五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス)   作:エター

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祝!2000UA突破!!

………はい、すいません。調子に乗りました。2000くらい普通ですよね。

十香編は概ねこれで終わりです。
短めの話を一話入れて、エピローグをやって、少し解説を入れて、四糸乃編に入ります。

今回は、いつもの倍近くあります。


十章 十香セカンドエンド

「おお、絶景ではないか!!」

 

 十香が、柵から身体を乗り出し景色を眺める。

 

 町はずれの公園の高台、そこに俺と十香はいた。

 今の時間は午後五時、奇しくも『十香』が死んだ時間と同じだった。

 

「ああ、いい眺めだな」

 

 十香の隣に立ち、そこから景色を一望する。

 

 そっと十香の横顔を伺えば、十香は輝くような笑顔で楽しそうに景色を眺めていた。

 

「……十香、今日は楽しかったか」

「ん?シドー、いきなりどうしたのだ?」

 

 不思議そうにこちらを眺めてくる十香。俺は、そんな彼女に言葉を返した。

 

「いや、俺が見てる限りでは十香は今日一日とても楽しそうに見えたけど、十香が本当にそう思っているのかどうか心配になってさ。

 それで、どうだった。本当に楽しかったか?」

 

 俺の言葉に、十香は少し迷い、しばらくして戸惑いがちに答えた。

 

「……そうだな。正直に言えば、私はこの感情をどう表現すればいいのかわからない。

 シドーと一緒に食べた食事はとてもおいしくて、暖かかった。シドーと共に話した時間は、なぜだかとてもうれしかった。げぇむせんたぁでの一時は、本当に楽しかった。

 

 ……だが、私は心の底から楽しかったと思えなかったのだ」

 

「……そう、か。楽しくはなかったか」

 

なぜ、十香は楽しくなかったのか。俺には分からなかったが、俺にはその言葉が真実であることは伝わってきた。

 

「なにか、嫌なことでもあったのか」

「いいや、そんなことは無い。私にとってはすべてのことが新鮮で、あらゆることが楽しかった。それは、事実だ」

「……なら、どうして」

 

「簡単なことだ。今日、シドーと共に歩いた街は、かつて私が壊してきた街だからだ」

 

十香は、体の向きを直し、指をさした。

指の先には、四月十日に彼女が現れた場所があった。

 

「暖かくて、うれしくて、楽しい街。ここは、本当に幸せな街だ。

 だからこそ、私は楽しく思えなかったのだ。この世界が楽しければ楽しいほど、私自身が罪深く感じられる」

「―――でも、空間震による被害は、十香が意図的に起しているからじゃない。十香の意図に関係なく、勝手に引き起こされてしまうことだ。十香に悪いことなんて、何一つないじゃないか!!」

「いいや、それは違う。私が意図していなくとも、私が起こしたという事実は変わらない。

 それに、仮に空間震の直接的被害に関して私が何の罪もなかったとしても、私が私自身の手で壊したことも多々ある」

「それは。ASTに対抗するためだったんだろう。自分の身を守るために―――」

「シドーは、自分を守るためなら、何でもしていいとでも言うつもりか? それは違うだろう。何を言っても、私が街を破壊してきた事実はゆるがない」

 

 感じる既視感。これに近いやりとりは、『十香』としていた記憶がある。きっと、此処が正念場だ。十香を死なせないためには、此処をどうにかしないといけない。

 けれども、俺には十香の主張を論破できない。俺自身は精霊に大切な人を殺された側の人間だから、よくライトノベルなどで登場する『過去は過去、今は今』みたいな論法や『その罪を背負って生きていけばいい』みたいな言い方ができないからだ。精霊が人を殺した事実を肯定して、その事実に正面から向き合わせない事は、奏を殺した〈プリエステス〉への憎悪の否定、俺自身の奏への想いの否定に他ならないからだ。

 俺が奴に復讐したいと考え続ける限り、精霊による破壊や殺人を肯定できないんだ。

 

「ほら、そんな精霊は死んだ方が良いだろう。

 希望を殺し、世界を壊し、人々をこの手で潰してきた私にはそれがお似合いだ」

 

 十香から目をそらすことができなかった。そらしたら、きっと十香は死んでしまうと思うから。

 考えろ、どうすれば十香を救える。どうすれば十香を死の運命から救える。

 考えて、考えて、考えて。

 

 だからこそ気がつけた。前の俺のように十香と向き合えなければきっと気がつけなかった。俺が十香のことから、心でも身体でも目を離さなかったからこそ気が付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そうね、貴女にはそれがお似合いだわ

 

