またいつもの夢だ。代わり映えのしない眠ると必ず見る夢
「ただいまー」おれが帰ってきた。この日は、親父が死んで一ヶ月ほど経った日だったそして、お袋が出ていった日でもある。
親父はかなり体が虚弱で、由良家の人脈と最新の医療技術をふんだんに使ってようやく生きていた。母親との出会いも病院だったそうだ。
(これはあとから泉美さんから聞いた)
手洗いとうがいをすませたおれがきた。最初の頃は止めようとしたり、目覚めようとしたり抵抗した時期もあった。だが、それらはすべて無駄であった。
ババアとお袋が話している。ババアがすごい剣幕でお袋にまくしたてている。お袋はただ項垂れているだけだった。何を言っているか聞こえず、壊れたスピーカーのように雑音がはいる。
「あんたは、§仝ΔΛΨησдξ―ない。だから、П¶μлоё@しなさい」
お袋は腹に手を置いて、下を見つめてなにかを考えているようだ。
「わかったら、この$%&¥をもってさっさとどっかいきなさい、この/*-231が」
そう言われたお袋は下とそれに交互に目を行き来させ、何度も手をだし何度も手を引っ込めていた。だが、最後にはそれを持っていた。
瞬間世界がはじけた。
朝目が覚めると、いつも通り夢見は最悪だ。全身汗だくで心臓は耳の横に置かれているようにドクンドクンと脈を打っている。しばらく体の不快感に身を任せ、落ち着いてきたからシャワーを浴びようとベットからからだを起こした。
「おはよう今日はどっちかなー?」
朝耳にするには少々うんざりするテンションの高い声を聞きながら風呂場に向かう。
「おはよう今日は俺だ。泉美さん」
この人は由良 泉美、《ゆら いずみ》俺の義理の母である。高校二年生なる義理の息子の前にこんなハイテンションで挨拶してくるくらい元気な人である、まったく年を考えて……。
「チョイヤ」
泉美さんのそばにあったティッシュペーパーの箱が頭に飛んできた。角に当たったらしく結構痛い。
「なにするんだよ!!」
「いや不穏な気配がしたもので」
おまけに勘も鋭いらしく、この人に嘘をつけたことが一度もない。なんともやっかいな人である。
「昨日は久しぶりにすぐ君だったから、いろいろお話ししようと思ってたのにー」
「あいつも、久々だったから色々つかれてたんだろ」
「じゃあ、スグちゃんでいいからお話しよ」
「”で”ってなんだよ”で”って。そんでスグちゃんいうな。なんであいつはすぐ君で俺はスグちゃんなんだよ」
「いやだってスグちゃん健気でちゃん付けしたくなるんだもん」
朝からかなり血管に悪い話をさせられたが突っかかっても俺に勝ち目はないので、無視して風呂場へ急いだ。
風呂から上がるとテーブルには朝食が用意されていた。パンとベーコンエッグそれとサラダ、由良家の基本的な朝食である。
「スグちゃんコーヒーはいかが?」
「いるか、なんでそんな苦いものを飲むのかわからない」
「えー、すぐ君は泉美さんの淹れたコーヒーすごく美味しいですっていってくれたよ」
「そこだけは、分かり合えるきがしない」
朝食もそこそこに俺は日記帳を開いた。あいつは昨日、綸に会いにいったようだ。綸は打ち合わせ通りにやってくれたようで概ね計画通りに進行している。
綸にメールをするともうお見舞いにいっているそうだ。俺は日記に書かれてある通りにグローバル接続を切り、病院へと急いだ。
病院に着くとロビーには朝の早いこともあり人が疎らだった。だが、俺はそこで衝撃的なものを目撃してしまった。なんと美少女とデブが直結していたのである。直結とは、《以下略》である。
つまり、あの二人が兄弟でもない限りあの二人は付き合っていることになる。もしあの二人が兄弟ならチビデブの弟(おそらく)にはDNAの呪いがかけられているに違いない。しかし、美少女の方は本当に楽しそうに表情をコロコロと変えている。(男の方はそんな美少女の変化にタジタジである)すると、急に美少女の顔が真っ赤になり勢いよく立ち上がった。
「なっ‼……なにを言うのかな君は」
「ひっ――すっすみません先輩」
確実にあそこだけ春が来ているようだ。
病室に入ると綸が輪太の手を握りなにかを話していた。
「……おはようございます……スグルさん」
「おはよう、綸」
