五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス) 作:エター
そして、狂三さんの出番が遠いのはこいつのせいです。
十香が学校に現れた日の翌日、4月21日。
朝、制服に着替えて学校に向かえば、学校は瓦礫の山になっていた。どうやら、十香とASTの戦闘の余波で相当派手に崩れてしまった為か、ASTの復興部隊はまだ仕事が終わらなかったようだ。
休みだろうと思いつつ、学校の近くまで来ているので念の為校門に行ってみれば、校門には今月は全面的に休校になる旨が書かれた紙が掲示されていた。まあ予想通りだった。
仕方が無いので家に帰っていると、途中でとある工事現場の看板が目にとまった。
「ここは………」
そこは、十香と初めて会った、あの場所だった。
通学路から大きく離れたその場所、俺は無意識にそこに歩みを向けていた。
「十香………」
脳裏に浮かんだ彼女の笑顔を、泣きそうな彼女の横顔を、絶望に沈む彼女の表情を振り払う。
アイツの、あの笑い声を思い出し、復讐心を焚きつける。
―――忘れてはならない。無くしてはならない。
俺は、精霊を殺す。そう決めたのだ。
ふと、そんな時、視界に見覚えのある鎧のドレスが映った。というか、十香だった。
「………っ!?」
空間震警報は鳴ってないぞ!?〈ラタトスク〉もASTの人たちも何やってんだよ!
「おお、シドー!無事だったか!」
「十香なんでここに!?」
十香が此方へと歩いてくる。
取り敢えずここは目立つので、十香を連れて路地裏に身を隠した。
「十香、一体どうしてここにいるんだ?」
「どうしたも何も、士道はが私の名前の字を考えてくれる約束だっただろう。もう出来ただろうと思ってな、教えてもらいに来たのだ」
そういって彼女は俺に笑いかける。
傾国の美女とでも思えそうな彼女の笑顔に、思わず頬が熱を持った。
「さてシドー、私の字はどのようなものにしたのだ?」
彼女の天真爛漫なその姿に、俺はこの時すっかり復讐心を忘れていた。
「ああ、ちょっと待ってくれ。いま書くためのノートを出すから」
とりあえず、彼女の名前を書くノートを取り出そうと、鞄を覗いて―――
―――その中から、二つの小さな機器を見つけた。
◇
鳶一折紙、彼女の休日は多くの場合鍛錬で消費されている。
4月21日、彼女はその日もいつもと同じように、天宮市の自衛隊駐屯地の仮想訓練室で〈プリエステス〉と戦っていた。
〈プリエステス〉、世界中で観測されている精霊の中で最も危険とされている存在である。世界中の対精霊部隊員の死者は、ほとんどがこの精霊との戦闘によって発生しており、この天宮市の自衛隊駐屯地に所属していた魔術師が2人、今までに彼女に殺されている。
また、一般人を殺したことはないと言われているものの、彼女が出現した場所の近くにあるシェルターでは、必ず多くの人が昏睡状態に陥ったり、衰弱した状態で発見されており、彼女が彼らに対し何らかの力を作用させているのは明らかだった。
彼女の特徴としては、半年前まではその絶対的な防御力が挙げられていた。彼女は巨大なバリアのようなものを出現させることができ、そのバリアは世界の対精霊部隊の装備の殆どか通用しない程の頑強さを誇っている。世界でこのバリアを破壊できたのは、半年前の時点で、DEMindustryの魔術師が2人、イギリスの対精霊部隊が2人、アメリカに1人、ドイツに1人、そして日本に1人の合計7人だけだった。そのうちの日本の1人は、半年前に〈プリエステス〉に殺されてしまったため、現在は世界に6人しかいない。それ程までに、彼女のバリアは強力なものだった。
しかし、彼女の特徴は今は違う。今の彼女のもっとも有名な特徴は、その破壊能力だった。何故なら、半年前に発生した『第二次ユーラシア大空災』は、空間震ではなく彼女の天使による攻撃だったからだ。
半年前に〈プリエステス〉と三笠奏一曹が
