スタンドの村   作:野々村あこう

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戦闘

「弾き返せ!ブラックランス!」

 

青谷芳樹(アオタニヨシキ)の叫び声が、ライトに照らされた広場いっぱいに響き渡る。それに応えるように、低く重々しい雄叫びをあげて真っ黒い鎧に身を包んだスタンドが現れた。

青谷芳樹のスタンド、ブラックランスである。その名の通り、彼のスタンドは漆黒の鎧で身を包み、分厚い盾と、重量感溢れる槍を携えて、出現した。

 

「西園寺さん、下がっててください!」

 

青谷は想いを寄せる相手の安全に注意を払いつつ、暗闇から飛んできたものを巨大な槍で弾き返した。

西園寺麗華(サイオンジレイカ)は言われたとおりに彼から離れ、青のチームで最も非力な覇理了(ハリリョウ)をかばうように傍に立つ。

 

了は瞬時に変わったその場の空気に圧倒されていた。敵襲が来るまでの間、十分なまでにリラックスしていたこともあり、別段取り乱すことは無かったのだが。それでも彼は唐突に起こった戦闘に混乱せずにはいられなかった。

 

「ディ、ディ、ディープパープルっ!」

 

しゃっくりをするように、彼は必死に自分のスタンドを呼び出そうとする。しかし何も起こらなかった。何度も彼を悩ませてきた自分勝手なスタンドは、そのおどろおどろしい紫色の体を見せることなく、乾いた少年の声が二度三度と発せられるだけであった。

 

「こんな時に限って出てこないのかよ!」

 

危うく取り乱しかけた了を、そっと西園寺がなだめる。耳元で大丈夫と囁きながら、青の王を指さした。

 

「ほら、大丈夫でしょう?」

 

西園寺の声はやはり優しく耳に響く。その声と、目の前に立つ青の王青谷を見て、了はようやく焦りが消えたのを感じた。

そこには堂々と立ちはだかる英雄がいたのだ。

 

「初めまして。僕の名前は青谷芳樹。青の宝石を持つものだ」

 

青谷は姿を現した男にそう名乗った。

男はというと、まるで蜘蛛かミノムシのように体からワイヤーを出してライトにぶら下がっている。

 

「ふむ、先に名乗られては仕方がありませんね。青の王は礼儀がいい。いいでしょう。私の名前は青葉悠(アオバユウ)といいます。以後お見知りおきを」

 

その男は、冷静にそう返した。戦闘に慣れているのだろう。体全身から余裕だと言いたげな雰囲気を出しているのだ。

 

「私もあまり戦闘は好みませんよ。青の王。ですので提案させてください。私は誰も傷つけません。その代り、指輪を渡していただけないでしょうか」

 

「もちろん断りますよ」

 

「そうですか。それは残念です」

 

青葉は心から残念そうに首を振り、青谷にワイヤーを飛ばした。一瞬光ったかと思えば何もなかった空間にワイヤーが生まれ、意思を持ったかのように襲い掛かるのだ。

了の近くで逢坂紬(オウサカツムギ)が舌打ちする。なにせワイヤーがすべて彼女へ飛んできたからだ。しかし彼女に命中する前に、すべてのワイヤーが淡い金属音を放って地に落ちた。

 

「ほう、なかなかいい槍裁きですね」

 

青谷のブラックランスが、目にも止まらぬ早業で撃ち落としたのだった。それを見て青葉はひっそりと笑う。気味の悪い男だった。

逢坂紬は神霊錬(シンレイレン)を拘束し、かつ周囲に隠れているかもしれない敵を鎖の触手によって探している。ほぼ現時点では戦力外で、覇理了もまた同じく戦闘には不向きであった。が、それを差し引いても青葉悠と名乗った男は青谷芳樹のブラックランス、影山蛭谷(カゲヤマヒルタニ)のフリーズアンサンブルという戦闘型スタンドを同時に相手しているのだ。そうだというのに、彼は笑っているのだ。サーカスのピエロのように、空中ブランコをしながら。

捕虜である神霊煉は、未だに目覚める様子を見せない。周囲では怒鳴り声や金属音が木霊して、安眠できる環境などどこにもないハズなのだが、少年は寝たきりのまま動こうとはしなかった。

本当に眠っているのか、それとも自分の不利を察して寝たふりを続けているのか。どちらにせよ彼が抵抗しないのは、かなりありがたい状況であった。

 

「フリーズアンサンブル!撃ち込め!」

 

