「ブシャァアァァァァアァァアァァアアアアアアッッッツ!」
それは唐突に表れた。先ほどまで|神霊煉≪シンレイレン≫のスタンドであるキラーテンパランスが、青の残兵にとどめを刺そうと襲い掛かった瞬間であった。
覇理了がちょうど死を直感的に悟った瞬間だった。
見慣れた紫色のスタンドが体から沸き立つのが見えた。ディープパープル、何度呼び出しても現れようとしなかったその問題児は、本体の命を救うべく、いまさらながら出現したのだ。
「ディ、ディープパープル!」
了に襲い掛かろうとした橙色のゼリー状を蹴り飛ばし、それを操る少年の前でファイティングポーズをとってみせる。
了は半ば腹を立てながらも、それ以上に溢れ出す安堵感に、自然と頬を緩ませた。
「神霊さん、紫色のスタンドはお願いします!私はこっちを!」
逢坂紬を連れた少女二人組は、ゼリー使いの神霊煉にそう叫んでから、西園寺麗華と向かい合うようにして戦闘を始める、それを見た青葉悠は、青谷芳樹のとどめを刺そうとワイヤーを伸ばした。
「させるか!」
慌てて飛び出したのは影山蛭谷。彼は鎖に縛られ地面に繋がれた青谷を救うべく、フリーズアンサンブルと名付けられた黄金色のスタンドを繰り出した。青葉悠は来ると分かっていたのだろう、少し頬を上げて、微笑みながらワイヤーを打ち出した。
「あれれ~、みんなもう戦っちゃったよ。んじゃ、君は俺とやろうか?茶屋みたいに、いきなり眠らされるようなヘマはもうしないと思ってくれよ?」
了の前に立ちはだかる少年は、ゲルに体重を預けながらニヤリと顔を歪ませる。漫画とかでよく見る戦闘狂なのだろう。了とは正反対の人種だ。
それでも。と了は思う。それでも、今は戦わなくてはならい。逢坂紬が敵についた今、戦ってくれるのは西園寺さんと影山さんの2人しか居ないんだ。青の王、青谷芳樹を守り切らなくてはいけないのだ。そう思うと勇気がわいてくるのを感じた。
あの青谷芳樹のように、彼のように、自分の力と自分の仲間を信じて戦えるのなら、きっかけは巻き込まれただけの被害者だとしても、彼らとともに戦いたい。
「青谷さん、西園寺さん、影山さん。ここは任せてください!ディープパープル、奴を殴り抜けろ!」
第二ラウンドの始まりだった。
了のスタンドであるディープパープルはその日ばかりは珍しく言うことを聞く気にしたらしい。素直にこぶしを握り締め、その大きな体を俊敏に動かし拳を叩きつけた。
「危ねぇなぁ、だが手加減しなくてもいいって事だな、そいつはありがたい。」
しかし、スタンドが言うことを聞いたからといって簡単に勝てるわけでもない。了の打ち出したスタンドの拳は、黒っぽい橙ゼリー状のスタンドに受け止められている。ゼリー状スタンドは、どこが腕でどこが足なのか全く見分けがつかない。しかし了の打ち出した拳は、しっかりと受け止められ、固くつかまれている。
「食らいつけ、キラーテンパランス!」
その直後、了の右手の拳に激痛が走った。キラーテンパランスに掴まれている部位が溶けるように煙を上げ、ディープパープルの傷に合わせて了の拳も血を噴出した。
慌てて手を引こうとしたが、ディープパープルの拳はキラーテンパランスに捉えられて離れない。どうやらスタンドが傷つくと本体である了も傷ついてしまうらしいことを、彼はこの時初めて知った。
「了君!早く拳を引いて!」
逢坂紬と赤の少女二人を相手に、苦戦を強いられている西園寺麗華が叫んだ。
見れば彼女は茨の鞭を必死に振り回し、襲い掛かってくる弾丸や鎖を弾いている最中だった。
「わ、分かりました!ディープパープル!引き抜けぇ!」
西園寺さんに迷惑は掛けられない。一人で解決しなくてはならない。しかし了のスタンドがどんなに拳を引っ張っても、キラーテンパランスは放してくれそうになかった。
「あはははははは。そのまま今日の夕食にしてやるぜ」
舌なめずりをしてケタケタと笑う神霊煉。次第に痛みを増していく右腕。そこでふと気が付いた。左手がまだ使えることに。
「ウォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!」
マジックハンドで落ちた画鋲を拾うように、スタンドの操作は困難を極めた。それでもディープパープルは彼の意図を汲み取ってくれたのだろう。了の叫び声に合わせるように、スタンドの左腕が風を切りゲルの塊を強打した。
その勢いでキラーテンパランスは引き剥がされ、宙を舞う。同時に神霊が頬を殴られたように尻餅をつき、キッと睨んできた。
「ど、どうだ!一矢報いてやったぜ!」
威嚇をやめない相手を挑発して見せた瞬間だった。背後から西園寺の悲鳴が響いてきたのだ。
