スタンドの村   作:野々村あこう

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青葉の策略

 青葉悠(アオバユウ)の作戦を聞いた影山蛭谷(カゲヤマヒルタニ)は、頭を抱えることとなる。

 それは、自らが恋をした女性を裏切るということに繋がるからだ。しかし、せっかく灯った夢への眼差しを、せっかくギャングと縁を切るチャンスを、みすみす逃すわけにもいかないと思う。

 

 そして、しばらく考えている影山に、青葉はそっと耳打ちをした。

 

「その表情、その仕草、君は緑の王……いや、西園寺麗華(サイオンジレイカ)のことが好きなんだろう?」

 

「ふぇ!? い、いや?」

 

 影山蛭谷自身にだって、今変な声が出たことが分かった。明らかに動揺している。不意打ちもいいところだ。

 そんな影山に青葉は間髪入れずにつづけた。

 

「もし、君の働きで全てのリングが手に入るのなら、その指輪が持つ『どんな願いでもかなえる力』を君に渡そう。言っている意味が分かるかね?」

 

「い、いや……?」

 

「ふふふ、簡単なことですよ。あなたはその力を使って西園寺麗華のハートを手に入れればいい。たとえ今回裏切ったとしても、その能力があれば彼女を意のままにできる。もちろん当初の約束である借金帳消しだって約束しますとも」

 

 悪魔の囁きだった。ここまで彼に言われてしまえば、よもや影山蛭谷に断る理由などない。彼の言うことに従おうと、その瞬間影山は心に決めた。

 

 そして、二人はそのまま別行動を開始した。青葉悠は例の店でイカスミパスタを口にする。影山蛭谷は青の王らが集合する広場近くに待機し、それから時を待った。

 

しばらくしてから、偵察と評した青葉悠が影山と会う。それが青葉悠の作戦スタートであった。

 

 

 青葉裕はひとりでに考える。

 

「さて、まず厄介なのが、リングは一つではないということですね」

 

この情報はとある人物から与えられた確実なものである。リングはすべてを合わせて八つ。なぜ二つと思わせたのかはわからないが、敵の王からリングを奪い取ったところで大したことはない。その後足りない指輪を回収しなくてはならず、どちらかといえばそちらが大変だろう。

 

「しかし、まずは確実にリングを奪うこと。まだほかの組織はリングが三つ以上あるのだと思ってはいない。すなわち、赤と青の王が抗争するように仕向け、漁夫の利を狙えばいいだけの話です」

 

 そしてすでにコマはそろった。できるだけ汗を流さず、それでいて芸術的に。この男は一人、思考を張り巡らして目的地へと向かった。

 

 そこで待ち構えるは影山蛭谷。まずは一芝居打つ必要があるからだ。というのも、赤の王の手先であると、赤の王自身に知らしめる必要があったからだ。そして青の王の元へ着く予定の影山と、あえて対立したそぶりを見せることで、赤と青自体を緊迫状態へ高める。

 わざと火種を作るのだ。

 

 

 青葉が広場にたどり着いたとき、そこでは何者かのスタンド攻撃が始まっていた。今赤の王につく人間だと言って出ていけば、明らかに巻き込まれるだろう。そう考えた彼は、ことが静まるのを少し待ち、煙が引くのを見て影山にメールを打った。

 

『これよりあなたを青の王と行動を共にするための下準備を始めます』

 

 それから、青葉は悠々と自信に満ちた表情でグラウンドへ降り立つ。あえて一般人のふりをして、あえて怪しくないような動きを見せる。これもすべて、どこかで見ているだろう青の仲間への演技だった。

 

 それから、影山は青葉を見るなり、わざとらしく声を張り上げて叫んだ。

 

「お前は何者だ!」

 

 

 

 あとは二人が衝突することもなく、知っての通り青葉は荒川美鈴(アラカワミスズ)に青の王に関する情報を伝えた。

 

 これにより、青葉悠は赤の王から信頼を勝ち得、影山蛭谷は青の王もとい緑の王からの信頼まで勝ち得ることとなる。

 

 青葉はひっそりとほくそ笑んだ。

 

「これで勝てる」

 

 

 

 それから、あの決戦の時が訪れる。

 

 影山蛭谷は、自らのスタンドフリーズアンサンブルを駆使して、ワイヤーアクションを決めて見せる青葉悠を叩き落そうと奮闘する。

 しかし実は、ただっぴろい広場で、できるだけ長い間青葉を宙に浮かすために、破壊力皆無の風を下から送り込んでいるだけに過ぎなかったのだ。

 

 高威力の技を出していると見せかけつつ、青葉の体を押し上げ並木や街頭などにワイヤーを届かせる。青谷のブラックランスの攻撃が当たらないよう、あえて悪手を放ち青葉が回避しやすいように手回しする。それが今回の主な仕事であった。

 

 

 青葉がすこしヒヤッとした場面といえば、西園寺麗華がラブファントムの鞭で青葉をとらえた瞬間だろう。

 このときワイヤーはどこにも捕まっておらず、下手をすれば落ちていた。

 影山が反射的に風を送ったからよかったものの、もし地面に落ちていれば、影山のサポートがかなり難しくなるところだったと青葉は思う。

 

