ちょっとだけユーノの昔話、
スカリエッティが猛威を振るい、それを六課が中心となって食い止めてから数か月経ってからの事だった。ユーノが勤めている無限書庫も忙しくなくなり、それなりの暇ができてからのことだった。六課の人たちに対する関心が薄くなったのは…。
緊急を要することではないにしても資料を集めなければならないのでそれを集め一息ついた時だった。ふと自分の将来について疑問を感じたので幼馴染ではないものの、昔から知り合い的な奴に連絡を取ることにした。その名はクロノ・ハラオウン。数回のコールの後通信に出た。少し老けただろうか…、それを言うと彼は怒るだろう。
「やぁクロノ」
「…あぁ、ユーノか」
「ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあったんだが、今時間は大丈夫だろうか?」
「ふむ…」
サッと視線をずらしスケジュールでも確認しているのだろうか、そしてこちらを向いた。
「少しの時間なら大丈夫だ。ユーノ、かくし芸の相談でもあるのか?」
「えっ?」
「あっ、違ったか。じゃあどんな事だ?」
ユーノにとって初耳なことだ。後悔はするかもしれないがそのことについて聞いてみたくなった。だから率直に聞いた。
「クロノ、僕はその件について初耳なんだがそれはどういうことだ?」
「あー……」
ガシガシと頭をかいた後、いたたまれない様子を出しながら言ってくれた。
「六課の活動が成功に終わったのと、ヴィヴィオの歓迎会をやろうと言う話が持ち上がってな、それで大々的にやろうと…。パーティーみたくやろうとしたのははやてだ。それに六課の連中と、事件を解決に向かわせた他のスタッフや裏方で頑張った人たちも誘ったとか……。もしかしてユーノは聞いていないのか?」
「あぁ、聞いていない。クロノから聞いたのが初めてだ」
自分でも聞いたことのないような低い声が聞こえてくる。クロノもそれを聞いていたからひきつったような表情をしている。
「なぁ、今からでもユーノが誘われていないって言ったほうが良くないか?」
「…僕は無限書庫にいただけさ。六課の連中のように華々しい活躍をしたわけじゃないさ。今からどんな
「ユーノ…」
少し大きめな声でぶつけてみるが、クロノは笑ってはくれなかった。それどころか苦虫を食い潰したような表情を浮かべてこちらを見ていた。
「…じゃあ、ね」
「あぁ。…待て、相談って何だったんだ?」
思い出したかのように聞いてくる。が、それに関してはすでに九割がた解決したも同然だったので軽く流しておくに留める。
「相談したかったけどクロノの話を聞いたらもう解決したも同然になっちゃった」
「えっ?それはどういう事?」
そのまま通信を切っても良かったのだがふと言ってから切ろうと思った。
「あぁ大したことでないんだけど、無限書庫が縮小されることが決まってね。だから退職しようか違う部署に行こうか少し迷っていたんだが、どうやらその相談の必要は無くなったんじゃないかってね。それじゃあ」
クロノの返事を聞くことなく通信を切る。最後に見た表情は何とも言えない表情を浮かべていたかもしれない。でも相談して留まって欲しいって言われることを期待していたかと言われればそうでもないかも。『君には辞めて欲しくない』とか言って欲しかったのか、『残念だ』と言って欲しかったのか自分の感情は分からない。
退職する事が決まってから自分の持ち物の整理等を始めたわけだが、あまり私物が無い事にとても驚いた。ジュエルシード事件が終わったぐらいから無限書庫にいるわけなのに、今まで生きてきた殆どをそこで過ごしてきたのに私物を見ると総合サプリメントや栄養ドリンク、カロリー〇イトが山のように積まれているだけだった。
「はははっ」
自虐とも言える乾いた声が漏れる。僕はこんなにも存在意義が無い人間だっただろうか。最初の頃はとても楽しくやっていた(?)かも。無限書庫は周りからとても楽な仕事と思われているが、単純作業と酷使する探索魔法のせいで数か月で辞める人が多く、ユーノのようにずっと続けてきた局員はいない。同僚と言える人もいなく気心が知れた仲間がいるわけでもないので相談も出来ない。溜め込みながら気づかないようにしていたストレスのせいで気分転換の仕方も忘れていた。
住む所は支給されているが4徹や7徹は当たり前。帰ってもシャワーを浴び、栄養剤を飲み干し度数の高い酒をちょっと煽って寝床にバタンキュー。それがいつの間にか当たり前になって十数年、彼にとって分岐点に来ているらしい。
一番最初に魔法を教えたあの子にも連絡を入れようかと思ったが、殆ど事務的な連絡しかしていないのに突拍子もなく退職云々を相談するものどうかと思い放っておく事にした。
そして無限書庫を退職するにあたって、私物をいる物といらない物で整理をしていると、ナンバーの不明なジュエルシードっぽい物を見つけてしまった。ほろ酔い気分で整理していたのもあり彼は願う。
―――どうか………―――
ブラックな企業で一つの歯車のように働き、疲れた彼が願った願いがどの様なものであったかは如何ばかりだが違う世界で救われ、そして皆を陰から支える教官になるとはこの時のユーノには予想だにしないことだった。