「来ますかね?」
青谷は、所定の位置、つまり赤の王らを呼び出した広場の中央で、腕時計を確認した。つられて了も自身の時計に目をやる。
すでに時刻は午後8時を回っていた。約束の時間だ。
「まぁ、くるでしょう」
西園寺はどこか上の空で答える。緊張というよりは、むしろリラックスしているようにさえ感じるその横顔に、思わず了は声をかけた。
「西園寺さんって、戦闘とか慣れているんですか?」
「いいえ。わっちも組織に入っていますけど、仕事という仕事はしたことありませんよ。わっちから本部に願い出て、村の中を平和にしたいって言いましたから、やることと言えば、茶屋で悩みを聞いたり、休日町中のゴミ拾いをしたり、その程度です」
「へ、へぇ。そうだったんですか。俺、ある日突然観光客みたいな男と変な爺さんに襲われて、気が付いたらこうなってたんで。き、緊張しちゃって。あはは」
作り笑いが下手だなぁと、了は自分で反省する。広場の空気は戦闘前だというのにすごく穏やかなのだ。それを、初心者の自分が邪魔しているように感じて不甲斐なかった。
「観光客と老人……気になる話ですね。一体誰でしょう。もしかしたらこの件にかかわっているかもしれませんね」
しかし西園寺は、了の話を真剣に聞いてくれていた。その話し方は、どこか優しみが籠っており、気が付けば了は関係ない話まで持ち出すのだった。
「はい。そのおかげで学校では浮いちゃって。俺のスタンド、ディープパープルっていうんですけど、そいつが授業中黒板で変な鳴き声上げたりするもんだから、本当に邪魔なんですよね。噂ではかなり凶暴な生徒会もあるみたいですし、あまり浮きたくないんですが」
西園寺は了の話を心底楽しそうに聞いてくれた。時々真剣な表情を浮かべたり、笑って欲しいタイミングで微笑んでくれたりと。彼女なりに和ませてくれているのだと、了は感じ取りながら、そしてまた家族の話を持ち出すのだった。
広場には今、青の王である
「影山、人の気配は本当にないのか?」
逢坂は、いまだ眠ったままの神霊を見張りながらそう問いかけた。彼女のスタンド『チェインガール』は、物と物とをまるで同一化させるかの如く『繋ぐ』ことができる。そのため神霊が起きても身動きは取れないだろう。しかし、彼の扱うスタンドを直接見たわけではない彼女は、若干焦りが見えていた。いつ起きるのかわからないという恐怖である。
「紬姉さん、一応僕のスタンド『フリーズアンサンブル』は音に敏感なんだよ。こいつのヘッドフォンは周囲の音を聞き分けることができる。もし誰かが近づこうものなら、すぐに見つけられるさ」
心拍数の上昇が見て取れる逢坂を、影山は落ち着かせようとゆっくり話した。安心しろと、太鼓判を押して。
そんな二人を目にして、了は再び無力感を味わうのだった。
「ねえ、了くん、君は『どうしてこんなことに巻き込まれたんだろう』と思わないのですか?辛くて怖くて逃げだしたいと、思わないのですか?」
そんな彼を目にして、ふと思いついたように西園寺が訊ねてみた。その言葉を聞いて、了は一瞬ハッとする。
確かに、なんでこんな事態に巻き込まれたのか理解しがたい点がおおい。ただ彼は好奇心に負けて、物珍しい観光客の後をつけただけなのだ。そして偶然老人とのヤバそうな取引を目にして、矢で射られた。そう考えると理不尽極まりない状況なのだ。
ではなぜ、覇理了はその理不尽な状況を受け入れ、なされるがままギャング内抗争の一端を担っているのだろうか。
そんなことを考えながら、彼は今朝の出来事を思い出していた。
今朝、目が覚めたのは西園寺の家の中だった。慌てて周りを見渡せば、つい先ほど仲間になると宣言した青谷と逢坂が眠っていた。
それから何が起こったのかを瞬時に理解した。自己紹介後、ディープパープルが催眠ガスを放出したこと、そして物珍しそうに二人が顔を近づけ、胸いっぱいにそれを吸い込んだこと。
