五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス)   作:エター

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 更新が遅れて申し訳ありませんでした。ようやく投稿です。

 遅れた理由には、この話がかなり難産だったというのもありますが、以前投稿した話を修正したり、びっくりするほどユートピアしたり、インストールしたりリンカネーションしたりしてしまっていたため、という物があります。(遠回しな宣伝)
 凛祢編を入れるためにプロットを書き直していたため、色々と大変でした。

 インストールは終わっていないので、更に更新は長引くと思います。できるだけ更新は急ぐので、よろしくお願いします。


三章 揺れる少女

 突然現れた少女、何故だかわからないが俺は彼女に見覚えがあった。

 何処で見たのかはわからないが、確かに俺は彼女を何処かで見た事があった。

 

「―――どうかしたのか」

 

 彼女の上に傘を差し、膝を曲げ彼女と近い目線で問いかける。雨が身体を濡らすが、さすがに女の子が目の前で雨に打たれているのにそれを放置できるほどの性根は持ち合わせていない。

 

「……っ……っ……ううう……よしのん……どこぉ」

 

 彼女は、俺を一度見ると目を瞬かせて再び泣き出した。

 泣き止む気配がない。それどころか悪化させてしまったように感じる。

 琴里以外の泣いている女の子を泣き止めさせようとしたことがないから、いまいちどうすれば良いのかわからない。

 

 

 

 

 

 琴里用のチュッパチャプスを幾つか渡し、懸命に話し合った結果、ようやく彼女は泣き止み、目をうるうるとさせる程度まで大人しくなった。

 

 正直言えば、道端で女の子にお菓子渡してるのって事案ものだよな。

 

 それはともかく、落ち着いた彼女の姿をよく見る。

 

 

 

 

 青い髪に青い瞳、儚げで今にも消えてしまいそうな雰囲気、ある程度とはいえ雨に晒されていたにもかかわらず、一切湿らず汚れていない翠の服。

 

 

 

 

 

 

 ………もしかしなくても精霊だろう。

 若干青みがかった頭髪の俺が言うのもなんだが、昔テレビで生まれつき水色の髪の人間なんて存在しない、と聞いたことがある。

 それに、雨に晒されても湿らず汚れない服なんて、精霊の霊装以外俺は知らない。

 見覚えがあるように感じたのは、おそらく彼女が精霊だからだろう。昔、折紙に精霊の写真を見せて貰ったことがある。だから、見覚えがあったように感じたんだ。

 

「参ったな……精霊となると、交番に連れて行くわけにはいかないか」

 

 落ち着かせるまでの過程で、彼女が『よしのん』と呼ばれる誰かといっしょだったことがわかったから、交番に連れて行って『よしのん』を探してもらおうかと思ったんだが、流石に精霊だったらそうもいかない。

 

 万が一交番で精霊だとバレたら、ASTに殺されるかもしれない。一応、精霊については秘匿されてはいるが、交番の警官が精霊を知っている確率は0ではないんだ。最近の天宮市は空間震が頻発しているし、空間震無しに精霊が出現することは〈プリエステス〉の件で知られている以上、もしかしたら知っている人間が配属されているかもしれない。

 俺自身、この子が憎き精霊である以上、そのままASTにつきだしてやろうと考えなかったわけではないが、流石にこんな子を引き渡すのは気が引ける。精霊を恨んではいるが、こんな子供を率先して殺そうとするほど屑になった覚えはない。

 

 さて、そうなると………〈ラタトスク〉、か。

 しかし、基本的にこちらから〈ラタトスク〉に対して連絡を取ることは無いから、どうやったら連絡がとれるかわからない。

 

 

 ……琴里に連絡すべきだろうか。

 ただ、〈ラタトスク〉の件がわかって以来、若干琴里に対して気まずさを感じている自分がいる。今は家に十香がいるから表面化していないが、琴里もなんとなく俺が避けていることに気が付いているようで、十香が家にいないと家の中がなんとなくぎこちない空気になる。

 前のように馬鹿話をして笑い合ったりするのはできなくなったし、年頃の女の子の部屋に入るのは……などと言い訳をしているが、琴里や俺がお互いを起こさなくなったのはこのせいだ。

 白いリボンをつけているとき、外向けに演技をしているときの琴里とすら、二人きりで話すことは殆どなくなってしまった。

 

 精霊が出たから連絡した、なんて言えば、この拡がりはもっと深刻なものになってしまう気がする。

 ………どうするべきか。

 

 精霊の女の子を見る。

 

「………っ、………っ、ぅぅぅ」

 

 彼女はチュッパチャプスを舐めながら、涙目になりながらも懸命に泣くのを堪えていた。

 きっと、彼女にとって『よしのん』というのは大切な存在なんだろう。目を見ればよくわかる。

 

