ラブライブ~そのまんま美女と野獣~   作:濁酒三十六

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トラブルはドミノの如く倒れゆく

「おい、事故だ事故!!」

「誰か子供守って轢かれたってよ!」

「警察と救急車は呼んだのかしら!?」

 

 まだ夕飯前であった為か、人気のなかった通りは野次馬が増え出していた。絵里は軽傷の子供を抱えた母親と一緒に倒れ動かない怖面の男性の傍らで救急車を待っていた。

 

「もう直ぐ救急車来ますから、頑張って…!」

 

 男性の頭の傷口にハンカチをあてて血を出来るだけ拭いてやり、手を握り締めて彼の無事を祈る絵里。そして遠くから救急車のサイレンが聴こえて来たその時、急に野次馬達が怒声を上げ始めた。

 

「おい、加害者の運転手、トラックから出て来てねえぞ!」

「サッサと降りろよ犯罪者!!」

「何でこの人降りて来ないのよ、卑怯者!!」

 

 現場は騒然して野次馬達が2tトラックを囲み、中から出て来ない運転手に怒りを露わにして罵声を浴びせる。運転手は人を轢いたと云うショックとトラックを囲った野次馬への恐怖で完全に竦み上がってしまっていた。

 絵里もまた加害者への怒りを持ちながらも、今は怪我人の手当てが先と考え、男性の意識を確認する。…と、怖面の男性は小さく呻いて意識を取り戻し自力で仰向けになった。

 

「うあぁ…、いでぇ…。ガキは…、子供は…無事か?」

 

 小さなつり目が絵里を見、彼女は強く頷いた。

 

「はい、男の子は無事です!」

「そうか、良かった…。」

 

 すると怖面の男性は目が覚めたのか、急に顔に生気が戻りフッと一息で上半身を起こした。勢い付いて頭の傷からピュッと血が飛び、絵里と母子は驚き彼を抑えた。

 

「何をしているんですか、頭も打っているかも知れないんです、救急車来るまで動かないで下さい!」

 

 絵里に怒鳴られた怖面の彼は其れ以上は動かず、困った顔をして頭をポリポリと掻いた。

 

「やべ、傷口掻いちまった。」

「ヒイイイイイイッ!!」

 

 絵里はまた血が出始めた傷口をもう一枚のハンカチで拭い、血で濡れた顔も拭いてやった。

 

「わりい、ハンカチ二枚もダメにさせちまって…。」

「そんな事はいいんです、救急車が着いたらあの親子と一緒に乗って言って下さい!」

「ああ、しかし警察来たら…」

「私が対応しますから…、頭の傷を治す事を考えていて下さい。」

 

 怖面の男性はキョトンとした顔で絵里を見つめ、「分かった。」と一言言って男の子と母親に目を向けた。

 

「ガキ…、お子さんに怪我はありませんでしたか?」

「ハイ、本当にありがとうございます…。」

 

 母親は男の子の肩を抱いて怖面の男性に頭を下げ、男の子も彼に「ありがとうございます。」とお礼を言った。怖面の男性は男の子の頭を大きな手で撫で、男の子は笑顔を浮かべ、絵里も顔が綻んだ。…と、そんなこんなで救急車とパトカーが到着し、母子は救急車に乗るが怖い面の男性は救急隊員がメモ用紙を貰って何かを書き、絵里に手渡した。

 

「コレ俺の携帯番号だ、何か警察であったら連絡くれよ?」

 

 そう言って彼は応急処置をしてもらいまるでタクシーにでも乗る様に救急車に乗って行ってしまった。

 

(分かってるとは思うけど、貴方も後で事情聴かれるんですよ。)

 

 そんな事を思いながら絵里は律儀にくれたメモ用紙を見、彼の名前も書いてあるだろうと確認、しかし…その名前を見た瞬間、まるで液体窒素でもかけられたかの様に体が冷えて凍り…目眩すら覚えた。

 

“電話番号090ー○△□6ー4×□△ 石田小鳥”

 

 石田小鳥…、いしだことり…、いしだ…ことり…、ことり…、ことり…!?、何という事であろう。一難去ってまた一難とはこの事か。

 

「トラブルは…、ドミノの如く、倒れゆく…。

はい季語無し、凡人未満の短歌よね…。」

 

 絵里はふと夜空を見上げ、力無く落としたメモ用紙を…躊躇いながらも拾い上げ、深い溜め息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり翌日、三年の教室にて絵里は希にこの件に対して相談した。

 

「…何でこの人はこうもウチ達に関わって来るんやろか!?」

「やっぱり、彼女だけじゃなく全体的に教えるのは“危険”よね…?」

 

 そう絵里が呟くと、希はうつ伏せ両腕で顔を隠すと、その背中が小刻みに揺れ始めた。

 

「…希?」

 

 絵里は不安げに向かいに机に突っ伏する親友の肩に触れると…、何やら含み笑いが聴こえて来た。

 絵里の表情は怪訝な顔になり、真剣な話をしている中で笑い始める希を窘める。

 

「希…、私真剣な話をしているんだけれども…!」

「んふ…んふふふ…、ごめん…、でっ、でも、あの体躯と顔して“小鳥”って!

やっぱり“ことりちゃん”が知った時の顔がスゴく見たいわ♪♪」

 

 顔を上げずにコワい事を無邪気に話す希に絵里はこの事実を話した事に後悔した。

 

「エリチ~、そんな心配そうな顔しないで。エリチの言う通り、みんなには上の名前だけ教えて下はしらばっくれればいいんよ。」

「…会った時に誰か個人的に聞いたら?」

 

 其処で二人は黙り込み、沈黙…。次第に希の頬が膨らみ、彼女はまた突っ伏して含み笑いをし出した。

 

「もう、希!」

 

 東條希にとって怖面の人物の名前が石田小鳥である事実はかなりの“ツボ”であった様で、その後お昼休みもラブライブへのレッスンの後も含み笑いを止める事が出来ずにいた。

 最早希に頼っても寧ろ逆にバラされてしまう可能性が出た以上、取る手段は一つしかない。

 

(そう、会わせなければ良いんだわ!)

 

 昨日の事故の事は学校側と希にしか言っていない。希は何だかんだと口は固い筈、学校側は更に信用出来る。そう、自分と希が黙ったままなら穂乃果やことり達が彼…石田小鳥と会うなどは有り得ないのだ。彼女には隠し通す様にと話をするだけでいい。

 

(ことり、貴女の尊厳は私が守るからね!!)

 

 …しかしその意気込みはその数日後、徒労に終わる事になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、音乃木坂学院スクールアイドルμ'sのリーダーである高坂穂乃果から重大発表があると言い放たれた。

 

「みんな、我等μ'sが今噂の中心としているおっかない顔の人物と…、

“アポイントメント”を取る事が出来ましたーーっ!」

 

 “おおおっ!”と他のメンバーから歓声が上がる中で絵里だけが蒼白な顔をし、希はその横で顔を隠しながら肩をフルフルと振るわせていた。

 




エリチは気苦労絶えません…。
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