五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス) 作:エター
今日は6月5日。時崎狂三さんの転校日です!!
4000字くらいしか書いてなかったのですが、意地でここまで書きました。
これも後日修正を加えると思います。
気が付くと、俺は学校の前に立っていた。
「………は?」
目の前にある校舎は、朝見たときと同じように崩壊したままで、俺の服装も、荷物も、何もかもが今朝見たときと同じだった。
校門には、来月まで休校になる旨が書かれた紙が貼られている。これも今朝と全く同じだった。
周囲には、この張り紙を見てがっかりした様子の生徒や喜んでいる様子の生徒がいる。彼らの顔ぶれも、今朝と全く同じだった。
「どうなってんだ、これ」
何も変わらない。何一つ変わらない。何もが今朝と同じ。まるで………
「―――時間を巻き戻したかのような」
そう口にして、その考えを否定する。
時間は巻き戻らない。起きたことは覆せない。過去を変えるなんて不可能だ。そんなことはあるわけない。
……あっていいはずがない。
しかしその考えに反して、俺の身体はポケットの中のスマートフォンを手に取った。ありえない、そんなはずないと思っても、俺はそうであると信じたかったのかもしれない。
震える指で側面のボタンを押し、画面に光を灯す。
画面には大きく
2017.4.21
08:39
と書かれていた。
気が付けば、俺は駆けだしていた。
何でどうしてこんなことが起きているのか。
疑問は多くあった。
知りたいことは山ほどあった。
―――けれども、今の俺にはどうでも良かった。
―――走る
学校前の坂をよろめきながらも駆ける。
―――走る
下った先の住宅街を抜け、商店街へと駆け抜ける。
―――走る
そして商店街の一角、十日と、そして『今日』彼女に会った場所である、瓦礫だらけの場所にたどり着く。
そしてそこには、傾国の美女とも表現できる彼女が、『十香』の姿があった。
「十香……」
「む、シドーではないか。そんなに急いでどうしたのだ?」
不思議そうな顔でこちらを見つめる彼女に、思わず涙がこぼれそうになる。
「……いや、何でもないよ。久しぶりだな十香」
「うむ、昨日ぶりだなシドー」
満開の花のような笑顔。俺は、帰ってきたんだ。そう心の底から実感できた。
なら言おう。もう一度、あの時とは違う、今度は心の底から。
「なあ、十香。
―――今から、一緒にデートをしないか」
―――さあもう一度、俺たちの
◇
鳶一折紙、彼女の休日は多くの場合鍛錬で消費されている。
四月二十一日、校舎が倒壊したために急に訪れたその休日を、彼女はいつもの休日と同じように天宮市の自衛隊駐屯地の仮想訓練室で〈プリエステス〉と戦うことで消費していた。
仮想訓練室で再現された精霊は、収集できたデータ量によって個体差はあるが、基本的に本物より弱い。中でも〈プリエステス〉は十分にデータを収集できていないため、弱体化の割合は精霊の中でもかなり大きくなっている。
折紙は、そんな弱体化した〈プリエステス〉にすら勝利できずにいた。其程までに〈プリエステス〉という精霊は圧倒的な存在だった。
しかし、今日は違う。
今日は、いつもとは異なり奏の武装を使うことが許可されていたからだ。武装に頼らなければ奴を殺せないと考えると少々思うところがあるが、これなら今度こそシミュレーターで再現された〈プリエステス〉を仕留めることは不可能ではない。
もちろん、シミュレータで再現された〈プリエステス〉は本物よりもはるかに弱いため、シミュレータで倒せても本物を倒すことはまだまだ無理であることを考えれば、本来は仮に倒せたとしても喜んではいられないのだが。
訓練室に仮想の街並みが出現し、その中央に光を纏った白いローブに不気味な顔で笑う仮面を被った精霊〈プリエステス〉が現れる。
「今日こそ、殺す」
右手に握りしめた大型のレイザーブレイド〈ノーペイン mk=IV〉に魔力を込め、身の丈ほどの巨大な刃を出現させる。
すると、それに呼応するかのように目の前の〈プリエステス〉も蒼く輝く剣をその手に出現させ、いつものように耳障りな笑い声を上げ始める。