影山の叫び声に反応し、金管楽器を思わせるスタンドが音響波を発生させ、青葉悠を空中から叩き落そうとする。

しかし、彼はその波に身を任せて一度遠くに移動し、それから大きく迂回する形でワイヤーをうまく駆使しながら回り込んでくる。地上に降りてこないために、青谷は手を出せないでいた。

 

「その程度ですか、青の王。その程度の戦力と、その程度の作戦で、一体これからどうやってこの村を治めようというのですか。私は残念ですよ」

 

「そうは言いますけど青葉さん。あなただって手を出せずにいるのは確かでしょう。完全な防御力を持つブラックランスと、遠距離攻撃を得意とするフリーズアンサンブル。この二つを相手にして、一体どうやって僕の指輪を奪うというのですか?持久戦なら負けませんよ?こちらには西園寺さんも逢坂さんも、覇理くんだっているんですから」

 

青谷も負けじと言い返す。できるだけ余裕を見せるために笑って見せた。彼の行動は程いいプロパガンダにもなり、了は英雄に名前を呼ばれたことに幸福感を覚え、自然と笑顔を作っていた。

 

「それに、遠距離でしたらわっちも得意ですよ!」

 

了の顔に安堵が広がったのを確認して、西園寺は安心したのかスタンドを召喚する。ラブ・ファントムと名付けられた花の妖精を思わせるスタンドだ。スラリとした女性のような美しい容姿を持ち、優しさのオーラを漂わせてそこに立っている。戦場に咲いた一輪の花とは、まさにこのことを言うのかもしれない。

そんなラブ・ファントムは、宙を踊りワイヤーを休むことなく打ち出し続ける青葉に向かって、棘だらけの鞭を伸ばした。同時に遠くで発砲音のようなものまで聞こえ、青葉の体制は大きく崩れた。

 

「なに!?」

 

不意を突かれた青葉は、それをかわそうと身をひねった。体をひねった体制のまま、無理をして影山にワイヤーを撃ち込む。それを見計らったかのように影山が音響波を放った。圧縮された音楽は飛んできたワイヤーを空中に制止させる。それでも青葉はあきらめる様子を見せず、さらにワイヤーを追加する。音響波の中でワイヤーが弾け合い、遠く離れた逢坂の足元に飛ばされた。攻撃に失敗し体制を崩した彼は、そのまま地表に落とされた。

 

もちろん、青谷がその瞬間を逃すはずがなかった。

 

「行け!ブラックランス!」

 

青谷の声が響き、西洋甲冑がその身に似つかわしくない俊敏な動きで前進する。

 

「貫けぇ!」

 

土煙をあげる落下地点に、青谷は漆黒の槍を突き出した。何度も何度も、相手を蜂の巣にせんと突き続ける。了はその雄姿を見て、勝ったと思った。

 

「青谷さん!」

 

興奮と歓喜が籠った了の声が、思わず口から漏れ出した。しかしそれでも、青谷は振り向こうとはしなかった。表情を暗くし、槍を突き出したままの体制で固まっている。

 

「青谷さん?」

 

了は勝利を確信していた。西園寺がバランスを崩させ、影山が突き落とし、青谷が止めを刺した。はずだった。だからこそ目の前の景色が理解できなかった。

 

「おやおや、勝ったと思いましたか?それは残念」

 

そこには青葉が立っていた。分厚いゲルに守られる形で。

 

「ですが、あなた方は大事なことを忘れてしまっていましたね。そうです。捕虜から離れすぎました。熱くなることはいいことですが、周囲をしっかり見ることは忘れてはいけませんよ?」

 

慌てて捕虜がいたはずの場所に目をやると、そこには二人の少女が立っていた。いや、浮いていた。羽の生えたハムスターのような生き物が、少女二人を地表擦れ擦れに持ち上げていた。

そして肝心な逢坂紬と捕虜である神霊煉は、まるで手を組んだかのように青谷を睨みつけていた。

 

「次はこちらのターンですね」

 

青葉の声が、了の背筋を凍りつかせた。

 




青谷芳樹(アオタニヨシキ)のスタンド

【ブラックランス】
破壊C。スピA。射程D。持続C。精密A。成長D
銃弾でも落とす超スピードと精密性を持ち合わせたスタンド。
その姿は無を思わせるほどの漆黒の鎧をまとった重騎士。
巨大で重量感溢れる槍と、分厚く頑丈な盾を有する、超防御型スタンドである。
槍を突き出す速度はあまりにも早く、全てを防ぐことは到底不可能。
弾丸を全て弾きながらにじり寄り、目にも止まらぬ槍裁きで敵を切り裂く。
力はそこまで強くはないが、その速度とテクニック、そして重々しい武器を装備したこのスタンドは早々負けることは無い。
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