セシリア・オルコットは悩んでいた。その中には勿論、一夏へ対するアプローチに気がつかれていないということも含まれているが、それよりももう少し深刻な悩みであった。
自分の腕のことであった。
両親を亡くし、一人で生きてきた。だから、自分は強くならねばならない。だれよりも強くなり、誰も失わないように高見を目指していかねばならない。
そして、彼女はイギリス代表候補生まで上り詰めた。
ブルー・ティアーズとともに。
「私は・・・」
時折、訓練後の空を見ていると一人で思うことがあった。
一夏との対戦であった。
男を獣として見ている彼女にとって一夏のような存在は当然、刺激的なもので自分の考えを改めさせるような人物であった。
好きになってしまったが、同時に彼自身の才能に少し恐怖してしまって自分もいた。幾ら、油断していたとはいえ、自分自身をあそこまで追い詰めるなんて。
とてもじゃないが、二回目の起動とは思えなかった。
今まで努力して上り詰めた自分にとって一夏という存在は同時に恐怖の対象でもあったのだ。
そして、毎回思うのだ。自分は弱い、と。
ビット攻撃では自分は動くことは難しい。未だレーザーを曲げたこともない。何がイギリス代表候補だ。何がスナイパーだ。
心の中で渦巻く自分自身の闇を彼女は抱え込むので必死であった。
「あーらら、セシリアか。こんな時間まで訓練?やるねぇ」
と、調子のいい感じで出てきたのは千早だった。少し感傷に浸っていたセシリアにとって突然の客人はかなり驚いた。
呼吸を整えて千早に向かう。
彼もISスーツを着ているので彼自身も訓練後だったというのが分かる。
「あら、ごきげんよう。千早さんでしたか。あなたもこんな時間まで?」
「まぁな。俺は一夏と違って頭しかねーから、こうして地味に努力するしかないわけ。代表候補生ならわかると思うんだが?」
「そう・・・ですわね。ISとはいわば兵器。そんな兵器をズバズバと使う一夏さんは、とても才能が・・・・・ある・・・・・ん・・ですわ」
言葉を紡ぐたびに彼女は力なくしていく。
千早は最近のセシリアの変化に気がついていた。
「おいおい、大丈夫か?」
「も、問題ありませんわ!わたくしは・・わたくしは強くなるのですから!」
そう力強く叫んだセシリアは軽く頭を下げて歩き出した。強がり、強情、嫉妬、劣等感、悲哀、そのような色々な感情が彼女の中で渦巻いている。
千早はそう感じた。
「どこが問題ないんだよ。ありまくりじゃねーか」
コンコンとドアを叩いたのは俺がラウラのパジャマ姿に興奮して抱きつこうとした時であった。
折角の楽しみを邪魔された俺は気分悪くしながら部屋のドアを開ける。
「あっ、千早。今、大丈夫か?」
一夏であった。
「・・・・・却下する」
「えっ!?おい!待てよ!」
ドアを閉めようとするのを一夏が阻止して、俺の腕を掴んだ。しかし、そんなものは関係なしに俺はガシガシとドアを閉めるのだが、一夏がなかなかそれを許してくれない。
「ちょっと、頼むって。マジでヤバイことが起きたんだって」
「・・・ヤバイこと?」
一夏のその本気の声に俺はドアを閉めるのを止める。
「ヤバイって何が?」
「・・・ここじゃぁ、少し無理だ。兎に角、俺の部屋に来てくれ。そしたら全てが分かる」
「・・・・・不本意だが」
仕方ないと思い、俺は一度部屋を出る。一夏の部屋はすぐそこなので数歩でたどり着いた。
ったく、なんで俺なんだよ。まぁ、確かに一夏とは少ない男子友達ではあるが、それでも一夏の部屋にはデュノアという坊ちゃんがいるんだ。
そいつに頼めっての。
あー、ちょっとイライラする。
熱くなりかけている頭を少し冷ますように呼吸を整えて、一夏の部屋に入った。すると、そこにはデュノアがモジモジしながらベットに座っている。
心なしか、おっぱいがある。
「それで、どういった話なんだ?」
「・・・えっ、いや、シャルルのことなんだが。見て、わからないのか?」
一夏の言葉を聞いてデュノアを見た。うん、いつも通りだ。
「おっぱいが何故出ているかは知らないが、いつもどおりだろ?」
「えっ!?いや、違うんだって。シャルルは実は女だったらしい」
一夏からデュノアのおおよその事情を聞いた。
デュノアは妾の子であるらしく、IS適正があった為、父親に男装させられていいように使われているらしい。
目的は俺と一夏のISデータの入手。
いわばスパイということだ。
「ふむ・・・・で?」
正直な感想だ。俺とラウラの熱いスキンシップを邪魔しておいて、この程度の話をする為に俺を呼んだのか?
