五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス)   作:エター

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二章 精霊、彼女は〈プリンセス〉

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

教室に、否、街中に大きなサイレン音が鳴り響いた。

 

「………これは」

 

教室が静まり返った。

 

左隣に座る折紙に目を向ける。

俺と目が合った彼女は、問いかけるような俺の視線に答えるかのように、大きくうなずいた。

 

つまり、そういうことなのだろう。

 

『―――これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。空間震の、前進が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します。これは訓練では、ありません。これは―――』

 

教室中から、一斉に息を呑む音が聞こえた。

 

「おいおい………マジかよ」

 

去年同じクラスだった、友人の殿町がつぶやく声が、静まりかえった教室に広がった。

 

だがしかし、殿町にも、そして殿町以外のクラスメイト達にもあまり動揺はなかった。

それもそのはず、このあたりは昔大規模な空間震があった関係上避難訓練は腐るほど行われていたし、半年前にも何度か空間震があったからだ。

見れば、多くの生徒か廊下に出て並び始めていた。

 

「………士道」

 

すぐ隣からかけられた声の主、折紙の方へと振り返る。

彼女は陸上自衛隊の対精霊部隊、ASTの魔術師。空間震が起こったと言うことは、それによって彼女がたお―――いや、殺さなければならない奴らが出現すると言うことに他ならない。

 

「………ああ。俺には心配することしかできないけれど。

 ―――必ず、必ず無事に帰ってきてくれ。頼む」

 

「わかった、必ず戻ってくる」

 

一瞬、全身に寒気が走る。

折紙が、戻ってくるの後に何か言った気がしたが、気のせいだろう、気のせいだと思いたい。

たまに、折紙は俺に聞こえないように怖いことを言っているときがあるからこうやって寒気が走ることがあるんだ。どうにかならないだろうか。

 

廊下を駆け出してゆく彼女を見送りながら、そう思った。

 

「おちついてくださぁーい!ゆっくり焦らずですよ!大丈夫ですよ、大丈夫ですからゆっくり駆けずに進んでくださぁい!」

 

流石に初めてではないからだろうか、少し慌てつつも頑張って誘導をしようとしているたまちゃん先生の姿が見える。

そんな姿になんとなく感じていた不安が解された。

 

ふとその時、なんとなく琴里の様子が気になった。

 

『絶対だぞ!絶対だからな!地震雷火事親父が来ても、空間震が起こっても、ファミレスが爆破されても絶対だぞ!』

 

―――空間震が起こっても

 

「いや、まさかな。そこまでバカじゃないだろ」

 

携帯電話をポケットから取り出し、着信履歴の一番上にある『五河琴里』の名前を選択し、電話をかける。

 

…………

 

………

 

……

 

―――繫がらない。

 

顔から血の気が引くのがわかった。

 

おそらく、今までの人生で一番速いであろう速度で携帯を操作し、琴里の居場所を確認するためにGPSを利用した位置情報確認サービスを呼び出す。

 

―――携帯の画面は、近所のファミレスを示していた。

 

頭が真っ白になる。

 

 

 

仮面越しに俺を嘲笑うアイツの姿。アイツに斬り捨てられる奏。病院で力なく笑う奏と無表情で此方を見つめる折紙。屋上に立つ奏。そこから飛び立つ奏の後ろ姿。

 

―――折紙が差し出す、血に濡れたヘアピン

 

頭の中で、それらが駆け巡ってゆく。

 

 

俺は、全速力で駆け出した。

 

 

 

    ◇

 

 

『必ず、必ず無事に帰ってきてくれ』

 

彼の心配そうな声を思い出し、気分が高揚する。

たった一言ではあったけれど、その一言は私にとっては何よりも心強いものだった。

 

「鳶一一曹、どうぞ!」

 

整備士からの声にうなずき、自分専用のドックに腰掛けると着込んでいるワイヤリングスーツを通して、ドックに収められた戦術顕現装置搭載ユニット、略してCR-ユニットを起動、それによって発生した随意領域を利用し、武装を身に纏う。

 

未明に戦闘があったことから、整備が終わるか心配だったが、なんとか終わったようで少しホッとした。

 

―――これで精霊を殺すことができる

 

整備が終わることを待っている他の隊員にぶつからないように移動し、ASTの隊長、日下部燎子一尉の前に立ち他の隊員が揃うのを待つ。

 

「折紙」

「はい」

 

呼びかけてきた彼女に応え、目線を向ける。

 

「………例の奏の彼氏の、彼はどうしてる?」

 

彼、名前は口にしなかったものの、それが士道のことを指していることは聞き返さずともわかった。

彼女は何故かはわからないけれども、三笠奏が死んで以降2、3度彼と顔を合わせ、そして頻繁に私に彼の様子を聞いてきていた。

 