 ………大切な人をなくすのは、辛いよな。

 奏をなくした俺には、この子の悲しみが少しは理解できた気がした。

 

「しょうがない」

 

 この電話をすれば、大切な何かが狂ってしまう気がしたが、しょうがない。琴里は生きているんだから、ある程度関係性の改善ぐらいできるだろう。

 この子は、もしかしたら二度と会えないかもしれないんだ。天秤にはかけられない。

 

 さて、そうと決まれば琴里に連絡を――――

 

 

 

 

 

 ――――それをされるのは、困るわね。

 

 直後、俺は酷い頭痛に襲われ、意識を手放した。

 

 

 

 

        ◇

 

 

 

 

 五河琴里は天才である。

 いや、天才であらんとする秀才、と言うべきなのかもしれない。だが、才能があるのは事実である。

 中学生にして100を超える人間を心酔させるそのカリスマだけを見ても、彼女のその努力と才能を伺わせるだろう。

 〈ラタトスク〉の司令を任されているのも、彼女自身が精霊だという事もあるが、彼女が司令としての任を全うできるだけの能力があると評価されているからである。

 

 

 ただ、それでも彼女は14の少女なのだ。

 

 

 

 〈ラタトスク〉という組織は、常に封印した精霊達の精神状態をモニタリングしている。

 この情報は、余程の末端の人間でなければ知ることができるほどに〈ラタトスク〉内では共有されており、万が一の危険を皆が知ることができるようになっている。

 

 そのため、〈ラタトスク〉のメンバーの多くは、司令である琴里の精神状態を知っていた。ここ最近の琴里の、不安定な様子を知っていた。

 

「司令、大丈夫なんでしょうか」

 

 司令室に、どこからともなく声が響く。

 それは、この部屋にいる誰もが思っていたことだった。

 

「大丈夫では、ないでしょう」

 

 その言葉に、神無月が応えた。

 

「司令は、士道君のために司令として努力してきました。

 彼のためであればどれ程辛い事であってもこなしてきましたし、どんな努力も惜しみませんでした。

 司令にとって、士道君は何よりも大切にしている存在と言えるでしょう。

 

 なら、大丈夫なはずがありません」

 

 室内が静まり返る。

 彼の言葉に、皆が内心で賛同してしまったからだ。

 神無月の言葉は、それだけの説得力があった。

 

「いずれにしても、私たちにできることは一つだけ。

 ―――いつも通り、司令に尽くすだけです」

「ですがっ!!」

 

「どうしたのよ、そんなに大きな声で」

「っ!? 司令……」

 

 神無月の言葉に、《藁人形(ネイルノッカー)》の椎崎は言葉を返す。

 

 しかし、その直後に琴里が部屋に入ってきたために、彼女は言葉を切らざるをえなくなった。

 

「おはようございます、司令」

「お疲れ様です、司令」

 

 室内の〈ラタトスク〉の人員が、続々と挨拶をしてゆく。

 琴里はその様子に満足そうに頷くと、何時も座っている司令官用の椅子に腰を下ろした。

 

「さてと、それじゃあ私がいない間の出来事の報告を御願い」

「かしこまりました。

 まず、規定されていた、天宮市内の全ての霊波反応探知センサー、および世界樹の葉の設置が完了しました。これにより、我々〈ラタトスク〉が市全体を完全に監視下に置くことができるようになりました。

 次に、2番の開発と設計は概ね完了したと報告が上がっています。全体出力を前のものより向上させたため、予定よりも多少大きくなりましたが許容範囲内です。問題であったハッキング対策も、〈プリエステス〉の手口が不明であったために完全に無効化できるとまではいきませんが、ある程度の目処がたったとの報告を受けています。

 また、予てより行われていたAST天宮駐屯地への潜入ですが、戦闘員として1名、CR-ユニットの整備員として1名が、五月の下旬に潜入できるようです」

「精霊マンションの建築についてはどうなってるかしら」

「今朝の報告から特に進展は無く、設計の段階です。十香さんの天使の最高出力の想定に難航しており、万が一の際の耐久性と快適な生活空間の確保との兼ね合いで、難航しているようです」

「そう、まだなのね」

 

 全ての報告を聞いた琴里は、何か考え事をするかのように、溜め息を吐きつつ椅子に背を任せた。

 

「………しかたないかしら。

 来て早々で悪いけれど、少し休むわ。神無月は代行を御願い」

「了解しました。ごゆっくりお休みください」

 

 椅子から起き上がり、琴里は部屋を後にする。

 

 

 室内は沈黙し、しばらくして神無月が声を上げた。

 

