなるのでぐっとこらえる。サイトは少し考えて、脇においてあった鞄の口を開けて中からあるものを取り出し、テーブルの上に置く。
二つ折りになったそれを開き、平たいボタンを押すと真っ黒だった部分に鮮やかな風景画が映し出された。
「わあ、綺麗ね。なんのマジックアイテム?どの系統で動いているの?」
「ノートパソコンだ。あと、魔法じゃない。科学だ」
「カガクって何系統?四系統とは違うの?」
「だから魔法じゃないって!これは、電気で動いてるの!」
相変わらず魔法で動いていると信じ込んでいるルイズに、サイトはいい加減に苛ついてきていた。自然、説明する声も怒鳴るようになってしまうが、それに反応する人物があった。
「電気?それならこれは雷の力で動いているの?どういった仕組みなのか、詳しく聞かせていただけないかしら?」
ずっと部屋の隅にある椅子に座っていたモニカは、すっと立ち上がるとサイトの両肩をつかんで詰め寄った。
「うわっ!な、なんだよいきなり」
対するサイトは突如として同年代の女の子に詰め寄られ盛大にキョドった。
興味深げに自分を見つめる、くるりと大きな金色の瞳に、顔が近いせいで感じられる息遣いとふわりとした『女の子の香り』。それと肩を存外強い力で掴むほっそりとした手の感触が、サイトのよくわからない部分を刺激した。
ルイズの、よく出来た人形のような美少女顔には負けるが、目の前のこの少女も地味ながらそれなりに整った容姿をしていることにサイトは気づいた。
なんだかイケない気分になりそうだったサイトは理性とも違う反射的な行動で、モニカをそっと突き放した。
「あ……失礼しました」
はしたないことをした。そう思ったモニカは若干頬を染めながら身を引いた。
「でも不思議です。この『のーとぱそこん』という物は魔法を使わずに風景を映し出しているのですよね?どういった仕組みなのでしょう。サイトさんは先ほど電気で動いているとおっしゃっていました。ということは、サイトさんはこの不可思議な現象を起こす機構と理論をご存知なのですか?もしそうであれば、是非とも教えていただきたいのです」
しかしながら彼女は出かかった言葉を飲み込むことはしない。身を引きながらもいつにないテンションでサイトに食って掛かる。
「い、いや……仕組みは……俺も知らねえけど……」
畳み掛けるように疑問を投げかけるモニカとは対照的に、サイトは若干引いてしまう。パソコンが電気で動くことは知っていても、どんな仕組みで動くかなんてことはごく普通の高校生であったサイトに解るはずもない。
「なんだ。やっぱり適当なこと言ってたんじゃないの。どこで拾ったマジックアイテムか知らないけど、仕組みもわからないんじゃあんたなんかには勿体無いわね。質に入れるか捨ててきなさい」
しどろもどろになったサイトを見てルイズは冷たくそう言い放った。
「だから魔法じゃないんだって!あと、仕組みなんかわかんなくても使いこなせるからいいんだよ」
「へえ。じゃあ何ができるっていうの?」
「それは、インターネットとかみたり、音楽聴いたり、文章作ったり、いろいろさ」
「『いんたあねっと』?よくわからないけど、面白そうね。やってみなさい」
「……ネットに繋がってないから、今はできない」
「じゃあ音楽でもいいわ」
「それも、今はハードディスクに入ってない」
パソコンは修理から返ってきたばかりなのだ。サイトには人並みのリテラシーがあったのでハードディスクの中身は修理に出す前に別のメディアに避難させていた。
「……なら文章作ってみなさいよ」
「……」
ルイズに言われたとおり、サイトは文書作成ソフトを立ち上げて文章を入力していく。
「読めないわね」
画面に表示された日本語の文章をみて、ルイズはそう一言呟いた。
「役立たずじゃないの」
「……」
ルイズの辛辣な言葉にサイトはぐうの音も出ない。
ここに至ってサイトは、パソコンの万能とも言える高機能が、この世界では全く生かせないことに気づいた。バッテリーだって数時間も経てば切れてしまうだろう。
ルイズの言うとおり質に入れてしまおうか。もしかしたら奇特な商人が珍しがって高値で買い取ってくれるかもしれない。突然この世界に召喚され、先立つもののないサイトはそんなことを考え始める。
「あ、それなら私が引き取りましょうか?」
黙りこんでしまったサイトにモニカはそう声をかけた。
「いいのか?」
意外な人物からの助け舟に、サイトは顔を上げた。
「はい。とても珍しい物のようですし、いろいろ調べてみたいのです。もちろんタダでとは言いません。恥ずかしながら私もそれほど裕福ではないので、金貨を積むというのは無理ですが……銀貨50枚でどうでしょう?」
「それってどれくらいの価値なの?」
「そうですね。普通の平民が5日程度生活できるぐらいの値段でしょうか」
「うーん」
パソコン1台が生活費一週間分にも満たない。正直なところ、ちょっと安いなとサイトは思った。でも、もしかしたら質屋でも買い取ってくれないかもしれない。そもそも、その質屋がどこにあるのかもサイトは知らないのだ。
「ご不満なら、生活の手助け、というのも追加しましょう」
渋っている。そう感じたモニカは、一歩譲歩してみせる。
「ん?どういうこと」
「サイトさんはきっと、いきなりこの世界へやってきて、右も左も分からないと思うのです。文化、風土、気候、常識、礼儀作法……私達にとって当たり前のそれらは、サイトさんのそれと大きく違うものだと見受けられます。もちろん、最低限の衣食住は主人であるルイズ様が用意してくださいます。それでも生活というのはそれだけで成り立つものではありません。ましてやサイトさんは平民。名だたる貴族ばかりのこの魔法学院では色々と立つ角もあることでしょう。そして、ヴァリエール侯爵家三女の使い魔であるサイトさんはこの学院においては微妙な立場にあります。そんなあなたが騒動を起こせば、主人であるルイズ様の名誉や評判が傷つくこともあるかもしれません。そうならない為にも日常において様々なアドバイスを私が差し上げれば、お二方の利益にもなるはずです。そうは思いませんか、ルイズ様?」
「え?ええ、そうね。そのとおりかもしれないわ」
蚊帳の外気味だったルイズは、突然話をふられて動揺しながらもモニカの意見に頷いた。
「どうでしょう。この取引、受けてはいただけませんか?」
「お、おう」
問いかけるモニカの表情に、柔らかくも有無を言わせない迫力を感じて、サイトはコクコクと頷くのだった。