スタンドの村   作:野々村あこう

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一日目:メール

全てが始まるその日、ギャングのメンバーである荒川美鈴は、新しい服を買いに街へ出ていた。普段はボスとメンバーとの連絡役として基地に閉じこもり、メンバー同士のやり取りを逆探知不可能な端末を使い取り持っているのだが、最近ボスの調子が悪いため仕事がなかったのだ。

 

日の出とともに目を覚まし、時計を確認したあとにボスからの連絡を確認する。

一通も入っていないことを確認すると、一つ大きなあくびをして再び瞼を閉じて夢の続きを楽しんだ。それから2時間後、睡眠内の物語が終わり、冴え切った瞼をもったいなさそうに開いてシャワーを浴びた。

 

久しぶりに化粧をして、肩にかかった髪の毛をサイドでまとめ、下着を身につける。

普段から動きやすい服、目立たない服しか持ち合わせていないので、さらにそこから着衣を選ぶのに時間を消費する。

普段の彼女ならありえないのだが、珍しく休日続きのため、たるんだ生活を至福とみなし過ごしていた。

 

結局いつもと変わらない黒のホットパンツに黒いカーディガンを羽織り、白く薄いマフラーをワンポイントとして巻きつけた。

 

「う~ん、地味かな?」

 

鏡に映る自分に問いかけ、もう少し悩もうかと時計を確認した。

 

「うわ!もうお昼じゃん!」

 

女性の時間感覚はおしゃれを楽しんでいる時に狂いが生じるらしい。彼女は自分が一体どれだけの時間を無駄にしたのか内心後悔しつつもタンスを開けて靴下と外履をさらに迷うハメになった。

 

仕事柄、下着屋靴などにはお金をかけてきたので、組み合わせは豊富だった。

満足いくまで悩み、そして最もいいと思われる靴下と外履に足を通した。

黒字に赤と水色の水玉模様のスネまでを隠す靴下を右に、白地に暗めの赤と紫のブラインドが入った膝上までを覆う靴下を左に履き、水色の靴に足を通した。

 

「う~ん、上が地味すぎるかな?」

 

等と思うが、彼女に美的センスだけは存在していないことは承知の上だ。

結果的に悩むのを辞め「ま、いいか!」の一言で片付けてようやく家をあとにした。

 

それから、食事を村の居酒屋で取り、意気揚々と街へ足を伸ばした。

 

買うわけでもない商品の前で自分自身と一悶着したのは言うまでもない。

 

 

 

それから彼女は、地味な服を着替えるために白いシャツと新しいマフラーを買い、赤色のイヤリングを身につけて、満足のいった顔でスキップを踏みながら自宅へ帰ろうとしていた。

村に帰ってきて、自身の家に帰る近道へ足を踏み入れた時だった。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

突然少女の叫び声が聞こえてきたのだ。

 

「だ、大丈夫!?」

美鈴は反射的にホットパンツのベルトからナイフを抜き、声の聞こえた場所へ駆けつけた。

 

「助けて~あははは!」

そこには、中学生くらいの少女が犬に押し倒され、じゃれあっている姿が。

 

「えっと……大丈夫みたいね……?」

 

事件だと思い駆けつけた彼女は、心底拍子抜けしたが、内心ホッとして少女のもとへ駆け寄った。

 

「あ、大丈夫です」

 

少女はというと、突然現れた女性に驚きを隠せず、警戒するように立ち上がり距離を置いた。

 

「心配をおかけしました。失礼します」

 

深々とお辞儀をして、少女は関わりたくないと言いたげに駆け出してしまう。

 

「え?私、何かしたかな?」

自分の格好が悪かったのだろうかと心配しつつ、犬と目を合わせて首をひねった。

 

 

少女はというと、何度も後ろを振り返り、追いかけてこないかを気にしながら村の中心部へと身を流していった。

「びっくりしたな~。こんな村にあんな変な格好している人がいたなんて。痛ッ!」

ところが、細い裏路地に入ったとき、転がっていたパイプにつまずき膝をすりむいてしまう。

「う……痛いよぉ。」

小柄な彼女は、自分の足を確認し、地が流れるのを見て、泣き出してしまった。

見てしまったためにさらに痛いと感じてしまうアレだ。

 

「キュゥーー?」

 

そんな彼女を心配するように、どこからかバスケットボールほどの大きさの丸いネズミが現れた。

 

「ロストワン……痛いよ」

 

少女はロストワンと呼ばれた大きなネズミを優しくなでる。いや、ネズミのような“なにか”が正しい言い方だろう。

ロストワンは、撫でられながら心配そうに鳴き、小さな羽を羽ばたかせた。

 

「ロストワン、ごめんね?大丈夫だよ。痛くないよ。こんなの、いつものことだもんね」

 

ロストワンの不安そうな顔を見て、少女は慌てて涙を拭き取り、元気だと言いたげに立ち上がった。

 

