五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス) 作:エター
連続投稿しています。
前の話を見ていない人は、一話戻ってください。
「絶景だな」
夕日の赤い夕陽が差し込み始めた高台、そこに私とシドーはいた。
柵から身を乗り出して遠くを眺めれば、そこには今日シドーと見て回った町が広がっていた。
―――絶景だった。
私は、世界がこんなにも広くて、こんなにも穏やかで、こんなにも綺麗だなんて夢にも思っていなかった。この景色の前では、私のちっぽけさが良くわかる。
「―――いいものだな、デェトというものは。シドーとのデェトは、私にたくさんのことを教えてくれた」
今日、シドーは私に多くのことを教えてくれた。
人間は、私を否定する存在ではなかったこと。
きなこパンは、とてもおいしいということ。
げぇむせんたぁとやらは、とても楽しいということ。
―――世界は、こんなにも美しいのだということ。
ああ、だからこそわかる。メカメカ団は、どうしてあれほど私を憎んでいるのか。
それは、とても簡単な話だった。
シドーを見る。
シドーは、突然こちらを振り返った私を見て、不思議そうにしていた。
私の心は、そんなシドーの何気ないしぐさで、とても暖かくなった。
どうしてメカメカ団は、私を憎んでいるのか。
その答えは、簡単だった。単純だった。そして、私がわからないのも当たり前のことだった。
シドーは言っていた。私が現れるときは、メカメカ団以外の人間は避難しているのだと。
私は知っていた。私が現れたときは、あの町は瓦礫の山と化すのだと。
あの町が大切な人間は、私のことをどう思うだろうか。
私が現れるとき、避難し損ねた人間の中に大切に思っていた人間がいたならば、私のことをどう思うだろうか。
………きっと、それが答えなんだろう。
この世界を知らなかった私にはわからなかった。大切な人を持たない私には理解できなかった。
だが、今ならわかる。この世界を僅かながらも知り、大切な人を待った私にはよくわかる。
大切なものが壊されることは、とても悲しいくて辛いことだ。
大切な人を亡くすことは、身を引き裂かれるほどに嫌なことだ。
そして、それらは憎しみが生まれるきっかけとしては十分なものだろう。
―――そうだろう、シドー。
だから、私はこの世界に生きていたくなかった。
シドーには、綺麗な思い出でいてほしかった。
―――なあ、シドー。お前は、
決定的な一言、その言葉が私の中に響いた。
私は、憎まれて生きてきた。恨まれて生きていた。今の今まで、否定され続けてきた。
だからわかる。シドーは、私のことを憎んでいる。
それは、悲しくて、辛くて、泣きそうになることだけれど、
私は、シドーが好きだった。
シドーは、私が嫌いだった。
ただ、それだけのことだった。
「っ!?し、シドー、ななな何をする」
突然、シドーが私のことを抱きしめてきた。
「ああ、デートって言うのは最後は大抵こうするんだ
………嫌だったか、十香」
「い、いや、別に嫌では無い。
そうだな、うむ。シドーに抱きしめられるのは、嫌な気分ではないぞ」
胸が高鳴る。顔に血が集まってくる。
けれども、シドーの顔を見ればそんな思いは吹き飛んだ。
シドーは、笑っていた。辛そうに、悲しそうに笑っていた。
胸の高鳴りは、やんだ。
………きっと、そういうことなのだろう。
「なあ、十香。今日一日デートしてどうだった。
人間みんなが、お前を殺そうとしている訳じゃなかっただろ」
「そうだな、確かにそうだった。
みんな優しくて、それこそ今でも信じられない」
シドーの顔は、とても辛そうには見えなかったけれど、とても辛そうに見えた。
とても優しいシドーらしい顔で、辛そうにしていた。
「本当に信じられないくらいだ。あんなにも多くの人間が、私を拒絶せず、受け入れてくれるとは思わなかった。
―――それこそ、あのメカメカ団が街ぐるみで私を欺こうとしていると考えた方が、信じられるくらいには」
「いや、流石にそれはないだろ」
そうだろうか? 今日はそうではないかもしれないが、メカメカ団ならできそうな気もする。
そんな時、シドーが変なことを言い出した。
「そうなると、俺もメカメカ団の一員ってことになるな」
「それはない」
シドーはどうしたのだろうか。シドーがメカメカ団の一員かは、言ってはいけないことだろう。
……希望を、見せないでほしい。すがりたくなる。
「きっとシドーはあれだ。脅されて仕方なく協力しているのだ。
シドーが敵だなんて、考えたくない」
「十香………」
私の言葉に、シドーは顔をゆがめる。
「そんな顔しないでくれ、シドー。
私は今日一日シドーと一緒にデエトして、本当に楽しかったんだ。本当にうれしかったんだ」
顔を上げる。シドーはさらに顔をゆがめていた。
……しかたない。
「本当に、本当に今日は有意義な一日だった。ありがとうシドー、お前のおかげで私は、ためらいなく死ねる」
「………十香、何を言っているんだ」
シドーが踏み出せないなら、私が一歩踏み出そう。
「私みたいなヤツは、いない方がいい。
私は、この世界に現界するたびに、こんなにも素晴らしくて、こんなにも優しくて、こんなにもきれいな世界を壊してきたんだ。
―――そうだろう、シドー」
「それ、は、
でも、それは、十香の意思じゃ、十香がわざとこの世界を壊しているわけじゃ―――」
「事実として、事実としてそうだ。
私がわざと壊しているわけでないにせよ、私が壊しているという事実は変わらない」
シドーは優しいから、憎い相手すら慈しめる。
だからこそ、シドー自身が言い出すことはとても辛いのだろう。
なら、私から言い出す方が、絶対にシドーは楽なはずだ。
「今日一日シドーと一緒にいて、ようやくメカメカ団が私を殺そうとする理由がわかった。
当然だ。こんな世界を壊す私が生きていていい筈がない」
だから、シドーは私を憎んでいいんだ。恨んでいいんだ。
シドーの心が、私なんかで苦しまなくていいんだ。
「ありがとう、シドー。お前のおかげだ」
―――シドーのおかげで、私は『十香』として生きられた。これ以上に嬉しいことはない。
だから、もう何も後悔は無い。
遠くから、強い殺気がする。
きっとメカメカ団だろう。さっきのシドーの悲しい笑顔の理由は、きっとこれに違いない。
「ありがとう、本当にありがとう」
シドーの手を振り払い、距離を取る。
覚悟はできた。悔いはあるが、後悔は欠片もない。
「さよなら、シドー」
私を受け入れくれることはなく、私を心の底から肯定してくれる人間はいなかった。
世界は、私を否定するばかりではなかったけれど、私の全てを満たしてくれる存在はいなかった。
世界は誰も彼もが敵で、私の味方はどこにもいなかった。
けれど、私は独りではなかった。孤独では無かった。
私の名前は、『十香』。私が孤独でない証。シドーとの絆。
この名前がある限り、私は独り孤独ではない。
………それだけで、十分私は幸せだ。