五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス) 作:エター
多分そのうち修正します。
4月21日、13:36 自衛隊天宮駐屯地
「〈ラタトスク〉ねぇ………そのなものがあるなんてね」
「嘘ではない。実在する」
「あんたが嘘ついてるなんて思ってないわよ。彼が関わっているときは特にね」
折紙の発信機を元に、観測機で士道くんの隣にいる〈プリンセス〉に瓜二つの少女のことを調べたところ、98.5%の割合で〈プリンセス〉と一致した。
つまり、彼女は精霊、世界を滅ぼす災厄に他ならない。
もっとも、今の〈プリンセス〉はいつもの彼女と違い、ただの可愛い女の子にしか見えなかった。とても、かの暴虐の化身には見えなかった。
折紙の言う、〈ラタトスク〉についても実は噂程度には知っていた。ASTの隊長という立場にある人間としては、彼らの存在を知っている訳にはいかないために、折紙の言うことには初耳という立場を取らざをを得なかったのだが。
「………はぁ」
思わず溜め息がこぼれる。
内心、自分でもわかっているのだ。〈ラタトスク〉のやり方は仮に実現できるとすれば、ASTのやり方よりも遙かに理想的で、誰にも明らかなほど人道的だということは。
もちろん繰り返して言うが、仮に実現できるとすればの話だ。
〈プリンセス〉も、〈ハーミット〉も、〈ディーヴァ〉も、〈ナイトメア〉も、そして決して口には出さないが〈プリエステス〉も―――みんな精神的な面だけを言えば、心の底から悪い存在ではないのは知っている。〈ベルセルク〉や〈ウィッチ〉、〈イフリート〉のことは知らないが、きっとそう悪い存在ではないのだろう。
無垢な彼女らに武器を向け、数人がかりで殺しにかかる。
―――まったく、どっちが悪役なんだか。
自虐心に顔がゆがんだ。
「とりあえず、するなら
監視によれば、〈プリンセス〉は霊装ではなく折紙や士道くんの通う来禅高校の制服を着ているらしい。
霊装を纏っていないのであれば、普段は中々通用しない攻撃も通じるようになる。
「いや、奏の
しかし、折紙は私の考えてもみなかったことを言い出した。
「奏のアレって………アンタ使えるの?」
「少なくとも今回必要になるものは、足場を固定し、かつ目標が静止していれば可能」
私はその言葉に耳を疑った。
奏のアレと折紙が言ったのは、半年前奏が〈プリエステス〉との戦闘で使用した武装で、日本の魔術師の間で奏が最強と呼ばれる原因となったものの一つだ。
使用できることがそう呼ばれた原因というわけではないが、それらの武器を解析したASTとDEMの技術者達に『これらを戦闘で使える魔術師は世界に30、下手をすれば10人もいないかもしれない』と言わせるほどの、使うだけでも高い資質と技術を必要とする武装の数々だ。
条件付きとはいえ、それらを運用できる魔術師がどれ程いるだろうか。少なくとも日本に100人はいないだろう。
「とりあえず、実際に見てみないことには何とも言えないわ。どっか適当な訓練室で一発試してもらうわよ」
まあ、嘘ではないとは思うけれど、ASTの隊長の責務を負う者として確認しないわけにはいかないし。
彼女とともにワイヤリングスーツに着替え、奏のアレ―――大型ライフル〈ホワイト・リリィ〉をミリィから受け取り訓練室へ。
手早く済ませる必要があるので、足場の固定は私の随意領域を使用する。
「それじゃあ、カウント始めるわよ」
「了解」
伏射の姿勢になって構える彼女を見やりつつ、彼女の持つライフルに視線を向ける。
〈ホワイト・リリィ〉、当時DEMで開発中だったCR-ユニット〈ホワイト・リコリス〉並にじゃじゃ馬だったことから名づけられたその武器は、その名の元となったものと同様に使用者を殺す武器だった。
確かにスペックは高い。
全長2m57cmもの巨大なそれは、データ上では個人用の兵器としては世界最高の貫通力を持ち、その弾丸は精霊の霊波を一定以上受けるとその場で炸裂する性質を持つために、精霊の体内に入ると炸裂するため対精霊時の殺傷能力も世界有数の高さを誇っている。また銃と言いつつもそうとは思えない頑丈さをを持つため鈍器としても使用可能で、データ上は〈プリンセス〉の剣などの精霊の持つ武器と打ち合っても、そのまま銃として使用できるほどだ。これだけ見れば凄まじい兵器だ。
