「さてこれから入学式だがこの場に新教官を一人紹介する。と言っても、去年から教官候補としてこの学院にいたのだから皆は知っているだろうがな。さぁ入りたまえ」
「はい、失礼します」
そう言って入ってきたのはユーノ・スクライアだった。彼は今日からトールズ士官学院で教官として働くことが決まっていた。一年前にとある少女に助けられてから学院長の勧めを受け最初は教官候補生として働き、四人の生徒と共に実習を繰り返し行なっている間に適正があると見届けられやっと教官になれた。
「ユーノ・スクライア教官だ。彼には今年から発足する特科クラスⅦ組の副教官に任命する。加えて去年から引き続き生徒会顧問としても働いてもらいます。いいですね?」
「はい、何の問題もありません。私は彼女に助けられたのですから・・・」
彼女に助けられた・・・これについては後ほど語ることにして彼がこの学院の教官になったことはとても嬉しいことだということは皆の表情からも知ることができた。
「それでは初対面ではないが、一言そうだな・・・抱負や意気込みなどをお願いしようか?」
「はい」
コホンと小さく咳払いをしたのち口を開く。
「えーっと昨年からお世話になっているうちにこの学院で教官になりたいという気持ちが強くなり、ヴァンダイク学院長に相談したところ教官候補になってみてはどうだろうか、その上で判断しようじゃないかと言う決定でしたので約一年ほど候補として働きました。こうして正式に認められて改めて言えることは一つだけ。今は希望しかありません。他の教官たちに、私を強く推薦してくれた彼女にはとても感謝しきれないほどです。それと学院長にも同じことが言えます。若輩者ですがどうかよろしくお願いしますっ」
ユーノの決意表明に職員室中から大きな拍手が沸き起こる。その中には気難しい事でも知られている教頭の拍手もあった。ムスッとはしていても少し口元は緩んでいた。
「さあ入学式だ。特科クラスと言う今までにはない取り組みだが、皆がそれぞれの力を発揮して取り組んでくれることを期待する。ユーノ君以外は講堂へ。ユーノ君はトワ会長を手伝ってくれ」
「了解です。では・・・」
踵を返して職員室を後にしようとすると少々控え気味な声がかかる。ユーノがここでお世話になったときから何をするにしても気にかけてくれた人だった。最初は何か思惑があるのではと思うこともあったが、お酒を一緒に飲んでその思惑が外れていたことが分かった。
「ンンッ!!ユーノ君?」
「なんですか教頭?」
「
男爵位を持っているせいか貴族よりの思考に凝り固まっていた教頭だったが、下戸ゆえに飲むと本音で語ってくれることが幸し最近では一番親交がある友人の一人となっていた。
「ええ、いいですよ。ではまたあとで・・・」
その様子を見てもまだ信じられないと言わんばかりの教官方。学院長あなたもですか?半年ぐらい前から時々見ることができる風物詩になっているでしょうと、言っても言わなくても同じなのかもしれない。
職員室を出るとすぐに連絡が入る。
「ユーノ・スクライアです」
『あっ、ユーノ君?・・・じゃなかった。今日から教官なんだよねっ。エヘヘヘ、ユーノ教官?今よろしいでしょうか?』
「問題ないよ。でも君から教官なんて言われるとちょっと嬉しいね」
『あぅ。じゃなくて!!これから正面玄関付近に来ていただけますか?』
通信の相手は今年の生徒会長、トワの声だった。学院長から会長を手伝って欲しいと言われていたので、その関係だろう。
「そっちにいけばいいんだね?分かった、2,3分でそっちに行くよ」
プツッと言う音を立てて通信を切る。
「トワにジョルジュお疲れ様。どう、何か問題は起きてない?」
「ええ、今のところは・・・。おめでとうございます、今日から教官なんですね?」
「私も自分のことのように嬉しいよー」
黄色のツナギを着た少し太めの青年と、年齢とは裏腹に幼く見える少女が口々に祝福の声をかけてくれる。
