“事件”は早朝に発覚した。朝、石田小鳥は右腕に妙な重だるさを感じていた。耳にはスー、スー、と空気が洩れる様な音が聴こえて此方に微かに息を吹きかけられる感じを覚える。小鳥のお脳が覚醒を始め瞼をゆっくりと開けていくとぼやけてはいるが何者かの顔が間近にあるのを確認した。小鳥の目から少しずつぼやけが取れて行くと真向かいの顔がハッキリと見え…、小鳥の心臓が“ドックンドックン”と活発化し脳の方は完全に覚醒をして彼は驚愕の形相となった。
(何故、何で、どうして、何故に“お祭娘”が俺の腕枕で俺と一緒に寝ているんだああああっ!?!?!?)
小鳥は声を出さない様にしながらも困惑し、ゆっくりと右腕を引いて取り出し立ち上がった。
(一体何なんだこの状況は…、どうして俺はお祭娘と寝ていたんだ!?
コイツは何時の間に俺の寝床に潜り込んで来たんだ!?
いや、それよりもこんな所を絵里に見られたら…)
戸惑いキョロキョロと居間を見渡した時、戸が開いているのに気付き其方を見た瞬間、小鳥はまたもや驚愕し今度は悲鳴を上げてしまった。
「えっ、“えりいいい”っ!?!?」
開いた戸には絢瀬絵里が茫然としたまま立ち尽くし、呆けた表情のまま絵里は焦りまくる小鳥に視線を向けた。
「なにこれ…、どういうこと?」
「わっ、わからん、俺にも解らんっ!
一体何が起きたのかサッパリ解ら…」
「解らない訳ないでしょおおっ!!!!」
居間に絵里の怒声が響き、コレで穂乃果が飛び起きて雪穂と亜里沙が何事かと二階から降りて来て居間の戸の陰からヒョコッと顔を覗かせた。飛び起きた穂乃果は寝坊けているせいか周りの状況が呑み込めず、立ち上がると何を思ったか元気良く朝の挨拶を始めた。
「おお、小鳥さん早起きだね~、お早う!
雪穂も亜里沙ちゃんもお早う!
絵里ちゃんもお早う、今日も朝練頑張っ…」
“バシイイイイイイン”!!
小鳥、雪穂、亜里沙は絶句した。突然絵里が穂乃果に平手打ちを喰らわせたのだ。少しの間誰も動けずにいたが絵里は目尻に涙を滲ませて二階の穂乃果の部屋へ戻り暫くすると制服にロングコートを羽織りマフラーで顔を隠して出て行ってしまった。小鳥は最悪な状況と判断して寝間着のまま絵里を追い、亜里沙と雪穂は何が起きたのか解らず、穂乃果は打たれた頬に指を這わせ…茫然とする。
「……私、何で叩かれたの?」
…などと、妹達に聞くが二人はブンブンと首を横に振る始末であった。
朝、時刻は五時四十二分で人気はほぼない道を絵里は大股で足早に歩き、その後を小鳥が追い着いて肩を掴んだ。
「おい待て絵里、落ち着けよ!
お祭娘が故意に俺の寝床に入って来るなんてある訳ねえだろ、完全に寝坊けた結果だぞ“アレ”は! 」
絵里は肩に置かれた小鳥の手を振り払って振り返り、涙目で睨みつけて聞き返す。
「寝坊けてたって、じゃあどうして二階で寝てたのに一階に降りる必要があるのよ!?」
「あのなーっ、トイレに決まってんだろが!
そんな事が解らないお前じゃねえだろ!
ダチが信じられねえのか!?」
この言葉は絵里にとってとても突き刺さる言葉であった。穂乃果とは音ノ木坂学院が廃校になると聴いた日に初めて顔を合わせ、スクールアイドルを立ち上げようとした彼女と何度も対立し、自分が何をやりたいかを気付かされた時に彼女は自分に手を差し伸べてくれた。あの時に絵里は高坂穂乃果に対して年下にも関わらず…感謝と尊敬の念を抱く様になった。しかし昨日の夜に小鳥と穂乃果が仲良く話しているのを見ていてとても暗く嫌な感情を感じてしまった。そしてその感情の正体が“嫉妬”なのだと今解った。
「ハハッ……、そっか…私、穂乃果に……。
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…貴方はズルいよね、みんなに優しくて、私にも優しい。平等に、差別なく優しいんです…。
私自分がこんなに醜いなんて思いもしなかった……。」
正直、小鳥には絵里が何を言おうとしているのかが解らないでいた。…しかし、彼女の仲間であり、自分と同じ名前の娘が言っていた言葉と…何処か重なっている様な気がした。
「絵里、俺は頭が悪い…。だから遠回しに言われてもわからねえ、お前の言う通りズルい奴かも知れねぇ。
だけどよ、それでもお前を好きになった気持ちは変わらねえ!
