本日は日曜日。石田小鳥の埼玉の同僚二人と内一人の妹が秋葉原へ遊びに来る日である。絵里は朝早くに起き、少し慌てながらシャワーを浴びて出掛ける服選びを始めた。
「失敗したわ、昨日はレッスンで疲れたのを理由にして直ぐ寝ちゃったからもう~!」
慌て騒がしい姉の部屋にパジャマ姿の亜里沙が様子を見に来た。
「おはよう、お姉ちゃん。…朝からどうしたの?」
「亜里沙、貴女は準備はもう出来てるの!?」
姉の慌てぶりに妹は納得し、返事を返す。
「うん、昨日の内に着ていく服も用意した。」
「そ、そう、悪いんだけど朝御飯は自分でお願いね!」
「は~い。」
亜里沙はキッチンに向かい、絵里はクローゼットから色んな服を出しては照らし合わせて見た。
思えば彼女は石田小鳥の女性の好みなどは知らず、服など選んでも付き合っている訳ではないのだから気に止めて貰えるかも分からない。しかし適当に選ぶのだけはしたくはなかった。
そして起きてから凡そ一時間もの間、クローゼット内の服と睨めっこした結果…、黒のタートルネックと紺のミニスカートにグレーのカラータイツに薄い水色のジャケットとシンプルなコーディネートとなった。
「結局、妥協…してしまったわ…。」
服が決まった所で軽く朝御飯を取ろうとキッチンに行くと、彼女の席に千切りキャベツのサラダとその横に目玉焼きが白いお皿に盛られていた。
「ふふ、お姉ちゃん服選びにあんなに真剣な顔初めてだね♪」
「あっ、あら、そう?
…そっ、それより…、目玉焼き作ってくれてありがとう、亜里沙。」
姉の感謝に亜里沙は“エヘヘ”と笑って笑顔で返し、自分も目玉焼きを乗せた食パンの角に小さな口でかぶりついた。
朝食を食べ終わり、二人は支度をして絵里は焦げ茶の短ブーツを履きマンションを出る。石田小鳥とはよく会う横断歩道で待ち合わせをしていて時間的にも待ち合わせには少し早いくらいであった。
亜里沙はピンク系の少々フリルの多いファンシーなコーディネートで靴は薄茶のローファ靴。今時の女子中学生としては少し幼さが目立っていた。しかしまたその格好がとても愛らしく似合っており、隣の美人な絵里と並んで歩く光景は正に美人姉妹。道行く人達が一度は振り向き足を止めてしまう程であった。
そして待ち合わせ場所に着いた姉妹は…、思いもしなかった光景に血の気が引いた。何と石田小鳥が電柱に額を擦り合わせ、両膝を付いてしまっていたのだ。道行く人達が一度は振り向いて見て見ぬ振りをして足早に立ち去る程に危機迫った光景であった。
『石田さん!?』
二人は声を揃えて彼を呼んで駆け寄ると…、上下ジーンズでかためた小鳥がムクリと頭を起こし、両膝は付いたままで二人を見た。
「んあ…、金髪姉妹がコッチに来る…。何で?」
「……寝ぼけてるんですか?」
呆けた顔の彼の呟きを聴いた絵里は眉をひそめて溜め息を吐いた。亜里沙はそんな事はお構いなく小鳥を心配して彼の傍らで腰を落とした。
「石田さん、どうしたの!?何かあったの!?」
亜里沙の呼び掛けでゆっくりと頭が冴えてきた小鳥は
片膝を付いて起き上がった。
「あ~わりい、寝てたわ俺…。」
察しがついていた絵里は呆れたと云った表情で小鳥を叱った。
「紛らわしい格好で寝ないで下さい!
本気で心配したじゃないですか!?」
「すっ…、すまんのう、実は昨日徹夜して寝不足なのだよ…。」
「…何して寝不足なんですか?」
「…今日期限の映画レンタルDVDを二本を一気観して…、そして朝早くに返して来たのだ。」
絵里は小さな溜め息をして苦笑する。
「別に朝早くでなくても私達も付き合ったのに…。」
「そっか、ありがとうよ。」
しかし其処にはこの姉妹には言えない真実があった。
(言うまい、観ていた映画が“AV”だったなどと…、口が裂けても言うまい!)
小鳥は真実を胸の奥に仕舞い込み、姉妹を両脇に置いて“両手に花”と洒落込む事にしたのだが…。
「どうせ“エッチ”なのとか観てたんでしょ。」
「なっ、何で分かった!?」
絵里にズバリ当てられてしまった小鳥はバカ正直に聞き返してしまい、両脇から痛い視線が注ぐ絢瀬姉妹は足早に彼を置いて行くのであった。
「いや本当に待て、どうして分かった!?
…つうかカマ賭けか!?おい、待てってばよ!!」
小鳥も焦りながら足早に姉妹を追いかけ、そんな彼を姉妹はクスクスと含み笑いをしながら迎え入れた。亜里沙は人懐っこく追いついた小鳥の左腕に掴まり腕を組む。
「ウフフ、“小鳥君”ってやっぱりカワイイです♪」
「絢瀬妹、大人をからかうな。それと呼び方は“石田さん”だ。」
「なら亜里沙の事も名前で呼んで下さい。」
小鳥は左腕を持ち上げ、その腕にぶら下がる亜里沙と睨めっこを始め、そんな二人を笑みを浮かべて見守る絵里だが、自分の気持ちを素直に出して甘える妹の亜里沙を少しだけ…羨ましく思うのであった。