ラブライブ~そのまんま美女と野獣~   作:濁酒三十六

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女神たちが泣く夜

 奴等の凶行は亜里沙と雪穂の中学校校門前で起きた。夕方の五時十分頃、亜里沙は姉の絵里からメールを貰い校門前で雪穂と一緒に絵里と希を待っていた。

 二人が校門向かいの歩道まで来たのが見えたので亜里沙が姉を呼ぶ。

 

「お姉~ちゃ~ん♪」

 

 だがその時、突然真っ黒なミニバンが絵里と希を隠す様に急停車した。窓にも黒いスモークが貼られており、その影で数人の男と争う声に二人の悲鳴が聴こえて来た。亜里沙は直ぐに姉を助けようと車道へ飛び出すのだが、雪穂が即座に彼女の制服を掴んだ。

 

「亜里沙ダメ、門の中に入って!!」

「イヤアッ、放してよ雪穂、お姉ちゃんがあっ!!」

 

 そして車の裏から突き飛ばされた希が姿を見せたが勢いで足をもつれさせ電柱に頭を打ち付けて地面に倒れ込んでしまった。黒のミニバンは急発進をし、排気ガスを撒き散らしてその場を走り去ってしまった。雪穂は倒れたままの希を心配して駆け寄ると、彼女は電柱に打ち付けた側頭部から血を流して気を失っており、それを見た雪穂は青醒めて亜里沙に助けを呼ぶ。…しかし彼女は姉を無理矢理連れ込んだ黒のミニバンの走り去った後を呆然と見つめ…崩れる様に座り込んで大声で泣き出してしまっていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夜の六時四十二分…。石田小鳥は高坂穂乃果より連絡を受けて急いで暴漢達に襲われ怪我をした希が担ぎ込まれた病院へと向かった。エントランスまで駆けつけると穂乃果達μ'sのメンバーが皆集まっていた。目撃者になってしまった亜里沙と雪穂は警察署で事情聴取を受けており、高坂夫婦と音ノ木坂学院の理事長と絵里と希の担任教師も警察署に赴いているそうだ。

 小鳥は絵里の事が心配でこの場で大声を上げそうになったが、辛そうなμ's達の顔を見て思い止まった。そして彼の姿を見た皆が不安な表情を向ける。だが一人…矢澤にこは小鳥を睨みつけ、胸下に右パンチをぶつけてきた。

 

「ちょっとにこちゃん!?」

 

 小鳥は無言のまま…にこにされるがまま何度も殴られて真姫が慌ててにこを抑えるが、にこは真姫を振り払い小鳥に怒声を浴びせた。

 

「絵里がアンタのせいで連れて行かれたわ、希も乱暴されて怪我をした!!

アンタ一体何なのよお、こんな所で油売ってないで助けに行きなさいよ!!

喧嘩強くても絵里の事守れなきゃ意味ないじゃない!

早く助けに行きなさいよ!

…行けよお!!

あの娘助けてよ…、これじゃあラブライブ所じゃないじゃない…、絵里いなけりゃμ'sじゃなくなるじゃないのよ!!」

 

 にこの悲痛な声が廊下一杯に響き渡り、刑事達も何事かと此方を睨みつけてきた。小鳥は軽く頭を下げ、もう顔をクシャクシャにして嗚咽を繰り返しながら泣くにこの肩に軽く手を添えた。にこもμ'sの皆も決して小鳥のせいではないと理解はしていた。…しかし怒りの落とし所がなく、にこは堪えられずに彼に当たり散らしてしまったのである。真姫と凛は嗚咽しながら力なくパンチを繰り返すにこに寄り添い、小鳥から彼女を離した。小鳥は俯く穂乃果を見、彼女も小鳥の視線に気付く。

 

「大丈夫か、朝の出来事があったばかりで…?」

「朝の事は…、もう仲直り出来たから大丈夫…。

だけど…、絵里ちゃんが今どうしているのかを考えると…、胸が苦しくてたまらなくなる。

何で…絵里ちゃんが連れ去られなきゃならないんだろう、絵里ちゃん何もしてないのに……。」

 

 

