五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス) 作:エター
あまり小説を書かない上に、デアラの二次を書くのは初めてなので、期待しないでいただけると助かります。
前もって言っておきますが、狂三さんの出番はちゃんとある予定です。ただし、その前にエタってしまうかもしれませんが。
天宮市、来禅高校屋上
空間震警報が鳴る中、他の生徒のようにシェルターに逃げるのではなく、屋上に立ち尽くす男女が一組いた。
少女の名は、三笠 奏。空間震の原因である精霊を殺す、陸上自衛隊対精霊部隊の魔術師。
対する青年の名は、五河 士道。彼はごくごく普通の学生で、つい最近まで魔術師や精霊のことすら知らなかった一般人だった。
奏は、いつものように自衛隊の駐屯地に向かうため、人目のない学校の屋上でワイヤリングスーツを身につけようとしていた。士道は彼女の見送り、何時死ぬかわからない戦場へと向かう彼女を一言でも励ますためにそこにいた。
「さてと、今日も行ってくるよ」
「ああ、無事に帰ってくるのを待ってる」
二人としては何時もの会話、何時もの出陣前の風景。
奏はこのままいつものように出撃し、いつものように戻ってくる。
―――はずだった。
現場へと飛び立とうとした奏。
ふと、彼女は何かに気が付いたかのように空を見上げた。
「え? う、そ………そんな」
奏は、そこで視線を凍り付かせる。
空を見上げた彼女は、飛び立つことなくそこで足を止め、何か見てはいけないものを見てしまったかのように、呆然とした様子で声を上げる。
急に様子変えた彼女に不安を覚えた士道は、少し心配そうに声をかけた。
「奏? どうかしたのか?」
「いや、そんな……でも……」
士道の呼びかけにも応じず、困惑に瞳を揺らす奏。
しばらくすると、まるで何かを掴もうとするかのように、奏は空に手を伸ばし始める。
「奏?……奏!おい、しっかりしろ!どうしたんだ、何かあったのか」
「まさか、そんなことって……」
士道は、彼女を強く呼びかけ始めた。
奏が、天に伸ばした手を止める。
自身の言葉が届かないことを自覚した士道は、その様子を心配そうに見つめるしかなかった。
そして、奏は、天高くに伸ばした手を、何かを掴む様に強く握りしめる。
その様子を見て、士道はいぶかし気な表情を浮かべた。
何故なら、奏が伸ばした手には――当たり前のことだが――何も握られていなかったからだ。
「…………ああ、そういうこと」
しかし、彼女には何かがあったのだろう。瞳を絶望に染め、この世全てを呪うかのように吐き捨てた。
気配も、声に乗せる感情も、反転するかのように切り替わっている。
わずかな間ではあるが、士道には彼女がまるで別人のように見えてしまったほどだ。
尋常ではない奏の様子。
心配に思った士道は、そんな彼女に声をかける。
「どうしたんだ、何かあったのか」
「いや、なんでもないよ。ちょっとだけ、知りたくなかったことを知っただけだから」
いったい何を知ったのか、先程の行為をただ空に手を伸ばしただけとしか認識していない士道には、まるで見当もつかなかった。
ただ、今この瞬間に、何か良くないことが起こったことは理解できていた。
なにせ、今の奏はかつての五河士道の様だったから。
「なあ、奏」
「ん? 何?」
士道は奏に声をかけ、その言葉に答えるように奏は向き直る。
「俺は、奏と付き合い始めてから二ヶ月しか経ってないからか、奏のことをよく知ってるわけじゃない。普通のクラスメイトよりかは詳しいけれど、日下部さんみたいに詳しいわけじゃない」
「士道、急にどうしたの?」
急に真剣な様子になった士道に、奏は戸惑った様子で声をかける。
士道は、そんな奏に言葉を続けた。
「だけどさ、何も知らないわけじゃないんだ
だから――――」
「だから?」
奏は士道の話を大切な話なのだと認識したのか、真剣な面持ちで士道のことを見つめた。
「――だから、帰ってきたら一緒にクレープでも食べに行かないか?」
「………へ? クレープ?