 その言葉を認識するよりも速く、俺の身体は十香をかき分けるように突き飛ばしめいた。

 

 そして、十香の背後から忍び寄っていた刃が、俺の腹に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

「シドー?」

 

 

 

 

 

 

「あら、外してしまったわ」

 

 目の前にいた奴の名は〈プリエステス〉。かつて奏を殺した精霊だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シドーが、刺された。

 

「おい! しっかりしろシドー!」

 

 手に持っていた菓子パンの袋を投げ捨て、シドーに駆け寄る。

 

「あ……十香、か。大丈夫だった……か?」

「私よりも自分のことを心配しろ!! 」

 

 刺された穴から、血が吹き出る。

 咄嗟に、傷口を手で押さえる。しかし、手の隙間から血があふれて止まらない。

 どうにかして、血を止めないと。

 

「よそ見していていいのかしら」

 

 一瞬、背筋が凍る。

 

「―――ッ!」

 

 シドーを抱え、その場から飛び退く。

 その数瞬後、私がいた場所を氷の弾丸が薙ぎ払った。

 

「上手く避けるものね」

 

 そこにいたのは、白い人影。仮面を被った何者か。

 いや、何者かなんてどうでもいい。すぐにシドーの傷をどうにかしないと。

 

 ……怪我をした人間は、どこに連れていけばいい。

 

「考え事をしている暇がある?」

 

 氷の弾丸が、再び私に襲いかかる。

 回避し、距離を取るためにシドーを抱えて逃げる。

 

 今は、白いのにかまっている場合ではない。

 一刻も早く、シドーの傷をどうにかしなければならない。

 

神威霊装・十番(アドナイメレク)!!」

 

 霊装を纏い、空を踏みしめ駆ける。

 どこに行けばいい……どこ行けば……

 

「逃がさないわよ」

 

 突然、正面から氷の弾丸が飛来する。

 回避して正面を見れば、そこには後ろにいたはずの白いのがいた。

 どれほどの速さで動いたのか、全く知覚できなかった。

 

「私から逃げられるとは思わないことね」

 

 逃げるには白いのを倒すしかない、ということか。

 

 私は、鏖殺公(サンダルフォン)を呼び出し、シドーを抱えながら駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー、士道」

 

 気がつけば、俺は家のリビングにいた。

 目の前のソファーには奏がいて、すぐそばのテレビからは誰かの歌が流れていた。

 

 俺は、それが夢だとすぐにわかった。何故なら、俺は奏を家に招いたことはなく、そもそも奏は既に死んでいたからだ。

 

「奏」

「ん? なにかな浮気者」

 

 ……ぐさっ

 何かが刺さった気がした。

 

 あれ? 夢だよなこれ。

 

「まあ、折紙さんの時は許したけれど、あの時次はないって言ったよね。この二股野郎、〈プリンセス〉とのデートは随分と楽しそうでしたねぇ」

「いや、十香とのことはだな―――」

「―――言い訳無用!!」

 

 何処からか巨大なハリセンが現れ、俺の頭を強襲してゆく。

 その一撃は、夢のはずなのにものすごく痛かった。

 

「いったぁ!夢なのに痛すぎだろ」

「あたり前でしょう。ここは夢じゃないんだから」

「……え? 夢じゃ、ない?」

「ええ、ここは『五河士道』の心の部屋。某カードゲームアニメみたいな感じの、自分の心を写した部屋ね。よく見てみなさい、士道は此処が家のリビングだと思っているみたいだけれど、よく見れば差異がいくつかあるはずよ」

 

 そう言われ、辺りを見回してみると、キッチンのカウンターに奏のヘアピンがあったり、見知らぬ扉があったりと色々と家のリビングとは違っていた。

 

「ね、違うでしょう?」

「ああ、確かに此処は家のリビングじゃないみたいだ。

 ……ところで、もし仮にここが俺の心の中なら、どうして奏が俺の心の中にいるんだ?」

 

「あーっと、それについては今度で良いかしら。今はちょっと時間が無いの」

 

 奏は、テーブルの上にあったリモコンを手に取ると、おもむろにチャンネルを変えた。

 ……テレビには、俺を抱えながら〈プリエステス〉と斬り結ぶ十香の姿があった。

 

「―――十香!!」

「これ、今の現実の様子よ。彼女は今、シドーを守りながら闘っているわ」

 

 テレビの向こうの十香は、息を切らせながら右手に持った大剣で〈プリエステス〉の氷の弾丸を打ち払い、反らしていた。

 

