五河士道には、チートな彼女が"いた" (旧題:デート・ア・マニアックス)   作:エター

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多分次からデートの話になります。
(もっとも、事情があってデートの話はほとんどしませんが)


七章 忘れかけた思い

「な、名前か………」

 

いきなり飛び出した難題に、俺は戸惑いを隠せなかった。

 

「だめか?シドーができないというなら私も諦めるが」

「あ、い、いや大丈夫だ。なんとか考えてみる」

 

彼女の上目づかい+涙目&不安げな顔に、俺は咄嗟にそう答えてしまった。

どうしようか。少なくともそんなにすぐに考えつくものではない。

 

とりあえず、琴里達〈ラタトスク〉に意見を聞くために、インカムを軽く2回叩いた。

 

 

 

 

 

 

「ふん、いい気味ね」

 

椅子に腰掛けながら、琴里はそう士道をなじった。

それもそのはず、何度も指示を無視され続けていたのだから。精霊が現れて、お兄ちゃんの為に少しでも役に立とうと気合いを入れていた彼女としては、内心それを無為にされたことが腹立たしくて、それ以上に役に立てなかったことが悔しかったのだ。

まあ、仮面(黒いリボン)をしている彼女は、そんなことは一切顔に出さなかったが。

 

「………さて、どうしたものか」

 

すぐそばにいた令音が、それと同時に唸った。

モニターには選択肢が表示されていないものの、選択肢が表示されている時に鳴るはずのサイレンがその場所では響いていた。

先程の精霊からの質問の内容から考えて、おそらく選択肢のパターンが多すぎて、表示しきれていないことが原因だろう。

 

琴里は、マイクのスイッチを入れると、精霊と話す士道に告げた。

 

「士道、とりあえずこっちでも考えてみるから、焦って変な名前を言うんじゃないわよ」

 

そして立ち上がり、真剣に画面を見つめる周りの〈ラタトスク〉の職員達に告げる。

 

「各員、今すぐに彼女の名前を考えて私の端末に送りなさい!」

 

すると、まるでその回答を待っていたかのように琴里の端末にいくつかの名前が送信されてきた。

 

その中には、部下の妻だった女性の名前である『美佐子』や、そもそも読み方すら分からない『麗鐘』のようなものまで、この一瞬で考えたとは思えないような数の名前が集まってきていた。

 

―――駄目だ、役に立たない。

 

普段はなんだかんだ言って、意外と、予想外にも頼りになる彼らだが、どうやらこの辺に関しては役に立たないようだった。

 

わいわいがやがやと、名前について紛争しつつも纏めようとしている彼らをしり目に、小さくため息を吐く。

 

 

 

 

ふと、その時、モニターの端に映されたとある場所からのカメラ映像に、校舎へとミサイルを放とうとしているASTの隊員の姿が映った。

慌ててマイクのスイッチを入れ、叫ぶ。

 

「士道!ふせて!!」

 

 

 

 

 

 

『士道!ふせて!!』

 

その叫びに、俺の身体ははじけるように動いた。

 

目の前の彼女を抱え、教室から廊下へと跳び込むように逃げ込む。

それに一拍置いて、ついさっきまで俺達がいた場所を、多数のミサイルが薙ぎ払った。

 

「し、シドー!?」

「走るぞ!」

 

彼女の手を引き、ミサイルの爆発で揺れる廊下を走る。

彼女を戦わせるわけにはいかない、せっかくこの世界が彼女を否定しないって、ひとりぼっちじゃないって言ったんだ。だから、彼女を戦わるわけには、ひとりぼっちにするわけにはいかない。彼女をまたあの絶望に堕とすわけにはいかないんだ。

 

とりあえず、階段前の広場に身を隠す。

 

どこなら逃げられる、彼女が戦わなくてすむためにはどうしたら………

琴里達に指示を仰ごうと右手をインカムに触れさせようとして、そのときそこにインカムがないことに気がついた。さっき教室で落としたのだろうか。

 

「クソっ!」

 

無意識に手を強く壁に打ち据える。無意識だったが故に加減がつかなかったのか、小指に折れるような強烈な痛みが走り、拳から血が噴き出した。

 

「シドー、落ち着いてくれ」

 

その拳を抱え込むように、彼女が俺の手を抱きしめる。

 

「シドー、お前は逃げるんだ。あのメカメカ団はシドーと同じ人間だろう、なら、シドーを同胞に殺させるわけにはいかない。

 私が戦って時間を稼ぐ、シドーはメカメカ団に気付かれずにここにこれただろう。そこから逃げてくれ」

「何言ってんだ。お前を戦わせるなんて、そんなことできるわけないだろ。俺は、お前を戦わせないために逃げたんだ」

「ああ、それは私も理解している」

「なら、お前が戦わなくたって―――」

 

「―――だからこそだ。私は、シドーが私のことを思って逃げていることはわかっている。だからこそ、そんなシドーを私は死なせたくない。守りたいんだ」

 

