こまるside
「雄二、浮気は許さない……」
「ま、まて翔子…… うわっ、いきなり大鎌なんて振り回してくるんじゃねぇ!! 殺す気か!?」
時折飛び出してくるモノクマや、お使い感覚で現れたモノクマキッズの相手をしながら病院から出た後の事だった……
それは雄二の妻を名乗る女性だった。
謎の大鎌を振って雄二を追いかけまわしている姿さえもなぜか美しく感じられる。
一見すると嫉妬深いだけの天然系美女が旦那と呼んでいる男と戯れているだけにしか見えない程だ……
「あ、あんた…… だ、誰があんなブサイク面の浮気相手よ! あたしには白夜様っていう素敵な恋人が待っているのよ!!」
「取り敢えず落ち着いてください! 私達は坂本さんとは何でもありませんから!!」
だが、このまま放置していたら本当に坂本の命の保証が出来かねる為、大急ぎで二人の間に止めに入る。
彼女も何かの冗談のつもりだったのか、すぐに大鎌をしまう。
「ったく、酷い目にあったぜ……」
「……雄二、ごめんなさい」
若干涙目になってから謝る女性。
雄二も特に気にしていないようで、何事も無かったように話を進めて行く。
「だけど、ここって街のどの辺なんだろ?」
「おまる……、この街に住んでたくせに知らないの?」
「住んでたって言うか…… ずっと監禁されてただけで、出歩いた事も無かったから……」
「へぇ、デコマルもなかなかおもしろ設定を持ってるじゃねぇか」
「こまるですっ! そう言えば、坂本さんに聞きたかった事があるんですけど?なんで、坂本さんは、えっと…… ごめんなさい、お姉さんの名前聞いて無かったです……」
「……坂本翔子」
坂本(妻)は取り敢えず名前を知られていないのも困る為、その場で名乗ることにした。
「翔子さんは何で雄二さんとはぐれていたんですか?」
「あ? なんでそんな事を聞く必要があるんだよ?」
「だって、あんなことされたのに普通に許していましたから、よほど大切なんだろうなって思ったのに、だからこそこんな状況ではお互い離れないようにするのが普通だと思うんですけど?」
「……モノクマの罠に引っかかって分断された」
そう言って翔子が指差した場所には、完全に分断されてしまった道がある。
話を聞くと彼女はモノクマキッズの罠により道の向こう側の方に誘導されてしまったらしく、どうにか回り道をして道をふさいでいた車の上を強引に通る事でこまる達がいる病院前までやって来たのだという……
「……それで、どうする? ……この辺りにあのモノクマ達が集まり始めて来てる」
「どうするって…… 逃げるしか…ないよね。 だって…この街にいたら襲われちゃうんでしょ?」
「そりゃあ、この街のモノクマはガキ共と一緒になってオトナを皆殺しにしようとたくらんでるからな」
「でも、腐川さんは… これから、十神さんを探しに行っちゃうんだよね? それは、分かってるんだけど…… だけど、わたし怖くって… 怖くて怖くて……仕方なくって…… 雄二さんと翔子さんにも無茶なお願いなのはわかってるんだけど……」
「……いいわよ」
「えっ?」
まさか腐川が力を貸してくれるとは思っていなかったこまるは素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あたしに付いてきてほしいんでしょ? いいわよ、付いてってやるわよ」
「い、いいの……?」
「し、仕方ないじゃない…未来機関の人間として、見捨てるわけにはいかないんだし…」
「ありがとう、腐川さん!」
嬉しさのあまり、大はしゃぎで礼を言いながら腐川に抱き付くこまる。
ここまで素直に感謝されたのが初めてなのか、腐川もしどろもどろになり困り果てる。
「ま、俺らもこの街から脱出してぇ所だし、そこまででいいなら俺も力を貸してやるよ」
「……私は雄二がいるところならどこでも付いて行く。 ……だから私もこまるの味方」
坂本夫妻の二人も半泣きのこまるの頭を撫でながら協力してあげる事にした。
「雄二さんも翔子さんも本当にありがとう!!
わたし、心から感謝するよ! 皆に合わせてくれた…神様にっ!」
「素直に、俺らに感謝しろよ……」
「でも…ホントにいいの? 特に腐川さんは十神さんを探すって言ってたのに……」
「あんたなんかに心配されるまでもなく、ちゃんと考えてるわよ…色々と…」
”色々と”の部分に何か引っかかっている雄二だが、この場で問い質しても意味が無いと思った為に敢えて何も対処せずに話を続けることにした。
「……でも、どうやって脱出する? …私はこの街に詳しいわけじゃない」
「俺も、この街が世界有数のIT企業が支配する街だって事ぐらいしか知らねぇからな……」
「そうだよね…… せめて、もう少しこの街の事が分かれば……」
こまるが言いかけた所で彼女を助けようとした未来機関の人間の言葉を思い出す。
この街が、『巨大な埋め立て地で、通称”塔和シティ”と呼ばれている』という事を……
「そうだ、たしかこの街は埋め立て地だって聞いたよ! って事はさ……」
「そうか! ここが埋め立て地の孤島だって言うなら外につなぐための橋や地下道が建設されていることになる!!」
「……橋を渡れば、外に出られる」
「た、確かにあっちの方で、やたらと大きな橋を見た気がするけど……」
「だったらその橋を目指してみようよ! きっと、そこから逃げられるはずだよ!」
「よっしゃ、だとしたらのんびりしている暇はねぇ! さっさと大急ぎでその橋に向かうぞ!!」
「「おおーっ!!!」」
何やら意気投合し始めて来た雄二とこまるが大はしゃぎで腐川が言った橋に向かって走り出す。
「……まって雄二。 ……こまるちゃんもはしゃぎ過ぎ」
それに続くように娘を心配する母のように翔子もこまると雄二を追いかけて行く。
「な、なんか人が増えていくわね…… どうにかして誤魔化さないと……」
こまるside end
明久side
「なんですの、その恰好?」
そう言って苦い顔をするのは先程明久が会う事が出来た文月学園の仲間”清水美春”である。
「聞かないでよ! 答えにくいんだから!」
そう、彼が今回着替えた服は防護性ゼロの半袖ミニスカのメイド服であった。
先程から雪丸が興奮状態ではっきり言ってかなり鼻息が荒く、とても危ない気を放ちだしている。
「不潔です!不純です!女の格好をすれば美春やお姉さまが本気で好きになると思ったら大間違いです!!」
