スタンドの村   作:野々村あこう

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指輪

一日が、ただいたずらに浪費された。

先日の事件から20時間が経過した昼の12時。茶屋から青葉が美鈴の下に帰ってきてから19時間後の、昼の12時。

 

赤のグループはこれからどうするべきか考えあぐねていた。

いたずらに、ただ一方的に、時間だけが消耗していく。

 

荒川美鈴はその手に握られた手紙に目を落とした。

 

『捕虜は預かった。明日、午後8時、広場にて待つ』

 

手紙というより葉書。葉書というよりはメモの切れ端と言った方が正しいだろうか。

その場で手短に書き落としたメッセージと言ったところだろうか。字もバランスが悪く、お世辞にも綺麗とは呼べない。芸術性に富んだ字ということにしておこう。

その手紙には、ただ率直にそう書かれていた。

 

一方的な要望と、戦力の枯渇。赤の王は無意識のうちにその紙切れを握りつぶした。

 

青葉の話から推測すれば、覇理と呼ばれた少年が催眠ガスを発生させるスタンドを所持していることは安易に想像できる。

指輪が配布されたその夜、青葉が見たという煙と、広場で眠る青の人々らしきものは、おそらくすべてその覇理という少年の仕業なのだろう。

 

青葉によると、その少年も青の王と一緒に寝ていたということだから、おそらくその日も罠だったのかもしれない。うかつに近寄って指輪を取ろうとしたら今回のようにガスを浴びていたのだろう。

もちろん、覇理が本来は青の敵だったが失敗したとか、スタンドを誤って使ってしまったとか、想像するのは簡単だ。

 

問題なのは、敵の能力や過去の推測ではない。のこり8時間の間に、この村の広場に向かわなくてはならないということだ。

 

それを頭に入れて、美鈴は再び周りを見渡した。

 

元スパイをしていたという青葉悠。身長は高いが、何分肉付きはいい方ではなく、健康色には見えない肌を持っている。青の敵と2度対峙しているが、どちらもまともに戦闘することなく帰ってきていることから、そこまで強くないことは分かる。本人も戦闘は避けたい様子で、メモを持ち帰ってからというもの表情が暗い。

 

もう一人はミシェル。この中で明らかに年齢が低い。幼子と言ってもいい。子供だ。戦闘以前に、何もできそうにない。だが、赤の軍勢の中で最も意思の固い人であることは確かだ。仲間に対して警戒し、行動をしようともしなかった美鈴を突き動かした張本人なのだから。彼女の心と、それが突き動かす行動力はずば抜けているだろう。

 

そしてその二人を見て、さらわれた神霊を思って、ただ悶々としているのは、赤の王にして情報工作員、デスクワークを主にしてきた荒川美鈴。使えるスタンドは拳銃型で、殺傷力もかなり低く、何より使用者が命中率の悪いことこの上ない。

 

思わず美鈴は溜息をついていた。

 

「こんなチームじゃ勝てないわよ。敵の数も能力も分かってないんですもの」

 

だれもそれに言葉を返さない。みんなが思っていることをただ口にしただけなのだ。

こんな状況では、負ける。

 

「私が見た敵の対策だけでも考えましょうか」

 

そう口を開いたのは青葉だった。

彼はそのまま立ち上がって、敵の能力をもう一度説明しなおした。

 

「まず、一番厄介となりそうな人物ですが、覇理と呼ばれた少年です。ですが、彼の戦闘スタイルを見る限り、スタンドをうまく使いこなせていないように感じました。私が彼の首元にワイヤーを突きつけて、ようやくガスを噴出した様子から、おそらく彼は命に危険が迫らない限り能力を発揮できないのではないかと思われます」

 

あくまで推測に過ぎないと、彼は付け加えてから断言した。

 

「この理由から、覇理少年は無視します」

 

ミシェルが反論しようと口を開くも、美鈴の手がそれを制した。

 

「次に、影山と呼ばれていた少年、彼が恐らく戦闘員でしょう。が」

 

一瞬だけ顔を曇らせ、言葉を選んでから続ける。

 

「彼は裏切る可能性が高いので、それも無視します」

 

今度はミシェルだけでなく、美鈴までもが反論しようとした。

一体どういう理由で裏切るなどと言い切れるのか、まったく理解できない。

 