慌てて振り返ると、西園寺の体は鎖に縛られ、地面に突っ伏されている状況だった。そのまま彼女のこめかみに、桃色のデコレーションが施された銃が押し付けられる。相手は青の王の正体が青谷だと知っているが、まさか西園寺が緑の王とは思っていないだろう。指輪が二つじゃないということも知らないかもしれない。
指輪が奪われる心配はないが、その代わり殺される可能性が浮上してきた。早く助けなくては。そう思い動こうとした瞬間、首元を強く絞められる感覚に襲われた。
「逃がさねえぜ。少年」
神霊煉のスタンド、キラーテンパランスがディープパープルの首あたりに飛びついていた。背後からきつく締め上げられているような苦しさに、了は悶えるしかなかった。西園寺麗華のうめき声がすぐここまで聞こえてくる。
西園寺さんどころか、了までもがやられてしまいそうだった。諦めかけていた。その時、爆音と共に影山蛭谷が飛び出した。
「西園寺さん!捕まって!」
彼はスタンドの爆音波に乗って西園寺のもとへ駆けつけたのだ。土ぼこりを巻き上げる突風に身を預け、彼は銃を構える少女に体当たりを決めた。彼のスタンド、フリーズアンサンブルも、射程距離の関係で空を飛ぶようについてくる。
西園寺の体に巻き付いた鎖を、フリーズアンサンブルが破壊し、影山は彼女の腕を引いてその場を離れた。
「西園寺さん、指輪を!」
逢坂紬は、逃がさまいと鎖を打ち込んでくる。それに触れないように気を使いながらフリーズアンサンブルは発生音で弾き返した。少女二人が悔しそうに顔を見合わせ、しつこく弾丸を撃ち込んでくる中、影山は西園寺の安否を確認し、指輪を受け取った。
「西園寺さん、指輪を守り切りますよ」
「え、ええ。もちろん」
影山は西園寺から受け取った指輪をしっかり握りしめてから、再び逢坂を含めた三人と対峙する。そこへ青葉悠が合流した。
「さて、俺らは続きをやろうぜ」
首を絞められた了は、必死にもがいたまま動けない。その状態のまま、神霊煉の言葉を合図に食事が始まった。
了の首に激痛が走り、喉元の皮が溶け始める。痛みに耐えきれず大声で叫び、痛みに体を動かし地面に体を何度も叩きつける。
喉元を掻きむしっても空を掴むばかりで、苦しさばかりがとめどなく襲ってくる。背後で神霊錬の笑い声が木霊し、頭の中で反射し頭痛を引き起こした。
助けは求められない。西園寺と影山は、逢坂や青葉や少女二人を相手に戦っているのだ。このままでは負けてしまう。そこまで考えて、大事なことをみんなが忘れているのに気が付いた。
「青谷さん!」
苦しさを必死にこらえながら青のボスの名を叫ぶ。彼は未だに地面に繋がれているが、その顔はとても落ち込んだものとなっていた。
まさかと青葉を見ると、案の定。了に見せつけるように、青々と輝く宝石のついた指輪を掲げた。西園寺を餌にして、指輪を奪ったということだろう。あの状況だと影山が西園寺を守りに行くしかなかったからだろう。
そこまで計算されていたのなら、青葉悠という男はかなりの強敵だ。
だが、負けるわけにはいかない。勝たなくてはならない。
「ディープパープル!催眠ガスだぁぁぁぁぁぁァァァァァアアアア!」
それは最後の悪あがきにも近かった。首元を食われている紫色の人型スタンドは、ブシャァァァァという蒸気にも似た声をあげて、毒々しい煙を辺り一面に撒き散らした。
「クソッ!このタイミングかよ!」
ディープパープルの全身から噴出した煙から逃げるように、ゼリー状のスタンドが神霊のもとへ戻ってゆく。呼吸が自由になった了は火傷をしたように爛れる喉をそっとなぞり、息を止めた。
「ディープパープル!そのまま全員眠らしてやれ!」
「ブシャァアァァァァアァァアァァアアアアアアッッッツ!」
了の言葉に耳を貸し、ディープパープルが大声で返事をする。
何事かと、青葉や少女二人が振り返るが、もうすでに遅い。周囲は紫色の煙に包まれてしまった。
各々の叫び声が行き交い、了のスタンドを止めるために鎖やゲルが襲い掛かってくる。しかしその声も、即効性の高い睡眠ガスによってかき消されてゆく。
「荒川さん!指輪を預けてください!」
街灯の光ですら煙により遮られ、真っ暗になった広場で、最後に聞こえたのは青葉悠の声だった。それからしばらくして、辺りは静寂に包まれる。
【キラーテンパランス】
神霊錬のスタンド。
破壊E(A)。精密E。持続C。スピA。射程C。成長E
橙色のゲル状でそれが触れたものは破壊され、生物は食べられる。全身が口となっており、たんぱく質を溶かして自分の姿へと置き換える。
スタンド自体の攻撃は弱くゲルは消耗品だが、変装したり攻撃を受け流したりと、用途は多彩。
生物を食べた分だけゲルが増える。
ゲルの中に黒めのゲルが入っており、それがダメージを受けると本体にフィードバックする。