「ありがとー。やっとここまで来ることができたよ。最初は疑われてどうなることかと思ったけれども君たち四人がいたからここまで出来たんだと思う。ホント感謝してる」
「や、やだなぁ。感謝しているだなんて、私たちの方こそ言いたいよー」
「あぁ、半年前だったらこんなに和気あいあいと話すことなんてできなかったと思う。ユーノ・・・教官には感謝してもしきれない」
ここにいない人を含めて四人には世話になったし、ユーノ自身も彼らとの絆を深めることができた。会った当初は大丈夫なのかとも思ったが思いのほか上手くいった。今はもう会うことの出来ない
「さてと、トワにジョルジュ。特科クラスになりうる生徒たちは全員講堂に入っていったのかな?」
「あっ、うん・・・じゃなくてはい!!他と違う赤い制服を着ていることに、戸惑いを感じている人もいたけれども皆講堂へ向かいました」
少し仕事モードへと移行したのを感じ取ったのかトワの口調も少し変わる。
「ふむ、どれどれ。全部で9人か。みんなが入ってくれると良いんだけどなぁ~」
講堂側の虚空を見上げて呟く。その呟きが聞こえたのかトワとジョルジュは二人で顔を見合わせて一言言う。
「大丈夫ですよ」
「あぁ、僕もトワと同じ思いを持ってます。ユーノ教官が僕たちを引き寄せてくれたように、特科クラスの皆も最初は衝突しあったとしても近い将来絆で結ばれると感じます」
いつもは寡黙なジョルジュが語ったことに驚きながら、二人の返答に頷いて返す。
「さぁ旧校舎のほうへ運び込みましょうか?入学式が終わると彼らを待っているのはオリエンテーリング。そこで自分の得物がなければなりません。僕も手伝うのでさっさと運んじゃいましょう」
分担して9人分の武器を運び、重いものは台車にのせて軽いものは手に持って旧校舎へ運び入れた。そしてマスタークォーツをそれぞれ台座に載せる。
「これでよしっと・・・。トワとジョルジュのほうは終わりましたか?」
「ええ、私のほうはこれで終わりです」
「僕のほうも・・・終わりですね」
円形の部屋に9人分の石で造られた台座があり、それぞれに得物とマスタークォーツをのせる。
「あとは
苦笑が口から漏れた。サラ教官から伝えられたオリエンテーリングの内容が彼らの心を更に揺さぶるものだと感じたからだ。
「うんうん」
「これに関しては同意をせざるを得ないな」
トワとジョルジュがユーノの呟きを聞いていたのか返す。
「さてと、終わったならここから出ようか。外で待ってる二人にも会いたいし・・・」
踵を返して旧校舎から出る。それに続いてトワたちも続いた。しかしユーノにはこの旧校舎に違和感を感じ続けていた。ずっと続く何かを・・・。そして夢にも出てくる女性のような男性のような声がいつの間にか脳裏に残っていた。
――汝、力を求むか?――
その声がユーノの将来を決めるものとなるかもしれないのは、いまのところ分からなかった。残りの二人のもとへ行くと相変わらず言い争っていた。激しいものではないもののこのやりとりも随分と見てきた。
「やぁクロウにアンゼリカ。いつものように仲、良いね」
「「良くないっ!!」」
ハモリ返してきた。第三者から見ると良くも悪くも似た者同士という分類なのかな。ここまで来るのには随分と時間がかかったように思える。クロウは他人にも自身にも関心を持たず、アンゼリカは女好き、ジョルジュはメカマニア、トワは何かあるとすぐにオロオロして小動物のごとく振舞っていた。
彼らに最初出会った時はすぐにさじを投げそうになったが、それでも信頼してくれた学院長に報いるためにも荒療治を行なって心の奥にあるものを引き出し、本音でぶつかり合ってやっと落ち着いた。
「はいはい。特科クラスの連中はもうあの中に入ったの?」
「ったく、ゼリカのヤツ・・・。おっとサラの餌食になった連中の事だな。おうよ!!数分前に入ったばかりだけどありゃあ苦労するだろうな」
「まったく、彼は今日から正式に教官になったんだぞ。少しは言葉に気をつけてだな・・・」
「アハハ」