「いや、君の方が大間違いだから!!」
「神聖な美春との仲を冒涜する豚め! 決して許しません!!」
「なんでこうなるのおおおおおおおおおおお!!」
いったいどこから取り出したのだろうか? 大量のフォークとナイフを両手に持って構え、明久へ目掛けて投擲する。
彼がとっさに南風の風圧で吹き飛ばしていなかったら流石に滅多刺しにされてしまっていただろう……
清水の攻撃を避けながら雪丸と共に大急ぎで荷物をまとめて図書館から脱出。
道中で出て来たモノクマは清水が投げたナイフとフォークが貫通し、機能を維持できなくなって大爆発を起こす。
そのおかげで明久の言刃は殆ど消費せずに済んでいるが……
「吉井のアニキ、いい考えがあるっす!」
「いい考え!?」
「ええ、この勢いのまま外につながる橋に行くっす。 そこから脱出して未来機関の人間に助けを求めれば!」
「ああ、清水さんを超高校級の絶望の一人として捕まえてもらって、ついでに僕らも保護してもらえるっていう訳か!!」
雪丸の最低な提案に乗った明久は、大急ぎで外につながる巨大な橋を目指して走って行く。
「ケケケケケケ! 二人とも逃がしませんよォォォォォォォ!!」
一方、清水の姿はオカルト召喚獣事件の時の様に最早人間ですらない顔となっていた。
そのおぞましき笑顔はせっかくの美少女も台無しと言ってもいい程に歪で酷い物となっている……
明久side end
???side
「う~ん、橋を目指すならここに曲がればいいんでしょうか?」
「それで合ってると思うよ姫ちゃん。 それはそうと、無理はしてないよね? 限界だったら早めに言ってね。 姫ちゃんはあんまり体力無いんだからさ」
「ありがとうございます、愛子ちゃん。 でも今は本当に大丈夫ですよ」
「あー、やっぱり美人とか関係なくまともな人間が居てくれてオレ、ホントに超嬉しい! しかも愛子さんがこの街の地図を持っていてくれて超ラッキーだしさ!!」
塔和大橋へと向かう3人の男女。
一人は体力があまりないのか、早くも息切れを起こしている。
「何度も迷惑を掛けてすみません…… 私の体がもうちょっと強かったら……」
「それは言わねー約束だっていってんだろ。 それに生きて会いたい人がいるんだろ?」
「だけど朝比奈君、本当に速いよね~? ボクも運動系で速いつもりだけど、キミほどじゃないもん。
そのおかげでモノクマ相手に姫ちゃんが居ても遭遇するたびに交代で運びながら逃げられるんだからさ」
そう、彼女達はモノクマとは直接戦い抜いて勝っていたのではなく、どうにか逃げ回る事で生き延びていたのだ。
置いてけぼりを食らったモノクマの姿を想像しただけで笑いがこみあげて来そうになる……
「さてと、次の分岐は左に…… って危なっ!?」
朝比奈と呼ばれた少年は横から飛んで来たナイフとフォークに驚き、女の子二人を咄嗟に後ろに突き飛ばす。
そうでもないと、どんな流れ弾が飛んでくるかが分からずに、彼女達も巻き込んでしまう危険があったからだ。
「ったく、おいどこの誰だ! こんなもん投げ飛ばし……」
朝比奈はいきなり飛んで来たナイフの持ち主を探しだす。
一歩間違えば死んでもおかしくない事を平然とやらかすイカレ野郎を捕まえて、最悪思いっきりぶち殺してやろうと思っていたからである。
そんな彼の目の前に現れた人物は……
「うわああああ!! どいて!どいてぇ!!」
「やべぇっす吉井のアニキ! このままだと追い詰められ、ってええええええええぇぇ!!」
ナイフやフォークを投げ飛ばしてくる縦ロールの女性、そして、半そでのメイド服をきた女性?と暴走族のような恰好をしたチビッ子であった……
朝比奈side end
明久side
走り始めてからすでに15分が経過。 大橋近くまで来たのは良かったが、そこからは完全に道に迷ってしまった。
その一方で清水美春だった何かは勢いが落ちるどころかむしろパワーアップを続け、徐々に命中精度が上がり始めていたのだ。
単純な精度だけではない。”パワー”と”スピード””射程距離””攻撃の持続性”も徐々に上がって行っており、このまま大橋に付いてしまっても、その頃にはほぼ100%の確率で明久の頭部にクリティカルヒットさせることだけは間違いないだろう。
清水曰く「この清水美春は同じ相手に二度はぜ~ったいに負けないのです!」らしい……
「さてと、次の分岐は左に…… って危なっ!?」
明久は横から現れた少年の存在に気が付く。
その後ろには見覚えのある女性二人がいて、このままでは巻き込んでしまう。
「ったく、おいどこの誰だ! こんなもん投げ飛ばし……」
だが、少年は気が付いていたのか? 女性二人をナイフとフォークが刺さらないように後ろに付き飛ばしてくれていた。
しかし、少年の方は怒り心頭で今の清水と遭遇してしまうと大変なことになる可能性が極端に高い状態と化していた。
「うわああああ!! どいて!どいてぇ!!」
「やべぇっす吉井のアニキ! このままだと追い詰められ、ってええええええええぇぇ!!」
どうにか少年にも離れていてもらおうと大声を上げて後ろに下がらせようとする明久。
雪丸も追いつき、状況を一瞬で察知した彼の手で少年も物陰に隠れる事が出来ていた。
「な、なんだよあんた等…… 何がどうなってるわけ?」
ぶつかりそうになった少年は事態が全く理解できずに唖然としている。
「い、一応あんたらもガキ達の仲間じゃなさそうだな(この二人姉弟か何かか?)」
明久の事を完全に女性だと勘違いしている少年。
「う、うん……」
「やべぇっす、吉井のアニキ! ここは急いで隠れるっす!!」
「ちょっ! 取り敢えず君もここに隠れて!」
雪丸のアイデアで一度裏道の中に入って美春をやり過ごす事に決めた明久達。
『あの豚野郎、何処に行きましたの!! あの不潔な格好で女の子に近づこうものなら美春が火炙りにしてやります!』
とうとうナイフとフォークがそこを尽きたのか、モノクマ戦で使っていたスタンガンに装備を変更する清水。
恐らくあのスタンガンで気絶させ、本当に火炙りにする気なのだろう……
何度も周りを探して明久を見つけ出そうとする清水だが、結局明久を見つける事は出来ずにそのままどこかへと走り去ってしまった……
「ふぅ~…… ようやく行ったね……」
「つー事は、オレ達の仲間か? そうなんだよな? なっ? なっ?」
