転生者の娘   作:tridentd5

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散歩の後、軽く汗を拭いてからモニカが食堂へ赴くと、なにやらとある一画が騒がしいことにきがついた。

 

朝の食堂はいつもそれなりの賑わいを見せてはいるものの、どうにも常とは異なる様相を示しているようだった。注意深く観察してみると、食堂に集う面々の視線はモニカもよく知る、美しくひるがえる桃色ブロンドの御髪の持ち主とその従者に注がれているようだった。

 

モニカの立つ入り口付近からはその詳細な会話内容は把握できないが、なにかトラブルでもあったのだろうか。

 

「もし。失礼ですが、なにかあったのですか?」

 

観察しているだけでは始まらない。とりあえず近くの椅子に座る女生徒に尋ねる。

 

「ん?ああ、ゼロのルイズが平民を連れ込んだのよ。可笑しいわよね、使い魔らしいけれど、平民なんて。召喚できなくて、王都辺りの人買いから仕入れてきたって専らの噂よ。」

「まあ……。」

 

女生徒のどこか嘲るような答えにモニカはそれだけを絞り出すので精一杯だった。

歯に衣着せぬ物言いをすれば、ルイズの同学年での評判は決して良いものではない。魔法が使えない、授業の進行を妨げる(主に爆発による)、高飛車な態度。自尊心が高い思春期の貴族が集うこの学び舎では、それらの要素は周囲に溶け込んでいくうえで余りに致命的すぎる。王国一の彫刻職人が手掛けたと言われても信じるほどに周囲を圧倒する器量も、同性からしてみれば必ずしも長所とは成りえないのだ。

故に些細なことでも、彼女が言ったような陰口がどこからともなく湧いてきてしまう。

『ゼロ』の二つ名はその最たるものだろう。

 

いつものモニカであればこのような場面、なんとなく居心地の悪い思いをしながら事態が過ぎ去るのを待っていた。そもそも、クラスが同じであるというだけでほとんど交流すらなかったのだから。(事実、ルイズはモニカの顔と名前すら覚えてはいなかった。)

しかしながら今日はいつもとは少しばかり事情が異なる。昨日は曲がりなりにもルイズと関わりを持った。それに——、

(サイトさんとの契約もございますし……)

“のーとぱそこん”を譲り受ける対価として、幾ばくかの銀貨とサイトに対する生活面でのサポートをする契約を結んだ。詳しい事情は分からないが、今の状況はその契約を果たす場面である気がした。

 

「ルイズ様、おはようございます。サイトさんもお元気そうで何よりです。」

 

何やら不穏な雰囲気の二人に割って入り声を掛ける。突然話しかけて、無視でもされるかと内心不安だったが、ルイズは声を掛けてきたモニカに向き合う。

 

「あら、ミス……」

「コイルトンでございます、ルイズ様」

「そうコイルトン。そちらこそ、いい朝ね。」

「はい誠に。……ところで、なにかサイトさんとお話ししていたようですが。」

「ええ。この駄犬がね、せっかくご主人様であるわたしが慈悲深くも食堂にまで連れて餌を与えてあげようとしたのに、生意気にも文句ばっかり。あなたからも何か言ってやってくれないかしら?」

「はあ……、駄犬、でございますか……。」

 

艶やかな髪をかき上げながら、なかなかユニークな趣味でもあるかのようなセリフをのたまうルイズに、これは想像以上の展開だと思いモニカは二の句が継げなかった。

 

「だからっ、俺は犬なんかじゃねえ!ちゃんとサイトって名前があるんだよっ。それに、これっぽっちの食事じゃ足りるわけねえだろ!」

 

モニカとルイズのやり取りを聞いていたサイトがそういってビシィッと床を指さす。

指先の示す方を辿れば、そこには床に直置きされた質素な皿と固そうなパンがあった。

 

「こんなの人間様に対する扱いじゃねえって。モニカもそう思うよな!?」

「えっ……は、はい。そうであるような、ないような……。」

 

サイトから当然のごとくファーストネームを呼び捨てにされ、モニカは不覚にもたじろいでしまった。同意を求められても、これは名目上も実際上も主人であるルイズの手配だ。部外者の、それも昨日今日親交をもったばかりの自分に、表立ってこれを非難することは難しい。

どうしたものか、僅かな間逡巡するモニカだったが、やがておずおずとした口調で切り出す。

 

「あのう、差出がましいことかと思いますが、この場はとりあえずわたくしの配膳の一部をサイトさんに食べていただくというのは如何でしょうか?わたくし、実は朝はあまり食べられなくて。いつも残してしまうのでサイトさんに手伝っていただければとても助かるのですが」

 

モニカの申し出にルイズは顔をしかめる。モニカが彼女の使い魔に肩入れしているように思えてしまいどうにも気に食わない。それに、使い魔としての今後を鑑みた時、この場で甘やかしては調子に乗ってしまう可能性もあった。

だが、ここで渋るのも優雅な貴族らしくないような気もする。朝の食堂はもうすでにかなり混みあってきた。心なしか、さきほどから周囲の注目も集めてしまっている気がする。

 

「――そうね、ミス・コイルトンに免じて今日のところはそれで許してあげる。」

「マジか!?やったぜ。」

 

ルイズのその答えにサイトは歓喜の声をあげる。食卓に並ぶ絢爛な料理の一部を食べられることに、彼の中に巣くう庶民魂が震えた。

 

「はい。ありがとうございます、ルイズ様」

 

この場を収めてくれたことにモニカは安堵し、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「それでは給仕の方にわたくしの配膳を一部、トレイに分けてもらうよう頼んでおきます。――サイトさん、ご満足いただけるかはわかりませんが、どうぞ召し上がってください。」

「ああ、サンキューな」

 

にぃっと笑い、サイトがサムズアップする。それを見てモニカは目を丸くして膠着してしまう。

 

「ミス?どうしたの」

 

突如固まってしまった様子のモニカを不思議に思い、ルイズが声を掛けた。

怪訝な表情のルイズに声を掛けられ、モニカはハッと我に返った。

 

「――い、いえ、なんでもありません。どういたしまして……です。」

 

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