ラブライブ~そのまんま美女と野獣~   作:濁酒三十六

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遅くなりましたが、八話目更新です。


そのまんま美女と野獣!

 時刻は夕方5時42分、暗くなって多少なりとも人の引いた秋葉原の町でちょっとした鬼ごっこが始まっていた。行き交う人達の間に出来た隙間を大柄怖面の男が外見とは似つかわしいキビキビした走りで駆け抜けて行く。その後ろ姿をポニーテールを振り乱しながら追って来た絢瀬絵里は只驚くしかなかった。

 

(あんな体付きで何であんなに小回り利くのよ!?)

 

 絵里もスピードアップをして追いかけると其処へ穂乃果から電話がかかって来た。走りながら携帯を取ると穂乃果は一方的に話した。

 

《絵里ちゃん、その先はT字路の筈だから私達が分かれて石田さんを待ち構えるよ!》

 

 絵里は一か八かの賭けと考える。

 

「解ったわ、じゃあ来なかった方のグループと私で挟みうちにしましょう!!」

《了解っ!》

 

 絵里は遠くに見える石田小鳥の背中を追い、T字路を右へ曲がるのを確認して手に持ったままの携帯で連絡する。

 

「石田さんはT字路を右へ曲がったわ、そっちには誰がいるの!?」

 

 携帯からは凛の声がした。

 

《こっちは凛と真姫ちゃんとにこちゃんとかよちんにゃ~!》

「了解、頼むわよ!」

 

 絵里はT字路を右へ曲がり、凛達とは反対から向かった穂乃果、海未、ことり、希は絵里を見つけて合流し五人で小鳥の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待ち伏せ組となった凛、花陽、真姫、にこは前方より此方へ走って来る石田小鳥を肉眼で確認し、あの怖面がハッキリして来るに連れて…足をプルプルと震わせ怖じ気付いてきてしまった。

 

「結構…、速い…わね…。」

 

 …と、真姫が呟き…。

 

「何よ、怖いの?

あの位で真姫もかわいい…わね~……!?」

「わっ、私は怖いですぅ~!」

 

 にこは真姫を笑おうとするが…、やはり弱腰で花陽はもう完全に怯えてしまっていた。更には石田小鳥の身軽に他の歩行者を避けながら走る軽快さに唖然とする。しかし凛は彼の運動能力に怖いながらも感嘆し、ちょっとだけ笑顔を覗かせた。

 

「何かあの人すごい、私達が本気で囲んでも無理そう…。」

 

 それは怖い気持ちからではなく、μ'sの中で1~2を争う運動能力を持った星空凛の真剣な分析であった。にこと真姫は感心するのだが、気付けば石田小鳥は三人の傍らを走り過ぎていた。彼の背中を呆然と見送る四人を今度は後ろから一喝する者がいた。

 

「もう四人もいてどうしたのよ、其処退いて!」

 

 三人がまた振り返ると絢瀬絵里が石田小鳥に負けず劣らずの速さで通り過ぎ、呆然とした三人は振り乱れた金髪のポニーテールを見送った。凛は絵里のポニーテールを見ながら呟いた。

 

「“馬の尻尾”とはよく言ったものだにゃ…。」

 

 変な所に感心を持った凛は愉しげな表情となり、真姫とにこを置いて走り出していた。そしてその後遅れて穂乃果と海未が駆け抜け、希とことりがリタイヤした。

 

「はぁ、はぁ、絵里ちゃんも穂乃果ちゃんも海未ちゃんも早過ぎるよ~。」

 

 ことりは膝に手を立てて腰を折り過呼吸を繰り返すが、希は両胸を両腕で抱える様に抑えて顔を青くさせていた。花陽と真姫が心配になり希を介抱する。

 

「ちょっと希、大丈夫なの!?」

「希ちゃんのそんなに疲れた顔見た事ないよ!」

 

 少しずつ荒い呼吸を回復させていく希は真姫と花陽を見、苦しげに伝えた。

 

「エリチとみんなに連られて走ってもうたけど…、ウチ胸大きいから中距離長距離は揺さぶられる時間長いから“痛い”んよ…!」

 

 それを聞いた二人は息を呑み込む。希はμ'sの中で一番の巨乳の持ち主、真姫と花陽は自分の胸を見るや、希の抑えた両腕から零れ落ちそうな胸元を見つめた。

 

「…なんて贅沢な…。」

「本当にそうだね…。」

 

 真姫と花陽の冷たい視線は希の胸元に注がれ、希は二人の冷ややかな態度に気付き、ちょっと身を竦めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 石田小鳥と絢瀬絵里の追いかけっこもそろそろ終わりに近付いていた。二人してどれだけの距離を走っただろうか、アッチを曲がりコッチを曲がりソコを回ってアソコを戻って、時に石田小鳥が危険運転の原付バイクを跳ね返してそれを目の当たりにした絵里や他の人達がビックリして…、行き着いたのは陸橋下の小さな公園で小鳥が根を上げた様に設置されているベンチに息を切らせながらドスンッと座り込み、後を追って来た絵里も荒く息を切らせて彼に近付いた。

 

「なんっで、俺の事…、を、追っかけんだ…、よ?」

 

 小鳥が少し睨みを効かせて絵里に聞いてきた。

 

「だっ、て…、貴方が、…にっ、逃げるから…!」

 

 息が切れている二人はゆっくりと呼吸を整え、楽になった所で暫し口を閉ざして沈黙する。そして互いの視線が重なると小鳥は立ち上がり絵里にベンチに座る様、施した。

 

「飲み物買って来るよ、何がいい?」

「え…っ、と…、紅茶…で…。」

「分かった。」

 

