ラブライブ~そのまんま美女と野獣~   作:濁酒三十六

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H27、今年最後の投稿です。


お祭娘は玉砕覚悟!?

 もう12月も終わろうという夕方は水仕事が特に辛い。石田小鳥は提示時間を心の中で数えながらバケツの中の雑巾を絞っていた。絵里と距離を置いてから日は過ぎてもうラブライブ地区予選まで数日となっていた。絵里に会おうとしてはいたがその様な日に限って仕事が忙しかったり帰り道に会えなかったり電話があってもお互いにタイミングが悪かったりとやはりすれ違いが続いていた。小鳥は仲間からのアドバイスの通りに予選前に一度は絵里に電話だけでもして“頑張れ”と言ってやりたかった。

 

「コットオリさーん♪♪」

 

 …と、其処へ後ろから聞き覚えのある少女の声がして振り向くと、小鳥の直ぐ後ろにお祭娘こと…高坂穂乃果が立っており、ちょっと緊張している様な笑顔を此方に向けていた。小鳥は小さく切れ長の目をパチクリさせて穂乃果を見つめた。

 

「何でお祭娘が此処にいんだ?」

 

 そう呼ばれると穂乃果は眉間を寄せて小鳥に抗議した。

 

「もお、私の名前はお祭娘じゃないよ!

ほのか、高坂穂乃果だよ。」

 

 不満げに訴える彼女に小鳥はヘラヘラと笑い謝罪する。

 

「あっ、そうだったな、高坂“ホムラ”。」

「・・・・ホムラってウチのお店の名前っ!!」

 

 どうやら話が進まなそうなので穂乃果の方が折れた。

 

「…で、今日はどしたお祭娘?」

「今日は…ですね~、お願いがあって~、参りました。

小鳥さん…、わたしと…、でっ…でっ…でっ…」

「田楽食うのか?」

「違う、で…」

「出前したいのか?」

「違う、で…」

「凸凹?」

「何処が!?

……お願い、取り敢えず小鳥さん黙ってて。」

「そんなお願いで良いのか?」

「本命のお願いは別なの!

…と言う事で小鳥さん、ちょっと私と…“デエト”…して下っさいっ!!」

 

 小鳥はマジマジとお祭娘こと高坂穂乃果をガン見してしまい、穂乃果も真剣な眼差しで小鳥の目を見ていた。小鳥はふと、この娘の家に泊まった時におっとり娘こと同じ名前を持つ少女…南ことりの言葉を思い出してしまった。

 

(あ~、そういう事…だったのか…。)

 

 南ことりから言われた言葉…、“絵里以外は異性として意識しないでほしい”と石田小鳥は言われていた。実際、彼は絵里以外のμ'sメンバーを意識した事はない…、しかし彼女達にとってやはり石田小鳥は父親以外に間近に接した異性…男性なのだ。そして絢瀬絵里と高坂穂乃果は別々の方向から彼の魅力に触れてしまった。…絵里は石田小鳥の我が身を省みない心構えを“格好良い”と感じ、穂乃果は外見とは裏腹に気さくさから“可愛い”と思った。絵里は彼にその事を告げたが、穂乃果は告げていない。理由は彼女が自分の気持ちに自覚したのは金城に絵里が攫われた事件があった時である。

 その様な事情を小鳥は知らないが、考えてみればμ'sメンバーの中で絵里と同じ時期に知り合っていたのは穂乃果であり、彼女よりも先に穂乃果とは親しくなっていた。…あまりに普通に親しくなっていたが、小鳥にとっては知り合い止まりだったのだ。…しかし、例え考え過ぎだったとしても…穂乃果に対してハッキリとした態度を示しておかなければならないと小鳥は思った。

 

「なぁ、俺は…」

 

 すると小鳥の言葉を止めるかの様に穂乃果は彼に抱きついた。

 

「おい、油で汚れるぞ!」

「今日だけ…ちょっとの時間でいいから、お願い…小鳥さん…?」

 

 小鳥の作業服に顔を埋める穂乃果に小鳥は困り顔でガソリンスタンドの天井を仰ぎ、暫し考え込み…鼻息で溜め息を吐いた。

 

「分かったよ…、デートすっか。」

 

 小鳥がそう言うと穂乃果は抱きついたまま顔を上げて笑顔を見せた。

 