この笑い声には、精神に干渉し集中力を途切れさせる効果があるようなので、随意領域を操作して音を遮断する。本当は、戦闘において重要な感覚の一つである聴覚を潰すようなことはしたくなかったが、声のせいで随意領域の操作を阻害される方が問題なので遮断する。いつもより魔力の精密操作を必要とする武器を持つ今は、特にこうしなければならない。
「〈ノーペイン mk=IV〉、全力稼働」
魔力の光をまき散らし、手元のレイザーブレイドがヒステリーを起した女性の叫び声のような高い音を発する。
その直後、〈ノーペイン mk=IV〉の魔力の刀身が伸び、1m半程度だった刃が15mにまで巨大化する。
〈ノーペイン mk=IV〉は、件の武装の中でも最も普通の武装だ。トンデモ兵器博覧会のような武装の中でも唯一まともであるといって言い。
一般的なレイザーブレイドよりも多少刀身が長かったり、切れ味が良かったり、燃費が良かったり、軽かったりするだけで、それ以外は普通だ。使われている技術的には普通ではないらしいが、ただ使っているだけの現場の人間からすれば、<ホワイト・リリィ>のようなものと比べて、普通の武器と認識できてしまいそうになる程度には普通だ。
そんな普通の武器の唯一の普通ではない点、それがいま折紙が使用している機能だ。
〈ノーペイン mk=IV〉を薙ぐ。それだけで魔力の斬撃が放たれ、<プリエステス>の透明なシールドを破壊する。
続けて振り下ろし。蒼く輝く斬撃が、炎と氷と風の嵐を吹き飛ばし、シールドを失った〈プリエステス〉へと迫る。
〈ノーペイン mk=IV〉の唯一の普通ではない点、それがこの全力稼働状態だった。
〈ノーペイン mk=IV〉は、この状態になるとその姿と性能を大きく変える。
具体的には、使用魔力量が増え、それにより制御難易度と最大出力が上がり、刃が巨大化し、斬撃が飛ぶようになる。
その一撃は、エース級の魔術師を塵にしてもおつりが出る程度のものであるといえば、どれほど強力かは理解できると思う。
当然、欠点もある。高い出力の兵器には、使用される膨大な魔力をしっかり操作できるだけの高い制御能力が必要となる。加えて、使用には膨大な魔力が消費される。さらに言えば、そもそもレイザーブレイドの刃の生成は高い随意領域の適正と、その随意領域を手足のように使いこなすだけの技量が必要となる。忘れられがちだが、レイザーブレイドの刃の生成はそう簡単なことではないのだ。この状態の〈ノーペイン mk=IV〉がいくら規格外だといっても、〈ノーペイン mk=IV〉はレイザーブレイドである以上、魔力運用がどうこう言う前に高い技量が必要であるという点に変わりはない。
―――もちろん、それは一般的な魔術師にとっての話だが。
随意領域を使いこなす高い技量が必要で、魔力の消費が膨大で、そのコントロールも難しい。
しかし、それは一般的な武装と比べての話だ。ほかの、例えば<ホワイト・リリィ>のような武装と比べれば、その使用はたやすい。
限定された条件下とはいえ<ホワイト・リリィ>を扱える折紙にとって、〈ノーペイン mk=IV〉を扱うことはそう簡単なことではなかったが、難しいと言えるほどでもなかった。
<プリエステス>は手に巨大な氷の盾を出現させると、その斬撃を受け流すようにそらす。
そらされた斬撃は、そのまま飛んで行き、壁に傷跡を残した。
その隙に、折紙は飛行ユニットで加速し、<プリエステス>を間合いに納めた。
「死ね」
世界中の対精霊部隊の多くにおいて、誰にでも扱える金属の剣ではなく、刃を生成するだけでも難しいレイザーブレイドが採用されていることには理由がある。
その一つが、精霊の霊装を越えるには魔力が必要不可欠であること。
しかし、これは長年の研究により物質に魔力を籠められるようになった現代においては解決している。ミサイルや銃弾に魔力を籠めるのと同じように、剣に魔力を籠めればいいだけの話だ。レイザーブレイドが採用されている一番の理由ではない。
一番の理由。それは、
人間と精霊の差はいくつかあるが、その中の一つに身体能力がある。
〈プリンセス〉を例に挙げよう。彼女は細身の躰ながら、サッカーのゴールを吹き飛ばしたり、パンチングマシンをパンチで破壊したり、フライパンを食べたりすることができる。人間よりもはるかに頑丈で、かつ力強い存在と言えるだろう。
