秋葉原、色々な人々が行き交う世界でも有名な電気街。この街で厄介な事件が数件起きていた。
「ねえねえ、いいバイトがあるんだけどさ~、やってみないかい?」
スポーツウェアの様なファッションをした雰囲気の悪そうな三人の男性が女子高生を一人囲んで何やら勧誘をしている。周囲の目を気にせずにナンパをしている様にも見えるが彼等に付いて行った少女達は無理矢理風俗などで働かされて身も心もボロボロにされてしまう。
それを知ってか知らずか女子高生は脅えながら男性達の勧誘を断っているが…、彼等は彼女を逃がそうとはしない。
「もう許して下さい、私“バイト”なんてしません!」
涙目で訴える女子高生を三人の男達は囲ったままニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて更に彼女を追い込む。
「別に返事は今じゃなくてもいいけど…、学校も自宅も調べて必ず返事聞きに行くよ~。
何処にでも会いにいっちゃうけど…、それでいい?」
それは最早脅迫であった。少女は言葉を失い、ブルブルと震えながら彼等に付いて行くと返事を言おうとした時…。
「コラーーーッ、その娘から離れなさい!!」
突然男達の後ろから別の少女の声が響いてきた。少し意表を突かれたのか、三人共声のした方向を向いてその正体を確かめようとすると、三人に囲まれていた女子高生が男達の一人に体当たりをして逃げ出した。
「チッ、待てゴラアッ!?」
女子高生を逃がしてしまった男が怒声を上げ、二人の男がもう一度先程の声の主の方を向いてもの凄い睨みを効かせてきた。その眼付けの先にいたのは…、高坂雪穂と絢瀬亜里沙であった。
「よう、お嬢ちゃん達、彼女逃げちったじゃん。…どうしてくれんの?」
雪穂と亜里沙はビクリと肩を弾ませて思わず後退ってしまうが、亜里沙はキッと三人を睨んだ。どうやらあの女子高生が三人の男性…所謂チーマーに絡まれているのを見かねた亜里沙が蛮勇を奮い、彼等を怒鳴りつけてしまったのである。
「あっ、貴方達が嫌がる女の子を寄って集って驚かせていたから…っ!」
「ァアッ、何言ってんだクソガキ!!」
亜里沙の言い分をグラサンをかけた男が脅かして遮った。…すると、三人のリーダーっぽい男がグラサンを宥めてこう言った。
「おい、もういいからコイツ等連れてくぞ。」
「ぁあっ、この二人中坊だろ。いいのか?」
「いいんじゃね、俺意外とこの二人好みだぜ。」
三人の会話は明らかに亜里沙と雪穂には危険過ぎるものであった。それに気付いた雪穂は亜里沙の手を取り、咄嗟にその場から逃げ出す。
「雪穂!?」
「黙って、舌咬むわよ!!」
雪穂と亜里沙の逃走に三人のチーマーは残忍な笑みを浮かべ三方へ別れリーダーだけが二人を追った。
雪穂と亜里沙は小柄であるのを利用して人混みを掻き分けて距離を離そうとするがリーダー格の男は邪魔な歩行者をど突いたり蹴飛ばしたりして道を開けさせて二人に迫っていた。のあまりの乱暴ぶりに二人は初めて恐怖を感じ、歯を喰いしばり必死に逃げる。
「待てゴラアッ、ヤルぞゴラア!!」
訳の分からない怒声を吐き出して来る雪穂と亜里沙だが、二人は気付いていない。警察の派出所からどんどん離れているのを、チーマー達は彼女達を脅えさせて警察から距離を離して別ルートから隠れて追っている二人と一緒に追い込もうとしていた。
「雪穂、交番から離れてるよ!?」
「分かってる、でも大通りに出ちゃえばもっと人が多いし、ガソリンスタンドがあれば…!」
ふと亜里沙はガソリンスタンドで頭に浮かんだ顔があった。頭を丸刈りにして更に丸く、細くつり上がった目に三本の目立つ傷跡と鱈子唇。
「“小鳥”さん!!」
亜里沙がそう叫んで雪穂は後ろを向いて頷く。雪穂は秋葉原の近くで石田小鳥が居るかも知れないガソリンスタンドに逃げ込もうと考えていたのである。…例え小鳥が居なくともガソリンスタンド自体に逃げ込んでしまえばあの三人も手が出せなくなると雪穂は考えていた。
…だが大通りが見えたかと思えば何と其処にはあのグラサン男が待ち伏せをしていて二人は思わず立ち止まってしまい、後ろから追って来たリーダー格が追いついてその右手には何時からか金属バットが握られていた。それを見た二人は息も上がり…青醒めてしまいブルブルと震え上がってしまった。そして突然亜里沙の手首を掴む者が現れて亜里沙は吊されて爪先立ちになってしまう。
「いっ、痛い!?」
「亜里沙!」
