あの捕物騒動から日は過ぎて、石田小鳥と音乃木坂学院アイドル研究部…μ'sは時折顔を合わせてはひと騒ぎをして急接近と言って良い程に友達付き合いの様な間柄を続けていた。特に絢瀬絵里はあの横断歩道でよく出会してよく家路を共にしたりと、他のメンバーより出会う回数も多く、その度に絵里は不思議な彼の魅力の様なものに惹かれていた。…そしてそれは石田小鳥もまた同じで夢は見ないと決めてはいたが、年下とはいえ絢瀬絵里の大人びた美形は充分に小鳥を魅了してしまっていた。
因みに未だに南ことりは彼の下の名前を知らず、そして小鳥はスクールアイドルそのものを知らずにいた。
そんなある日、仕事中の小鳥に埼玉の古巣であるガソリンスタンドの同僚のトオルから連絡が入った。
「ようトオル、元気かよ?」
《元気かよ、じゃないっすよ兄貴。携帯も出ないしメールも返って来ないし、野口君と一緒に心配しましたよ。》
「わりいわりい、特に何かあった訳じゃねえがスッカリ忘れていたぜ。」
携帯越しに大口を開けて笑う小鳥。その向こうで小鳥を兄貴と呼ぶトオルは隣にいる野口と一緒に溜め息を吐く。
「それで今日はどうしたんだ?」
小鳥の方から要件を尋ねるが、トオルは不満そうな声を携帯に洩らす。
《やっぱメールも読んでないんすね、兄貴…。
実は今度の日曜日に俺と野口君で妹連れて“アキバ”に行く予定なんすよ、野口君も買い物あるっつうし何より妹が“スクールアイドル”っつうのにハマってるからソッチ系の店に連れてってやりたいんで兄貴にアキバの案内とかお願いしたいんす。》
小鳥は暫し沈黙する。確かに秋葉原は歩いて行ける距離ではあったが、人を案内出来る程詳しくなどないし、知っている店と云えば御食事処、ファミレス、専門店(デカ盛り限定)くらいしか教えてやれない。秋葉原がメインとしているのは家電やアニメ・ゲームグッズで外国人の観光客も多い。しかし小鳥にとっては家電は金がないので縁は無く、アニメ・ゲームは興味がないので問題外、観光客など彼にとっては只の外人でしかない。…と云うか英語が出来ないので関わりたくはない。
しかし、仕事場の立場としては先輩だが年齢は自分より下で兄貴と慕ってくれているトオルが妹の為に自分を頼って来てくれている。小鳥はその妹想いに応えてやりたかった。
「分かった、今度の日曜日だな。
丁度“JK”に知り合いが出来た所だからその日に案内を頼んでみるぜ、じゃあな。」
《ジッ、ちょっ、ジェイ、ジェイっケーって言った!?兄貴じょしこう…っ》
携帯の向こうでトオルが何やら叫んでいたが、小鳥はお互いに仕事中と判断して電話を切った。
「今度の日曜日か…、何とかなるだろうか?」
彼が言う所のJKとは言わずもがな絢瀬絵里の事なのだが、先日の帰り道で確か彼女は来年受験である妹の気晴らしに一緒にショッピングへ出掛ける様な事を言っていた気がした。
「…駄目元で頼んでみるか…。」
その夜、小鳥は絢瀬絵里に電話をかけ今度の日曜日の予定を知った上でアキバの案内を一緒にやってくれないか…と頼んでみた。
「本当にすみません。その日は亜里沙と前から約束をしていましたから…。」
《…だよな…。
仕方ない、和菓子屋の娘にでも頼んでみんよ、ありがとな。》
「あっ…、はい…。」
其処で電話は切れ、絵里はボ~とスマホを見つめる。…そして今の会話で腑に落ちない点があり、眉間を寄せた。
「何よ、和菓子屋の娘って穂乃果の事じゃない…。」
絵里の気持ちがモヤリと陰ったその時に横から亜里沙が声をかけた。
「お姉ちゃん、石田さんのお誘い断っちゃうの?」
「えっ、亜里沙、何時から其処に居たのよ!?」
絵里の妹である亜里沙は体を寄せて姉のスマホの画面を覗き見ると、画面にはあの日凛が悪戯に撮ったベンチに座った二人の写真が待ち受け画面となっていた。
「ハラショー、これお姉ちゃんと石田さんだ!
何時の間に撮ったの!?」
「そんな事はいいのよ、それに石田さんの誘いって言ってもデートじゃないし断っても問題ないわ。」
「デートなら良かったの?」
其処で絵里は顔を赤らめて自分が墓穴を掘った事に気付く。
「例えデートであっても妹との約束が優先!」
「じゃあ、穂乃果さんにヤキモチ焼いたのはどうして?」
コレには絵里もギクリと体を強ばらせて唇をキュッと結んでしまう。実は亜里沙も先日の帰り道に石田小鳥と知り合いとなったのだが、今までのパターンとは異なり、亜里沙は小鳥を見るや“フランケンシュタインさんだ、ハラショー!!”と言って小鳥にタックルハグをかましていた。彼からすれば年下に初見で懐かれたのは生まれて初めてだそうだ。そして姉の事となると本人より理解しているかの様に鋭い妹で去年…μ'sと対立していた時期に彼女に“何をしたいのか”と問い掛け、それがμ'sへ入る切っ掛けの一つとなったのである。
そして今も読心術でも使っているかの如く姉の気持ちを読み取り突いて来る亜里沙に絵里はタジタジになっていた。
「別に…、穂乃果にヤキモチを焼いた訳じゃないわ。
…でも、断られたからって…、直ぐに他の女の子を誘うなんて言い出すのはいくら何でもデリカシーがないと思わない?」
亜里沙は少し考え、姉の意見に同意する。
「それはあるかも、ならその事も踏まえて石田さんにもう一度電話をしよう♪」
どうやら亜里沙は石田小鳥とも一緒にショッピングに行きたい様であった。
「亜里沙、石田さんは私達とは違って大人…、そして男性、女の私達の買い物なんて興味を持たないわ。」
「えっ、男の人が女性の買い物に付き合うのは荷物持ちがメインだって彼氏持ちのクラスメイトに聞いたよ?」
「・・・・そうなの?」
今の中学生は進んでいるのね…なんて事を思ってしまう絵里だったが、結局亜里沙に説得され、小鳥に電話をしてショッピングに付き合うのを条件に今度の日曜日に彼の同僚達を案内する役目を請け負ったのであった。
次回は秋葉原珍道中…かな?
ちょっとラブ入るかも…。