「ほら!ロストワン!痛くない!」

 

「ロストワンって、誰?」

 

「ひゃぁ!?」

 

ロストワンを安心させようと必死だった彼女は、その後ろに人がいることに全く気が付かなかった。

 

「さ、さっきのお姉ちゃん!?」

 

そこには、先ほど逃げられたにも関わらず心配になりこっそり後をつけてきた荒川美鈴が立っていた。彼女は頭の上にハテナマークを浮かべながら楽しそうに微笑んだ。

 

「こんにちは、お嬢ちゃん。どうしたの?」

 

「い、いや。なにも。ないです」

 

少女はというと、警戒心を全身で出しながらも笑顔を繕い、ロストワンをさりげなく体の影に隠した。

 

「あれ?怪我してる!」

 

しかし、美鈴は少女の膝小僧の怪我に気づき、しゃがんでしまった。その後ろには少女のスタンドであるロストワンがいるというのに。

 

「大丈夫?痛くない?」

 

しかし、美鈴は何かに気づいた様子は見せず、ただ痛々しそうに傷口と睨めっこしていた。

 

「だ、大丈夫……です」

(スタンド使いじゃない……?どうしよう。もしスタンド使いならこの人はギャングの人ってことになっちゃう。もしそうなら、殺されちゃうかもしれない。)

 

「痛そう……ちょっとついて来て?傷口洗わないとバイキンさん入ってきちゃうよ?」

 

少女の心配をよそに、美鈴は無理やり彼女の手を引き、自宅まで強制的に連れて帰った。

といっても、美鈴は余り目がよろしいとは言えない。そのため、ギャングのスタンド使いであるにもかかわらず、少女のスタンド『ロストワン』に気がつかなかっただけなのだが。

 

 

「はい、このタオルで傷口拭いてね」

美鈴は家に着くや、急いで清潔なタオルを水で濡らして少女に渡し、救急箱を取り出して消毒液を取り出した。

 

「あの……ありがとうございます」

 

「ん?気にしなくてもいいのよ。怪我覇早く消毒しないと危険だしね。はい、ちょっと染みるよ?」

 

消毒液の付いた布を傷口に優しく押し当て、絆創膏をそっと貼り付ける。

 

「これでよし。引き止めちゃってごめんね?」

 

「い、いえ。ありがとうございました。私の名前はミシェルって言います。お姉ちゃん、いい人だね♪」

 

警戒をようやくとき、ミシェルが微笑んだのを見て、美鈴は心底嬉しそうに彼女の頭を撫でた。

 

「ありがとう。ミシェルちゃんよろしくね。私の名前は荒川美鈴だよ。」

 

「よろしくお願いしますね。また会う日があれば、遊ぼうね。本当にありがとう!」

 

ミシェルはというと、嬉しそうにしつつも慌てるようにして家をあとにした。

 

「ご飯食べていかないの?」

 

「大丈夫です!お母さんが待ってるんで!」

 

「そっか。分かった。気をつけてね?」

 

そう言葉を交わし、ミシェルの姿が見えなくなった時だった。特殊端末と呼ばれたスマートフォンが突然震えだしたのだ。

 

「何かしら」

 

珍しくギャングから連絡が来たことに驚き、彼女は端末の画面を付け、受信メールを確認した。

 

『スタンドゲームへようこそ。

荒川美鈴さん。あなたは我が村を裏から支配するギャングの情報工作員としてボスからの命令に心身ともに尽くし、我組織の繁栄に貢献した事を称して、ボスが最後に残したゲームへ参加する権限を譲渡します。地図を送っていますので、本日2100までにお越し下さい。あなたの部屋にボスからの手紙と、装飾品が置かれています。あなたはボスの独断と偏見により、次期ボス候補に選ばれました。また、このメールに既読を付けたにも関わらず出席しない場合は、この世から存在を消させていただきますので、あしからず。』

 

その文の下に、村の地図と目的地を示す画像が貼られており、謎の部屋番号が書かれていた。

 

「私が……ボス候補?」

 

突然のことに頭が働かず、彼女はただ急いで仕事用の服に着替え、時計を眺め続けていた。鍋が吹きこぼれていることにさえ、全く気がつかなかった。

 

 

 

「……始まったのね」

ミシェルはというと、同じタイミングでやって来たメールを確認し、ため息を付きながらロストワンにまたがった。

「ロストワン、帰ろう」

 

小さなカバンから、お面を取り出し顔を隠してから、ロストワンが翼を広げて空を飛び出した。

 

その空を飛ぶ少女に気づく人など、誰ひとりいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




荒川美鈴(あらかわみすず)18歳、155cm

ギャング内でデスクワークを主にする縁の下の力持ち。
力もなく、銃を扱うのも下手。ただ単純に上の命令を聞き、ボスを崇拝している。
まだ若いのでお洒落したくて仕方ない。
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