ならば当然、その動きも早い。力強いことと動きが速いことは本来直結しないが、あくまでそれは筋力に運動能力を依存した存在に限った話。筋力を霊力で強化している精霊には適応されない。人間にとって力強さと動きの速さが直結しないのは、筋肉量の増加に伴う体重の増加と、筋肉による関節駆動の制限が起こるためだ。故に、それらのデメリットが一切ない彼女たちは、人間とほぼ同じ動きを人間よりもより力強く、そしてより速く実行できる。
そんなデタラメな精霊と戦う魔術師達は、必然的に速さを求める必要がある。もし遅ければ、精霊に対して一撃当てることすら満足にできず、また精霊からの攻撃を避けることすらできないからだ。
そして、少しでも速く動くためには武装を僅かでも軽くする必要がある。いくら随意領域による身体能力の強化がある為に重い物でも軽々と持てるといっても、程度の差はあれど重い物を持ったら動きにくくなるということは変わらない。
さて、簡単な質問だ。
柄以外重さが存在しないレイザーブレイドは、どれほど軽いだろうか。
折紙は、両手に握ったレイザーブレイドを振り回す。
随意領域によって強化された彼女の身体は、およそ0,01秒でレイザーブレイドを振り下ろす。すると15mもの長さを誇る〈ノーペインmk=IV〉はの剣先は、
一太刀目、音速に近い刃が<プリエステス>を横から殴りつける。
<プリエステス>はそれを氷の盾で受け流そうとするが、受け流した直後に刃がわずかに加速、<プリエステス>のすぐそばでソニックブームが発生し衝撃波が<プリエステス>の全身を揺さぶり、平衡感覚をかき乱す。
反す太刀で二太刀目。<プリエステス>から見て右側から、今度は完全に音速を超えた斬撃を繰り出す。
衝撃波により揺さぶられ、平衡感覚を乱された―――勿論、人間では揺さぶられた、平衡感覚を乱されたでは済まない―――<プリエステス>は、反射的に右手の剣の天使で防ごうとする。
しかし、それは無意味だった。
彼女の天使は、迫る刃を競り合うことなく切り裂き、切り裂かれた刃の破片は彼女の脇腹を蹂躙した。
「もう一撃」
折紙としては、二太刀目で上半身と下半身を二つに分けるつもりだったのだが、不完全とはいえ防がれてしまった。
折れた刃をそのままに、一歩踏み込み三太刀目を繰り出す。
痛みに悶える<プリエステス>に、この斬撃を避けることはできない。
その一撃は絶対に避けられない、彼女としては完璧なタイミングだった。
―――そう、故にそれを避けることは折紙にはできなかった。
「……えっ?」
何が起きたのか、何があったのか、彼女にはわからなかった。
<プリエステス>を斬ろうとした直後、折紙は"脇腹を怪我した状態"で、"無傷の<プリエステス>"に、"巨大なレイザーブレイド"で斬られていた。
『利用者の大規模ダメージを確認。仮想訓練を終了します』
一定のダメージを観測した訓練室が、折紙へのダメージ再現と仮想敵の再現を終了する。
視界にノイズが走り、真二つにされ倒れこんだ下半身を映していた私の視界が元に戻った。
「今のは……位置の転換?」
いや、位置の転換ではない。傷も、武器も、此方に有利なありとあらゆる状況そのものをひっくり返された。
……そんなの、反則にもほどがある。
確実に仕留められる状況においても、一瞬で逆転されるなんて精霊の中でも反則だ。
そこで、気が付いた。
私は、ASTに保管されている日本国内で行われた戦闘の全てと、全世界で共有されている〈プリエステス〉との戦闘映像の全てに目を通している。そしてその中に、〈プリエステス〉がさっきのような動きをしたものはなかった。
また、仮想訓練における精霊の動きは、当たり前だがすべて実際に観測された能力しか再現されない。
つまりそれは、私が知ることができない、できていない戦闘があったことに他ならない。
訓練室を出て、日下部一尉のいる部隊長室に向かう。
正直、機密指定されている精霊との戦闘映像があるとは思いたくはないが、仮にあったならば私の権限では閲覧できない資料だろう。ただ、見ことをあきらめるわけにはいかない。