亜里沙を捕まえた男は亜里沙が痛がっている姿にニヤニヤし、雪穂はグラサン男とリーダー格に挟まれてしまった。
「疲れたぜ~、マジ疲れた…、なあ、嬢ちゃん達よおっ!!」
リーダー格は怒鳴り声を上げ、周囲が騒ぎを嗅ぎつけて囲み始める。
「なあ、金属バットってやばくね?」
「マジにブン回したりしねーよ。」
「俺車持ってくんから待ってろ。」
グラサン男がそう言って離れようとした時、此方に声をかける者がいた。
「オイお前等、その娘達が何かしたのか?」
聞き覚えのある低い声を聞き、亜里沙は声の主を見て泣き出した。
「ふええぇ、小鳥さん…!」
雪穂もまた彼を見て安堵感から涙ぐんでしまう。そして現れたガソリンスタンドの作業着姿をし、左手に小さなコンビニのビニール袋を吊した小鳥が直ぐに亜里沙の手を掴み吊している男の腕を掴み上げ、“グッ”と握力を込めた。
「イッ、イデデデデデ、はっ、離せコラアッ!?」
男は小鳥に腕を握り締められ、痛くて我慢出来ずに亜里沙を離した。雪穂は亜里沙を抱き寄せて二人で小鳥の背中の影へと隠れる。小鳥は男の手を離し二人の安全を確認するが、その隙を見て男は警棒を素早く取り出して小鳥の側頭部をいきなり殴りつけた。
小鳥は少しだけよろけ、殴られた側頭部に手をあてた。
「イヤア、小鳥さん!?」
「小鳥さん!?」
突如振り降ろされた暴力に亜里沙と雪穂は体を強ばらせ頭から血を流す彼を心配する。…が、小鳥は二人に笑いかけ…“大丈夫だ”と言ってみせた。
「このブサイクがぶっ殺してやっ…ガフッ!?!?」
次の瞬間、警棒男の顎に小鳥のアッパーカットが炸裂。警棒男は体を1m以上は飛んで背中からアスファルトに落ちて昏倒した。亜里沙と雪穂は目を丸くして倒れた男を見、グラサンとリーダー格は言葉を失い、野次馬達はまさしくストリートファイトが始まったのだとばかりに更に集まった。小鳥はその様子を見ながら拳を振るった事を少し後悔してしまう。しかし事情は分からないが此処で彼女達を守らなければ一生後悔するだけでなく“惚れた女”にどの面下げて会えるだろうか。
小鳥は深い深呼吸をし、自分の中にある“野獣”を起こしてボキボキと指の関節を鳴らして鋭い眼孔をチーマー達に向けた。
「何がどうなのかは知らんが、知り合いの娘達に乱暴を働くお前等を黙って見てる訳にはいかねえからな。
久し振りに暴れさせてもらうぜ!」
小鳥は二人を相手にファイティングポーズを取り、リーダー格とグラサンも多少はビビりながらも負けじと啖呵を切った。
「誰だか知らねえが調子づいてんじゃねえぞデカ物う!!」
「ぶっ殺しやんぞゴラアッ!!」
グラサンの手にはナイフが握られ周囲は騒然となって警察を呼ぶ者もいたがグラサンが小鳥目掛けてナイフで刺突、しかし此を小鳥は平然と手首を掴んで止めてグラサンの眉間に頭突きを叩き込んだ。彼のサングラスが割れてよろけ、其処へ小鳥の後ろ回し蹴りが腹にめり込みグラサン男はゴロゴロゴロゴロと何度も頭を打ちつけて転がり立てなくなった。リーダー格は青醒め、金属バットを両手に持って前に構えるがその手は完全に震えて弱腰になってしまっていた。
「テメエ、っすぞゴラア、ァアッ!!」
空回りな威勢だけで攻めようとしないリーダー格に小鳥は一睨みを効かせ、背中を向けるが…、途端にリーダー格はニヤリと笑い思いっ切り金属バットを振り上げて小鳥の後頭部を狙った。
“パシリ”…、そんな透かした音が鳴るがその光景を見ていた野次馬達や亜里沙、雪穂は只驚くしかなかった。リーダー格の力一杯に振り下ろした金属バットを小鳥は片手のみで軽々と受け止めて見せたのだ。そしてその怖面をリーダー格に向けて改めて向かい合う。
「え…、これ…っ、冗談…」
「馬鹿だぜ、お前。」
次の瞬間、振り切った小鳥のストレートパンチがリーダー格の顔面に炸裂し、彼は宙を飛んで一度アスファルトの上でバウンドしてゴロゴロと転がって完全に意識を失った。
小鳥は倒れたチーマーの三人を見渡し、深く長い溜め息を吐くと先程から泣いた後のクシャクシャな顔を向けていた亜里沙と雪穂に指をビッと上に立てて見せた。すると二人はまたもやワッと泣き出して二人して小鳥の大きな体に抱きついた。…遠くからは先程野次馬の誰かが呼んだであろう何台かのパトカーのサイレンが“ウウーッ”と大きく鳴り響いていたのだった…。
…以降はチーマーのみならずヤクザまで登場予定です。
ラブライブ小説にヤクザって一体何っ!?