「私に『御願い』などと言うとは………司令は、我々が思っている以上に、相当参っているようですね」

「やはり、私たちで何かできないでしょうか」

 

 その声に対し椎崎が問いかけるが、神無月は首を横に振った。

 

「下手に何かをすれば、この場合は逆効果でしょう。この問題を解決できるのは、司令と士道君のふたりだけ。もし、我々がこの問題を解決するために士道君に何か働きかけたりしても、万が一我々が働きかけたことがバレれば、きっと取り返しがつかなくなります。

 我々にできるのは、司令が彼と話す機会を多く用意できるよう、今までと同じように努力し続けるだけです。

 ………尽くすことしかできないのですよ」

 

 神無月は、無力感を押さえつけるように、最後にそう呟いた。

 

「副司令………」

 

 どこからともなく、感銘を受けたかのような言葉が漏れる。

 

 

 此所にいる皆が、日頃はあんな副司令も、色々考えているんだなぁ、と感じてしまっていた。

 

 

 

「―――っというわけで、私は司令の椅子でも暖めましょう!!」

 

 

 

 もっとも、すぐにその考えを捨てたが。

 

 

 

       ◇

 

 

「あれ?」

 

 気がつけば、俺は自宅でフライパンを振るっていた。

 フライパンの中にあるのはチキンライス。まるで、オムライスでも作ろうとしているかのようだった。

 

 一旦火を止めてリビングの方を覗けば、昔琴里にあげたウサギのぬいぐるみを抱きしめていた。

 

 幼女の連れ込み……これは事案ものだよな。

 

 額に汗がうかぶ。

 幼い少女を拐かしたなどと学校で騒がれたら、間違いなく不登校になる自信がある。俺が本当に拐かしたならともかく、誤解で人生を棒に振りたくない。

 

 ……まてよ、本当に誤解か?

 俺には、何故かついさっきまでの鮮明な記憶が無い。もしかしたら、本当に拐かしたかもしれない。

 

 とりあえず、オムライスを仕上げよう。

 俺は、現実から逃げるようにフライパン振るった。

 

 

 

 

 

「ほら、できたぞ」

「……っ。……あ、ありがとう、ございます」

「いいよいいよ。悲しいときは、美味しいものでも食べて、空元気でも良いから元気だした方が良いからな。遠慮せずに食べてくれ」

 

 おずおずと食べ始める彼女を眺めながら、俺は必死に記憶を掘り返していた。

 しかし、いくら記憶を漁っても彼女と出会ったところまでしか記憶が無い。

 

 泣き止ませたところまでは憶えているんだが、その後どうしたんだっけか。何かあったはずなんだけれどなぁ。

 

 と、その時突然彼女が机を叩き始めたのでびっくりして意識を思考の中から起こす。

 彼女は、興奮気味に机を叩いた後、某ターミネーターの如く親指を立てた。

 どうやら、俺のオムライスがお気に召したらしい。興奮しつつも、ちょこちょことオムライスを食べてゆくその姿に、思わず顔が綻んだ。

 

 

 

 

「……ご、ごちそうさまでした」

「ああ、おそまつさまでした。美味しかったようで何よりだ」

 

 食べ終わった皿を片付け、目の前の彼女に向き直る。

 

 ………そういえば、そもそもどうして俺は彼女を家に連れてきたんだ? 何故か記憶が飛んでいるからわからないけれど、普通は迷子の子供なんて交番に連れて行くべきだろう。どうして、俺はそうしなかったんだ?

 

「……あっ、あの」

「あ、ああ悪い。どうかしたのか?」

 

 彼女の声で、思考が途切れる。

 それを考えるのは今度で良い。今は、俺の事情よりもこの子のことを優先すべきだ。交番に連れて行かなかったのも、きっと何か理由があるのだろう。

 

「………ご、ごはん。………ありがとうございます。」

「いいって。流石に、目の前で困っている子を放置できないからな」

 

 まぁ、そうはいうものの本当は自分でもどうしてそうしたのかわからないんだけどな。

 

「雨も降ってるし、親御さんに迎えに来てもらおうか。ご両親の携帯電話の番号はわかる?」

「………? ………けいたい、でんわ? ………ご、ごめんなさい、わからないです」

 

 俺の言葉に、彼女は俯きがちに答えた。

 まあ、仕方ないか。小さい子ならわからなくてもしょうがないだろう。

 

 となると、俺が送るか。

 徒歩だから若干濡れることになるけれど、それはどうしようも無いだろう。俺は、まだ運転免許証持ってないし。

 

「じゃあ、俺が家まで―――」

 

 そう言いかけたとき、急に玄関のドアが開いた音が家に響き、次いでリビングのドアが開けられた。

 

 




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