扉の前に立ち、ノックする。
「……鳶一折紙一曹です。日下部隊長はいらっしゃいますか」
「んー? ああ、折紙。ちょっと待ってなさい。
……いいわよ、入って」
「失礼します」
扉を開けると、そこにはお茶を飲む彼女の姿があった。
よく見れば、手にしているカップの他に、机の上にはもう一つカップが置いてあった。誰か来ていたのだろうか。
「それで、どうかしたの? 今日は仮想訓練室で訓練漬けだって言ってたじゃない。
……まさか、訓練室ぶっ壊したとかじゃないわよね」
さすがにそれはない。理論上は〈プリンセス〉の一撃にすら耐える壁でできた訓練室を、いったいどうやって破壊するというのか。
「訓練室に損傷は与えて―――」
一瞬、頭の中に飛ばされた斬撃で傷ついた壁が浮かんだ。
………………
「―――ない。私には、そのようなことはできない」
「……そう、ならいいわ。で、何のようかしら」
脱線しかけた話を止められ、話が元に戻る。
「〈プリエステス〉……仮想訓練室の〈プリエステス〉について聞きたいことがある」
「聞きたいこと? 何か不具合でもあったの?」
……白々しく隠しているのか、はたまた全く知らないのか。
「私は、日本国内における物は勿論、全世界で共有されている〈プリエステス〉との戦闘映像全てに目を通している」
「ええ、それは知ってるわ。あんたに頼まれて、そうできるように取り計らったのは私だもの」
「つい先ほど、私は訓練室にて〈プリエステス〉と戦闘を行った。その際、私が見た映像において彼女が行わなかった能力を見せた。つまり、私の見ていない映像が存在していることになる」
「あんたが見てない映像? いやそんなものはないはずなんだけど……」
知らない? 本当に知らないのだろうか。
「……ちょっと訓練室に行きましょう。私も気になるわ」
◇
「おお、ここが『ぱん屋』とやらか!! この香り、流石はシドーのおすすめだな!!」
「おい、十香。フランクフルト咥えながら走るなって。転んだら大変なことになるぞ」
学校近くの商店街。そこに、俺と十香はいた。
「む、そうか」
十香は、咥えていたフランクフルトから棒を抜き取り、手に持っていたゴミ箱代わりのコンビニのレジ袋にしまう。
そして、十香はレジ袋を、近くにあったゴミ箱―――50メートル以上離れたコンビニの前に並ぶゴミ箱向けて投げた。
投げられたゴミ袋は一瞬の炸裂音の後、周辺に突風を巻き起こしゴミ箱に
そんな光景に、周りの人々は一瞬驚いたものの、すぐに見向きもしなくなった。
「十香……ちゃんとゴミ箱にゴミを捨てることはいいことだけど、ゴミ箱を壊しちゃ駄目だろ」
「そ、そうか……すまないシドー」
途端に俯いてシュンとする十香。その姿に、思わず狼狽えてしまった。
「大丈夫だ、十香。悪いことをしたら、ちゃんと謝ればいいんだ」
落ち込む十香の手を引き、十香がゴミ箱を粉砕してしまったコンビニに向かう。
コンビニの中に行けば、案の定どこかで見たことのある男性の姿があった。あの人は、確か
とりあえず、十香といっしょに謝って、しばらくの間怒られた後、ついさっき入る予定だったパン屋に入る。
パン屋には、十香が好きなはずのきなこパンや、奏が好きだった胡桃パン、今はどうかはわからないが前のバカで可愛かった琴里が好きなメロンパンなど、多種多様なパンが美味しそうに並べられていた。
「おおー!! これはすごいぞシドー!! すごいいいにおいだ!!」
十香の言葉に合わせ、ぐーぎゅるぎゅると彼女のおなかが鳴る。
「ああ、本当に美味しそうだな。
……十香は何が食べたい?」
とりあえず、俺が食べる分の胡桃パンとあんパンとカレーパンをトレーに取りながら、満面の笑みであたりを見回す十香に尋ねる。
「私か? そうだな……これと、これ、あとこれが食べたいぞ!!」
十香が指したのは、きなこパンとメロンパンとチョココロネの三つ。俺は、それらをそれぞれ5個ずつトレーにのせ、レジへと持ってゆく。
どこか見たことのある店員にお金を払いレジで会計をすませつつ、ちらりと様々なパンの数々に目を輝かせる十香の姿を覗く。
満面の笑みでパンを眺める十香の姿に、思わず心が温まり
―――そして、同時に何処か胸が苦しくなった。