あぁ?
「でっ・・て、千早!お前何か思うことはないのかよ!」
「そう言われてもな。何?今まで頑張ったね?かわいそうだね・・・なんて言えばいいのか?」
だから、なんだという話なのだ。デュノアの事情は分かった。かなり激動な道を歩いてきたのだというのはよく分かった。
デュノアほどではないが、俺も似たようなもんだ。
だが、違う。
俺は俺の力で今まで生きてきた。そして、これから。だからだ。
「結局、悩みを打ち明けて、だからなんなんだ?ああ、それはかわいそうだと思うよ。同情するぞ。だがな、デュノア。お前はどうしたんだ?」
「千早!」
「一夏!!」
一夏を上回る声で俺は名を言う。その声に二人は驚いたのかビクッと体を震わす。
「俺はデュノアに聞いているんだ。お前はデュノアか?」
「だ、だけど俺はシャルルの友達だ!」
「その友達がこいつの未来を選ぶのか?笑わせるな!」
ラウラの言うことはこういうことなのだろう。薄っぺらい友情などシリアスの前では無意味だ。すぐに人は人を裏切ってしまう。
だから一夏は簡単に言えるのだろう。確かに誰かを助けることは悪いことではない。だが、同時に俺たちにそれだけの力がないことは明白だ。
「先の未来のことも想像せず、何が助けるだ」
「あ、IS学園は企業とか国家には手出し出来ないはずだろう!」
「バカか!デュノアはデュノア所属の人間なんだぞ!血が通っている時点で俺たちがデュノアをどうにか出来る問題じゃないんだよ!仮にこいつが女に戻りたいって、それが向こうの会社にわかったら、家の関係とか言われて即帰国。スパイと発覚すれば、会社は全ての責任をこいつに押し付けて切り捨てる。ほら、全部想像出来るだろ?」
「だ、だったら!どうしろって言うんだよ!」
俺は一息ついて、デュノアに今一度向かった。
「もう一度聞く、お前はどうしたい?」
項垂れるデュノアはプルプルと震える。彼女の中でも様々な葛藤があるのだろう。会社の命令、父親の命令、やりたくもない男装をしてここまで来て、挙げ句の果てそれが発覚。
普通なら牢屋で何年間はいてもらわなければならない。それでも、彼女は殆ど会ったこともない父の為にここまできたのだろう。
嫌だったかもしれないが、選んだのは彼女だ。
当然、父親の責任でもあるが、彼女自身にもその責任はある。
「楽しかった・・・」
ポツリと言った。
「初めは凄く不安で、心配だったけど・・・一夏や千早と会えて、みんなと会えて一緒にISの勉強することが出来て、楽しかった。だから・・・だから、僕はここから出て行きたくない!ここでみんなと一緒に過ごしたい!助けて・・・森島君」
「・・・・なら、織斑先生に助けを求めろ。ブリュンヒルデなら保証はないがなんとか出来るかもしれん」
生徒を第一に考えるあの先生なら大丈夫だろう。きっと。
「それと、このロートは持っていけ」
そう言いながら俺のリヴァイヴのデータをデュノアに渡す。
「中身は見るなよ?それと、そいつは有澤工業からデュノア社へ対する正式な情報公開だ。スパイ行為じゃねーからな」
「うん・・・ありがとう、千早」
涙目で微笑む彼女は少しだけ安心に満ちていた表情であった。
「千早・・・・」
一夏が俺を呼ぶ。
「一夏、お前の言いたいことは分かる。だけど、現実を見ろ。俺とお前は所詮は一人の生徒だ」
「・・・・・・・」
「助けるなとは言わない。だが、もう少し周りを見ろ。そして、考えろ。なんとなくその場のノリとか、感覚だけじゃ出来ないことだってあるんだ」
それだけ言うと回れ右をして扉に向かう。外に出て扉を閉めようとすると、一夏が最後に「ありがとう」と、それだけ言った。
俺が何かした訳じゃない。やったのはただの情報を渡したのと提案だけだ。最終的にそれを手にとったのはデュノアだ。
俺じゃなければ一夏でもない。
きっと、これからデュノアはかなり忙しく大変になってくるのだろう。だが、望むものを手に入れるには血反吐を吐く覚悟をして挑まなければならない。
諦めてしまうようであれば所詮それはそこまでだったということを。
だけど、今のデュノアなら大丈夫だろう。
俺はラウラを抱きしめる為に再び歩き出した。
あれですね
一夏の才能に思い悩むセシリアちゃんでした。