五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス) 作:エター
序章 復讐者の少年
ASTが狙撃の用意を終えるで、後少し。
十香、あいつを殺した精霊の一人である彼女を抱きしめる。
「っ!?し、シドー、ななな何をする」
「ああ、デートって言うのは最後は大抵こうするんだ
………嫌だったか、十香」
「い、いや、別に嫌では無い。
そうだな、うむ。シドーに抱きしめられるのは、嫌な気分ではないぞ」
口からこぼれる嘘八百に、思わず苦笑い。
よく今から殺そうとしている相手に、こんなことが言えた物だ。我ながら吐き気がする。
「なあ、十香。今日一日デートしてどうだった。
人間みんなが、お前を殺そうとしている訳じゃなかっただろ」
「そうだな、確かにそうだった。
みんな優しくて、それこそ今でも信じられない」
そう言って十香は苦笑いをうかべる。
「本当に信じられないくらいだ。あんなにも多くの人間が、私を拒絶せず、受け入れてくれるとは思わなかった。
―――それこそ、あのメカメカ団が街ぐるみで私を欺こうとしていると考えた方が、信じられるくらいには」
「いや、流石にそれはないだろ」
いくらASTとはいえ、流石にそれは無理だ。
ただ、それを笑って返すことはできなかった。
―――少なくとも、俺はそうなのだから
「そうなると、俺もメカメカ団の一員ってことになるな」
「それはない」
即答だった。十香は迷いもなく俺がASTの人間ではないと断言した。
「きっとシドーはあれだ。脅されて仕方なく協力しているのだ。
シドーが敵だなんて、考えたくない」
「十香………」
胸が痛んだ。
きっと彼女は、俺のことを信じてくれているのだろう。それでこそ、彼女の境遇を考えれば、彼女にとって俺は、世界で唯一信じられる人間なのかもしれない。
そんな彼女を、俺は裏切っているんだ。
「そんな顔しないでくれ、シドー
私は今日一日シドーと一緒にデエトして、本当に楽しかったんだ。本当にうれしかったんだ」
そう言って十香は俺の胸から顔を上げた。
「本当に、本当に今日は有意義な一日だった。ありがとうシドー、お前のおかげで私は、
「………十香、何を言っているんだ」
一瞬、頭が真っ白になった。
十香は今、なんと言った?
「私みたいなヤツは、いない方がいい。
私は、この世界に現界するたびに、こんなにも素晴らしくて、こんなにも優しくて、こんなにもきれいな世界を壊してきたんだ。
―――そうだろう、シドー」
「それ、は、
でも、それは、十香の意思じゃ、十香がわざとこの世界を壊しているわけじゃ―――」
「事実として、事実としてそうだ。
私がわざと壊しているわけでないにせよ、私が壊しているという事実は変わらない」
確かにそうかもしれない。
いくら元通りになるとはいえ、十香がこの世界を壊してきたという事実は変わらない。故意にせよ、そうでないにせよ、精霊に人々が殺されてきたという事実は、変えようがない。
でも、だからといって、それは―――
いや、それは十香を殺そうとしている俺が言っていいことではない。
「今日一日シドーと一緒にいて、ようやくメカメカ団が私を殺そうとする理由がわかった。
当然だ。こんな世界を壊す私が生きていていい筈がない」
そうして十香は笑った。
それは昼間とは違い、まるで壊れそうな、弱々しく痛々しい笑顔だった。
「ありがとう、シドー。お前のおかげだ」
俺の腕を十香は優しく振り払い、俺から離れる。
「ありがとう、本当にありがとう」
その姿はまるで、今にも消えようとするろうそくの火のようで、俺は………
「さよなら、シドー」
「―――十香っ!!」
手を伸ばす。
瞬間、銃声が響いた。
俺の前には、笑顔で倒れる、血を流した十香の姿があった
復讐を成し遂げた俺の胸には、達成感は無かった。