「青葉さん、何か知っているなら、話してくれませんか?」

 

しかし青葉はそれには答えない。

 

「次に、広場で寝ていたのはあと二人ですが、そのうちどちらかが神霊くんを見張っているはずですので、敵は一人になります」

 

「青葉さん、その理屈が理解できません」

 

「では荒川さん、あなたは影山少年を操ってください。ミシェルさんは荒川さんに付いてくれれば結構です。荒川さんが影山少年を操ることに成功すれば、戦力は恐らくこちらにつくでしょう」

 

青葉が強引にそう言い切ってしまったので、少女二人は口を噤まざるをえなかった。そんな二人を見て、青葉は申し訳なさそうに呟いた。

 

「指輪が二つではないということですよ」

 

 

 

そのころ、青谷は西園寺の家にいた。普段は茶屋で寝泊まりしている彼女だが、この日は一大事ということもあってか、珍しく家に帰っていた。

 

「西園寺さん、助けていただきありがとうございます」

 

青谷芳樹が頭を下げたので、それに倣って了もお辞儀をする。

 

家は茶屋の裏と似たような作りになっているが、それより少し小さいアパートだった。全てが畳でできた部屋で、キッチンが無い。質素な部屋だった。

 

覇理了のスタンド、ディープパープルが催眠ガスを発生させたのを合図に、全員が酸素マスクを口に当て、裏口へ走った。ちなみに赤の王へ手紙を残したのは影山蛭谷で、彼はガスを見ると慌てて呼吸を確保し、空いた左手、つまり聞き手の反対側でメモを残したのだ。

 

それからは、影山と西園寺が計画していたらしく、スムーズに脱走した。モクモクと上がるガスを抜け、裏路地から向かいの一軒家のベランダに侵入し、そのまま敷地を突っ切る形で駐車場へ向かった。それからは西園寺の車に全員を乗せ、急ぎ足で10分ほどかけて今のアパートへとたどり着いたのだ。

 

捕虜の神霊は、西園寺の指示で、青谷のスタンドが運んだ。今は逢坂紬のスタンドで縛ってある状況だ。

 

「それにしても西園寺さん、どうして僕たちのことを?」

 

青谷はいろいろと聞きたいことがあった。

スタンドを知っていることや、青谷らを逃がしてくれたこと、指輪について知っているのかなど。

そんな質問に、西園寺は笑ってポケットから一つの指輪を取り出した。緑色の、透き通るようなエメラルド。

 

「わっちも、指輪持ちなんですよ」

 

混乱する青谷に、影山がかぶせるように説明を入れる。

 

「前の会議に参加した8名とは別に、それの数時間前に別の8名が呼ばれてたんですよ」

 

つまりはどういうことだ、指輪は二つじゃなかったということなのだろうか。

 

「僕や青谷さんが参加した会議では、確かに赤と青の指輪が配られました。でも、その前に西園寺さんや他の組織員が呼ばれてて、白の王と緑の王が決められてたんですよ。僕が何気なく西園寺さんに指輪の話をして発覚したんですが、敵は赤だけじゃない。もしかしたら指輪はもっとあるのかもしれないんです」

 

覇理了や逢坂はすでにその話を聞いていたらしく、黙っていたが、青谷は混乱を隠せなかった。だいたい、会議の後で西園寺に話したと言うが、会議が終わったのは夜だ。茶屋は閉まっている。メアドとか持っているんだろうか。

今は全く関係ないことを気にしながら青谷は西園寺の顔を見つめる。

 

「じゃあ、西園寺さんも敵ってことですか?」

 

「わっちは戦いとうないんですよ。だから、攻撃的だっていう赤のチームを動けなくさせるのが、今回の目的です」

 

この日になって、青谷は初めて彼女の笑顔に対して恐怖を覚えた。

 




西園寺麗華(サイオンジレイカ)
18歳 170㎝
村で喫茶店(明治カフェ)を営む二代目店長
清楚な風格があるが実は裏では色々怖いらしい
つけなどは基本大丈夫で常連さんなどにはもちろんご新規様にも優しい
天性の姉御肌で、彼女の尻に敷かれる男も少なくはない。
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