それから絢瀬姉妹は石田小鳥の言う通りに高坂家に御世話になる事となった。高坂夫婦は事情を先ずは音ノ木坂学院の理事長であり、南ことりの母親でもある南ひな子と亜里沙と雪穂が通う中学校に話し、両学校側から警察の巡回強化の要請と下校時間に於いてのガードマンの配置を約束してくれた。此でかなり不審者対策は取れたと言って良いだろう。
そして一番危険であろう下校時は亜里沙と雪穂は高坂の奥さんが迎えに行き、絵里と穂乃果は仲間達と出来るだけ下校を共にし、一人で帰る事や寄り道は禁止とした。小鳥も仕事の帰りが早い時は和菓子屋穂むらに出来るだけ寄る様にしていた。
そして夕暮れ時、小鳥の予想通りに“奴等”は彼がいるガソリンスタンドに乗り込んで来た。黒のクラウンと同じく黒のジャガーがガソリンスタンドの出入り口にいきなり突っ込んで来てまるで逃げ場を塞ぐ様に車両を停めると中より各四人…計八人のガラの悪い男達が降りて来て辺りを見渡した。小鳥は冷静さを保っているがその表情はかなり険しいものとなっていた。
八人のチンピラの“頭”であろう坊主頭にサングラスをした高級スーツの男が石田小鳥を見つけて煙草を吸いながらニタリと嗤い、それをポイ捨てすると大声で叫んだ。
「“キュウウウウゥピイイイイイイイイイイ”ッ!!!!」
その声を聴いて更に小鳥の顔が険しくなる。出来るなら会いたくはなかった相手だ。
「テメエ…、確か“涼”を撃った奴だな!」
「あぁ、金城だ…覚えとけや。あの時次いでにテメエも撃ってやったんだよな…QゥゥPィィよ~~~う。
でも顔撃ってやった筈なのに何でピンピンしてんだ~あ、ァア?」
小鳥は作業帽子を取らないままで金城と睨み合って向かい合うとガソリンスタンド内は異常な緊張感が広がり、小鳥と金城は敵意を剥き出しにした。
「何の様だ、此処には我妻涼はいねえぞ。」
「あんな負け犬はどうでもいいんだよ、それよりテメエ先日に俺の“組”の小僧共をやりやがったろうが!」
正に因縁であった。先日、絢瀬亜里沙と高坂雪穂を襲ったチーマー達は金城の子分であったのである。小鳥の悪い予感はその上を行き目の前にふてぶてしく現れたのだ。
「お前の子分が俺の知り合いに手を出そうとしたからだ。
それに先に殴って来たのは奴等だ、警察もお前の子分共に…」
「んなこたあどうでもいいんだよ、テメエが俺の前に立ちはだかった事実で充分なんだよ、解るか?
次はテメエの周りの人間全部が標的だ、解ってんのかゴラア!!」
金城の気合いを入れた脅迫を小鳥は顔色変えずに…しかし目をつり上げ普段は絶対に見せない凶暴な眼光を金城に見せつける。その目に金城はかつて彼を襲撃したが返り討ちに合った過去を思い出して僅かに怯んだ。
「そん時は俺の人生投げ出してテメエを地獄へ叩き落としてやる、解ってるよな…“ハゲ”!」
「んだとオイ、今ハゲっつったかこのデカ物があ!!」
睨み合いは更に続き、一触即発の空気が周囲に重くのしかかる。…しかし先に引いたのは意外にも金城で、彼は小鳥から離れて背を向けた。
「石田小鳥ぃ、コイツはテメエに対する宣戦布告だ!
近い内に動くからよ~、その首しっかりと洗って待ってろやあ!!」
そう言い残すと金城達はガソリンスタンドより出て行った。立ち尽くす彼の横に心配していた店長が立ち、様子を窺った。
「大丈夫かい、石田君?」
「ウスッ、大丈夫です。」
「一つ言いたい事があるんだが…、いいかい?」
「どうぞ…。」
「君も確か、帽子の下は“坊主頭”…じゃなかったかい?」
暫し沈黙が流れ…、店長からの質問に小鳥は小さな返事を返して頷いた。
和菓子屋穂むらの店周辺に不審な若者達が集まっていた。皆が皆柄の悪い…それこそチーマーの集団とも言える若者達が十人近く、穂むらを危険な視線を向けていた。
「手筈通り、店は開店出来ない所までぶち壊せ!
ジジイは殺さねー程度に痛めつけてババアはイカすなら楽しんじまおうぜ!!」
危険な若者達は鉄パイプや金属バット…警棒等で武装して穂むらの店頭を囲んだ。
店内からもその様子はハッキリと見え、高坂夫婦はあの若者達が何しに来たのかを理解し戦慄する。
「お父さん、警察に連絡しないと!?」
高坂妻が慌てて夫にすがりつくが、何を思ったのか高坂夫が妻に手渡したのは…、“木刀”であった。
「アナタ…、まさか…?」
高坂夫は妻に強く頷き返し、彼女は夫の手から木刀を受け取ると強い決意を込めた笑みを見せた。
「さーて、“昔みたいに暴れましょうか”!!」
妻の掛け声を聞いた高坂夫は拳を“ガツン”と合わせ、二人で店外へと出撃するのであった。
オリジナル設定ですが、高坂夫婦…親父は高校時代はこの地域を仕切っていた大番長。お母ちゃんは音ノ木坂学院生徒会長でしたが、自校の女子を他の学校の不良共から守る為に竹刀で叩き倒す剣客小町と云ったオリ設定です。