「状況はかなり悪いわ。今はまだ〈プリエステス〉が遊んでいるからいいけれど、荷物を抱えた彼女じゃそう遠くない内にやられるでしょう。〈プリエステス〉の奴は規格外の化け物だもの」

 

 息を切らす十香に対して、〈プリエステス〉の方には余裕があるように見えた。いや、実際にあるのだろう。仮面で顔は見えないが、彼女が笑っている様にすら感じられた。

 

『アハハハハハハッ!!無様ね人間、恋人が目の前で倒れているのになぁにもできないなんて。ありがとう人間、あなたのおかげでその子を楽に殺せるわ』

 

 いつかのアイツの言葉が脳裏をよぎる。あの時と今が重なって見えて、気がつけば俺は拳を強く握りしめていた。

 

「ねえ、士道。この間の質問をもう一度するわ。

 ―――精霊は憎いかしら?」

 

 精霊が憎いか……か。

 

「ああ、憎いさ。殺したくなるほどには憎い」

 

 精霊は、憎い。奏を殺した精霊を、俺が好きになることはきっと無いだろう。

 

「―――けどな、俺は十香を助けたい。精霊は、憎くて、殺したくなるほどには恨んでいるけれど、俺は十香を助けたい。

 詭弁かもしれない。都合の良すぎる意見かもしれない。それでも、俺はそう思っている。精霊に殺されたお前には、おもしろくないのかもしれないけどな」

 

「ふぅ~ん。そっかそっか。

 あー、なんだろこれ。面白くないなぁ。やけちゃうなぁ。寝取られ感って言うのかなこれ。

 ……はぁ。まあ、いいか。どうせ士道のことだからこう言うと思ってたし」

 

 奏は、目の前で大きく溜め息を吐いて、言った。

 

 

「―――なら、助けに行かないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。

 俺の身体は地面に転がされていて、十香は俺のすぐ目の前で片膝をついていた。

 

 そして、その前には蒼く輝く剣を振り上げた〈プリエステス〉がいた。

 

 反射的に、勝手に身体が動いた。

 咄嗟に左手を伸ばして、十香の右手を掴んで動かし彼女が右手に掴んだ大剣と〈プリエステス〉の剣を打ち合わせる。

 

「シドー!?」

「へぇ、あの傷で動けるんだ」

 

 そのまま、十香を横抱きに抱えて距離をとる。

 ……散々折紙にお姫様だっこを強請られたためか、一瞬で抱えられたのは良いことなのか悪いことなのか。

 

「し、シドー!! 身体は大丈夫なのか!!」

「大丈夫だ、何も問題は無いよ」

 

 傷は治っていないけれど、アドレナリンのような何かが分泌されているようで痛みはあまりない。

 傷を無視して、拳を構える。まだ〈プリエステス〉はいる、終わったわけではない。油断はできない。

 

「問題ないとは言うじゃない。あの時の手応えからしてなんらかの臓器は捉えたし、骨も斬ったはずなんだけれど」

 

 ぎょっとした表情で十香がこちらを見てくる。

 

「だから、大丈夫だ」

 

 そんな十香に笑顔で答える。

 ただ、タイミング悪く口の中に血が逆流してきたため、思わずむせて血を吐いてしまった。

 これじゃあ、大丈夫だなんて信じてくれそうにないな。

 

「シドー!! 大丈夫では無いではないか!!」

「大丈夫だ、問題ない(キリッ)、とか言っている人間には思えないわね」

 

「言ってろ〈プリエステス〉。

 十香、本当に大丈夫だから。心配するなって」

「う、うむ。わかった」

 

 十香が大剣を構え、俺は拳を構える。

 対する〈プリエステス〉は、構えることなくこちらを向いている。慢心しているのだろうか。

 

「さて、面白いものも見られたし、そろそろ終わりにしましょう」

「ああ、それには賛成だな」

 

 俺は〈プリエステス〉に殴りかかった。

 

 

 

『いい、良く聞きなさい士道。

 〈プリエステス〉は、中途半端に戦闘慣れしているせいかどうかわらからないけれど、動きにある程度のパターンがあるわ』

 

 

 

 なんのひねりもない、普通の正拳突き。

 〈プリエステス〉は、そんな俺の拳を僅かに屈んで躱し、合気道と柔道を合わせたようなの様な動きで、片手で投げ飛ばした。

 

 

 

『まず、非武装の人間と武装した人間を相手にした場合、私の経験則では非武装の人間には素手で、武装した人間には剣で対峙するわ。恐らくだけど、危険度に合わせて対応してるみたいね』

 

 

 

 

 