 小鳥は答えられなかった。絵里を攫ったのは確実に金城の手下であろう、なら理由は石田小鳥の身内であると云う事。そして女であるなら人質以外でも“色々使える”と考えたのかも知れない。小鳥は平静を装いながら大きな拳を強く握り締める。…と、エントランス内に小鳥を呼ぶ男性の声が響いた。上田秀虎である。

 

「小鳥か…、仕事忙しいのに大丈夫なのか?」

「秀虎さん、仕事は大丈夫です。

それより巫女さんの容態はどうなんッスか?」

「希は今疲れきって眠ってる。暴漢に突き飛ばされたらしく電柱に頭打って脳震盪を起こしたみたいだが、検査では大丈夫だそうだ。

…でも目の前で親友が誘拐されたショックの方がデカくてな、さっきまでずっと泣いてた…。」

 

 秀虎も冷静な風に見えてはいるが、小鳥と同じく握り拳を固め…僅かに血が滲んでいた。恐らくは壁を打ち付けていたのかも知れない。

 二人の男が口を噤み黙ってしまうと、更に不安になってしまったことりが泣きそうな顔で聞いて来た。

 

「石田さん、絵里ちゃんはどうなっちゃうんですか!?

私、出来る事があるなら何でもします!

だから、絵里ちゃんを助けて下さい!?」

 

 正直、南ことりの“お願い”は無理難題であった。金城の居場所が分からない時点で探す手だてがない以上は此方からは何も出来ない。もう警察に任せるしかない。

 

「…秀虎さん…」

「小鳥、話を聞いた分では金城って野郎はお前にかなり拘ってる。

多分だが…、向こうさんからコンタクトがあるかも知れない。」

 

 陰りを見せていた小鳥の表情に生気が表れ、それを見て秀虎も強い意志を込めた笑みを見せる。そして示し合わせたかの如く小鳥の携帯から“泳げタイやき君”が流れ出した。発信先は絢瀬絵里からである。小鳥と秀虎は外に出、二人の動きに異変を感じた穂乃果とにこが付いて行く。

 

「…絵里か!?」

 

 小鳥は一縷の望みで彼女の声が聴きたい為に名を呼ぶが、聴こえて来たのはムカつく男の声で吐き出された感に障る台詞であった。

 

《ハ~イ、わたし絵里で~す。

只今金城さんと気持ちい~お遊戯の真っ最中、小鳥さんよりテクニシャンよ彼~え♪

もう金城さんから離れられない、ってゆ~か離れられたくな~い!》

「・・・・金城、マジ気持ち悪いから止めろよ…。」

 

 小鳥が率直な感想を伝えると、声の主は逆ギレして携帯の向こうから怒声を浴びせてきた。

 

《んだとテメエ“QP”、すかしてんじゃねえぞゴラア!

本当に“女”犯して樹海に棄てんぞァアア!!》

 

 携帯越しの罵声は付いて来た穂乃果とにこにも聴こえ、絶句した穂乃果はにこに寄り添い二人で体を震えさせた。…だが小鳥は金城の言った事に対し僅かながら安堵を覚えた。

 

「その言いっぷりじゃあ、まだ絵里は無事なんだな…金城?」

《…チッ、ああ無事だぜ。つうか、あんまし暴れるからSMグッズ使って拘束してあんよ。

エロいぜ~、手首足首ガチで繋いでよう。口にはボールギャグさせてんだよ、半ベソで小さく垂らした涎がすげーそそるぜ。テメエなんかシカトして絵里ちゃんと危ないアソビにあけくれて~よ、ヒヒヒヒヒヒ。》

 

 この挑発には我慢出来ずに眉間に皺が寄り昔“QP”と呼ばれた時の凄みを帯びた顔になった。

 

「金城…、絵里に指一本でも触れてみろ?

お前も手下もみんな一生涯ベッドの上で天井見つめるだけの生活を送らせてやる、俺は殺すとか…そんな生温いやり方はしねえぞぉ!!」

 

 彼の怒声はエントランス内にも聴こえ、中にいた海未や花陽達が驚いて怯えてしまっていた。

 彼の脅し文句を聴かされた金城は暫し黙り込み、やっと本題を言い出した。

 

《………っ、いっ、威勢がいいじゃねえデク野郎!

やる気充分なら話が早えぜ、今から一時間後…上野にある最近潰れた廃工場まで来い。其処で決着つけようぜ!