「うん、ありがとう小鳥さん。」

 

 その時の彼女の笑顔に小鳥は思わずトキメキ、我に戻ると首をブンブンと横に振ったのであった。

 そして小鳥と穂乃果は秋葉原のゲーセンで対戦ガンシューティングとダンスゲームをやり、スクールアイドルグッズ店…たまたまやっていたローカルアイドルのミニコンサート等を見て回り…時間も何時の間にか夜の七時半を過ぎていた。二人は陸橋下の公園でベンチに座り、小鳥が穂乃果に紅茶を手渡した。

 

「ありがと、小鳥さん。」

「冷めない内に飲んじまおうぜ。」

 

 小鳥は小缶のカフェオレを大きな手で持ち、チョビチョビと飲み始め…穂乃果も温かい紅茶を飲んだ。…そして暫く二人で曇って真っ暗な空を仰ぎ見る。もう数日すればラブライブ地区予選、天気は午前中は雪だと天気にあった。

 

「当日は午前中は雪だぞ、大丈夫なのか?」

「う~ん多分。でも当日、午前中は学校説明会があるの。

私“生徒会長”だから来年入ってくる新入生達に色々と説明しなきゃならないんだよ。」

 

 小鳥は頭をもたげて不思議そうに穂乃果を見、ポツリと尋ねた。

 

「お前が・・・・生徒会会長?」

「うん…。」

 

 小鳥は頭を真横になるまでもたげてもう一度穂乃果に尋ねた。

 

「お前が…生徒会会長?」

「うん、そうだよ。」

「何てこった、世も末だぜ…。」

「あー、ヒドい!

そんな事言っていいのかな~、私を推薦してくれたのは絵里ちゃんなんだけどな~。」

 

 小鳥は少しだけ驚くがその毒舌は変わらなかった。

 

「絵里のヤツも魚の目に祟り目って事だな。」

「あはははは、“ウオノメタタリメ”って何ソレ面白~い過ぎ~!」

 

 穂乃果は言葉の意味が解らずに笑いながら小鳥の肩をバンバン叩いた。

 

(絵里…、俺よりお馬鹿なヤツを見つけたぞ。)

 

 そして穂乃果は笑い疲れて“ハア~”と息を吐き、二人の会話が途切れる。沈黙が二人の間に流れ…思い詰めた顔になっていた穂乃果が決意したかの様に唐突に立ち上がり、ベンチに座る小鳥の前に立った。小鳥は特に驚く風も見せずに彼女を見上げ、座ったままで穂乃果の言葉を待っていた。

 

「小鳥さん…。」

 

 二人の視線が重なり、口を噤んだままの穂乃果を小鳥は黙ったまま何を言われるのか解っている様な表情で彼女の恍惚とした顔を見つめた。

 

「小鳥さん、多分前から好きでした。…大好きでした!!

…“それだけです”!!」

 

 

 また沈黙が流れた…。小鳥は少しだけ微笑んで口を開いた。

 

「そっか、俺の事好きだったか。

…ありがと、だけど……ごめんな。」

 

 彼の言葉を聞いた穂乃果は笑おうと口端を上に上げる。…しかし目尻に涙が溜まり、頬を伝って流れ落ちた。

 

「ふぇ…、ヤダ…そんな優しくあやまらないでよ。

涙腺ゆるんじゃぅ、泣くつもりなんて…、ひくっ、なかったのにぃ~い!」

 

 逆ギレ…八つ当たり気味な声を出して悔しげに泣く穂乃果が、そんな彼女を妙に愛おしく感じる小鳥。しかしそんな時も思い浮かぶのはやはり絵里で…小鳥は立ち上がって穂乃果の頭を撫でた。

 

「泣き終わったら…、送って行ってやる。前の件もあるからな…。」

「グズ……、うん…。」

 

 小鳥は泣き止もうと頑張り、鼻をすする穂乃果に寄り添い…頭をポンポンと優しく叩いた。穂乃果は彼に体を預けるが小鳥は肩を抱き寄せる事はせず、頭に掌を置いたままでいた。

 元々穂乃果は告白は気持ちを伝えるだけと決めていたのである。理由はラブライブ地区予選が直ぐ側まで来ている今…μ'sの関係を、何より絵里との関係を壊したくなかった。そして…小鳥自身が自分になびくなどありはしないと理解していたからだ。それでも…彼に只一言を伝えたかったのである。

