五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス)   作:エター

6 / 20
四章 訓練初日、その裏で

四月十一日 午前五時

 

朝、料理を作りながら昨日のことを思い返す。

 

昨日はあれから、琴里から様々なことを教えられた。

空間震のことやそれを起こす精霊のこと、俺を気絶させたミサイルを発射したASTのこと、そして―――

 

―――精霊を救おうとする、琴里達〈ラタトスク〉のこと

 

「精霊を、救う」

 

おもわず手に力が入り過ぎてしまい、手に持っていたプラスチック製のピーラーにひびが入る。

 

琴里達の言い分もわかる。もし、仮にこれを言われたのが一年前であれば、戸惑いつつも琴里達に賛成したに違いない。

自らの意思に関係なく呼び出され、常に命を狙われ続ける。そんな悲劇、俺にそんな運命が変えられるのなら、きっと精霊達を助けようと奔走しただろう。現に、今の俺にもそういう正義感とも言える意志が全くないというわけではない。

 

―――が、それ以上に俺は精霊が憎い

 

ピーラーが割れ、プラスチックが俺の右手に小さく傷をつける。

 

結局、俺は〈ラタトスク〉の精霊を救うという考え方に、表面上は賛成し、協力することになった。

 

『私たちは〈ラタトスク〉。対話によって、精霊を殺さず空間震を解決するために結成された組織よ』

『精霊に―――恋をさせるの』

『―――というわけでデートして、精霊をデレさせなさい!』

 

デートして、デレさせる。

 

当然、町中でショッピングをしたり、映画館で映画を見たり、動物園や水族館に行ったりするのだから、普通の服を着たりしなければならない以上、霊装や天使は使えないだろう。そうなれば、精霊の持つ絶対的な攻撃力も、城砦とも言える強固な防御力も、その瞬間だけは存在しなくなる。

 

そしてそんな時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――()()()()、ASTの観測機がそれを見つけたり

   ()()()()、近くに武装した隊員がいたりしても

 

それは、不幸な偶然だよな。

 

 

 

    ◇

 

『話がある、放課後家に行ってもいいか 五河士道』

 

新しい副担任がいきなり現れたり、一時間目の授業を士道が何故かサボったりと、何かと朝から騒がしい日。

二時間目が終わり、三時間目の体育のために着替える為に更衣室に行こうとしたとき、彼からすれ違いざまに手紙を渡された。

 

「―――これは」

 

それは、まさしく夢にまで見たものだった。

半年前までは、仕方なく彼が二股をしているという現実を受け入れていたが、ついに私の時代が訪れたのだ。

まあもっとも、私の持つ数少ない友人の中でもとりわけ三笠奏との仲は良かったためか、三人で一緒にデートしたりするのは、それほど嫌悪感はなかったが。

 

それはともかく

 

彼からの逢い引きの手紙が来たのだ。

この日のために、ASTの過酷な訓練のために買ったという名目の栄養剤や、彼女が死んで気落ちしがちだった為に買った興奮作用のあるアロマキャンドルなどを備蓄しておいて良かった。

 

いや、そういえばアロマキャンドルの方は先週使い切ってしまったのだったか。買いに行かねばならない。

 

ワイヤリングスーツを展開することなく、ほんの僅かな間だけ顕現装置を起動、随意領域を展開し脳に負荷を与える。

全身から冷や汗が吹き出、身体がふらつき倒れ込む。

 

「っ!?鳶一さんどうしたの!」

 

隣にいたクラスメイトの女子が、驚き声をかけてくる。

 

「他人には余り言えない日。早退すると先生に伝えて欲しい」

「………あー、わかったわ、伝えてくる。ついでにたまちゃん先生にも伝えてくるから」

「ありがとう」

 

更衣室にいたクラスメイトにみんなが、心配そんな声を私にかけつつ、着替え終わると体育館へと向かってゆく。

 

誰もいなくなっところで、持ってきていたタオルで顔の汗をぬぐうと、教室に向かい荷物をまとめ、彼の机にメモを残しておく。

 

『構わない』

 

名前は書かずとも伝わるだろう。

念のため、岡峰珠恵教諭にクラスメイトに伝えた内容と同じことを伝え、昇降口から外へ出ようとする。

 

と、その時、靴箱を開けたところで、靴箱の中に身に覚えのない折りたたまれた一枚の紙を見つけた。

 

開いてみる。

 

―――『腐食した世界に捧ぐエチュード』

 

紙にはそう題名として書かれ、何やら見覚えのある筆跡で、詩的な文が書かれていた。

 

内容は少々おかしな物であったが、慣れない素人が真剣に考え作られたものだと伝わってくるような、熱心な思いが伝わってくる悪くない出来だった。

 

士道には詩を作るような趣味はなかったはず、つまりこれは、私のためにわざわざ考え書き上げたものなのだろう。感動で僅かに目が潤んだ。

 

『腐食した世界に捧ぐエチュード』を鞄の中に丁寧にしまい、今度こそ家へと帰る。

 

 

