五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス)   作:エター

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前の話を見ていない人は、一話戻ってください。


10章 十香FirstEnd

「絶景だな」

 

 夕日の赤い夕陽が差し込み始めた高台、そこに私とシドーはいた。

 

 柵から身を乗り出して遠くを眺めれば、そこには今日シドーと見て回った町が広がっていた。

 

 ―――絶景だった。

 私は、世界がこんなにも広くて、こんなにも穏やかで、こんなにも綺麗だなんて夢にも思っていなかった。この景色の前では、私のちっぽけさが良くわかる。

 

「―――いいものだな、デェトというものは。シドーとのデェトは、私にたくさんのことを教えてくれた」

 

 今日、シドーは私に多くのことを教えてくれた。

 

 人間は、私を否定する存在ではなかったこと。

 きなこパンは、とてもおいしいということ。

 げぇむせんたぁとやらは、とても楽しいということ。

 

 ―――世界は、こんなにも美しいのだということ。

 

 

 

 ああ、だからこそわかる。メカメカ団は、どうしてあれほど私を憎んでいるのか。

 

 それは、とても簡単な話だった。

 

 

 シドーを見る。

 シドーは、突然こちらを振り返った私を見て、不思議そうにしていた。

 私の心は、そんなシドーの何気ないしぐさで、とても暖かくなった。

 

 

 どうしてメカメカ団は、私を憎んでいるのか。

 その答えは、簡単だった。単純だった。そして、私がわからないのも当たり前のことだった。

 

 シドーは言っていた。私が現れるときは、メカメカ団以外の人間は避難しているのだと。

 私は知っていた。私が現れたときは、あの町は瓦礫の山と化すのだと。

 

 あの町が大切な人間は、私のことをどう思うだろうか。

 私が現れるとき、避難し損ねた人間の中に大切に思っていた人間がいたならば、私のことをどう思うだろうか。

 

 ………きっと、それが答えなんだろう。

 

 この世界を知らなかった私にはわからなかった。大切な人を持たない私には理解できなかった。

 だが、今ならわかる。この世界を僅かながらも知り、大切な人を待った私にはよくわかる。

 

 大切なものが壊されることは、とても悲しいくて辛いことだ。

 大切な人を亡くすことは、身を引き裂かれるほどに嫌なことだ。

 

 そして、それらは憎しみが生まれるきっかけとしては十分なものだろう。

 

 ―――そうだろう、シドー。

 

 

 だから、私はこの世界に生きていたくなかった。

 シドーには、綺麗な思い出でいてほしかった。

 

 

 

 

 ―――なあ、シドー。お前は、()()()()()()()()()()

 

 決定的な一言、その言葉が私の中に響いた。

 

 

 私は、憎まれて生きてきた。恨まれて生きていた。今の今まで、否定され続けてきた。

 だからわかる。シドーは、私のことを憎んでいる。

 

 それは、悲しくて、辛くて、泣きそうになることだけれど、

 

 私は、シドーが好きだった。

 シドーは、私が嫌いだった。

 

 ただ、それだけのことだった。

 

 

 

「っ!?し、シドー、ななな何をする」

 

 突然、シドーが私のことを抱きしめてきた。

 

「ああ、デートって言うのは最後は大抵こうするんだ

 ………嫌だったか、十香」

「い、いや、別に嫌では無い。

 そうだな、うむ。シドーに抱きしめられるのは、嫌な気分ではないぞ」

 

 胸が高鳴る。顔に血が集まってくる。

 けれども、シドーの顔を見ればそんな思いは吹き飛んだ。

 

 

 シドーは、笑っていた。辛そうに、悲しそうに笑っていた。

 

 胸の高鳴りは、やんだ。

 

 

 

 ………きっと、そういうことなのだろう。

 

 

 