 “大好き”と…。

 穂乃果と小鳥は彼女の家である和菓子屋穂むらに着き、店頭と向かい合う。結局、穂乃果と小鳥がデート中に彼女の名前を呼ぶ事は一度もなかった。…きっと名前を呼んでしまえば感情が彼女…ひいてはμ'sのメンバーも異性として見てしまうと…小鳥は考えていたからだが、穂乃果にはそれが何となく理解していた。…しかし、解っていても一度だけでも自分の名を彼に呼んで欲しいと穂乃果は思った。小鳥と向き合い…見上げる穂乃果は最後の我が儘を口にした。

 

「小鳥さん、私の…名前を呼んで?」

 

 …だが小鳥は困りげに微笑みかけ、小さく首を横に振った。穂乃果も涙ぐむが笑顔を作り、後ろに右足を一歩を出した。

 

「小鳥さんのイケズ…。」

 

 そう笑顔で呟いて回れ右をすると家の玄関へと駆け出し家の中へと入ってしまった。小鳥の顔は自嘲的な表情になり、和菓子屋穂むらに背を向け歩き出した。

 …帰り際、ふと思い出したかの様に立ち止まり携帯を取り出して絢瀬絵里の携帯番号を押す。電話は直ぐに繋がり、フューチャーフォンから絵里の声が聞こえた。

 

《小鳥さん…?》

 

 彼女の声を聞いた途端に急に肩が軽くなり、気持ちがリラックスしていくのが分かった。

 

《…どうしたの、今何処にいるの?》

「今お前のマンション下にいる。

…絵里に一言、言いたくてな。」

 

 其処で小鳥は一息吐いて、絵里は唇を噤み彼の言葉の続きを待った。

 

「絵里、ラブライブ…応援してっからな。ぜってー見に行くからな!」

 

 それだけで絵里の胸が熱くなり、無性に小鳥の顔が見たくなりスマートフォンに向けて声を上げた。

 

「小鳥さん、そのまま待ってて!

今降りてくから!」

 

 そう声を上げてジャケットジャンパーを羽織り部屋を飛び出す絵里。隣の部屋の亜里沙は何事かと思い、ドアを開けて絵里の背中を見送る。…そしてマンション出入口まで行くが、石田小鳥の姿は見えなかった。絵里は目頭が熱くなるのを感じて唇を噛み締める。

 

 

(何よ、待っててって言ったじゃない!)

 

 絵里は項垂れて涙腺に溜まった涙を手で拭い踵を返す…と、マンション出入口の脇に背中をもたれて座り込んで眠る小鳥がいた。

 

「えっ、小鳥さん!?」

 

 どうやら絵里は出入口まで来ていた小鳥に気付かなかった様で小鳥は眠そうに目をこすると絵里に気付いて立ち上がった。

 

「よう、おこんばんわ。」

「こんばんは、何だかこうやって話すのが久し振りな感じ。」

「そうだな、すまねえな…俺が臆病でよ…。」

 

 絵里は頷いて、小鳥に側へと歩み寄った。

 

「ホントよ、こんなにおっきいのに…、肝が小さ過ぎるわよ。」

 

 絵里の目尻はもう涙で決壊寸前であったが、小鳥は立ち上がって絵里を抱き寄せた。絵里の顔が小鳥のドカジャンに埋まり、その暖かさに絵里は安心感を感じる。

 

「絵里、今日…お祭娘に告られた。」

 

 顔を埋めたままの絵里の体が強張るのが小鳥には分かったが、そのまま話を続けた。

 

「好き…って言われて素直に嬉しかったが、アイツの気持ちに応える事は出来ねぇ、俺は…絵里が好きだから。

だから、もう一度言うな…俺と、付き合ってくれ?」

 

 寒空の下で小鳥が絵里を抱き寄せ、絵里はまだ顔を見せず…苦しくなったのかズラして冷たい息を吸って吐いた。

 

「小鳥さ…、小鳥君となら…いいよ。」

 

 そう答えた絵里は小鳥のお腹に両手を回し、お互いが抱き合う形となった。そして二人は特に話す事なくその場でずっと抱き合っていた。

 亜里沙に携帯写真でスクープされているとも知らずに…。

 




絵里「…小鳥君との今後はノーコメントです!
また来年、良いお年を♪」
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