「ひとまず、今回はよくやってくれた。
「うん、青葉さんの言ったとおりにしたら案外あっさりと片付いたよ」
青葉に対し、そう答えた影山蛭谷は、どこか嬉しそうにリズムをとりながら屋上に腰かけた。
「でも青葉さん、よく切り抜けられたね」
「まぁ、超えてきた死線が違いますよ。この村のギャング達とも」
青葉の笑顔につられて、影山蛭谷もふと笑みを浮かべる。
蛭谷は勝利の余韻に浸りながら、ふと抗争が始まる最初の日を思い返していた。
その日、影山蛭谷は行きつけの喫茶店、でお茶をしていた。
彼ははるか昔にこの村のギャングから一度金を借りたことがあり、そのことがきっかけで、住所や名前や電話番号などをすべて公開したうえで下っ端として入団していた。
本来はプロのミュージシャンを目指していた影山蛭谷ではあったが、上京するのにも生活するのにも機材を集めたり維持費を払ったり、個人でCDを出したりライブをしたりと思った以上にお金のかかる夢であった。そうこうしているうちに、自分は向いていないのではないかという焦燥感に襲われ、気づけば夢半ばで諦め、借金だけが残っていた。
それを見計らったかのように絶妙なタイミングでの招集、そして内部抗争の勃発。影山からしてみればこれはチャンスだと思った。
人が争うとき、そこに必ず金のやり取りが生じる。このギャングで借金を返すためにと日々働かされてはいたものの、ようやくすべてを返す目途がつきそうだ。そう思ったのだ。
ギャングに入るよう言われたときは、彼はいたって普通の少年だった。しかし、ある日ギャングの一味だと思われる老人に矢で射られてから、フリーズアンサンブルと名付けたスタンドを呼び出せるようになった。
このスタンドを武器に、交渉を重ねきっと借金を返しギャングから足を洗ってやるのだと、蛭谷はそう決意していたのだ。
その背中を押したのは
「ねえ影山さん、影山さんは何か夢とか、あります?」
影山は答えに悩んだ。ミュージシャンだと胸を張りたいのに、自分にはそんな資格なんてないように思えてしまったのだ。
「いや、僕は……」
だから何も答えられずどもってしまった。そんな影山に、西園寺は笑顔のまま続けた。
「わっちも夢があったんですよ。今となっては恥ずかしくて人に話せないような夢が。まぁ、子供なんて小さい頃はプリキュアだの仮面ライダーだのと、なりたいもの自体現実離れしているのが大概なんですけどね」
そういって何を思い出したのか微笑ましいものでも見るように天を仰ぎ、そのまま影山の方にそっと手を乗せた。
「でもわっちは、そういった夢が諦められませんでした。いくらお金がかかろうと、いくらキツイ目に合おうと、きっと叶えて見せるって思っていました。でも、現実と夢って難しいんですね。わっちは悩み悩みの日々で、とうとう気がめいったんです」
まるで僕みたいだと、蛭谷は彼女を見上げた。彼女は過去を懐かしむような眼差しで、影山をそっと見つめて呟くように話を続ける。
「そんなわっちを支えてくれたのはこの店でした。わっちの両親が始めたこの店を、わっちは初めの頃はたいそう嫌っていました。でも、自分の生活費を稼ぐためにとここで働き始めて、気づいたんです。お茶を入れるときの温度、勢い、茶葉の量や湯呑の厚さ。いろんなことが事細かに計算されていたんだって。今まで見向きもしなかった世界ではありんしたけど、いざ踏み入れてみれば、そこは驚きの連続でした。わっちの夢は確かに破れたかも知れませんが、でもこうしてここで働くうちに、わっちは二代目として、両親を超えたいという夢に行き着いたんです」
そう笑った彼女は、そっと影山の前にお茶を差し出す。
「ぼく、お代わりなんて注文していませんが」
「いいんですよ、わっちのおごりです。影山さん、ここ最近久しぶりにお店に来てくれたと思ったら、ずっと上の空ですもの、きっと何かあったんだろうなって、さすがにわっちにも分かります。おせっかいかと思いますが、わっちは思うんですよ。夢は叶えるんじゃなくて、叶わないから夢なんじゃないかって。それが叶ったら、夢は可能なものにランクダウンするんですよ。その夢を叶えるまでが、すごく長くて、迷ってしまいがちなんですけどね」
