五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス) 作:エター
今回の話は、私にとって黒歴史確定です。
天宮市 上空6000m
そこに、私はいた。
白いローブ羽織り、自分で言うのも何だが不気味な仮面を被った私は、その手に輝く剣を持ってたたずんでいた。
「~~~~That saved a wretch like me!
I once was lost, but now I am found~~~~♪」
私の歌声は大空に拡がり、どこからともなく荘厳な音楽が鳴り響く。
ああ、姿無き神よ。求める者を救う現像よ。存在し得ぬ偶像よ。
私に救いの手をさしのべし、彼の者に感謝を。
道を彷徨い、身を落とした私を救い出した彼の者に感謝を。
数多の絶望より私を救い、私を押し出した彼女に感謝を。
彼女は、私に約束した。
彼女の望みは、私の望みとなった。
彼女は、私に誓った。
この命の限り、彼女は私の盾となり、私の一部となると。
ああ、そうだ。
この想いと願いが朽ち、そしてこの限りある命が鼓動を止めるその時まで、私は白きベールに包まれ、喜びと安らぎの時を追い求めるのだ。
たとえ、何万年経とうとも、数多の時が過ぎようとも。
あの大空の太陽のように光り輝きつづけ、最初に嘆き求めたとき以上に、私は彼女の希望を、私の願いを求め続けることだろう。
大声は響き、空は澄み、大地へと降り注ぐ。
今の私の役割は、彼の戦争を見届けること。終わりなき災禍を下す、大いなる静かな一歩を見届けること。
道は築いた。準備はそろえた。私にできることは、もう何も無い。
「さあ、
―――私は〈プリエステス〉。姿無き女教皇。
救われぬ者を救わんとする者にして、救わんとする者を救えぬ愚か者。
◇
「おお、おお、おおぉぉぉ!!」
俺の目の前には、大きくそびえ立つ肉の塊があった。
ドネルケバブ、という物をご存知だろうか。
串に刺さった巨大な肉をナイフなどで削ぎ、削いだ肉をキャベツなどといっしょに、パンのようなものに挟んだ物のことを言う。お祭りの屋台などでたまに見かける物で、日本で一般的にケバブと呼ばれる物がこれだ。
で、十香の手にあるのは、その『串に刺さった巨大な肉』だ。間違っても、それ単体で食べるものではない。というか、本来は肉の外側しか焼かれていないので、真に近いところは焼かれていないから食べられないはずだ。
しかし、これは何故か肉の中心までしっかりと火の入った物だった。随意領域万能説でも唱えたくなる。
十香が巨大な肉に挑んでる姿を後目に、耳のインカムを叩く。
『はいはい、ちゃんと見てるわよ』
インカムからは、琴里の声が聞こえた。
良く耳を傾ければ、僅かに硬い物が当たったような音がしている。おそらく、チュッパチャプスをなめているんだろう。
この辺は、前の琴里と変わらないんだな。
『それじゃ、天宮市の休日を続けるわよ。
ジャンクフード系の店の食べ物の補充も終わったし、レストランの食材、人員の補填もばっちりよ。今度は、十香の暴飲暴食に対抗できるわ』
数分前、この商店街に激震が走った。
その震源地である彼女、十香は、ラタトスクの設定である『商店街に来た人何とか人目サービス』を利用して、暴飲暴食の限りを尽くしたのだ。
正直、コンビニのお弁当売り場が空になったのは何度か見たことがあったけれど、お菓子売り場や、ウォークインのお酒以外が空になったのをみるのは初めてだった。レストランでお米や麺が無いと言われるのも初めてだったし、ファストフード店でパテがないと返答されたのも初めてだった。
十香の胃袋は、ディラックの海にでも繫がっているのだろうか。
「わかった。十香がケバブを食べ終わり次第、商店街に戻る」
『ええ、部下達には待機するように伝えるわ
……ところで士道、さっきから気になってたんだけれど、あんた十香と何かあったの?』
突然、琴里が変なことを聞いてきた。
「何か?いや、特にデートしてること以外特別なことはないけど……」
『そう、それにしては十香を見る目がおかしくないかしら』
ん?十香を見る目がおかしい?