 しかし結果としては逆にうまくいった。

 青葉の焦った表情につられ、誰しもがワイヤーのことなど気にも留めなかった。

 青葉が遥か上空にワイヤーで編んだ凧を作り、フリーズアンサンブルによる突風で宙を舞っていたなど、誰も気づきはしなかったのだから。

 

 さらに、作戦の一部であったワイヤーによる通路づくりまで完成する。

 

 スタンド発動中は身動きをめったに取らない逢坂紬の周囲に、ワイヤーを張るといったものだ。

 それは西園寺麗華を狙ったワイヤーナイフに見せかけ、フリーズアンサンブルの風によって空中停止させることで完成する通路だ。

 

 何の通路かなんて、簡単なことである。荒川美鈴のラブ&トゥルースの弾丸が、逢坂紬に向かうよう仕組んだものだ。

 

 事前に影山を狙うよう指示していたこともあり、影山の周りにワイヤーを張り、荒川美鈴との角度を調整するだけでよかった。

 

 あとはフリーズアンサンブルによって固定されたワイヤーに次々と弾丸がはじかれ、最後、地面に刺さったワイヤーが弾丸をはじいて逢坂紬に傷をつける。そうすれは心霊煉が解放され、赤の仲間である青葉を助けてくれる。形勢逆転にし、敵にピンチを作らせることができるのだ。

 

 

 青葉はこう考えていた。敵がピンチになれば、何としても指輪は守ろうとするだろう。しかし王である西園寺麗華や青谷芳樹(アオタニヨシキ)はプライドが高く最後まで逃げようとしないだろう。これも、とある情報筋から得たもので、青葉としてはかなり彼らの行動に賭けていた部分でもある。

 

 そして、王は戦いから背を向けずに指輪を守る策を必死に練る。そんなときに、青葉との戦いで活躍を見せていた男、影山が指輪を預かって逃げるといえば、おそらく誰もが信頼し彼に預けるだろうと。そう踏んでいた。

 

 

 結果、タイミングがズレてはしまったが、それも成功する。

 想像していなかったタイミングでの催涙ガスで、どさくさに紛れて青葉は赤のリングを、影山は緑のリングを手に入れることができた。

 

 あとは二人眠ってしまわぬように、フリーズアンサンブルの残された風でガスを飛ばして逃げる。それだけのことだ。

 

 

 そうして、白の王は結局まじめに戦うことなく、自分たちより人数の多いチームにだまし討ちという形で勝利を迎えた。

 

 

 それでもやはり、問題は残ってしまうものらしい。

 

「さて、青の指輪はどうやって手に入れよう」

 

 戦いの後には必ず反省がつきものである。今回は正直活躍しないと思われていた覇理了のスタンド、ディープパープルが思いのほか障害となってしまい、青谷から奪うことに失敗した。

 青谷本人も、一見広場で転寝するなどとのんきさを垣間見せるが、王としての自覚は確かにあるのだろう、影山蛭谷は彼から指輪を預かれる気がしないといった印象を受けた。

 

「青葉さん、どうしましょうか?」

 

 そう訊ねる影山に、青葉は、そうですねぇと首をひねった。

 

「彼らとしては、いま私たちが何を考えどう行動するかは読めないはずです。しかし、その分警戒はするでしょうね」

 

「はい、俺もそう思います。俺が裏切っちゃったから、きっと西園寺さんも青谷さんも、すごく警戒して、もう二度と同じ轍は踏まないようにすると思います」

 

「ええ。赤の王でさえ、一見馬鹿な少女に見えますが、意見はしっかり持っていますからね。彼女たちを敵に回したのもかなり痛手ではあります」

 

「痛手って、作戦練ったのは青葉さんですよ。裏切れって言ったのも。大丈夫なんですか?」

 

 そんな影山の心配した声に対し、青葉はただ笑うのみだった。

 

「青葉さん!」

 

「いや、失礼。あなたも焦っていますね」

 

「そりゃそうですよ! 敵を作ってしまったんですから。でも青葉さんにすべてのリングを集めてもらわなきゃ俺も困るんです」

 

「ええ、分かっていますとも。そして、彼らの考えも次の行動も、読めていますよ」

 

「本当ですか!?」

 

 そんな嬉しそうに表情を和らげる影山の肩を、青葉は優しくたたいてついてくるように促した。

 

「まずはチームを作りましょう。そして、消して私たちから動いてはいけません。あくまでも私の方針は漁夫の利。ほかの指輪が動くのを待ち、一気に攫うんですよ」

 

 

「わ、分かりました!」

 

 

 こうして、青葉は影山を連れ、廃工場の中へと姿を眩ませてしまった。

 

 指輪を巡る物語は、こうして幕を開ける。

 




【指輪の存在】


青葉悠の持つ情報曰く、この世界には八つの指輪が存在している。
その根拠となるのは、組織結成を記したとある日記。

青葉はその日記を持ってはいないが、情報筋から聞いた話によると、このギャングを結成した際に、ボスは唯一のスタンド使いだったという。
彼の能力は不明だが、それから村を強くするためにと仲間を増やし、スタンドパワーを蓄積した。
そして彼が亡くなるその瞬間、彼を慕っていた八人の部下が、彼の亡骸にそれぞれ指輪を埋葬したのだという。

初代ギャングボスのスタンド能力は、その後リングに宿り、八つのリングはそれぞれ力を持つとして、チリジリになってしまった。そういうはなしである。
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