「そうだけどよ…… あんたらももしかしてあの大橋を目指してるのか? ……って、どうしたんだよ。 俺の右手なんか見てよ」
誰かに追われている側の人間であると思ったからか、仲間が増えたと思って大喜びし始める少年。
だが、雪丸の右手を見て、いきなり顔を青くし始める……
「いやさ…… この腕輪って…… もしかして…… あんたもあの”希望の戦士”とか言う子供たちに捕まったとか?」
「はぁ?」
「それで…ゲームとか言われて、街にほっぽり出されたんだろ!? いや……ほらっ、オレと姫さんもっ!」
そう言って少年は右手を見せる。
そこには雪丸の手に嵌められたものと同じ腕輪がはめ込まれていた……
「あー、良かったぁ…… いや、良くはねーんだけどさぁ、ただあのお姉さんたちと一緒になるまでどうしようって途方に暮れてたから……」
そう言われて少年の後ろを良く見てみると、少年より少し年上くらいの桃色の髪をした女性が明久の方を見て口をパクパクとさせている…… ボーイッシュな雰囲気を出している女性だけはケタケタと笑い転げているが……
「あはははは! もしかして吉井クンかな? なにその恰好?」
「工藤さん!! それに……」
なおも笑い続ける工藤。
「明久君っ!!」
驚いた明久は声が聞こえた方に振り向く。
その瞬間に彼の時が止まった。
先程まで気にかけている余裕が無かったが、この街にたどり着いて、一番に聞きたかった声。
皆でバカをやっていた時に優しくツッコミを入れてくれた……
希望ヶ峰学園に一緒に逃げたいと思いながらもそれが敵わずに聞けなくなってしまった声……
わずかな希望にすがりついてようやく出会えた女性……
彼が振り向いたのと同時に感じた柔らかい衝撃。 それと共に胸に飛び込んできて言ってくれた……
「良かった…… 良かったです、また会えて…… ずっと心配していたんですよ…… あのコロシアイ学園生活で石丸さんも不二崎君も大和田さんも死んでいって……
いつか明久君もいなくなってしまうんじゃないかって…… ずっと怖かったんですから……」
「瑞希…… さん……」
恐らくうれし涙なのだろう…… 幼い子供の様に泣きながら抱きしめる姫路。
そんな彼女に明久は何て言葉を掛けていいのかが分からなくなっていた。
慰めるべきか?
励ましてあげるべきか?
明久には全く分からない……
ただ彼女の為に何かをしてあげたかった…… 大切に思う人の胸の中で泣いてくれる女性の為に……
「姫路さん…… ただいま……」
今の彼に出来た事は、彼女に”ただいま”の言葉と共に優しく抱きしめてあげる事だけ……
「見つけましたわ、この豚野……って一体何がどうなっていますの?」
先程撒いたはずの清水が空気も読まずに戻ってきていた。
さっきまで明久の胸の中で子供の様に大泣きしていた姫路でさえ、一瞬で泣き止んで硬直してしまう程だ……
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 出たァァァァ!!!」」
「朝比奈! この女がさっき話したオトナ界史上最恐のメス”ミハルノドン”だ!」
「ああ、あの面構えは間違いなく化け物のそれだったぜ!!」
「お化けじゃないけどお化けよりこわいです~!!」
雪丸と少年も一体何を話していたのか、清水が現れたとたん、化け物が出たかのような驚き方をしてしまう。
姫路の反応も完全にゴスロリ夏川が出た時のそれである……
「出たとは何ですか! 美春の事を化け物みたいに言わないでくださ……」
「いや、化け物じゃん?」
「なぁぁんですってェェェェ!!」
朝比奈と呼ばれた少年のセリフでさらに激昂する美春。
某金獅子のごとき力で朝比奈を捕まえ、『思いっきり振り回した末にどこにそんな力があるのか?』と思える程のパワーを持って、片手で乱暴に地面に叩き付けようとした。
とっさの判断で明久が助けに入っていなかったら確実に朝比奈の人生は終わってしまっていただろう……
「美春ちゃん! 取り敢えず落ち着いて! 落ち着いてってばぁー!!」
「そうです! 今は仲間同士で争っている場合じゃありませんよ!!」
「オネェサマァァァァァ!! ミハルノコノタカブルカンジョウハオネエサマニシカトメラレマセンワァァァァァァァ!!! クンカクンカ・ハァハァ! ヴェヘヘヘヘヘ!!」
もう清水にはまともな認識能力も無いらしく、彼女の言う”お姉さま”との唯一の共通点、”貧乳美少女”と言うだけでしかない工藤がいきなりターゲットにされて襲われる。
「ちょっ、美春ちゃん! ボクは美春ちゃんのお姉さまじゃないって! 明久君も黙ってないで助けてよ…… って、なんでそこのチビっ子と朝比奈君の目を隠す方に終始努めようとしているの!?」
「ごめん工藤さん。 今の彼らにはまだこの手のエロは速い気がするんだ。 まずは普通の異性同士のエロから始めるべきだと……」
「だったらそんな状況に追い込まれる前に何とかしてくれればいいじゃないか、吉井君のバカぁ~!! キミはボクがどうなっても良いって言うの…… って、だから美春ちゃん!その手つきなんかいやらしいから…… ひゃあああああぁぁぁん!」
「な、なんか……」
「あのネーチャン達の声だけでとんでもない事になっているって事だけはわかるっす……」
一応目は塞がれても”声”ははっきりと聞こえてしまっている雪丸と朝比奈は顔を赤くしながらも気を使って可能な限り聞かないようにしてあげてはいた。
だが二人共に鼻血が出てしまっているあたり、時折耳に入ってしまう声だけでどんな事態になっているかは容易に想像が付いたようだ……
「と、取り敢えず自己紹介がまだだったよな! オレ、”朝比奈悠太”ってんだ!」
「あ、朝比奈!? ねぇ、もしかして君には葵って言うお姉さんがいたりしないか?」
「え!? 姉ちゃんの事知ってんの? オレ、葵姉ちゃんの弟なんだよ!!」
少年の自己紹介で驚きが隠せない明久。
まさか、希望ヶ峰学園でのクラスメイトの身内と出会う事になるとは思ってもいなかったからである。
「そ、そうなんだ…… 僕は吉井明久。 訳あってこんな格好だけど歴とした男だから……」
「はぁ!? 何冗談を言ってんだよ? 何処からどう見ても女の人にしか見えないって」
「へぇ…… 信じられないんだ? だったらちょっとこっち来てもらってもいいかな?」