とはいえ、あの頃の彼の様子を見れば心配になる理由はなんとなくわかる。

あの頃の、ほんの一月二月前までの彼は―――彼は私や彼女のようなASTの人間以外にはその様子を悟らせず、うまく取り繕っていたものの―――今にも壊れそうな様子だったのだから。

人のいいこの人は、そんな彼の姿を見て気にしてしまっているのだろう。

 

もっとも、彼の様子は彼の家の中に仕掛けた乙女の勘や、鞄や着替えに仕込んだ乙女の勘でしっかりと把握しているから、心配はいらないのだが。

 

「春休みの間は会うことは稀だったけれど、なんとか立ち直ったようだった」

 

そう答えると、彼女は僅かに顔を綻ばせた。

 

「そう、ならよかったわ」

 

彼女は短くそう答えると、落ち着かなさそうに手にレイザーブレイドを持ち、刃を出さずその柄の部分をペン回しのようにいじり始めた。

 

そんな彼女を視界の隅に収めながら、私は武装のチェックを行ってゆく。

本人は気付いていないが、彼女が奏のことを考えているときは、ペン回しのように何かを弄る癖があることはASTの中ではわりと有名な話だった。

 

 

十数秒程たち、CR-ユニットを装備した他の隊員達が集まってくる。

 

素早く点呼をとると、私達は空間震の発生源へと飛び出した。

 

 

      ◇

 

 

走る、

走る、

走る、

 

ただひたすらに、やみくもに、琴里がいるであろうファミレスへと人気の無い街を駆け抜ける。

のどが張り付き、指先が痺れ、視界が狭まっていくが、それらを全て無視し駆ける。駆け、駆け、駆け続ける。

 

琴里の笑顔、泣き顔、怒り顔、日々の何気ない琴里の顔が脳裏に浮かんでは消えてゆく。まるで、もう二度と会えないかのように、浮かび、消え、そして再び浮かび、また消える。

 

「――――っ!――――っ!」

 

声にならない叫びを上げ、走り続ける。

 

―――もうこれ以上、俺の周りの人間を精霊に殺させてなるものか。そんなのはもう嫌だ。

 

アイツに殺される琴里の姿が目に浮かび、息が詰まる。

 

「アァァァァァァ―――――っ!」

 

走りながら叫び、そのイメージを打ち消す。

 

ふとその時、目の前で黒い闇の嵐が巻き起こった。

 

―――空間震

 

かつて見たそれと同じ破壊の権化に俺は、安心感を抱いた。

 

ここはまだ、ファミレスからはほど遠い位置にある。

つまり、ここで空間震が起きたということは、琴里は無事だということだからだ。

 

安心して一息ついたその矢先、爆音とすさまじい衝撃波が襲いかかってくる。

 

「っく………!」

 

咄嗟に頭を腕で守り、足に力を注いだが、それは無駄に終わった。

全力疾走で疲労した足は、俺の身体を留めることができなかったのだ。

 

「っ!………クソ」

 

強大な向かい風に身体ごと吹き飛ばされ、アスファルトの大地を転がる。

二転三転したところで、俺よりも空間震に近い場所にあったためか俺よりも先に飛ばされて道路に突き刺さった瓦礫に阻まれ、俺はその回転を止めた。

 

瓦礫にぶつかった衝撃で、肺の空気が根こそぎ口から吐き出される。

視界がゆがみ、揺れる中、俺は目の前に奇妙なものを捉え、そして俺はそれに目を奪われた。

 

 

ー――それは、少女だった。

金属でもなく、布でもない、そんな何かで造られた鎧のようなドレスを身に纏った少女が一人、そこにはいた。

 

「あっ―――」

 

思わず、言葉が漏れる。

 

彼女はそう、美しかった。

鎧のようなドレスも、淡い光でできたスカートも、美しくはあったが彼女の前では霞んで見えた。

 

腰まで広がる闇色の髪。

俺の知る言葉では表現することすらできない程、美しく輝く瞳。

美の女神ですら素足で逃げ出しそうな容貌。

 

正に、傾国の美女とも言える少女がそこにはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ただ、俺が目を奪われたのはそこではなかった。

 

彼女の瞳に映る深淵のような絶望、俺はそれに心を奪われていた。

 

 

 

「―――君、は」

 

気付けば、俺は声を発していた。

その声で俺に気付いたのか、彼女は此方を向く。

 

「………名、か」

哀しみを載せた絶望を感じさせる声が、俺の鼓膜を震わせる。

 

そして、悲しげに彼女は答えた。

 

「ー――そんなものは、ない」

 

 

 

 

 

 

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