彼女は最後にそう言うと、柔らかい笑みを浮かべた。
影山蛭谷は、おそらくこの瞬間彼女に恋をしたのだろう。今までただきれいな人だからと寄っていたこの店ではあったが、この瞬間、僕自身をわかってくれようとしている彼女に、心の底から惚れたのだと感じた。
「西園寺さん、僕にも夢はあります。いえ、ありました。今はもう遠くに行っちゃったけど、でもまだ諦めたくない」
そう返し、店から出る瞬間には、心に決めていた。借金をすべて返し、裏社会から抜け出してもう一度夢に向かって走ってやると。
だから今回の抗争は本当にラッキーだった。まるで神様が金稼ぎのチャンスを与えてくれたようにすら感じた。
さて、まずはどうやって自分の戦力を売りに出したものかと、影山が頭を捻らせたその時、青葉悠が声をかけてきたのだった。
「そんなにぶつぶつと独り言をして、しかもスタンドまで出しっぱなしだなんて、全く愚か者ですねあなたは。これは殺し合いですよ。背後から唐突に襲われて首元を切られる可能性だってあるというのに」
影山は慌てて振り返りフリーズアンサンブルの音波で吹き飛ばそうとしたが、遅かった。首元に何かを突き付けられ、耳元でスタンド攻撃をすればあなたは死にますよとまで言われてしまったのだ。
正直、ギャング自体を舐めていた。スタンドが手に入ったのだから自分が一番強いのだとさえ己惚れていた節もある。
そんな影山の出鼻を、さっそく青葉悠はくじいたのだ。正直この男には敵わないと思ったし、このまま死ぬのだとすら思っていた。
そんな影山蛭谷に、青葉は素っ頓狂な話を始める。
「まぁ、君が金に困っていることもこのギャングを辞めたいということもよくわかりました。ので、一つ私に協力してくれませんか?」
まさかこの男が赤や青の王なのだろうかと震えていると、青葉はそっと白い宝石のハマった指輪を取り出してつづけた。
「私の名前は青葉悠。白の王です」
正直何を言っているのかわからなかった。そんな影山に青葉は続ける。
「実は、君たちが呼び出されるよりも前に別の8人が呼び出され、そして指輪を受け取っていたんですよ。そして私は白の指輪を持つ者。ちなみに、指輪の数は全部で8つ。これを全て集めた者が王になれるそうです。ので、あなた方が思っているように赤や青などといった1対1の争いなどではなく、これは8つの指輪を誰が最後に手にするかというバトルロワイヤルなんですよ。主張がどうの、未来がどうのと言っている彼らに勝利はありません。が、チームを組まれたのは厄介ですね」
まるで独り言のような文字運びではあったが青葉は最後に影山を向いてこう問いかけた。
「私はギャングの長になりたい。そしてあなたはこの世界から足を洗いたい。私としてはやる気のある者以外を仲間にする気はありませんので、もし私がボスになれば、その暁にあなたをこの組織から除名しましょう。借金もチャラにしてあげますよ」
「ほ、本当に言ってるのか?それ」
「ええ。私の家族は代々人に嘘をつけば罰として歯を抜かれました。私も嘘を美徳とは思いません。どんな時でも真実を話す。それが私のやり方です。ですから、あなたに頼みがある。この青の王の元へ行き、スパイになってくれませんか?」
それは悪魔の囁きだった。この抗争の中、赤青どちらの陣営についても損しか感じなかった彼にとって、第三陣営というだけで魅力的に見えた。
「わかりました。僕は具体的に何をしたらいいんですか?」
そう問いかける影山を見て、青葉悠は影山にすら聞こえないほどの小声で「本当にちょろい」と呟いて笑った。
この小説の元となった村は、2015年3月に開かれていたんですね。もうすぐ2年が経とうとしていますが、未だ活気づいているらしいです。新規さん入ってきたとか、昔からいた人が懐かしいキャラを出したとかの報告受けるたびに微笑ましくなります。
参加はしていませんが、執筆活動を通して皆さんと繋がれたらいいなと思います。
ってか頑張って続き書きます。
という作者の独り言でした。