そう言って、彼女は俺に微笑みかける。

 

「………っ」

 

その笑顔に、俺は黙ることしかできなかった。

 

「そうだ、シドー。シドーに一つ、頼みたいことがある」

「………頼みたいこと、か?」

「ああ、これはシドーに決めてほしい」

 

「さっき走っているとき、私は自分の名前を決めた」

 

―――私の名前は、『とおか』だ。

 

「『とおか』、もしかして俺と会った日の………」

「ああ、たしか言っていただろう。私と会った日が四月十日だと。なら、その日は私にとって最高の日だ。『とおか』以外に私の名前に相応しいものはない。

 ………ただ、私は漢字とやらには詳しくなくてな。それを、私と次に会うときまでに決めておいてほしい」

 

『とおか』、それが彼女の名前。

 

「わかった。必ず、決めておく」

「うむ、頼んだぞシドー」

 

 

 

      ◇

 

 

「お疲れさま、士道」

「ああ、そっちこそお疲れ様。琴里」

 

『とおか』が消失して、俺が琴里達に回収された後、色々と検査を受け、その日の夜、俺と琴里は家で食卓を囲っていた。

 

「それで、『とおか』だったかしら。彼女の字は何にしたの?」

「『とお』は漢数字の十にするつもりなんだが、『か』の方が決まらないんだよな」

「まあ、そんな簡単には決まらないわよね。けれど、できるだけ早めに決めておいた方がいいわよ、『とおか』は次にいつ来るかわからないんだから」

「そうだよなぁ。『か』………火、日、夏、華、化、花、香、歌………軽く考えただけでも沢山あるからな、選択肢が多すぎて逆に困る」

 

そんな俺を眺めながら、琴里はフォークに刺したハンバーグを口の中に飲み込む。前のように大袈裟に顔を綻ばせておいしいおいしいと言ってくれる事は無くなり、急に年相応になったために美味しいと思ってくれているのか不安になったりしたが、数日前からよく見ると僅かに顔を綻ばせていることがわかった。

 

「今挙げたので、名前として使えそうなのっていったら、『歌』、『香』、『花』、『華』………後は『夏』もいけそうね」

「『十歌』、『十香』、『十花』、『十華』、『十夏』か、この中でって言ったら『十香』かなぁ。意味も、見た目も結構いいし」

「ならそれにしましょう。とくに悪い意味の言葉でもないし、さっさと決めておかないといけないんだから」

 

と言ってコンメスープを一気に飲み干す琴里。しかし、少し熱かったようで、真っ赤になって僅かに震えていた。こういう少しドジなところを見ると、やっぱり琴里なんだなと思えて安心する。

 

 

 

 

「そうだ、今日は()()()に泊まるから」

 

ハンバーグを食べ終え、食器を片付けながら琴里はそう言ってきた。

 

「わかった。あんまり寝るのが遅くならないようにな」

 

最近の琴里は、こういうことが多い。〈ラタトスク〉の仕事が多いことはわかるが、兄としてはあまり喜ばしくない事だ。

胸が小さいこととか、身長が低いこととか、色々気にしているみたいだし学校生活の事も考えると、あまり夜更かしはしてほしくない。

 

 

 

 

食器を洗い、風呂を出て歯を磨き、眠るためにベッドに横になる。

 

「―――十香」

 

今日は本当に疲れた、タマちゃんに告白して、十香と話して、逃げて、言葉にするとこれしかないけれど、本当に大変だった。

 

けれども、俺は今日、彼女を救えたんだ。十香を精霊だからと否定され続けた彼女を、俺は救うことができたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

………救う?

 

そのとき、ふと気がついた。

 

俺は、何をしているんだ?

俺は、精霊に復讐すると決めたんじゃなかったのか

俺は、精霊を殺すために〈ラタトスク〉に入ったんじゃなかったのか

 

『アハハハハハハッ!!無様ね人間、恋人が目の前で倒れているのになぁにもできないなんて。ありがとう人間、あなたのおかげでその子を楽に殺せるわ』

『大丈夫だよ、私は必ず帰ってくる。今までだってそうしてきたんだから』

『奏は、三笠奏は、精霊と相打ちになって死んだ』

 

そうだ、俺の全てはそのために―――

 

「そうだ、そうだ。おれは………」

 

忘れかけた想いが蘇る。黒い炎が燃え上がる。

 

一瞬、脳裏に絶望した十香の顔が、俺に笑いかける十香の顔が浮かび上がる。

 

―――十香………俺は、俺は

 

心の中の炎は、その顔を焼き尽くした。

 

 

忘れてはいけない。

覚えていなければならない。

 

―――俺は、精霊を殺す。

それが足手まといでしかなかった、守ることすらできなかった俺の誓い。

 

机の上の血の付いたヘアピンが、月明かりで輝いた気がした。




次の話は、この話がチラ裏にあった原因その1が出てきます。
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