「状況を説明する。二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル合同開発の第三世代機、シルバリオ・ゴスペル。通称、福音が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの報告があった」
専用機持ちたちに織斑先生はそう言った。
「情報によれば、操縦者がまだ残っているらしい。その後、衛生による追跡の結果、ここから二キロ先の空域を通過することが判明した。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対して対処することになった」
今から五十分。時間がなさすぎる。
「教員は学園の訓練機を使用して空域、海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもうら」
「は、はぃ!?」
作戦の要が専用機持ちだというのを聞いて、一夏はそんな声を上げる。
「はいはい、一々反応しない」
鈴音に言われて一夏は大人しく黙り込む。まぁ、確かに一夏の思うことは分かる。いきなり実戦を行えと言われても、一夏にとってはあまりにも突然のことだから。慣れていないだろう。
・・・いや、俺も十分驚いてるよ。
「それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手をするように」
「はい」
「森島」
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
織斑先生はいう。
「分かった。だが決して漏洩はするな。面倒なことになるかなら」
「無論です」
そう言うと織斑先生は福音のスペックを開示してくれた。そのデータは驚くものであった。
特殊射撃による広域殲滅を主目的としておいており、主兵装の銀の鐘は大型スラスターと広域射撃武器を融合させたもので、36砲口もある。
高密度に圧縮されたエネルギー弾を全方位へ射出することが出来、常時瞬時加速とどうとうの急加速が行える高出力の推進装置までついている。
「ふむ・・・」
チートか。
瞬時加速と同じぐらいの急加速って、俺たちが追いつける訳がなかろうが。
「私のISと同じ、オールレンジ攻撃が行えるようですわね」
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ」
「この特殊武装が曲者って感じがするね。連続しての防御は難しそうだね」
「このデータでは格闘性能が未知数。偵察は行えないのですか?」
「それは無理だな。このISは現在も超音速飛行をしている。アプローチは一回のみだ」
「ということは、一撃必殺の攻撃力を持ったISで当たるしかありませんね」
などと議論が進み、山田先生のまとめに全員の視線が一夏へとむく。
確かに敵が高速移動しているのならば一夏の白式が適任になるだろう。
「ただ問題は、一夏をどうやって連れて行くか。エネルギーは全部攻撃に使わないといけないから、移動をどうするか」
「目標に追いつける速度が出せるISでないとダメだな。超高感度センサーも必要だろう」
ふむふむ、それは確かにな。一夏は戸惑いの声もあげるも、全員が一夏へ対してツッコむ。彼以外に誰が適任がいるだろうか。
「織斑、これは実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」
その言葉に一夏は黙って考える。拳が握られ、表情が真剣になる。
「やります。やらせてください」
一夏のその言葉にどれだけの覚悟があるのかは知らないが、言った以上はやる。一夏はそういう男だ。
ならば、俺もやれることをやるだけか。
「よし、ならば現在専用機持ちの中で最高速が出せる者は」
「ちょっと待ったまーーーた!!ここは絶対紅椿の出番なんだよぉ!」
場所は移動して、誰もいない滝の岩場付近に集合していた。視線の先では紅椿の展開装甲と呼ばれる第四世代機の話を篠ノ之博士が自慢していた。
如何に本作戦に対して紅椿が有効であるが、どれだけのメリットがあるのかと説明していた。そして、全ての話を聞いた後に織斑先生はこう言った。
「それで、束。紅椿の調整にどれくらいの時間がかかる」
その言葉を聞いて俺は黙っていた口を開く。
「ま、待ってください!」
「なんだ?」
「紅椿でなくとも、セシリアのブルー・ティアーズならなんとか出来るかもしれません」
「ほう?」
「ブルー・ティアーズの高機動パッケージ、ストライクガンナーが送られてきています。こいつを使えば本作戦において無理なことではないと断言できます」
セシリアに視線を向けると、彼女はこくりと頷く。しかし、何故そのことを知っているだと疑問の目で見られてしまったが、今は無視しておこう。
「そのパッケージは既に量子変換してあるのか?」
「そ、それは・・・」
セシリアの表情から見るに恐らく量子変換はされていないのだろう。
「ちなみに紅椿なら七分で終わるよー!」
織斑先生の決断を決める一手が横からそんな風に入ってきた。その言葉を聞いて織斑先生は判断したようで、大きくいうのであった。
「よし、本作戦は織斑、篠ノ之の両名による目標の追跡、及び撃墜を目的とする。作戦開始は三十分後。各員準備に取り掛かれ!」
「なっ・・・・」
おいおい、嘘だろ。
俺は織斑先生を睨む。
何故実戦経験もない箒を出すのか分からない。確かに箒の使う紅椿は全てのISを上回る程の強力な存在である。
しかし、それはあくまでISであって、箒じゃない。ISそのものが強力だとしてもそれを扱う人間の経験値が不足していればたかが知れているというものになるのではないかと思う。
誰もが知り得ている、分かっていることであった。
「なんで・・・」
俺のその言葉は拾われることはなく、皆それぞれ散り散りになっていく。
遠目に嬉しそうに一夏と見つめ合う箒がいた。
そこには一夏の隣に立つことが出来たという達成感と、充実感が見て取れる。それを冷やかす篠ノ之博士。
その様子に俺がムシャクシャしたのは言うまでもないことであった。
そして、一夏と箒が福音と接触して十三分後。誰もが頭の片隅に置いてある予想が当たってしまった。