何のガスか知っていた了は、慌てて口を押え、微量のガスしか摂取しなかったためすぐに目が覚めたものの、二人が目覚めるにはまだ時間がかかりそうだった。
了が目覚めたことを知ると、影山の質問攻めが始まった。どうもガラの悪い服を着ているものだから、つい縮こまって洗いざらい吐き出してしまったのだ。もし彼が青の敵だったりしたら、了は明らかに戦犯者だろう。
ところが影山はしばらく考えてから了にお願い事をした。
彼の話はこうだった。
赤の王のところに戦友がいるはず、自分の名前を告げたことで、きっと敵は茶屋を狙いに来るはず。だから自分を囮に、了のスタンドで敵を眠らせ、捕虜にしたい。
単純な話だった。そして彼は頭を下げて言うのだ。
「たのむ、君しか今は頼れない」
そう言われてしまえば、断ることができなかった。
指輪が4つある話もされていたので、影山の敵は来ないのかもしれないと聞いたが、それはすぐに否定された。
「あいつは、神霊煉は、赤の王が掲げるような妄信的戦闘を好む奴だ。もしかしたら赤の王は神霊かもしれないってほどにしっくり来たんだ」
ということだった。
西園寺は回想に浸る了の肩をそっと叩いた。
「嫌になったら、逃げてもいいからね?」
それはすごく優しい響きで、とても安心できるものだった。どうして自分たちも不安なのに、こんなに優しくしてくれるのか。了には理解できなかった。ただ嬉しさと申し訳なさに溺れてゆくだけだった。
そういう感情が高ぶっていたのだろう。了は涙のあふれそうな瞳でしっかりと西園寺を見つめ、首を大きく横に振った。
「俺は、青の王を守りたいんだ。戦いのない世界を心から望むから」
それを聞き、安心したのだろうか。西園寺はただ笑顔で頷いた。
青の王と緑の王は掲げるものが等しかったらしい。平和。非戦。争わず、そして自由に。だからこの二つはもはや一つのグループとなっていた。了はそんな彼らについていくことを決めていた。
その意思を変えるつもりは全くない。
「敵が来ます!一人です!」
影山蛭谷の叫び声で、了は我に返った。慌てて立ち上がりあたりを見渡す。
周囲は暗い。暗闇のままだ。人影は見えない。広場の周りには巨大なライトがいくつも建っており、広場中央、つまり青と緑のチームを照らしていた。そこだけが明るくて、それ以外ま真っ暗だ。
敵の数が一人だと明言した理由は分からないが、数では圧倒的に有利だった。
青谷芳樹、西園寺麗華、影山蛭谷の3人が戦闘、覇理了は催眠ガスを出すことだけ考え、逢坂紬は捕虜を見張る。圧倒的に有利だ。
「敵が一人とは、王様のお出ましか、それともよほど自信のある人間の登場か」
逢坂はそう笑いながら周囲に鎖を伸ばしていく。手筈では、影山が索敵をし、逢坂は音をひそめて近づいた可能性を考慮して触覚を頼りに警戒することになっている。例え無音で近づいても、鎖を踏めば即バレて地面に固定されるトラップだ。
了が唾液を飲み込んで目を見張る。遠くで何かが光ったように感じた。
敵の攻撃だとすぐに気づき、青谷がスタンドの名前を叫ぶ。
戦闘の、始まりだった。
【フリーズアンサンブル】
影山蛭谷のスタンド。
破壊B。精密D。持続D。スピC。射程E。成長A
両手に音符を巻き、ヘッドフォンをつけたスタンド。
その姿は金管楽器を思わせる黄金で、スラリと伸びた手足を有する。
呼吸により両手に楽譜を溜め、殴ったり演奏することでその楽譜を消費する。
楽譜を消費して殴ることで、その対象にのみ音を伝わらすことができる。
また、両腕を突き出し演奏することで、楽譜から音響波を発生させ攻撃する。
ヘッドフォンは音に敏感で、周囲の音を聞き分けることができ、本体の脳内にイメージとして音の場所が表示される。