映像記録は残っておらず詳しい状況は不明だが、その時その場にいたイギリスの対精霊部隊『SSS』の魔術師によると、〈プリエステス〉は巨大な世界地図を空に出現させ、その地図の件の場所を天使の一部と思われる蒼く光る杖のような剣で斬りつけたという。その時は何が行われたのかわからなかったらしいが、〈プリエステス〉の消失が確認され、基地に戻った時になってからニュースでそれを知ったらしい。
現在確認されている精霊の中で、世界がもっとも注目し、世界が最も殺そうとしている精霊、それが〈プリエステス〉だった。
今では研究が進み、とりあえずバリアを破壊する方法は解明されていたが、他の精霊と同じく殲滅の目処は立っていない。
訓練室に仮想の街並みが出現し、その中央に光を纏った白いローブに不気味な顔で笑う仮面を被った精霊〈プリエステス〉が現れる。
「今日こそ、殺す」
折紙がレイザーブレイドを構えると、目の前の〈プリエステス〉も蒼く輝く剣をその手に出現させ、耳障りな笑い声を上げ始める。
研究者達が言うには、この笑い声には精神に干渉する力があるようで、集中力を途切れさせやすくする効果があるらしい。
いつものように随意領域で音を遮断し、背後の飛行ユニットを吹かして加速、〈プリエステス〉の周囲の空間から射出される氷の弾丸を躱し斬り捨てながら接近する。
ある一定の地点―――不可視のバリアがある1歩前で止まり防性随意領域を展開、氷の弾丸を防ぎつつ左腕でバリアに対し
かなりマイナーな為に、最近まではあまり知られていなかった技術だった。
なぜなら、一般的な対精霊部隊が使用する武装の多くが霊装を突破するために貫通力に優れているのに対し、この
しかし、最近ではこの見方が大きく変わっていた。
それは、半年前の天宮市における〈プリエステス〉と三笠奏の戦闘において、彼女がこの
研究者たちによれば、このバリアは常に〈プリエステス〉から一定距離離れた場所に完全な半球を保ちながら存在し続けていなければならないようで、その場所からわずかにでも動くか、もしくは半球がほんのわずかにでも歪めば崩壊するらしい。
もっとも、動かすか歪ませるにはかなりの魔力が必要なため、折紙の使用できる魔力の量では一瞬とはいえ溜が必要になる。
それはさておき、
氷と炎の弾丸はレイザーブレイドと小型の魔力砲で斬り払い撃ち落とし、風の弾丸は随意領域に接触するごとに弾き逸らし躱しつつ前へと進む。
前回はここで失敗した。前に進むことに焦り過ぎて、各種弾丸が自らが捌ける限界の相対速度以上になるほど、前進する速度を加速させてしまったことが原因だ。今回はそんな愚行を犯さない。
斬り捨て斬り捨て撃ち落とし弾き躱し逸らして前へ前へ、仮に余計な思考をすればそのコンマ一秒で蜂の巣にされる。そんな領域の戦闘を、生と死が紙一重で変わる世界を突き進む。
そしてもちろん、そんな世界は長くは続かなかった。
炎と氷の弾丸を左手のレイザーブレイドで斬り払い、さらにその先にある炎の弾丸を右手の魔力砲で撃ち落とす―――前に、先ほど切り払った弾丸に隠れるように存在していた氷の弾丸に、無理矢理右手を捻って狙いを変えて撃ち落とす。
集中が途切れる。随意領域が風の弾丸の探知、迎撃、そして動体視力と身体能力の強化、これらの処理を賄いきれなくなり、次の瞬間炎と氷と風の弾丸が彼女の身体を打ち抜いた。
『戦闘不能を確認、仮想訓練を終了します』
街並みが姿を消し、再現されていた身体の傷が、痛みが消え去る。
再現レベル9、現在この基地で一人で仮想訓練室を使用する際、〈プリエステス〉を再現する場合に許可されている最高レベル。
ダメージが戦闘中のみ再現されること以外、すべて本物に忠実な〈プリエステス〉との戦闘は、結局今日も勝利で終えることはできなかった。
「………っ」
訓練室の床に拳をたたきつける音が響いた。
◇
「おー、お疲れ様ですー。オリガミは、もう訓練は良いんですかー?」
「これ以上の訓練は、万が一の際の任務に影響が出る。」
「なるほどー、きちんと考えているのですね-。それじゃー、ここにユニット置いてくださいねー」
メカニックの指示に従い、CR-ユニットを片付ける。