…お祭…、いや、・・・・ほ…むら、そう、“穂むら”が俺にそんな気持ちがあったとしてもな…」
「小鳥さん、穂むらじゃなくて…“穂乃果”…。」
穂むらでは和菓子屋の名前になってしまうので絵里は泣きっ面を無表情にして冷ややかに訂正を求めた。小鳥は口を噤み少し顔を横に逸らして何もなかった様に言葉を続けようとする。
「…穂乃果が俺にだな…、その…」
「…もういい、全くもう、その様子じゃあμ'sのメンバーは私以外名前覚えてないでしょ?」
絵里に言われて小鳥はμ'sのメンバーの名前を思い出そうとするが…、サッパリ出て来なかった。
「ダメだ、巫女さんすら思い出せねぇ…。」
そう言って頭を抱える小鳥の様子を見て絵里の表情が緩む。そして小鳥は終いにしゃがみ込んでまるで“考える人”の銅像みたいな格好となってしまった。
「…やっぱ全員覚えた方がいいのか?」
そんな事を言い出してしまった小鳥の前に絵里も座り込み…、笑い声を堪えていた。
「ぷふぅ…、もう…小鳥さんは本当ズルいわ。もう此以上怒れないし、穂乃果に嫉妬も出来ない。
…もしかして確信犯?」
「んだよ確信犯て、何が可笑しいのか分かんねえ。
まぁ…、絵里が笑ってくれて良かったぜ、泣いてるお前は見たかねえよ…俺。」
小鳥は不意に絵里の背中に手を伸ばして抱き締めた。絵里は予測出来なかった彼の行動に戸惑った。
「こっ、小鳥さん…、止めて…?」
「穂乃果の事は許してやってくれ、そんでよ…、自分の事も許してやれよ。
絵里は醜くなんか絶対ねえから、俺が保証する。
また泣いた時は俺が笑わせてやるよ。…俺がお前を守ってやる!」
両腕でスッポリと隠され、小鳥の心臓を聴きながら耳元で囁かれ…絵里は石田小鳥が唄う言葉にまた涙が込み上げて来てしまう。
「ズルいよ小鳥さん…、こんな時にそんな事言わないでよ……!」
絵里は小鳥の胸の中で泣き出してしまい、小鳥は彼女が泣いている間…只ずっと動かずに抱き締めてやっていた。
絵里は気が済んたのか、泣き止んで時計を見る。随分時間が経ったかの様に思えたが三十分も経ってはおらず、小鳥の腕から顔を出すとやっとこさ空が白んで来ていた。
「…ありがとう、小鳥さん…。
私ね、その…、この前の返事……」
そう言いかけた絵里の耳元に何とも信じ難い音が聴こえてきた。
「……グウウウウ……zzzz………グヒッ。」
…寝ていた。寝ていたのである。コイツは自ら作り出した最高のシチュエーションの中で絵里が告白の返事をしようとした以前から睡魔に敗北してこの短い時間で爆睡が出来てしまっていたのだ。
絵里は涎を垂らしてだらしない顔で眠りこけている小鳥を固まった笑顔で見つめ彼の両腕をほどいて立ち上がると腕を振り上げ…、いきなり小鳥の坊主頭に平手を叩き込んだ。
“ベチイイイイインッ”と心地良い音が響き渡り、小鳥は突然の衝撃に勢い良く頭を振り上げて仁王立ちの絵里を見た。唇を強く噤んで頬を少し膨らませて力ませ、形の良い眉毛は此でもかと言わんばかりにつり上がっていた。
「…もしかして、俺寝てたか?」
小鳥の問いに絵里はコクリと頷く。どうやら自覚はある様だ。
「もういい、エリチカほんとにお家帰る!!」
「…??
何だ“エリチカ”って、何処の地下だ?」
それを聞くや絵里は持って来ていたスクール鞄を振り上げて何度も小鳥の頭を叩きつけた。
「もうっ、もうっ、小鳥さんのバカアアッ!!」
「痛、痛えよ、何でまた怒ってんだ!?」
「小鳥さんのバカ、天然、鈍感達磨!!」
「だっ、達磨!?」
ちょっぴりショックを受けた小鳥を置いて絵里は踵を返してドカドカと歩き出し、小鳥は慌てて絵里に付いて行き道行き何度も叩かれながら彼女をマンションの部屋まで送り、自分もアパートへ一度帰り高坂家へ連絡…絵里も亜里沙に連絡して事情を話して皆を安心させた。
しかしやっと事態を飲み込んだ穂乃果だけは…絵里を傷つけた事と、小鳥の包み込む様な温もりを思い出してモヤモヤ感を拭えずにいたのであった。
真姫「はっ、次回予告?何それ聞いてないんだけど。
はっ、何、自己紹介?何で知らない人達に私が名前教えなきゃいけないのよ!
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…しょうがないわね~、ふん。
西木野真姫です、次回は…、えっ、何コレ、いいのこんな内容で!?
…えっと、絵里がさら…、はっ、ネタばらし駄目!?もう訳分かんない、私帰る!」