「え? いいけど……」
なかなか明久が男だという事を信じられない朝比奈(弟)の為に、明久は一度隣の曲がり角に移動する。
それについて行くように朝比奈(弟)も移動する……
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ………………!!』
「「!?」」
曲がり角の先からいきなり響くのは朝比奈(弟)の悲鳴……
「どう? これで僕が男だって分かったでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
すっかり放心状態の朝比奈(弟)。
しばらくは女性不審にでもなりかねないような、完全に死んだ目をさせている……
「あんな恥ずかしい姿を見せちゃってごめんね雪丸君…… ボクの名前は”工藤愛子”、好物はシュークリームで趣味は…… スッ…(何かを取り出す音)『お願い工藤さん! 僕にお尻を見せて←(明久ボイス)』とかかな」
仕返しとばかりに、強化合宿の時に使っていたボイスレコーダーをいつもの笑顔で取り出して雪丸達に聴かせる。
「吉井のアニキ、何とんでもねー内容ぶちまけてんですか? 俺ら軽く引いてるっすけど……」
「うあああああぁんッ! それ強化合宿の時のォォォ!!」
予想外の行動に物凄い涙目になってしまった明久が、どうにか工藤のボイスレコーダーを奪おうとしているのだが、簡単に逃げ続ける彼女から奪い取ることは不可能だった……
「明久君! なんで工藤さんのお尻を見たがるんですか! 見たいなら私のを好きなだけ見ればいいじゃないですか!!」
「姉御も落ち着くっす! なんでアニキの首根っこ捕まえながらどこかに行こうとしてるんすか!! 捕まえて無い方の手でスカートに手を掛けてるんすか!?」
どうやら雪丸の中で姫路=姉御で定着したようである。
合成音声だという事に今だ気が付いていないのか、姫路は自身のスカートに手を掛けながら明久を引き摺ってどこかに行こうとしている。
「瑞希さんも誤解なんだ! あの時の僕にそんな気は無くてただ純粋に『お尻が好きって言うだけ』 待って! なんで僕を引きずっていく力が上がってるの!?」
「明久君が望むのなら私のお尻どころかアソ……」
「工藤さん! 清水さんを止めなかった事に関しては謝るからいろんな意味でもうやめて!! このままじゃR18的な危ない展開になっちゃうよ!!」
「にゃはは…… ちょっとやり過ぎだったかなぁ……」
姫路の行動に苦笑いしか出来なくなってしまった工藤。
明久を連れてどこかに行こうとしてしまっている姫路の暴走を止める為にどうにか話をしてようやく明久が解放された。
こうして工藤による明久への仕返しも済んだ所で、ひとまず目的地である塔和大橋まで移動する事になった。
…………今だ目が死んでしまった朝比奈(弟)引きずりながら。
塔和大橋までもう少しである……
明久side end
「……後は ……この橋を渡るだけ」
「腐川さん、やったね! わたし達もう少しで助かるんだよ! 雄二さんも翔子さんもありがとう!!」
現在、こまる達はモノクマキッズの試練やモノックマンと呼ばれる謎解きゲームに付き合わされながらも、塔和大橋に到着していた。
ほとんどの謎解きは雄二や翔子が解いていたのだが……
「そう…上手く行くかしら……」
「……え?」
「い、嫌な予感がするのよ… この橋は……そこはかとなく危険な香りが……」
「だけど、それが何なのかは分からねぇ訳だろ? どんな予感がしていようが、一度それが確信に変わる様に確認しねぇと何も変わりやしねぇだろうが」
「……ここは一度先に進んで確認すべき」
お互い意見が合わずに足止めを食らってしまう。
そんな時だった……
「おーい! そこの皆ー!!」
議論している彼女達の前に現れたのはこまる達と同じように大橋を目指して到着した明久達だった。
このメンバーの中で一番足の速い朝比奈(まだ目が死んでる)と明久(相変わらずメイド服)が先行し、その後から他のメンバーが付いてくる形である。
「お、おい……まさか」
「アアアアアアアア、アンタはァァァァ………」
雄二達は驚きを隠せず、腐川は”ある人物”を見たショックで気絶してしまう。
「あ、雄二だ…… 雄二じゃないか!!」
「おう明久! 相変わらずの間抜け面だな!! とうとう女装趣味にでも目覚めたのか?」
「そんな訳ないじゃないか雄二! そっちも相変わらず霧島さ…… おっと、たしか雄二と結婚していたから……」
「……霧島でもいい。 ……そっちでもまだ通ってる」
翔子の優しい嘘に若干だが明久は涙が出て来てしまう……
『さすがにそこまでバカじゃないし…… って、「超高校級のバカ」って呼ばれてたっけ……』と内心では思ってしまっているあたり自覚はある様だが……
「ちょっ! ”坂本”翔子さんでしょ!! いくら僕がバカでもちゃんと覚えてるよ!!!」
「……吉井が素直に祝福してくれてる ……そこまで話が行ってるなんて」
「希望ヶ峰学園製シェルターに避難する前だったでしょ!? 雄二との結婚式って」
「……今のは試しただけ」
「僕が本物かどうかすら疑ってたの!?」
「……希望ヶ峰学園に避難していたはずだったから」
「あの中でのコロシアイ生活見て無かったの!! 全国放送されてたよね!?」
「……ずっと雄二と一緒だったから途中までしか見ていない ……生き残れるなんて思っていなかったから」
どうやら、雄二達文月組は途中までしか見ていなかったようである。
この問答のせいで雄二に殴りかかろうとしていた明久は行動に移すタイミングを完全に逃してしまっていた。
「あ、あの…… ちょっといいですか?」
先程まで明久達の会話を聞いて唖然としていたこまるが、おずおずと明久に話しかけて来た。
「ん? キミは?」
「わたしは苗木こまるって言います。 あの、一応確認なんですけど…… 明久さんって…… ”男”ですよね?」
「うん、そうだよ。 最初来ていた服がボロボロになりすぎて着る事が出来なくなっちゃったから仕方なくねっ!」
くるりと一回転した後で右目をパチリと閉じてウインクをしてしまう明久だったが、その行動のせいでこまるも若干反応に困り始めている。
「それで、明久さん達もこの橋を目指してこの街から脱出しようとしているって言う事ですか?」