「俺、そんな変態みたいな目をしてたか?」
『いや、そう言う意味じゃなくて。
……士道は、昨日初めてまともに十香と話して、今日初めて彼女とデートしてるのよね?』
………さすがは、俺の妹と言うべきなんだろうか。
例え、俺との関係が精霊を救うために作られた打算的な物であっても、いや、打算的な物であったからこそ俺のことをよく見てる。
半年前のことは気が付かれなかったからといって、文字通り『昨日の今日』のことが気が付かれないとは限らない、ということなんだろう。
「……ああ、十香とまともに話したのは昨日が初めてだし、十香とデートしたのは『四月二十一日』が初めてだぞ。そんなことは、〈ラタトスク〉にいる琴里はよく知ってるだろ」
そんな琴里に、俺はしれっと嘘をつく。
俺の身に起こった時間遡行現象。それができるかもしれない存在に、俺は心当たりがあったからだ。
氷と、炎と風――恐らくは〈ハーミット〉と〈イフリート〉と〈ベルセルク〉のもの――などの複数の精霊の力を操るアイツなら、もしかすれば時間遡行能力を持つ精霊――そんな存在がいるかはわからないが――の力を行使できるかもしれない。少なくとも、アイツならできてもおかしくない。
確証はないが、俺はアイツがやったと確信していた。
琴里にとって俺との関係が、虚ろで、空っぽで、偽物だったとしても、俺にとって琴里との関係は、真実で、満ちていて、本物であった事には変わらない。幼い頃の自分が、琴里に救われたことは事実だったのだから。
だから、アイツと琴里に関わりを持たせたくない。〈ラタトスク〉の事を考えれば無理かもしれないけれど、可能な限り関わってほしくない。
アイツと関われば、琴里が死ぬ。そんな気がしてならないから。
奏のように、『十香』のように、これ以上大切な人には死んでほしくない。
『そう……気のせいだったかしら。
まあいいわ。天宮市の休日、再開しましょう』
「ああ」
「シドー! 今度はこっちだ!」
きなこパンを片手に走る十香を見ながら、俺は考えていた。
今の時間は 16:28 、前回十香が死んだ時間が近づいていた。
「シドー。此処はなんだ?」
十香の声で振り向けば、そこにはゲームセンターがあった。
「ああ、此処はゲームセンターって言うんだ」
「げぇむせんたぁ……だと……!? いったい何屋なのだ、名前からではどんな食べ物を売っているのか全く想像がつかん」
「いや十香、ゲームセンターは、別に食べ物屋さんじゃないからな」
「なん……だと……この世に食べ物を売っていない店があるというのか。なんたる罰当たりな」
何に対して罰当たりなんだ。というか、本当に十香は食べ物のことで頭がいっぱいだな。
「まあ、景品にお菓子とかあるから、全く食べ物が無いわけじゃないからな」
「おお、そうだったか。ならば問題ないな。
シドー、げぇむせんたぁとやらに行くぞ!!」
ああ、そうしよう。丁度そろそろ雨が降るはずだったし。
十香といっしょにゲームセンターに入る。
中では、様々なゲームが音と光を放っていた。
「ここは……なんだ此処は、まさかメカメカ団の秘密基地か?」
「いや、流石にそうだったら十香を連れてこないって」
「……そうか、それもそうだな。
ところでシドー。げぇむせんたぁとは、いったいなにをするところなのだ?」
ゲームセンターは何をするところなのか、か。ゲームっていう概念を知っている人間に説明することは簡単だけれど、ゲームを知らない十香にいったいどうやって説明すればいいだろうか。
ふと、そのとき視界の隅に見覚えのある存在を捉えた気がした。
咄嗟に振り向く。ASTの関係者であれば、一刻も早くここから逃げる必要があるからだ。
振り向いた先では、橙色の髪の女の子の……姉妹だろうか? 、そっくりの2人の少女がエアホッケーで勝負していた。
「さあ、受けるがいい。我が颶風を司りし漆黒の魔槍―シュトゥルム・ランツェ―を!!」
「苦笑。このゲームは、相手に弾を受けさせない様に打つゲームですよ」
大声で中二的な言葉を発した少女の一撃が、風を斬り裂き振るわれた腕によって撃ち出される。
彼女の一撃は、まるで本当の弾丸のようだった。
「反撃。てやー」
しかし、彼女の一撃はいとも簡単にもう片方の少女に打ち返された。
打ち返されたプレートは、一度台の横の壁にぶつかり、回り込むように中二病の様な雰囲気の少女のガードをすり抜ける。
そして、プレートは彼女のゴールへと飛び込んだ。
「あああぁぁぁ!!」
「決着。これで、今回は夕弦の勝利です」
とりあえず、ASTの関係者ではなさそうだ。ASTの人達を全員知っているわけではないとはいえ、流石にオレンジの髪の双子なんていたら気が付くからな。
なら、いったい何処で見たんだろうか………
「シドー、どうしたのだ?」
「いや、何でも無いよ十香」
まあ、それは後回しでいいか。今は、十香とのデートを楽しもう。