 石田小鳥は絵里がベンチに座るのを確認すると小さく笑い、ちょっと離れた自動販売機に温かい飲み物を買いに行った。…寒い陸橋下で待たされる事なく絵里の元に小鳥は戻りまだ熱い午後ティーを彼女に渡して隣へ座った。絵里は並んで座る彼を横目で見て…改めてその背の高さに驚いてしまう。

 

 小鳥は缶コーヒーを開けて飲み始めるが、絵里は200mgペットボトルの紅茶を握ったままなかなか飲めずにいた。

 

「やっぱり…、私達と会うのは…迷惑でしたか?」

 

 絵里は温かい紅茶で手を暖めながら小鳥に尋ねた。彼が逃げ出した理由は電話で断られた時から察しはついていた。社会人と云えど、女子高生九人に囲まれてワイワイガヤガヤと騒がれるのはかなりキツいかも知れない…、彼女なりに思ったのである。小鳥はそんな寂しげに俯く絵里を見て小さな溜め息を吐いた。

 

「迷惑とか…、そんなんじゃねえんだ。…その…な、怖じ気づいちまったのよ、九人に囲まれてちゃんと話せるかなっ…てな…。

昔から俺の周りは野郎ばっかだったからかな、異性に対して免疫がねえんだ。」

 

 小鳥は苦笑しながら話し、絵里はキョトンとした目で彼を見つめた。こんなに大きな体に一見ヤクザかと思えてしまう怖面の男性が女子高生九人に囲まれるのが怖かった…と、正直に話すのだ。絵里は何か込み上げるものを感じて彼からソッポを向き、プププ…と含み笑いが出てしまった。

 

「…何で笑う…?」

「フフ…ッ、だってそんな、正直に言わなくてもいいのに…、プフフ…。」

「取り繕える程頭の回転良くねえんだよ。」

 

 ちょっぴりふてくされる小鳥の顔をまた見つめ、ふと穂乃果の言葉を思い出してしまう。

 

“…何かドコか抜けた感じがカワイイかも。”

 

 絵里はそんな的外れと思っていた一言を理解してしまう。

 

「フフ、本当に石田さんって…、かわいいかも?」

 

 そう、笑顔で絵里が伝えると小鳥は驚愕した形相になり、それこそ茹で蛸の如く顔を真っ赤っ赤にした。

 

「お前さん、趣味わるいぞ。」

「あ……、それ自分で言っちゃうんですね…。」

 

 絵里は苦笑をして二人顔を見合うと自然に笑い声が零れた。絵里は小鳥から目を離さないまま…話をする。

 

「まだ…、“あの時のお礼”…言ってませんでしたね。

あの事故の時、子供を助けようと飛び出そうとした私を…止めてくれてありがとうございます。

もし石田さんでなく私が出て行っていたら、きっとあの子も…私もあのトラックに轢かれていたと思います。…だから、ありがとうございます。

お婆さんを背負った時と私を止めてくれた時の背中…とても格好良かった…です…。」

 

 そう伝えた絵里は頬を赤らめて下を向く。

 

「……そっか、俺…カッコ良かったか。」

 

 小鳥は恥ずかしながらも悪くない気持ちになり、ちょっとニヤついてしまった。

 …その時、突然二人を光が包み、絵里と小鳥は現実に引き戻された。絵里は何事かと周りを見渡す…と、自分達の真向かいにデジカメを持った星空凛が招き猫みたいな笑みを作り立っていた。そしてデジカメの画像を確認してニンマリと笑う。

 

「うふふふふ、良い画像が撮れたんだにゃ~♪」

 

「りっ、凛、貴女何時から其処に!?」

 

 思わず立ち上がる絵里だが、凛のみならず何処から戸もなく穂乃果、海未、ことり、真姫、花陽、にこ、希がゾロゾロと現れて凛のデジカメに群がった。

 

「みんな、なかなかの“良い絵”が撮れたにゃ。」

 

 凛が自慢する画像を花陽が覗き、感想を言う。

 

「むむむ、アイドルに恋愛はNGではありますが…。

何て羨ましい構図、相手がイケメンでないのが偲ばれますけど…。」

 

 さり気なく失礼な言葉が混じるが、敢えて小鳥は聞き流す。

 そしてにこが画像を覗いてベンチの二人を見た。

 

「まさか、絵里の好みがあんなヤクザ顔だったなんて…。

人は見かけによらないわね。」

 

 此方も本人を前にしてかなり失礼な事を言ってのける。

 

「にこ、花陽、貴女達勘違いしてるわよ!」

 

 絵里が強めに二人を威嚇するが、海未とことりが画像を見、二人は反対にときめいた瞳を絵里に向けた。

 

「絵里ちゃん、とても可愛いよ~♪」

「はい、もう“Beauty & Beast”を彷彿させます♪」

 

 絵里は顔を真っ赤にし、何か言い返そうと頭を巡らせるが、気恥ずかしさが先に際だってしまい寒さすら感じない程に全身が火照ってしまっていた。

 すると、隣の石田小鳥は平静な顔をして顎を撫でながらこう言った。

 

「美女と野獣か~、なら追っかけられた俺の方が“美女”って事か。」

 

 まるで話の流れを汲まないボケ発言に九人全員が声を張り上げて突っ込んだ。

 

『んな訳あるかあああああああああっ!!!!!!!!!』

 

 絶妙に揃った突っ込みを貰った小鳥は余りに揃った九人が面白くてその怖面を歪ませて大笑いをし出した。その楽しげに笑う声に穂乃果達は改めて彼が何の害もない…、普通の人なのだと確信を持った。そして笑う彼に続いて絵里も笑い始め、穂乃果達も二人に合わせて笑い声を束ねた。

 この寒い夜空の下で、野獣一人と美女九人の笑い声は陸橋を走る電車の音に負けずに響き渡り…通りすがる人達の目を引いていた。

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