「うん、この街で探していた人にも再会できた事だし、一度皆を未来機関の人達に保護してもらえる様に連絡を取らないといけないしね」
「確かにその通りかもな。 よし、ここは大急ぎでこの街から出るぞ! 喜ぶのはそれから……」
雄二の指示で急いで橋を渡ろうとした時だった。
先程まで気絶していた腐川が
「意外と家庭的な殺人鬼でーす!」
ジェノサイダー翔として覚醒した腐川が突如明久に襲い掛かったのである。
「ギャハハハハ! 女装少年はぶっ殺C-ッ!」
「ちっ! ジェノサイダー翔か!!」
どうにかジェノサイダー翔からの攻撃を姫丸で防いだが、ジェノサイダー翔の猛撃は今だ続いている。
「明久ァ!! 一体どういうことだ! なんでジェノサイダー翔はお前に襲い掛かってるんだ!?」
こまると坂本夫妻は腐川(ジェノ)の不意打ちに驚きを隠せなかった。
先程までは卑屈な態度を取りながらも協力してくれていた彼女が仲間であるはずの明久を殺しにかかっている意味が全く理解出来ないからだ。
「事情は後で話す! 雄二、瑞希さん達を連れてこの街から脱出してくれ!」
「明久君、そんなの嫌です! 私も明久君と残ります! せっかく再開できたのにまたお別れなんて…… そんなの絶対に…………」
勇気を出して前に出ようとした姫路だったが、彼女の足元には数本の鋏が投げ飛ばされていた。
ジェノサイダーから”邪魔するなら両足切断させてでも動けなくさせてやる”と言う意思表示でもあった。
「さっさと行けよ乳女。 でないとこのバカの前で切り刻んで切り刻んで切り刻んじゃうわよ?」
その言葉はジェノサイダー翔の”こだわり”からくる言葉でもあった。
今、ジェノサイダー翔の殺意は全て明久への一点に集中しており、ここで大人しく引きさがってくれないと明久も満足に戦う事も出来ないのである。
「くっ、ジェノサイダー翔! てめぇ、後でゆっくり問い詰めてやるからな! 姫路、ここは明久を信じて先に脱出するぞ!」
「嫌っ! 坂本君、離して下さい! 私はもう…… 明久君と会えない日々なんて耐えられないんです! お願いですから、私も明久君のそばに……」
明久と二度と離れたくないと抵抗する姫路。
しかし、そこから姫路の言葉が続く事は無かった……
「……吉井、彼女の事は任せて」
「翔子、そのスタンガンどこから持って来たんだ?」
「そ、それは美春のスタンガン! いつの間に取ったんですか!?」
元々無断で借りっぱなしにするつもりもない翔子はすぐに清水にスタンガンを返した。
ひとまず、気絶させた姫路に関しては工藤が背負っていく事になったようで、先に向かった雪丸・朝比奈・こまるに続くように追いかけて行った。
「ふーん、それでこんな明らかに目立つ大橋を渡って脱出しようって話になっているって訳?」
「そうだよ、今の所ここしか脱出方法なんてないし、一刻も早く安心させてやりたいから……ねっと!!」
明久はジェノサイダー翔の攻撃を尽くかわしながら姫丸と南風を使いこなしながら反撃していた。
今、ジェノサイダー翔は雨の様に降り注がせて鋏を投げ込んでおり、ギリギリで躱し続けている明久の体力を消耗させる作戦のようである。
「オマエ等さ、正真正銘のバカ共の集まりなんじゃないの?」
「何がさ? 普通に考えて脱出路があるなら使うに決まってるじゃないか? それよりもいくら僕が『女装させられている所をで騙された』からと言って僕を殺そうとするのやめてよ! 出て来る度に付きまとわれたら迷惑なんだけど?」
「だーって、吉井君の女装姿ってメチャ萌えるし! そう言う男って超萌える容姿ってのが相場で決まってんのよね! そう考えたらメチャぶっ殺したくなっちゃうんだもん♡」
恍惚とした笑顔ではっきりと言い切ったジェノサイダー。
「可愛く言ったつもりでも全然可愛くないからね。 このメガネブス!!」
「まー、ぶっちゃけかわいいつーか、超美人系だしねアタシ! ギャハハハハハハハ!!」
「無駄にポジティブすぎて気持ち悪い!!」
無駄におしゃべりが過ぎるが、この会話は戦いながら行っている物である。
ジェノが鋏を振りかぶって来た時に振り抜く前に後ろに下がりながらも南風の衝撃波で吹き飛ばしたり、鞘に納めたままの姫丸を叩き付けて気絶させようとしていた明久だったが、意外とジェノサイダー翔の機動力は高く、なかなか思うようには当てられない。
「話を戻してやるけどよぉ~、あそこまで明らか様過ぎて逆に不自然な脱出路、
そこまで言われてようやく明久も気が付いたようだ。
記憶を共有しておらず状況をきちんと把握できていないジェノサイダー翔でも冷静になっていれば気が付いた事である。
もし、これがコドモたちにとってゲームだとしたら、今のこの状況は……
「まっ、アタシには関係ねーけどな! 今はずーっとアタシの殺人術から逃げ切って見せてる女装バカをぶっ殺すだけだし?」
「今の状況でそんな事を言ってる場合か! ジェノサイダー翔、決着を付けたいって言うのならまた後でつけてやる! だから今は姫路さん達を助けに……」
「おいおい、アキ君よぉ~? 試合かなんかと勘違いしちゃってんじゃねーのか? アタシは”殺人”がしてぇんだよ。 食べたい一流のラーメンを気分で食べるのと一緒なの!」
明久は必死になってジェノサイダー翔を説得しようとするが、まったく話を聞いてもらえない。
このままでは勝ち負けはともかく、何かしらの罠に引っかかったかもしれない皆の元に向かうのは不可能である。
「ま、ここでアタシにであった事を後悔しな!!」
こまるside
「おい悠太! もう少しで脱出できるぞ! 街の外に出たらオレが”メチャエロい写真”を見せるっす! これで女装男子の悪夢なんて上書きしてしまえばもう安心っす!」
「……本当なのか?」
「ああ、本当っす! ここから出られたら、外にはオレの秘蔵のコレクションがあるからそれを見つけだしてお前にも見せてやるっすよ。 これでアニキに惚れたつー事を忘れてスカッとするっす」
その写真がまさか”アキちゃん・ちーたん・秀吉”の写真であるとは全く思っていない朝比奈だったが、雪丸に励まされ、完全に立ち直って見せた。
死に体同然で気力の大半を失っていた彼も本調子になったのか、先程までとは全く違う陸上部としての脚力をいかんなく発揮して見せる。
「あの…… 雪丸君、朝比奈君に一体何があったの?」