 受け身をとって素早く立ち上がり、十香と打ち合う〈プリエステス〉を、背後から殴りつける。

 〈プリエステス〉は、そんな俺の胸を裏拳のような形で殴った。変則的な『ハートブレイクショット』と言ったところだろうか。一般人ではそうはならない体勢からの一撃でも、精霊が行えば立派な一撃となる。

 

「―――がッ!!」

「シドー!!」

 

 どんな技法を用いたのか、心臓が破裂し、肋骨が砕け散る。

 

 激痛で一瞬意識が飛び、激痛で再び浮上する。

 

 〈プリエステス〉はこちらがもう動けないと判断したのか、こちらの胸を叩いていた腕を引き戻そうとしていた。

 

 

 

『だから、シドー。あんた一回死になさい』

『はぁ!? どういうことだよ』

『士道が死ねば、その時点で彼女にとって危険じゃなくなるの。CR-ユニットなしで隙を突くにはこれしかないわ』

『いや、でも死んだらどうしようもないだろ』

『大丈夫よ。士道の妹が言っていたでしょう。一回くらい死んでもどうにかなるって。信じなさい』

 

 

 

 

 そこで俺は、()()()()()()()()()()()傷を一気に治した。

 

「―――何ッ!?」

 

 

 

 

『あなたの力は、精霊の力を封印するだけではないの』

『それが蘇生能力だっていうのか?』

『いいえ。それは、あなたの力の一部でしかないわ。あなたの力は、封印した精霊の力を行使すること』

『―――封印した精霊の力の行使? ちょっと待ってくれ、俺は精霊をまだ封印していないぞ』

『してるのよ、ずっと前からね。

 とりあえず、その話はまた今度するわ。今は、信じなさい』

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオォォォォォォ!!」

「そんな、傷を一瞬で!?」

 

 屈しかけた足を持ち上げ、一歩前へ。

 同時に、大きく右手を振りかぶる。

 

『自分の想いを、強く持って』

 ―――俺は、十香を守りたい。十香を救いたい。

 

『想いを、心の中で形にして』

 ―――だから、俺に力を。十香を救い、守れる力を。

 

『解き放て!!』

「―――俺に貸してくれ!<灼爛殲鬼(カマエル)>!!」

 

 灼熱の天使が、顕現した。

 

「<灼爛殲鬼(カマエル)>、〈イフリート〉の天使ですって!?」

「焼き尽くせ!!」

 

 手に現れたのは、黒鋼の斧。万物を焼く豪炎の鉄塊。

 それが、奏曰く精霊〈イフリート〉の天使<灼爛殲鬼(カマエル)>らしい。

 

 俺は、それを〈プリエステス〉へと振り下ろした。

 しかし、流石というべきか、彼女は一瞬で氷の盾を生み出しその一撃を受け止める。

 完全に油断していた状態から、俺が振り下ろすまでのコンマ数秒で盾を用意できたことを考えると、本当に〈プリエステス〉という精霊は規格外なんだろう。いっそ感動的ですらある。

 ―――だが無意味だ。無意識に理解できた。<灼爛殲鬼(カマエル)>の一撃は、その程度では止められない。

 氷の盾と<灼爛殲鬼(カマエル)>がぶつかり合った直後、<灼爛殲鬼(カマエル)>から炎が噴き出し、瞬く間に氷の盾を溶かし両断する。

 斧はそのまま炎を纏ったまま、〈プリエステス〉を両断した。

 

 ―――いや違う!! 両断した様に見せかけられた!!

 

 背筋に寒気が走り、咄嗟に斧を振り上げようとするが、手汗のせいか斧から手が滑りかけ、重心が崩れて前に倒れ込みそうになる。

 

 この失敗が俺を救った。

 

 直後、俺の首があった場所を蒼い煌めきが過ぎ去る。

 それは、〈プリエステス〉の持つ剣による一閃だった。

 

 目の前の真っ二つになった〈プリエステス〉が消え去る。いったい、いくつ能力を持っているのか。

 

 俺は、バランスを崩し地面に手をついている。

 〈プリエステス〉は、完璧なタイミングの奇襲を避けられたためか、固まっている。

 

 俺も彼女もお互いに動けなかった。

 

「シドー!!」

 

 その時、十香が大剣を薙ぎつつ俺を抱える。

 そう、十香だけはこの時動けた。驚愕はあったが、特に気にならなかったが為に動くことができた。

 

<鏖殺公>(サンダルフォン)!!」

 

 薙いだ大剣が、〈プリエステス〉を消滅させんと光の奔流を解き放つ。

 〈プリエステス〉はその光に押し流されるかのように、吹き飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