QP…、必ずテメエを殺してやる!!》

 

 其処で電話は途切れた。小鳥は携帯を仕舞い、秀虎に向く。

 

「秀虎さんの言う通りでしたよ、今から一時間後に上野の廃工場まで来いって…。」

「そうか、因みにあの野郎、一人で来い…とは言ってなかったよな?」

「言ってませんでしたが…、いいんスか?」

 

 秀虎は小鳥に頷き返し、自身の心情を伝えた。

 

「金城に腑煮えくり返ってんのはお前だけじゃねえさ!」

 

 二人は決意を確認し合い、無言で一歩二歩と踏み出す。穂乃果はそんな彼に不安が広がり、思わず腕を掴んだ。

 

「小鳥さん…っ!」

 

 涙を浮かべ…何故彼を止めてしまったのか分からない穂乃果であったが、小鳥は彼女の頭を優しく撫でてやり、約束を口にした。

 

「心配すんな“お祭娘”、必ず絵里は連れ帰る。

色物娘も泥船に乗った気持ちでいろや!」

『え…っ!?』

 

 此を聞くや穂乃果とにこはじ~っと疑心暗鬼な眼差しで小鳥を見つめる。

 

「ん、何だ?」

 

 この突き刺さる視線の訳は秀虎が答えてやった。

 

「小鳥、其処は泥船じゃなく大船だ。

泥船じゃあ沈んじまうだろ。」

 

 暫し沈黙…、此から絢瀬絵里を助けに行くと云うのにあれだけあった緊迫感を小鳥は自分で壊してしまったのであった。…が、穂乃果もにこも込み上げてくる笑いを堪えようとせずに素直に笑い、エントランス内の者達も何事かと思い小鳥達の側へと集まった。

 

「ちょっと、にこちゃんも穂乃果もどうしたの!?」

「二人共今笑って場合じゃないニャ~!?」

 

 真姫と凛が何事かと言わんばかりににこと穂乃果に詰め寄り、海未は二人と小鳥達を見合わせながら悟った。

 

「絵里の居場所が…、分かったのですか!?」

 

 小鳥は微妙な顔をしながら頷く。そして穂乃果が自分達が笑っている理由を皆に教えた。

 

「はあ~。小鳥さんてば、絵里ちゃん助けに行くのに…“大船”に乗った気…って言いたかったみたいなんだけど、大船を“泥船”って自信満々に言うから…、にこちゃんと二人で笑っちゃったの。こんな時に不謹慎だけど…少しずつ気持ちが軽くなったよ、私…。」

 

 穂乃果の言う通りでにこと二人はかなり落ち着いた表情を取り戻していた。秀虎は先程の鬼の面をした小鳥を見て今日初めて不安をよぎらせたが、彼は充分に自身の心をコントロール出来る人物となっていたのである。…相変わらず天然な所はそのままではあったが、今の様に無意識ながら周囲を緩くしてしまうのだからコレは言わば才能なのかも知れない。

 そして小鳥は今一度表情を引き締めてμ's達に伝えた。

 

 

「今、眼力娘が言った通り…」

「むっ、誰が眼力娘ですか!?」

 

 眼力娘と言われていきなり噛みつく海未に小鳥はたじろぎ、花陽とことりで抑えた。

 

「海未ちゃん話の途中…っ!?」

「ドードー、落ち着いて海未ちゃん。」

「私は馬ではありません!」

 

 取り敢えず小鳥は話を続ける。

 

「…今海未が言った通り、絵里の居場所が分かった。つうか、絵里を攫った奴等が俺に挑戦状を叩きつけてきた。此から俺は奴等の挑戦状に応じて絵里を助けに行く。

…だからお前等に一つ頼みがある?」

 

 

 穂乃果達は石田小鳥の頼み事に耳を傾けた後、上田秀虎の運転するハスラーに乗り込み、金城に指定された廃工場へと向かうのであった。

 

(待ってろよ、絵里!!)

 




希「今回ウチはおねん寝中なので予告はせんよ~だ。
…と言うか、海未ちゃんが二回も予告やっとるやん!」

海未「私のせいじゃありません希!?」

希「あっ、海未ちゃん今回で三回目や!」

海未「ハッ、しまった!」
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