一旦家に帰り、少し厚着をしてマスクを付ける。これで補導されることはなくなる。万が一呼び止められても、行き先が薬屋なので、風邪で薬を買いに来たと言えばいい。

時間は有限、今日は間違っても補導されたりして無駄な時間を過ごすわけにはいかない。

 

行きつけの薬屋で、いつものアロマキャンドルを買い求める。ついでにもっと効果のあるお香などもあったので、念のため買っておく。

 

精力剤は、厳選に厳選を重ねたものが既に家にある。

もし仮に、士道が私の身体で興奮できなかったときのための媚薬も、同じく厳選されたものが用意済み。死角はない。

 

レジで精算をした後、そのまま家へと急ぐ。

今の時刻は11時21分。今日の授業は五時間目までなので、士道が家に来るまでには後およそ3時間程度はある。

 

次は家の中を片づけなければ。

 

机の上にあるASTの関連の書類を整理し、ぱっと見ただけでは目につかないようにしまう。

部屋の隅々まで雑巾や綿棒などでホコリを取った後、部屋全体に掃除機をかける。もし、清潔感のない女性だと彼に思われてしまえば、私が私でいられる自信がない。

寝室のベッドを念入りに、念入りに綺麗にし、枕の絵柄を『構わない』から『問題ない』に変えておく。もしかしたら、士道のことだから、どこからか私の早退理由を聞きつけてくるかもしれない。心優しい彼のことだ、私の身体を気遣ってくるかもしれない。そうならないためにも、こうしておけば、いざという時にそれが嘘だとわかるだろう。それくらいのつきあいはある。

 

時間は………まだまだある。

 

そうだ、お茶請けの準備をしておかなくてはならない。

たしか、士道の好きな煎餅がまだあったはず。なら、お茶は紅茶ではなく緑茶だろうか。

ここ半年は、士道を家に招くことはなかったから、緑茶はかなり奥の方にしまってしまっていた。

 

緑茶を何時でも入れられるよう準備し、煎餅がちゃんと残っていることも確認した。

 

12時43分、残り二時間。

 

あとは服装。

士道が所持、隠匿している本から発覚した、士道の好きな服装は、全て準備してある。

 

ミニスカメイド服、改造巫女服、水着、ブルマー、いやここは下手におかしな服ではなく、ミニスカニーソックス程度に抑えるべきか?。

久しぶりに私服を見せるのだから、余りおかしなものでない方がいいのかもしれない。

 

結局、士道の趣味に合わせるのは、ミニスカートにニーソックスだけとしておくことになった。

 

シャワーを浴び、服を着替え、準備は万端。

残りは30分程、どうしようか。

とりあえず、下駄箱で手に入れた『腐敗した世界に捧ぐエチュード』を熟読することにした。

 

 

    ◇

 

―――ぞわっ

 

全身に鳥肌が立つ。何か見られてはいけないものを、見られてはいけない人に見られた気がする。具体的には折紙あたりに。

 

制服から私服へと着替えながら、俺はそう感じた。

 

 

あんなことがあった次の日、一時間目に何故か学校でギャルゲーをやらされ、これ以上授業を潰されてはたまらないので逃げ出し、何とか令音さんを避けつつ学校を逃げ回った後、今日の授業を終えた俺は自宅で服を着替えていた。

 

それにしても、まさか折紙が早退するとは思わなかった。本人は構わないと残していたけど、本当に大丈夫なんだろうか。

 

………まあ、折紙だし大丈夫か。

 

勉強道具を鞄につめ、それを持って折紙の家へと向かう。特に使う用事はないけれど、昨日琴里には、勉強会を開く予定が元々入っていたと説明したから、持っていかなければ不自然だ。

 

行く途中で、お茶請け代わりに何かお菓子でもあった方がいいかと思ったので、クッキーを一箱買っておく。

 

折紙の家のマンションに着き、エントランスで折紙の家の番号をいれてインターホンを鳴らせば、俺が何も言わなかったにもかかわらずドアが開かれる。いや、折紙らしいけど、普通はここで軽く何か話したりするものじゃないんだろうか。

 

とりあえず、折紙の家へ。

 

彼女の家のドアの前に立ち、インターホンを鳴らせば、私服姿の折紙が迎え入れてくれた。

 

「入って」

「あ、ああ、お邪魔します」

 

これは、あのアロマキャンドルだろうか。

玄関のドアを潜れば、半年ほど前に折紙から貰ったアロマキャンドルの香りと同じものが感じられた。

 

折紙の案内でリビングのテーブルに座る。

しばらくすると、折紙はキッチンから煎餅と緑茶を持ってくると、テーブルを挟んだ俺の正面………ではなく、まあ何時ものことだが俺の横に座った。

 

「それで、何かあったの」

 

多くの人がぶっきらぼうに感じるような口調、しかしそこには俺をいたわるような優しさが感じられた。

 

そんな彼女に、俺は早速話を切り出す。

 

「折紙は、〈ラタトスク〉って知ってるか」




自分で書いておいて何ですけど、興奮作用のあるアロマキャンドルってあるんですかね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。