「なあ、十香。今日一日デートしてどうだった。

 人間みんなが、お前を殺そうとしている訳じゃなかっただろ」

「そうだな、確かにそうだった。

 みんな優しくて、それこそ今でも信じられない」

 

 シドーの顔は、とても辛そうには見えなかったけれど、とても辛そうに見えた。

 とても優しいシドーらしい顔で、辛そうにしていた。 

 

「本当に信じられないくらいだ。あんなにも多くの人間が、私を拒絶せず、受け入れてくれるとは思わなかった。

―――それこそ、あのメカメカ団が街ぐるみで私を欺こうとしていると考えた方が、信じられるくらいには」

「いや、流石にそれはないだろ」

 

 そうだろうか? 今日はそうではないかもしれないが、メカメカ団ならできそうな気もする。

 

 そんな時、シドーが変なことを言い出した。

 

「そうなると、俺もメカメカ団の一員ってことになるな」

「それはない」

 

 シドーはどうしたのだろうか。シドーがメカメカ団の一員かは、言ってはいけないことだろう。

 

 ……希望を、見せないでほしい。すがりたくなる。

 

「きっとシドーはあれだ。脅されて仕方なく協力しているのだ。

シドーが敵だなんて、考えたくない」

「十香………」

 

 私の言葉に、シドーは顔をゆがめる。

 

「そんな顔しないでくれ、シドー。

 私は今日一日シドーと一緒にデエトして、本当に楽しかったんだ。本当にうれしかったんだ」

 

 顔を上げる。シドーはさらに顔をゆがめていた。

 

 

 ……しかたない。

 

 

 

 

「本当に、本当に今日は有意義な一日だった。ありがとうシドー、お前のおかげで私は、ためらいなく死ねる」

「………十香、何を言っているんだ」

 

 シドーが踏み出せないなら、私が一歩踏み出そう。

 

「私みたいなヤツは、いない方がいい。

 私は、この世界に現界するたびに、こんなにも素晴らしくて、こんなにも優しくて、こんなにもきれいな世界を壊してきたんだ。

―――そうだろう、シドー」

「それ、は、

 でも、それは、十香の意思じゃ、十香がわざとこの世界を壊しているわけじゃ―――」

「事実として、事実としてそうだ。

 私がわざと壊しているわけでないにせよ、私が壊しているという事実は変わらない」

 

 シドーは優しいから、憎い相手すら慈しめる。

 だからこそ、シドー自身が言い出すことはとても辛いのだろう。

 なら、私から言い出す方が、絶対にシドーは楽なはずだ。

 

「今日一日シドーと一緒にいて、ようやくメカメカ団が私を殺そうとする理由がわかった。

 当然だ。こんな世界を壊す私が生きていていい筈がない」

 

 だから、シドーは私を憎んでいいんだ。恨んでいいんだ。

 シドーの心が、私なんかで苦しまなくていいんだ。

 

「ありがとう、シドー。お前のおかげだ」

 

―――シドーのおかげで、私は『十香』として生きられた。これ以上に嬉しいことはない。

 だから、もう何も後悔は無い。

 

 遠くから、強い殺気がする。

 きっとメカメカ団だろう。さっきのシドーの悲しい笑顔の理由は、きっとこれに違いない。

 

「ありがとう、本当にありがとう」

 

 シドーの手を振り払い、距離を取る。

 覚悟はできた。悔いはあるが、後悔は欠片もない。

 

「さよなら、シドー」

 

 私を受け入れくれることはなく、私を心の底から肯定してくれる人間はいなかった。

 世界は、私を否定するばかりではなかったけれど、私の全てを満たしてくれる存在はいなかった。

 世界は誰も彼もが敵で、私の味方はどこにもいなかった。

 

 けれど、私は独りではなかった。孤独では無かった。

 

 

 私の名前は、『十香』。私が孤独でない証。シドーとの絆。

 この名前がある限り、私は独り孤独ではない。

 

 ………それだけで、十分私は幸せだ。

 

 

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