「聞かねー方がいいぜ? 姉御から話を聞いた限りじゃあ、女としての自信を無くすらしいからよ……」
「あはは…… そうなんだ……(姉御っていったい誰だろう?)」
雪丸の一言に苦笑いで返すこまる。
なまじ言いたいことが分かるだけにかなり困惑しているようだ……
「ちょっと待ってよー! 二人とも速すぎるよ! こっちは気絶している人背負いながら走ってるんだから少しはペースを合わせてよー!」
「わりーわりー! でも、ようやくここまで来れたんだ。
この街から出たらまずは皆で集まってスポーツドリンク辺りで乾杯しようぜ!」
「いいね朝比奈君。 せっかくだし、マグロの目とかカンガルー肉とかもあったら出してもらおうよ」
「「「いや、流石にあんなひどい目にあった後でその選択はねーよ(無いです)」」」
「そんな! おいしいんだよ、マグロの目は!!」
自分の好物を真っ向から否定されてショックを受けるこまる。
朝比奈が赤面しているこまるをみて「あれ? なんだ、この気持ち……」と呟いてしまっているのを雪丸は見逃さなかった。
「急げ、こっちだ!! この橋を渡れば、塔和シティの外だ。 あのガキ共も追ってはこれねーはずだ!」
朝比奈が先行する形で橋を渡る皆。
だが、途中で朝比奈は足を踏み外したのか、下に落ちてしまいそうになる。
「な、なんだよこれ……」
「だいじょうぶかボウズ! 今引き上げてやるからな!!」
どうにか雄二と雪丸の二人で引き上げる事に成功したが、改めて橋の状態を見てみるとそこは酷いありさまとなっていた。
「嘘だろこれ…… 橋が、橋が崩れちまってるじゃねーか……」
爆破でもされたのだろうか? 大橋は完全に崩れ落ちてしまっていた。
「そ、そんな…… どうにかなんないの……」
愕然そしてしまう皆……
だが、コドモが仕組んだ絶望はこの程度ではなかった……
「なっ! あのガキ共、この橋を爆破して俺らを一網打尽にしてやろうって作戦かよ!!」
「腐川さんが言っていた嫌な予感ってこう言う事だったんでしょうか!?」
こまる達の立っている橋が、突如大きく揺れ始めたのだ。
「そんな事を今考えている場合ではありませんわ! 急いで戻りますわよ!」
清水の声と共に大急ぎで、来た橋を戻る皆。
だが、橋が爆発を繰り返す中、計ったように封鎖したトレーラーが設置されてしまっており、なかなか戻れずにいる……
こまるside end
明久side
「おろろ? なに、あの爆発?」
「マズイ!! このままじゃ瑞希さんや皆が!!」
大急ぎで助けに向かおうとする明久だが、ジェノサイダー翔はそれをさせまいとするように鋏を投げ飛ばす。
「邪魔するな、ジェノサイダー翔!!」
「いや~ん、そんな女装姿でキレてもむしろ萌え? 的な感じですし~?」
「……上等だよ。 そこまで邪魔したいっていうんなら10秒でケリを付けてやる!」
「よっしゃぁ! これで希望ヶ峰学園からの因縁にケリを付けられるぜ! ギャハハハハハハハ!!!」
「そっちが勝手に因縁つけて来たんだろ! 付き合っていられないから10秒で終わらせる!!」
邪魔し続けるジェノサイダー翔を倒すべく覚悟を決めた明久。
最早ジェノサイダー翔を止めるのではなく最悪”殺す”覚悟すら持ってしまった明久は、今度は完全に抜身の姫丸と”噴”の言刃を装填した南風を構える。
「それは怖えぇな ……っと!!」
宣言通りに明久が速攻で繰り出してきた姫丸の突きを横に避けたジェノサイダー。
「おっ?」
次に手元を返し、南風から発せられるモノクマをも粉々に砕く衝撃波を発して、その反動で自身を回転させながら加速させて切り掛かる。
刀でガードさせて、その後のハンマーによる武器破壊、もしくは叩き飛ばして決着を付ける作戦のようだ。
「バカにしては珍しく頭使ったじぇねぇか? ド雑魚のくせによぉ~?」
「僕だって成長してるんだ! ここで退いて腐川本人に戻れ! じゃなかったら今回のアンタの暴挙、容赦しないぞ!」
鋏を数本破壊する事に成功し、そのまま吹き飛ばされたジェノサイダー。
追い打ちをかけるべく、ドン!と地面を蹴って突っ込んで行く明久……
が、内心では(14支部を出て行く前に読んだ漫画の作戦とセリフをパクっちゃったけどバレてないよね?)などと思っていた。
「もらった!!」
ジェノサイダーの後ろを取り、とどめを刺そうとする明久……
この調子でいけばジェノサイダー翔を倒し、コドモ達に襲われている仲間を助けに行く事が出来るだろう……
「”もらった”とか思っちゃった? 甘いんだよ? ギャハハハハハハハハハハハハァ!!」
”この調子でいけば”の話だが……
あくまで明久が破壊した鋏は”数本だけ”なのである。
ジェノサイダー翔の熟練度ならば、後ろに回り込む一瞬の隙に予備の鋏を取り出すくらいは訳が無かった。
「しまっ……!」
このままでは全身を鋏で刺される…… どうにか防ぐか避けようとする明久だが、南風によるハンマーの加速が発動してしまっており、防御や回避に転ずる事が不可能になってしまっていた。
死を覚悟した明久は一瞬だが目をつむってしまう。
この一瞬の間で彼は走馬灯と呼ばれる一生の記憶のリピート現象を体験してしまっていた……
「あ、あれ……?」
だが、いつまでたってもその死の瞬間がやってくることが無かった……
勢い余って数メートル先まで飛んだ後、転んだ衝撃でつい目を見開いてしまった明久。 その眼の前に映っていた光景は……
「これはこれは冬子お嬢様、これは一体どういった騒ぎですかな?」
「あ、あたしにも何がどうなってるのかがさっぱりで……」
「ジェノサイダー様が出ているからどういうことかと思いましたが、やはり覚えていらっしゃらないようですね……」
執事服を着て腐川の事を”お嬢様”と呼ぶ、厳つい風貌の老人と……
「あ、あそこでバカなお兄ちゃんが女装してるですっ!」
中学生ぐらいだろうか? 天真爛漫を絵にかいたようなツインテールの少女がそこにはいた……
明久side end
老執事と少女と言う異彩なコンビが出て来たのとほぼ同時の事だった……
「はぁ…はぁ……」
「さ……流石に死ぬかと思ったぜ」
「あのクソガキ共! 今度と言う今度はもう容赦しません!」
崩れ去っていく橋から、こまる・朝比奈・雄二・翔子・雪丸・工藤(姫路)・清水の順番で脱出してきた。
「全くもう! ボクらじゃなかったら死んでるよあんなの!」
「……なんとかみんな無事だけど」