顕現装置を止めて脱力している私に、彼女はスポーツドリンクを持ってきてくれた。
「今日も随分派手に使ったみたいですね-。また〈プリエステス〉の相手でもしていたんですかー」
「前と同じ、〈プリエステス〉のレベル9」
そう私が告げると、彼女はヤレヤレとでも言いたげな顔をした。
「頑張るのはいいですけれど、頑張りすぎて潰れたら元も子もないですよー。もう少し、肩の力を抜いたらどうですかー」
「前向きに検討する」
「それってダメって事じゃないですか、まったくー」
肩を竦める彼女の言いたいことをわかるが、私はこうすることしかできないら。私のためにも、士道のためにも、死んだ奏のためにも。
「そういえば、さっき更衣室のオリガミのロッカーから音がしてましたよー」
「音?」
「ええ、オリガミの携帯の音楽とは違ったので、少し気になっていたんですが………」
私の荷物の中で、携帯以外で音が鳴りそうなものと言えば………
・士道の家の窓枠に仕掛けた乙女の勘の受信機
・士道の学校のロッカーに仕掛けた淑女の愛の受信機
・士道の部屋に仕掛けた偶然の受信機
・士道に渡した発信機の受信機
………位だろうか。
「了解した」
「いえいえ、いいってことですよー」
腕をまくりスパナ片手に私のCR-ユニットの整備を始める彼女に背を向け、更衣室へと向かった。
更衣室には先客がいた。
「あれ、あんた今日学校休みなの?」
「昨日の学校での戦闘の跡が直っていない。だから、来月の頭までは休校になっている」
「なるほどね。まあ、流石の復興部隊も一晩じゃ全壊した校舎を直せないのは当たり前か」
先客は日下部燎子一尉、ここ天宮駐屯地のASTの隊長を勤めている人物だった。
もしかすると、これはちょうど良かったかもしれない。
士道の家に仕掛けられている乙女の勘は、士道が家を出るかもしくは帰宅する際にこちらに信号を発信するようにできている。今の時間は8:03、今日の士道は7:17に制服で家を出たので、学校から家まで往復で一時間以上かかることを考えれば、士道の家の乙女の勘が働いたとは考えにくい。学校のものはそもそも壊れてしまっているはずだ。
つまり消去法で考えれば、鳴っていたのは士道に精霊と会ったときにスイッチを入れるように言ってあった乙女の勘ということになる
ロッカーを開け、鞄の中にある端末を確認する。
起動しているのは、案の定士道に渡したものだった。音量を上げ、士道の周囲の音を確認する。
『む、シドー。何やら不思議な香りが漂ってくるぞ』
『不思議な香り………もしかしてここのパン屋さんの香りのことか?』
『ほう、なるほど。ここはパン屋と言うのか』
『入ってみるか。十香は今来たばっかりだから朝食食べてないだろ、ここで何かパンでも買って食べよう』
『パンとは食べ物のことなのか………わかった、シドー。デエトの前に腹ごしらえをするとしよう』
「………これは」
間違いない、士道は今―――
―――浮気をしている。
〈プリエステス〉
総合危険度:S
空間震規模:C
霊装:C
天使:SS
STR 210
CON 240
SPI 220
AGI 130
INT 205
霊装 ???
天使 ???
仮面とローブで姿を隠した精霊。
頭上や手のひらに地図や地球儀を出現させ、それに手に持った剣で攻撃することで、現実に攻撃できる能力を持つ。
先のユーラシア分断事件(対外的には『第二次ユーラシア大空災』)は、この力によるものである。
無色透明のシールドを発生させる能力を持ち、一般的な対精霊用兵装では傷をつけられない。
ただし、〈プリエステス〉の持っている剣や、対戦艦クラスの魔力砲、奏一曹の使用した7連杭打ちなどであれば破壊可能であることから、破壊不可能ではないと思われる。
後の研究により、杭打ちで破壊可能だと発覚した。
また、一度三笠奏一曹との相打ちという形で死亡が確認されたが、その一週間後には再び出現していることから、高い再生能力又は蘇生能力を持つと考えられている。
彼女によって、4/10迄に249人の魔術師が殺されている。