スタンドの村   作:野々村あこう

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影山蛭谷

革ジャンを着た細身のロン毛男子が、必死に指を突き立てて大声をあげた。

「もう一度、もう一度だけチャンスを与える。何者だ!名前を言え!」

 

 

村一番の広場、村人はよくここで祭りをし、宴会を楽しんだ。夏になれば運動会の舞台となり、小学生は野球を楽しんだ。

この村に遊園地のような場所は存在しない。広大な畑と、いくつかの民家、都会を夢見て作られたであろう巨大な商店街、そしてその中央にあるのが、この広場だ。

 

さらさらとした黒い砂浜や簡易的な遊具も設備され、周囲は綺麗に並んだ樹木が囲い、穏やかで涼しげな風の吹くその広場で、二人の男が対峙していた。

 

「まったく、困りましたね。こんな夜中にそんな大声を張り上げたりして。ご近所迷惑ですよ」

 

その内の一人は、例のアカネグサの男、青葉悠であった。

 

彼は覇理了のスタンド、ディープ・パープルが催眠ガスを吐き終え、どこかへ消えたのを見計らってそっと広場へ足を向かわせた。出来るだけ一般人のふりをしようと心がけつつ、ディープ・パープルの本体がどこかで見ているのではないかという警戒を抱きつつ、自然な動きで広場に寝そべる3人に近づいた。

 

3人の服装はバラバラだった。

一貫性なんてあったもんじゃない。今寄せ集めたような面々であった。

 

あからさまに怪しい。つまりここにいる人間は確実にギャングの者だ。

そう彼は確信した。

 

しかし、服装などを探ったり凝視して指輪をはめていないか調べたりはしなかった。

 

一般人がそうであるように、彼はただ頭をひねらせ、物珍しいものを見るような仕草をしながら3人を横切った。

 

3人を眠らせた張本人がどこかに潜んでいるだろうと警戒したためだ。

そのままやり過ごし、どこかで観察しているであろう犯人の目を欺き、そして指輪を奪い取ろうと考えたのだ。

 

だが、次のターンに現れたのは彼の望んだ人物ではなかった。

 

「き、近所迷惑とかはどうでもいい!そこの三人に何をした!」

 

その人物は正義感の塊なのか、青の王の手下なのか、どうも青葉を警戒しているようだった。細い指をしっかりと青葉に向け、つり目を更にシワ寄せて睨みつける様子から、喧嘩などには慣れているようだが、それでも華奢な風貌やロックな服装から、小物に見えて仕方が無かった。

 

青葉は深くため息をつき、酒場でもらったメールアドレスにただの1文を送信して男に向き直った。

 

「質問が多すぎましてどれにお答えしたら納得していただけるものか、ですがまず先に言いたいのは、人に名を尋ねるときはまず自分からですよ」

 

青葉としては、その一言で論点を逸らし、今いるこの場から離脱を測りたかった。

 

「そ、それもそうだな。俺の名前は影山蛭谷(カゲヤマヒルタニ)。青の王に感銘を受けて仲間になりに来た。ところがついてみたら目の前で3人も人が倒れている。犯人はお前だ!」

 

 

ところが、その少年、影山は逆上することなく、どストレートに自信を語った。バカ正直な彼に青葉の顔は豆鉄砲を喰らった鳩のようになっていた。

しかし影山はそんなことお構いなしに続けた。

 

「さておじさん、俺の自己紹介は終わった。あなたの番だ」

 

青葉はしばらく悩んでから、あまり口を動かすことなく広場の出口に足を向かわせた。

 

「ひとつだけ、私はまだ26歳です。おじさんではありません」

 

後ろから影山の呼び止める声が聞こえたが、追いかけてくる様子はなかった。

 

 

 

荒川美鈴とミシェルが広場にたどり着いたのは、ちょうどその直後だった。

 

青葉からのメールを受け取り戦闘を覚悟した彼女らは、思い立ったが吉日と手のひらに書き示して飲み込んだ。

 

迷いは無い様子で広場にたどり着いたちょうどその時、酒場でみた、白く引き締まった男とすれ違った。

 

 