「これじゃあ…橋を渡るのは完璧に無理だな」
「マジかよ……これじゃあもうこの脱出ルートは完全に使えなくなってしまったっつーわけかよ……」
「失礼、貴方達はもしかして、この橋を使って脱出を試みていらっしゃたのでしょうか?」
皆が愕然としている中、いきなり老執事が話しかけて来た。
いきなりの事で皆、困惑してしまう。
「ああ自己紹介がまだでしたね。 私は十神財閥で執事を務めておりました”アロシャイス・ペニーワース”と申します。 以後お見知りおきを」
ぺこりと頭を下げるアロシャイス。
皆、彼の礼儀の正しさについ素直に自己紹介を進めてしまう。
あの普段調子のいい工藤でさえ真面目に自己紹介をしてしまう程だ……
「はっ! あっ、あの! 明久君は? 明久君は大丈夫なんですか!?」
自己紹介をしている間に気絶させられていた姫路が目を覚ます。
状況が分からずに若干だが錯乱気味である。
清水と翔子が状況を説明する為に少し離れた場所で事情を説明する事にした……
アロイシャスにはこまると明久が事情を説明するようだ。
「そうでございましたか。 しかしバカなお兄様も災難でしたな。 ジェノサイダー翔様からあんな目にあわされてしまって……」
「何気に葉月ちゃんの影響受けてるよねこのジーさん……」
一体何があったのか?この老人、かなり葉月ちゃんの影響を受けているようである。
「しかし、橋から脱出するというのはあまりいい判断だとは思えませんですな。 今回の事件が普通のコドモの範疇であったならば普通に脱出できたのでしょうが、このように街一つを掌握する事が出来る者達が相手となりますと、明らか様な脱出手段はすぐに潰されてしまうでしょう……」
「まさかここまでやっているとは予想外だったぜ。 俺の考えは『倒れている車やバスの中に大量のモノクマの伏兵を配置して置いて脱出できないようする』っつー感じだったからな……」
「それでは雄二様、今回のあなた方の様に集団で攻め込んだなら多少強引になるでしょうがうまく突破されてしまうでしょう。 それでなくとも橋を封鎖する為にかなりのモノクマを配置しなくてはなりません。 それでは街中で隠れ潜んでいるオトナの抹殺と言うコドモ達の目的達成に大きな支障をきたしてしまいます。 そんな無駄な労力を使うくらいなら、いっそ脱出できないように橋を完全に破壊してしまった方が分かり易くて速いでしょう。
逃がすつもりもないという意思表示にもなりますしな……」
結局はコドモと油断ていた事、それが今回の失敗であった。
それをはっきりとペニーワースに指摘された事でさらに落ち込んでしまう。
正直、ペニーワースとしては危険を顧みずに行動した勇気だけはほめてやりたいという気持ちはあった。
だが、これほどの危機的な状況下では”良くやった”などと少しでも思ってはいけないという事を分かっていた為に、執事としての姿勢を崩さぬようにしながらもうまく否定するしかなかった……
「いや、まだだ! オレはまだ諦めねーぞ!」
「い、一体どういうつもりですの!? そんな大声出して!」
その一方では、奮起する朝比奈の大声に驚いた清水。
その朝比奈は何を思ったのか、準備運動を始めている。
「何つーか…… ここまで絶望的な状況が続くと腹をくくるしかないっつーか……
やっぱさ、自分がやり切る事をやらねーと、こういう状況はどうにもなんねーよな」
「何やってるの?」
「決まってるだろ、泳ぐんだよ!」
朝比奈の答えに驚く皆。
当の朝比奈は分かり切った事を聞くなと言わんばかりの顔だ。
「オレ、泳ぐ方はあんまり自信が無くってさ…… って言うか、姉貴がすごすぎて自信無くして避けてたっつーか……」
「ああ、朝比奈さん凄かったもんね…… 水中限定なら僕でも逃げられる自信が無いよ……」
明久が納得したように首を振る。
どうやら彼も朝比奈(姉)と水泳でなにかあったようである……
「そうだろ? でもそんな事を言ってる場合じゃねぇよな! ビビってる場合じゃねぇもんな!!」
「で、でも泳ぐって言っても向こう岸までかなりの距離があるよ?」
こまるも心配なのか朝比奈の事を止めようとしている……
「…だな、結構しんどそうだ」
「あ、あのね…… この辺の水温は思った以上に冷たいし、環境汚染とかで変な生き物だって……」
「そっか、なら気を付けねーとな」
だが、本気の覚悟を決めているようで、こまるの制止にも全く意に介していなかった。
「そう言う事を言ってるのではありません。 冬子お嬢様はやめた方が良いと言っているのですよ」
「そうです! さっきから声を掛ける機会が無くて困ってたですけど、なぜか葉月、まだ何かある様な気がしてならないのです! 本当にやめた方がいいです、水泳バカのお兄ちゃん!」
「水泳バカ? オレは陸上部だぜ?」
「……とにかく、考え直すなら今。 ……さっきまで橋に突っ込む側だった私が言うのも変だけど、流石にこれ以上は危険すぎる」
「翔子さん、心配してくれんのはありがてーけど、オレはもう決めちまったんだ」
「聞く耳はもう無いっつ~訳か」
翔子にまで止められてしまった朝比奈だが、それでも決意は全く変わらない……
「ならボクも行くよ、朝比奈君」
「「工藤さん!」」
「なら万が一の事を考えてボクも付いて行くよ。 これでも元は水泳部だし、こんな状況が当たり前みたいになってる今でも朝比奈君に付いていく位なら余裕だよ?」
朝比奈に続くように準備運動を始める工藤。
どうやら彼女が朝比奈のサポートに回る事で万が一の事態にも対応できるように付いて行く気である。
「……愛子? ……本気?」
「本気だよ翔子ちゃん。 大丈夫だって、絶対にうまく行くからさ」
いつもの飄々とした口調で軽く答える工藤。
だが、彼女の目をよく見てみると本気である事がうかがえた。
「で、向こう岸に着いたら”未来機関”ってのに助けを求めたらいいんだよな?」
「向こう岸に着けたらボクらが意地でもその人たちを連れて来るから、それまでテキトーに待っててね」
そして二人は、崩れ去った橋の入り口に進んでいく。
泳ぐ上でベストコンディションとなった朝比奈と工藤は深く深呼吸をしている。
「あ、朝比奈君……工藤さん!」
「…ん?」
「あはは、何かなこまるちゃん?」
朝比奈と工藤は心配そうに自分を見つめているこまるの方に振り返る。