「……やっぱり……スグルさん、でしたね」
「まあ、仕方がない今のあいつに心の傷に向き合う力があるとは思えない」
そう、三つ目の条件である心に傷があることつまりあの夢だ。このブレインバーストというゲームは寝ている間に人のトラウマによって、自分のアバターを決めるというなんとも鬼畜な仕様なのである。
「よっしゃあ、いっちょやってみるか確かバースト・リン「――ちょっと……待って、下さい」なんだよ」
「……まず、自分のアバターを確認しない……と」
「いや俺、説明書とか読まないでゲームするタイプだし」
「それじゃダメ……です、きちんと自分を見ないと」
確かに自分の心の傷をかたどったであろうアバターを確認するのは、今後のため必要なことだろう。
「わかったよ」
「それじゃあ、いきますね……バースト・リンク」(お前が言うのかよ)
その瞬間空気が割れる音がした。全てが停止した世界、赤茶色の石でできた洞穴の中に突如立たされていた。目の前にはずいぶんとごついバイクに乗った。黒のレザーに黒のヘルメット、フェイスは骸骨という派手なやつがいた。
「だれだーーーー、お前」
「あん、おめぇ妹に話をきいてなかったのか」
そういえば、綸は輪太のニューロリンカーを着けることにより性格や姿がかなりかわってしまうという話を聞いたことがある。(名前は《アッシュ・ローラー》というらしい)だが、ものには限度というものがある。まさか常時涙目で引っ込み思案な女の子がいかつい骸骨ライダーになってもいいだろうか、いや、ない。
「そんで、お前はリアルでそこに寝ていた輪太なのか、さっき輪のこと妹と呼んでいたが」
「……解らねぇ。少なくとも……オレがリアルの世界でマジモンのGPライダーやっていた記憶はねぇ。一番最初の記憶は……このデュエルアバター、妹が不器用に戦うのを見てるところだ」
「へえ……そうなんだー」
「オオィィィ、なんだそのどうでも良さそうな感じはぁ」
「いや、ぶっちゃけた話俺はかなり不安定な存在だ。そんな俺が、自分とは何かなんていう哲学者たちが考えても答えの出ないことを考えたって仕方ないってのが本音だ」
正直自分のことでいっぱいいっぱいなのに、野郎のお悩み相談なんてするきになれない。だが、情緒不安定の先輩として後輩に言えることがある。
「少なくとも、綸はお前のこと迷惑には思っていない」
「……なんで、そんなことがわかるんだよ……」
「お前は知らないかもしれないが、綸があんなに口ごもらずしゃっべたのを、俺は初めて聞いた。楽しかった。無我夢中になりすぎて三十分があっと言う間だったってな」
何やら目の前の骸骨さんは今言った一言に何やら考えているらしいが、そんなこより気になってしかたないものがある。それは……
「なんだよ……このアバターは」
それは俺のアバターの姿だった。自分でいうのものなんだがかなりかっこいい。身長はリアルの俺とあまり変わらず長身と言えるだろう。体のあちこちに突起があり、金色で埋め尽くされている。そして何よりも……
「なんかひかってるー」
そうこのアバター常に体をオーラのような物が纏っている状態、おかげで暗い洞穴の中でもはっきりと周りを見ることができる。まるでどこかのラスボスである。
「それで、どうやって確認するんだ?」
「OK、まずは……」
現実世界に戻ってきた俺はテンションが高かった。通常技に、《パンチ》と《キック》そしてアビリティと呼ばれるものに《オーラム・オーラ》(多分あの光ってたやつだろう)が、俺のアバター《ゴールド・リッチ》のすべてだった。アッシュいわく、おかしいらしい、というのも、アバターは同じレベルならば全て同じポテンシャルを持つらしい、だが俺のアバターは基礎能力も普通で弱すぎる、と……それがどうした。大方カッコよさに全てつぎ込んでしまったのだろう。
「……あの、大丈夫です……」
綸がなにやら言っているが聞こえない、俺は一刻も早くこのアバターで戦いたいその思いが俺の中で荒ぶっていた。
「バースト・リンク」俺は自分の気持ちに従いブレインバーストのコンソールを開いて唯一あった名前《シルバー・クロウ》に対戦を申し込んだ。
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