黒く染まった夜空で輝きを放つ星星が衰退し、地平から黄色い光が滲む明け方、モニカは部屋の窓をコツコツと叩く音で目を覚ました。
前日に行った使い魔召喚のせいか、いつもより身体が重く感じられる。微妙に痛みを発する腰を起こして乾いた音が鳴る窓の方に目を向けると、つい前日自らのパートナーとなった白蛇、パールと名付けた使い魔が窓ガラスに向かって鼻先を打ち付けているのがみえた。
「パール?」
一見して意味の分からない行動をする相棒にモニカが名前を呼ぶと、パールは打ち付けていた顔を引っ込めて主人をじっと見つめた。
「……何かそこに居るの?」
微睡んでいた目を擦ってよく見れば、パールは頻りにシューシューと音を立てて窓の外に向かって威嚇していた。
パールはモニカの問いかけを肯定するかのごとく首肯し、再度窓に鼻先を打ち付け始める。
一体何がパールをここまで駆り立てるのか。寝ぼけた頭で少し考え、彼女は答えらしきことに思い至った。
それを思いついたと同時にモニカはベッドから体を起こして、窓によった。
「やっぱり」
窓の外には鳩が1羽、バサバサと音をたてながらパールと向かい合っていた。
「駄目よパール。この子はわたくしのお使いなの」
雄々しく翼を広げてパールに対抗するその姿を認めて、モニカはパートナーの首根っこを掴み上げて胸に抱える。
暫くは威嚇の音を鳴らしていたパールであったが、モニカが落ち着かせるために頭を撫でていると次第に大人しくなった。
使い魔が落ち着いたことを確認して一息ついてから、モニカは窓を開ける。
すると、やや間を置いて、外で羽ばたいていた鳩がサッシに飛び乗ってきた。
「ごめんなさい。パールにあなたのことを伝えていなかったわ」
モニカが謝罪すると、鳩は「フスッ」と息を吐いた。ご立腹のようだ。
「手紙を届けてくれたのね。ありがとう」
脚にくくりつけ筒から丸められた紙片を取り出す。
窓脇のスツールに置いてあった瓶の口に手を突っ込むと、モニカはミミズを一匹取り出し鳩に与えた。瓶に土を入れ、餌用のミミズを飼っているのだ。
「じゃあ、帰りはこれを持って行って」
空の筒に昨夜したためた手紙を挿入し、放鳩する。
鳩が遥か平原の向こうへ行くのを見届けてから、モニカは届いた手紙を確認する。
「あら、薬の催促だわ。週末になったら出かけないと」
幸い、この週末は何の予定もない。王都までの馬車賃にはまだ余裕があるはず。
週末の予定に思いを馳せていると不意に寝間着の裾を引っ張られた。パールだ。
「あっ、まだあなたに朝ごはんをあげていなかったわね。どうぞ」
鳩に渡したのと同様、瓶からミミズを取り出しパールに与える。
「さて、わたしもそろそろ着替えようっと。」
まだ、夜が明けたばかり。朝食の時間までには随分と余裕があるが目がさえてしまった。
しっとりとした早朝の空気の中、学園の周囲を散歩でもすることにした。
「ついでに、あなたの餌場も見つけなきゃね。いつまでもミミズだけでは飽きてしまうでしょう?」
モニカの問いかけに、彼女の使い魔はこくんと頭を垂れた。