しかし、砲身に魔力を込めることが他の魔力砲に比べ難しい、魔力の消費量があまりにも膨大である、砲身形成の際の演算が一定時間内に終わらなければ暴発するため莫大な量の演算を強制的に行わされる、そもそも普通の魔術師であれば持っていられない程重いなど、数多くの問題がある。これを〈プリエステス〉との戦闘で棒きれのように振り回し、 一切の問題点を感じさせないような動きをしていた彼女は本当に世界最高峰の魔術師だった。
「5秒前」
薄らと折紙を覆った私の随意領域が、私の脳に直接〈ホワイト・リリィ〉の様子を伝えてくる。
―――システムチェック………異常なし
魔力の注入を開始
弾丸形成開始………
魔力安定化の演算を開始………
「4」
折紙の顔が僅かに険しくなる。
―――………魔力安定率92.32%
砲身形成には特に問題の無い値です。
………弾丸形成率47.59%
砲身形成開始………
「3」
額から汗がこぼれ、彼女の頬をつたう。
―――………魔力安定率89.97%
………弾丸形成完了
………砲身形成率28.52%
「2」
―――………魔力安定率95.40%
………砲身形成率79.83%
「1」
―――砲身形成完了
システム再チェック………異常なし
トリガーロック解除、射撃準備完了
折紙の指が引き金を引き、魔力でできた弾丸が黒鉄の砲身とその延長線上に存在する蒼い光でできた砲身を高速で駆ける。
弾丸は的としておいてあった大岩を貫通し、さらに奥にあった岩を貫通、その向こうにあった訓練室の壁に黒い跡を残しそこで炸裂、大きく壁を削り取った。
その直後、魔力の砲身がガラスが割れるような音を立てて砕け散り、〈ホワイト・リリィ〉のフレームの隙間から大量の煙が放出される。
「威力は十分、砲弾及び砲身形成に問題なし。本当に大丈夫みたいね」
大量の魔力を一度に失い、その上莫大な量の演算による脳負荷により膝をつき荒い息を吐く彼女に、用意しておいたバスタオルをかけながらそう告げる。
バスタオル越しで顔は見えなかったが、彼女は笑っていたように感じた。
それが何の為の笑みかは、わからなかったが。
◇
4月21日、16:53 天宮市上空1600m地点
何もない大空に溶け込むように、彼女はそこにいた。
「さあ士道、あなたはどうするのかしらね。
―――精霊への復讐心を取るか、
それとも彼女への思いを取るのか」
そういって、右手に持った蒼く光る剣を横に一閃する。
すると振った剣の軌跡が平面の四角い板に変わり、その板からはミニチュアの木やビル、住宅街が生えてくる。
そしてミニチュアの街が生まれ、その街に小さな赤い光を放つ人形が二つ出現した。
そのミニチュアは、少年、五河士道と、少女、鳶一折紙に瓜二つだった。
「せめて、後悔の無い選択をすることを祈っているわ」
そのミニチュアの姿は、街の外れにある公園にあった。
◇
4月21日、17:18 天宮市の外れ
『こちら観測班、全員配置につきました』
『こちら迎撃班、飛行ユニットのシステムチェックにあと1分半かかります。配置にはついているので、終わり次第準備は全て完了します』
インカムを通して、折紙の耳に情報が入ってくる。
彼女の目線の遥か先には、士道と彼に抱きつく〈プリンセス〉の姿があった。
―――浮気は許さない。
彼女の恋人が憎き精霊とデートしている現実は、折紙にとっては受け入れがたいものだった。
勿論、彼女は理性では〈プリンセス〉と士道がデートしているのは仕方が無いことなのはわかっている。
わかっているが、それはあくまで理性での話である。感情は全く納得できていないのだ。
士道には、ASTの隊員がすれ違いざまに小型のインカムを渡しているので、狙撃準備が終わるまでの1分半の時間を稼ごうとしているのだろう。抱きしめているのも、それの一環のはずだ。
その一環の………
一環の………………
一環………
………
「………」
―――やっぱり無理だ殺す
折紙は、胸の内の殺意を押しとどめることはできなかった。
彼女の大切な人達は、いつも精霊に奪われてきたのだから。
彼女の両親は、〈イフリート〉に殺された。
数少ない友人は、〈プリエステス〉と相打ちになった。
そして今、恋人が〈プリンセス〉に奪われようとしている。
今度こそ、絶対に誰にも奪わせない。
彼女には、もう士道以外は何もないのだから。
ふとその瞬間、なぜか〈プリンセス〉が士道の腕から逃れた。
部隊の準備は終わっていない。手を出すわけにはいかない。
しかし、そう判断する理性とは裏腹に、彼女の脳は手元の銃を動かしていた。