もちろん当然のことながら、青葉は荒川美鈴のことを知ってはいないので、何も気にすることなくただ横を通り過ぎていく。

しかし、美鈴は決めていた。決心していた。

 

絆というものの大切さは知らないにしろ、お互いを知ることが大切であることは既に諭されていた彼女は、すれ違う青葉にそっと声をかけた。

 

「た、戦いはどうなったんですか?」

 

 

困惑したのはもちろん青葉の方であった。

 

自分は青の軍勢の顔と、約一名の名前を覚え、それを報告して今後について命を受けようと考えていた。ところが、厄介極まりなかった影山から解放され、緊張が解けたその時に、見ず知らずの、それも未成年の少女から声をかけられたのだから。

 

青葉はその場で硬直し、しばらく瞬きを繰り返してからもう一度二人を見つめた。

 

 

一人は地味な服装をその細く綺麗な手足に纏わせた高校生ほどの少女、もう一人はまともな服を着ており、質素ながらも綺麗でバランスの整ったワンピースを羽織った幼女。

 

姉妹?ではなさそうだ。

それに今少女は何といっただろうか。

 

「交戦中とのことでしたが、お怪我はありませんか?」

 

やはりそうだ。

青葉は息が詰まる気がした。

 

それからしばらく考えて、言葉を口にした。

 

「ええ、交戦とは言いましたが言葉の争いでした。私に対し何者かと問う人物が現れましたので。できるだけ一般人を装いなんとかなりました。顔は覚えましたので、次以降攻め入る時に役立つかと思われます」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

青葉の言葉を真剣に受け取った少女ふたりは、軽く頭を下げた。それから大きい方の少女、荒川美鈴が青葉の目を鋭く捉えた。

 

「では、自己紹介させていただきます。初めまして。赤の王に選ばれました。荒川美鈴です。特技は裁縫。仕事は事務と情報管理。苦手なことは戦闘です。姿をお見せしなかったのは狙われた時に対処することができないからですが、それでは無礼になると考えを改めました。こんなボスでよろしければ、この村の伝統と発展のため、協力をお願いします」

 

美鈴ははっきりと耳に残る声を口から流し、深々とお辞儀をしてみせた。

ミシェルはそれを少し心配そうに見つめながらも、どこか満足そうではあった。

 

「ご、ご丁寧にありがとうございます。私は青葉悠。主にスパイ活動をしていました。私も戦闘は苦手ですが、是非お守りさせてください」

 

それをみた青葉は慌てて言葉を返し、頭を下げた。

 

その時の彼の表情は苦悶に満ちていたが、誰もそのことに気がつくことはなかった。

 

「では、仲間を集めて作戦会議と行きましょう!青葉さんの情報を元に、青の王から指輪を奪い取りましょう」

 

美鈴は緊張をなぎ払うように笑顔を見せ、それからもう一人の仲間にメールを送信してから自分の家へ足を向けた。

 

青葉はしばらく考えて、何かを決心したように頷いて一人呟いた。

 

「生きていれば、これぐらいの年頃か」

 

「何か言いましたか?」

 

ミシェルが怪しむように振り向いたが、青葉は笑顔で首を横に振るだけだった。

 

 

 

 

赤の勢力がいなくなるのを影山蛭谷はこっそりと見ていた。かなり離れていたために声までは届いていないと思われるが、それでも彼は青葉や荒川を睨みつけており、彼女らが姿を消してからようやく表情を緩めた。

 

暗闇に一つ液晶画面の明かりが灯り、蛭谷はそれを上手く操作してどこかへ電話をかけた。

 

「あ、もしもし。影山です。赤の王を見つけました。はい。青の王の近くにいます。はい。分かりました。では、明日に」

 

そう言うと、適当に会話を終わらせて青谷たちを揺り起こした。

 

その数分後、影山蛭谷は青の王の下につく。

 




影山蛭谷(カゲヤマヒルタニ)19歳、男

身長の割に体は細く体重はない。
華奢な体の割に趣味はロックなどの激しいものが好きで、その影響から夏でも革ジャンを着ていたりする。
髪の毛は肩まで伸ばしており、後ろ姿だけなら女の子に見られることもしばしば。
ところが本人は臆病なところもあり、自分で行動しないこともしばしば。
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