クロウとアンゼリカのやりとりは聞いていて飽きない。しかし、クロウの心を全てさらけ出すことができないでいることに未だ不安を残していた。
トワ会長とこれからの生徒会のことなどを話し合っているとARCUSに連絡があった。
「はい、もしもしユーノですよー」
「サラよ。もうすぐオリエンテーリングが終わるからあんたを皆に紹介したいわ。近くにいるんでしょ?そろそろ合流したら?」
「オッケーさ。ところでサラ、どういう登場の仕方が良い?」
「へっ?」
「度肝を抜く仕方で登場がいいかな。それとも力を見せたほうがいいかな?」
数秒間沈黙があった。それからサラの呆れたような声が聞こえてくる。
「ちなみにどんな事を考えているの?」
「前者はサラの横に転移して登場!!後者は僕のマスタークォーツ“魔王”を最大限に発揮しながら登場!!」
「前者にしなさい。後者は切り札・・・なんでしょ。あんた曰く?」
ARCUSごしにため息が聞こえてきたが、少しは考えてくれた。僕はサラのいわば影のような働きをするようにと言われているのに“魔王”なんてクォーツを使ったら一気に注目度が上がってしまう。
「僕もそう思ってた。サラのタイミングに合わせるから呼んだら出るね。っと、ガーゴイルが倒されたみたいだよ。もうそろそろサラの出番だね?」
「わかったわ・・・。ってユーノまた視てたのかいっ?」
「あっ。じゃ、じゃあこっちも準備するからまたねっ!!」
ちょっと口が滑った。
「行くの?」
「うん、やっと顔合わせするみたい。名残惜しいけれどそろそろ行くね。クロウはちゃんと授業にでないと留年しちゃうよ?」
「ったく余計な心配を・・・」
軽口を叩くがそれでも振り向き際で見た表情はなんだか嬉しそうだった。トワたちと別れて旧校舎へ入るとそこには見慣れた二人の男性の姿があった。一人は学院長、もう一人は。
「へんた・・・コホン・・・オリヴァルト殿下。お久しぶりです」
「聞き慣れた呼び方が・・・いやなんでもない。ユーノ君も久しぶりだね。今日から正式に教官となったわけだが、サラ教官の補い手として頑張ってくれたまえ!!」
「ええ、了解です。ではまた」
去り際にオリヴァルト殿下もといオリビエからのお願いが聞こえてきた。
「あぁそれと・・・そんなに堅苦しくなくていい。この場は公式な場ではない。それと妹と弟が君に会いたいと言っていた。帝都に来た際には是非お話してくれると助かる」
「ええ、分かりま・・・分かった。オリビエ」
階下にいるサラの横へ転移用の
「お待たせしました。・・・あれ?」
~サラside~
「ビシバシ鍛えるからねー。と言いたいところなんだけれどもここでもう一人紹介する人がいるの。特殊だらけのこのクラスを補うもう一人が・・・いるはずなんだけれども」
自分の横が光を放って次の瞬間には青年の姿が現れた。私は少し聞いていたけれどもみんな驚きすぎて固まってるじゃないの!!
「・・・あれ?」
「はぁ~ユーノ教官?自己紹介をお願いします」
最初が肝心だからあまり使わない敬語っぽい話し方をしてみる。横のユーノは苦笑してるわ、ちくしょう。
「本日付で正式に教官担当になりましたユーノ・スクライアといいます。去年からこの学院にいるのですが正式になったのは今日からです。サラ教官の助手的な扱いにはなると思いますが、どうぞよろしく。もうひとつの肩書きは生徒会顧問ですので、用事があるときは生徒会に来ていただけるとほとんどいます」
「・・・・・・(パクパク)」
まだ転移の衝撃から立ち直っていないⅦ組メンバーが多々いたがそのまま自己紹介を終えることにした。転移した時に一人の女生徒が鋭い目になったのにユーノは気づいていたみたいだ。
「えー、突っ込みたい点はいくらでもあるけれどもこれから二人体制で教えていきます。あとほかのクラスにはないカリキュラムなどもあるので期待しててネ」
~サラside end~
その様子を上から見続けている二人の男性の姿があったが、混迷の帝国に新たな風を吹かせることが出来るのかはそれは
よろしくお願いします。