「今回は引くわ」

 

 あれから30分は経った。

 

 あたりは焦げて黒く染まり、煤だらけになっている。

 それは目の前の白いローブ、〈プリエステス〉も例外ではなかった。

 

 氷の弾丸では<灼爛殲鬼(カマエル)>の炎を破れないと悟った〈プリエステス〉は、今度は風を操り攻撃してきた。

 風は、<灼爛殲鬼(カマエル)>の炎を吹き飛ばし、再生能力と身体能力以外を封じられた俺は、お荷物でこそ無かったものの、それに限りなく近い存在だった。

 

 〈プリエステス〉の瞬間移動と風の連続攻撃は厄介だった。しかし、〈プリエステス〉が反射的に出せる風では、<灼爛殲鬼(カマエル)>の炎は吹き飛ばせても十香を吹き飛ばすことはできず、十香では瞬間移動を繰り返す〈プリエステス〉を捉えきれずに千日手。決着はつかなかった。

 

「天使を使える人間がいるとは思っていなかったわよ。

 ―――五河士道。次に会ったら覚えてなさい」

 

 恨み言を残し、仮面越しに俺を睨み付けると彼女は姿を消した。

 

 一瞬だった。消失したのか逃げたのかわからないが、今日はもう来ないだろう。

 

「―――終わったな」

「ああ」

 

 十香が霊装を解き、うちの制服姿に戻る。

 俺も灼爛殲鬼(カマエル)を消して、十香に向き直った。

 

 さて、ここからが本題だ。

 

「十香、聞いてほしいことがある」

「何だ、シドー」

 

 認めたくはないが、〈プリエステス〉があのタイミングで入ってきたのは良かったのかもしれない。あのタイミングで一息つけたからこそ、今度はしっかりと言葉を返せる。

 

「さっき、十香は言ったよな。十香は死んだ方がいいって」

「……ん?

 …………………ああ、言った。確かに私は死んだ方がいい。

 シドーが刺されたあの時、反射的にあいつを殺しそうになった。周りのことも考えず、シドーのことも気にせずに、暴れそうになったのだ。メカメカ団が言っていたが、結局私は世界を破壊する災害でしかない」

 

 俺は、少し考えていた。

 十香の意思は変わらない。十香は、自分ですら自分を否定してしまうほどに否定されてきた。故に、彼女に最も必要なのは『自身を肯定してくれる』存在だろう。

 

「十香、確かにそうだ。精霊は危険な存在で、十香が災害と呼ばれる存在で、十香は今まで世界を破壊してきた存在だ。それは知ってるし、ある程度理解してる。

 ―――けれど、俺はそれでも十香に生きてほしい」

 

 十香が目を見開く。

 

 簡単なことだ。答えは既に出していたんだ。

 俺にとって、精霊は憎くて憎くて殺してやりたい存在だ。その感情は、今も変わらずに俺の内で渦巻いている。

 

 だが、俺は決めたじゃないか。

 

「十香は、さっき俺を守ってくれただろう。助けようとしてくれただろう。

 だったら、十香は世界を壊す災害なんかじゃない。誰かのために頑張れる、心優しい存在だ」

 

 十香は、精霊である以前に十香なんだって。心優しい一人の女の子なんだって。

 

「……シドー、だが私は―――」

「俺は、十香を否定して欲しくない。たとえ十香自身にも、否定して欲しくない。誰かのために命をかけられる、誰かのことを思って行動できる十香を、たとえ誰であってもさげすんで欲しくない、貶して欲しくないんだ」

 

 俺は十香を肯定する。

 精霊は憎いけれど、恨んでいるけれど、俺は十香が好きだから。まっすぐな彼女が大好きだから。

 

「だから、生きてくれ。死んだ方が良いなんて言わないでくれ」

 

 

 

「……私は、生きていて良いのか?」

「それはわからない。十香に死んで欲しいって言う人は数多くいるから、俺には十香が生きてもいいかなんてわからない。

 でも、少なくとも俺は、十香に生きていて欲しい」

 

「……私は、人間の生活のことはまるでわからない。もしかしたら、何かの拍子で人を殺してしまうかもしれない。この街を壊してしまうかもしれない。きっと、この世界で生きることは私にとってはとても大変で、多くの人に迷惑をかけてしまうと思う。

 ―――それでも、シドーは私に生きていて欲しいのか?」

 

 

「―――当たり前だろう」

 

 俺がそう告げると、十香は何時ものように笑って

 

「そうか、シドーが言うなら、私も生きてみよう」

 

 と、言った。




10月7日(水) 16:16 カマエルの色を修正
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