………クレープってあの、お菓子のクレープ?」
「ああ、奏は好きだろ」
………二人の間に、静けさが訪れる。
「いや、なんで今そんな話するのさ」
「今だからだ。今しか無いと思ったからだ」
「………士道」
士道の言葉に、奏は僅かに驚いたかのように表情を変えた。
「だから、奏。今日帰ってきたら、クレープ食べに行こう。約束だ」
何気ない言葉、ありふれた約束。
けれども、その言葉には士道の奏の身を、心を案じる想いにあふれていた。
――――無事に帰ってきて欲しい、そんな想いに。
「あははは、士道らしいや。
うんいいよ、帰ったら二人で食べに行こうか」
奏の瞳からは、絶望は薄くなっていた。
奏がたった今知った事実は、碌でもなくて糞みたいな事実だった。知りたくもなかった現実だった。
けれど、士道に救われた。その何気ない一言に救われた。
士道には、なぜ奏がこんな感情を抱いたのかわからなかっただろう。しかし、だからこそ、奏は救われたのだった。
「士道、もし今日あいつと、〈プリエステス〉と戦って無事に帰ってこれたら、伝えたいことがあるんだ」
「な、なんだよ急に改まって」
奏は、声を深くして士道に告げる。
そんな奏の突然の変化に、士道は大きく戸惑った。
奏の様子が、先ほどとはまるで違ったからだ。
瞳に浮かんだ絶望はなりを潜めている。言葉に添えられた恨み辛みは立ち消え、いつも通りの明るい笑顔をしている。
何一つ変わらない笑顔、何一つ変わらない抑揚、いつもと何一つ変わらない仕草。
―――士道にとっては、逆に不気味だった。
そんなものは、ついさっきまで錯乱しかけていた人間がするような仕草では無い。
「だから、私を信じて待っていてほしい。もう二度とシェルターから抜け出して、私を追ってきては駄目」
「あ、ああわかった」
士道は、かけられた声についうなずいてしまう。
おかしい、こんなことは絶対におかしい。
士道の心臓の鼓動は急激に速くなり、心には焦燥感が生まれた。
だが、生まれただけだ。
その感情は、言葉に紡がれようとすると、まるで詰まったかのように胸の内に押し込められてしまう。
「………か、奏」
そんな中、士道は、何とか声を引きずり出し、大空へと飛び立とうとする奏を呼び止めた。
「何、どうしたの士道」
奏はその声に足を止め、士道の方へと振り返る。
士道は、そこで少し考え込んだ後、ポケットから小さな紙袋を取り出した。
「奏、これを渡しておくよ。
前にデートに行ったとき、欲しそうに見えたから買ってたんだ」
奏は紙袋を受け取ると、その封を切る。
中にはヘアピンが二つ、入っていた。
「わぁ、ありがとう。
それにしても、何で今これを渡してくれたの?」
「いや、本当は今日の放課後に渡すつもりだったんだけれど、警報なったから今日はこの後休校だからさ、今じゃ無いとだめかと思って」
なんとなく、言い訳じみた言い方。
士道自身にもその自覚はあるようで、どことなく目線がおかしかった。
「そっか、ありがとう
………そうだ、ならこれを士道は持ってて」
そんな士道の様子に、奏は小さく笑う。
そして彼女は、付けていたヘアピンを外し、代わりに士道が渡したヘアピンを付けると、外したヘアピンを士道に渡してきた。
「今それを持っていくわけにはいかないからさ、預かっといてくれない」
「わかった。預かるよ」
「そのヘアピンは、本当に大切な物だから、無くしたら怒るからね」
CR-ユニットを起動し、大空へと飛び立つ奏。
「………気を付けろよ、奏」
そんな奏を士道は見ていることしかできなかった。
ただ、信じて待つことしか、できなかった。
次の日、教室に奏の姿はなかった。
その次の日も、さらにその次の日も、奏は学校に姿を現すことはなかった。
彼女はその日、精霊との戦闘で死亡が確認された。
折紙が血だらけのヘアピンを士道に差し出して、そう告げたのは、5日後のことだった。
2015年8月5日(水)午前6時05分大幅修正
2016年5月12日(木)午後3時32分修正