「あの……気を付けて下さい。 本当に無理だと思ったら……すぐに引き返して下さい」
あまりに不安気なこまるに対し、二人は「任せとけ」と言わんばかりのまぶしい笑みを向け、地平線の彼方へと自らの顔を向けた。
そしてある程度橋に近づいた時、こまる達を振り返らずにこう言い切った。
「心配いらねーって! 意地でも向こう岸まで泳いでやるさ!」
「そうだね朝比奈君! 急いで未来機関の人達に来てもらおう! (そして、何処にいるのか分からないムッツリーニ君も見つけてもらわないと……)」
途中から『後ろがなんだか騒がしいな?』と思う二人だったが、決心した事が揺らぐ前にさっさと始めようと思った為に話を確認もせずに橋の前に立つ……
明久side
その一方で明久は……
「……瑞希さん、みんな、一旦此処を離れよう」
「明久君?」
明久は何を思ったのか、姫路の手を取って橋から離れようとしていた。
「何でっすかアニキ?」
「どういうつもりだ? 今丁度あの二人が海に飛んでいこうとしている所だぞ?」
明久の言葉に驚いた雪丸。
彼の声で明久の様子に気が付いた雄二は明久に行動の意味を聞き出そうとした。
実際、雄二が指をさす先には準備運動を終えている工藤と朝比奈の姿だ。
「どうもこうも、もし僕の予想通りなら、この橋で出られる可能性に賭けるより言葉通り別の脱出ルートを探した方が良いって思うんだよ。 あくまでも予想で、その根拠も”コロシアイ生活での勘”としか言いようがないんだけど……」
「明久、お前なぁ……」
明久の発言に思わず頭を抱えてしまう雄二。
「分かった。 だったら明久、お前は念の為に別の脱出ルートが無いか調べて来い。 後、明久に付いて行きたい奴がいたらそいつも好きに連れても良いぞ」
「ありがとう。 所で雄二はどうするの?」
「俺はデコマルと一緒に残る事にする。 あいつとは”街を出るまでは力を貸す”って約束をしたからな。 まだ、きちんと脱出する事が出来ていない以上、ここで抜けたら約束を破った事になっちまうからな」
「ふ~ん、なるほどね」
『雄二も丸くなったな』と思いつつも、納得したようにうなずく明久。
「で、本音は?」
「翔子が今度トチ狂った時用の楯が欲しいと思っていた所だったんだ」
「翔子さーん、旦那さんが……モゴモゴ!!」
「バカ! 冗談でもふざけた事を言うな! 下手したら殺される!」
「プアッ! 男子ならいざ知らず、年下のしかも普通の女の子を盾にしようだなんてほざく外道は今ここで始末した方が良いような気がしただけだよ」
葉隠に勝るとも劣らないこの外道は一度始末した方がいいと本気で考え始める明久。
まだ使っていない新しい武器の実験台にしてみようと鞄の中を漁り始める……
「ま、まあ冗談はこのぐらいにしておいて、他の皆はどうする? テキトーに決めていいぞ」
どうにか本気で雄二を新武器の実験台にしようとしていた明久を数人掛かりで抑え、待機班と探索班の2チームに分けようとする雄二。
「……私もこまるちゃんと一緒にいる。 ……どうもあの子の事が心配だから」
「私もここに残ります。 島田葉月嬢、貴方はどうしますか?」
どうやら雄二と一緒に翔子とペニーワースは残るようだ……
「葉月はバカなお兄ちゃんに付いていくです! ここまで連れて来てくれてありがとうございました、ペ〇スのおじいさん!!」
「葉月ちゃん、その呼び方は今すぐ変えるんだ! アロイシャスさんが涙目になりながら向こうを向いてしまったぞ!!」
ペ〇スという単語の意味を必死になって教えられ、顔を赤くした葉月は土下座でどうにか謝り倒してどうにか許してもらえたようだ……
『純真無垢って実は怖いんだな……』と思い知らされた明久だった……
「もちろん私も明久君に付いて行きます。 もう明久君と離れるなんて嫌なんです! それがどれだけ危険な事であったとしても……」
「オレもアニキに付いて行くっす。 悠太との約束もあるけど、アニキ一人で女子二人を守りながら移動するのはしんどいと思うっす」
姫路と雪丸も明久に付いて行く気満々である。
「朝比奈の奴を応援しているデコマルと腐川は聞くまでもないとして……」
「この類人猿! 美春はこの豚野郎の方に付いて行きますわ」
意外なのは、清水が同年代の男子がいる明久チームの方に付いて行くと言った事だろう。
「(葉月ちゃんはお姉さまの妹。 お姉さまの性格を考えると、妹を置いて逃げるなんて事はありえません。 ならば、ここで葉月ちゃんの近くにいて守っていれば、ほぼ確実にお姉さまに会えます! お姉さまに再会したら、クンカクンカしながら抱きしめてあげます!)」
実際にはかなり酷い理由だったが……
「よし…… いや、あそこで覚悟決めてる工藤と朝比奈の事を考えると良くはねーが…… とにかく、明久チームは念の為に別の脱出ルート探しを頼む。 俺達はここで一旦待機して朝比奈と工藤の帰りを待つことにする!」
「了解! さあ、みんな行こう!」
「あの~…… 明久君……」
「何、瑞希さん?」
「清水さん達、既に歩道橋を渡っていますよ?」
姫路が指した先には、勝手に歩道橋を走っている清水と雪丸、少し遅れて葉月ちゃんが追いかけている姿がそこにはあった。
「何しちゃってくれてんだあのバカ共! 明久、あいつ等見失う前に急いで追いかけろ! 最悪ゲンコツでも叩き込んできてやれ!」
「雄二にしては優しすぎる気がするけど了解! 瑞希さん、行こう!!」
姫路の手を取り、大急ぎで追いかけて行く明久。
明久は『このメンバー、本当に大丈夫かな……』と思わずにはいられなかった……
ハイサイ! エアコンで完全に喉を傷めてしまった作者ですwww
エアコンを含めて、部屋はきちんと掃除しないとだめですね……
絶対絶望少女を再プレイしながら調整を繰り返したはいいが、結局長さを区切る事が出来ずにかなり長くなってしまいました。
だが反省も後悔もしていないwwwwww
因みに今現在の明久君の装備をRPG風にまとめると……
武器
右手、日本刀”姫丸” 左手、スレッジハンマー”南風”
防具
普通のメイド服
と言った所でしょうか……
もし必要なら全員の装備を簡単にまとめてみようと思うのですが、いれた方がいいでしょうか?
入れたほうがいいならメッセか感想にでも書いてくれたら幸いです。
感想待ってまーす!!
PS.こまるちゃんの設定の変更とキャラクタープロフィールを追加しました!