「こんにちは、精霊さん」
とあるゲームセンターの前。私は、そこにいた青い髪の少女に声をかけた。
「………!」
私の方を振り向いた彼女は、私の顔を見ると脅えたような顔をして、近くの電柱の裏に隠れた。
そりゃあ、目の前に不気味な仮面をした白いローブの女性がいたら、気の弱い彼女なら脅えるよなぁ。
「こんにちは、精霊さん」
とはいえ、離れられたらお話もできないので、彼女の後ろに瞬間移動する。
「………!!!………ひぅ」
私が後ろに現れたのが驚きだったのか、振り返って私に気が付いた彼女は、私から後ずさりしながら逃げようとしてきた。
「おっと、前見て歩かないと危ないよ」
仕方ないので、また彼女の後ろに瞬間移動する。
ついでに、後ずさりしていた彼女を背中から抱きしめて拘束し、逃げられなくする。
「………!!」
バタバタと暴れる彼女を、もう少し強く抱きしめて押さえつける。
『……あんまりうちの四志乃をいじめないで欲しいなぁ』
ふと、声がした。
見れば、彼女の手についた兎のパペットが此方を向いている。
「あら、保護者さんかしら。御免なさいね、あんまりにも可愛かったからついついイタズラしちゃったのよ」
イマジナリーフレンド? いや、解離性障害か何かだろうか。どちらにせよ、主人格を保護するための生贄、精神的肉壁みたいなものね。
『………まあいいや。ところで、うちの四志乃になんのようかな。貴女みたいな不審者の知り合いは、私達にはいないはずなんだけれど』
「ええ、貴女と私は今日会ったのが初めてよ」
笑顔で返答。まあ、こっちが笑っても仮面でわからないんだけれど。
「さて、実は貴女に聞きたいことがあってここに来たの」
嘘です(笑)。聞きたい事なんてありません。
『………聞きたいこと、かい?』
「ええ、とても簡単なことよ。
貴女、ここで青い髪の青年と黒い髪の少女の二人組を見なかったかしら」
勿論、彼女が彼と〈プリンセス〉を見ていないことは知っている。単に、彼女に話しかける動機付けがしたかっただけ。
「………」(ふるふる)
『ん?別に見てないよー』
かわいいなぁ。
ふるふるとでも効果音がつきそうな、とてもかわいらしい様子で首を振る〈ハーミッ………いや、四糸乃。
こういうかわいい子を傷つけるのは、なんだかとても気が重い。
「そう、ならいいわ」
四糸乃と彼女のパペットの頭を軽く撫で、その際記憶に干渉して私との記憶を曖昧にしておく。
質問内容が浮かばなかったからと言って、彼らの事を聞いたのは失敗だった。私が、彼に興味を持っていることを知られてはいけない。
ついでに、彼女に少し
本来は、この細工をすることが目的だったのだけれど、少しかわいさに流されてしまった。
目の焦点が合わずにぼぉーっとしている四糸乃(かわいい)をおいて、私は次の目的地である『自衛隊駐屯地』へと向かった。
目的は陽動。私の邪魔をさせないための足止めの準備をしに行く。
十七時ちょうど、事件は起きた。
その瞬間に気が付いたのは、たまたまその瞬間に駐屯地から出ようとしていた一人と、仮想訓練室で部下といっしょに仮想敵として再現された〈プリエステス〉と戦っていたASTの隊長だけだった。
外に出ようとしていた人間の名前は、ミルドレッド・F・藤村。夜更かし用の栄養ドリンクの補充に行くために、行きつけの薬局に行こうとしていたところだった。
施設を出ようとしたその直前、彼女は見覚えのある存在を目にした。
その存在を目にしたとき、彼女は直感的に悟った。
半年前、三笠奏がなぜ〈プリエステス〉との戦闘に行く直前に、自らの戦闘記録をまとめたのか。
彼女の〈プリエステス〉との最後の戦闘において、なぜ彼女は撃退ではなく殺害に拘っていたのか。
なぜ彼女は、死の直前に数多くの超常的な武装を残したのか。
〈プリエステス〉との戦闘の際、極限の状態にありながら、ユニットの処理速度を低下させてまで、なぜ戦闘記録を取り続けていたのか。
―――なぜ彼女は、わざわざ自爆して死んだのか。
目の前の存在が答えだった。
彼女はすぐさまて手元の無線機のスイッチをいれ、入り口のそばにあるセンサーへと投げた。
その直後、目の前で無線機が分断され、彼女は意識を失った。
彼女の意識を奪った存在は、
はい、この話も修正予定です。(修正するとは言ってない)
最初のあれは、アメイジングレイスを何とか訳したヤツの改変です。アメイジングレイスは著作権切れているので、特に問題は無いと思います。
初期の予定では、十香編には十香以外の精霊の描写は殆どない予定だったのですが、なぜか某姉妹や幼女×2が出演していました。あれ、おかしいなぁ(棒)。
ASTの出番はとりあえず此処で終わり、舞台裏でフルボッコされて退場です。
三笠奏に関するあれこれは、次の四糸乃編で話すことになると思います。
7月30日(木)午前8時44分編集