システムチェック………オールグリーン
〈ホワイト・リリィ〉に魔力充填開始、
弾丸形成演算開始………完了
砲身形成演算開始………完了
セーフティー解除、目標〈プリンセス〉
―――
もう、誰も奪わせてなるものか。
「―――死ね」
折紙は、引き金を引いた。
◇
「さよなら、シドー」
◇
4月21日、22:48 五河家宅 五河士道の部屋
達成感は無かった。欠片も無かった。
結局あの後、ASTに拘束された俺は、燎子さんと少し話した後に解放され、その後〈ラタトスク〉の人達につれられ琴里と会った。
琴里は、十香は消失しただけで生きてはいる、そして隣界へと消えた彼女が復活しているかは謎だが、死んだわけでは無い そう言っていた。
けれども、俺にはわかっていた。
『さよなら、シドー』
十香は、死ぬ。
何があろうとも確実に彼女は死ぬ。いや、死のうとする。
俺があの時、あの瞬間に彼女を引き留められなかった以上、もう手遅れだった。
「結局、俺は十香を精霊ではなく『十香』として見ていたっていうことか」
今更になって、そんなことに気が付いた。
手遅れになってから、手遅れになったからそれがわかるというのは、俺が半年前とたいして変わらず愚かでしかなかったと言うことに他ならない。
「俺はいつも、気付くのが遅すぎる」
口の端が歪む。
頬には、冷たい汗がつたっていた。
俺は精霊が憎かった、けれど十香は嫌いじゃなかった。
そんな簡単なことすら、俺にはわからなくなっていたのだ。
「ただいま」
「おかえり、琴里」
夜も更け、11時にもなろうかというころ、琴里が帰ってきた。
「っ!?お、おにーちゃん、なんで夕ご飯なんかつくってるの!?」
「なんでって、俺が作らなきゃ琴里の夕飯がないだろ」
部屋で笑顔が作れるまでなんとか落ち着いた俺は、〈ラタトスク〉の仕事があって帰ってこない琴里のために夕飯を作って待っていた。
まあ、俺も大概正気でいられる状態じゃないので、たいしたものは作れていない。せいぜい市販の親子丼の素や野菜炒めの素などを使って見た目だけでも取り繕うのが限界だ。
「あれ、もしかして〈ラタトスク〉の方で食べたのか?
そっか、ならいらないよな。悪い、冷蔵庫にでもしまっておく」
「そういうことじゃない!!お兄ちゃん大丈夫なの、無理しなくて良いよ」
「大丈夫?いったい何の話だ?」
なんだか琴里が騒がしい、前の琴里に戻ったようで新鮮に感じる。
そういえば、ここ最近の琴里と違ってリボンが白いな。
「何の話だって、それは………ううん、なんでもない」
「そうか、一応親子丼作ってあるから手を洗ったらリビング来いよ」
「う、うん。わかった」
擬音にするとトテトテとでも音を立てそうな足取りで、琴里は洗面所へと走って行った。
コンロの火を止め、大きめのお椀にご飯をよそい、さらにその上に親子丼の具とたれをかける。
野菜炒めのほうは、適当に大皿によそって各自で勝手に取るような形にできるようにしておく。
リビングのテーブルの方には、箸置き、箸、親子丼、野菜炒め、取り皿と並べてゆく。
「………大丈夫、無理はしてないさ」
―――大切な人を亡くすのは、はじめてじゃないのだから
ふとその時、背後から物音がした。
振り返ろうとするが、その直前に不快な感覚が全身を包みこみ、身体が動かなくなる。
―――魔術師の………随意領域………?
しかも尋常ではない出力の随意領域だ。間違いなく少なくとも天宮市のASTの人たちが持つレベルのものじゃない。
なんで魔術師が家にいるんだ。いったい何時から、何処に隠れてた。
いや、もしかして琴里に付いてきたのか。
思考をいくら巡らせようと、その答えは出てこない。
背中に、何か棒のようなものが押しつけられる感触がする。
そして、俺の身体は強い衝撃に襲われた。
◇
そこからの記憶は、なぜか俺にはない。
何が起きたのか、何が成されたのか、わからない。
俺の様子が変だと思った〈ラタトスク〉が何かしたのか。
はたまた、機械仕掛けの神様の悪戯か。
ただ一つわかったのは、
―――俺の後悔は、まだ早いということだ。
◇
「………Take2、とでもいきましょうか」
―――
一応確認。
【十二の弾】の能力は、撃たれた相手を肉体ごと一定時間過去へと飛ばす、で合ってますよね?
8月23日(日)午後11時28分 一応修正
4/4(火)午前0時50分 あとがきを追記
情報が出た今だから言えるけど、ここって【六の弾】でいいよね。