俺は完璧だ。
学問、武道両方において俺の相手になる奴はいなかった。
床に放り出してある全国学力調査の結果票は、順位欄が全て「1」で埋まっている。
部屋の隅には、剣道の全国大会の優勝者に送られるトロフィーが埃を被って投げ出されている。
そうだ。ここに俺の相手になる奴はいない。
だから俺は今日も、自分を高めてくれる相手を、世界を探してネットゲームに打ち込むのだった。
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2022年 10月
「やぁ、和人君」
「おはようございます、茅場さん」
チャイムが知らせた来客は茅場晶彦さん。俺の家の隣に住む、アーガス社のVRゲームプログラマーだ。
「それで、今日は何の用ですか?SAOはもう発売一週間前でしょう?こんな所で俺に構ってる暇はあるんですか」
「おや、私は和人君はもうSAO開発チームの一員だとばかり思っていたんだがね」
あれ、アーガスに入社した覚えはないんですけど?と言ってやりたいが、この人には大きな借りがあるためグッと飲み込むことにする。
「...大体想像はつきますけど、俺は何をすれば?」
「よく聞いてくれた。和人君には、アバターの動作とソードスキルの最終チェックに協力してもらいたい」
.....これって、部外者に頼んでいいのか?
「俺は構わないというか、寧ろやらせて頂きたいくらいなんですけど.....それって俺みたいな部外者にやらせちゃって大丈夫なんですか?」
「さっきも言ったが、君はもうチームの一員のようなものさ。第一、ソードスキルのモデルは君の剣術じゃないか」
いや、それはそうなんだけど。
.....あのとき、「VRゲームの開発を手伝ってみないか」という誘いを受けた日は、正直人生で一番テンションが上がったかもしれない。
だが、まさか自分がスキルモーションの開発材料なんて想像もしてなかった。片手剣や細剣ならまだしも、短剣とか斧とかはほぼアドリブだったな....
「勿論、タダとは言わない。君には....」
「手当てとして、製品版SAOをプレゼントしよう」
そう言って、茅場さんはSAOのパッケージを俺に差し出した。
「.....マジですか」
この人は嘘はつかない。付き合いは長い方なのでわかっている。
だったら尚更、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「そういうことなら、是非やらせて頂きます」
そう言って俺は、内心大歓喜で「手当て」を受け取った。
この「手当て」が脱出不可の牢獄へのパスポートだなんて、この時は夢にも思わなかった。
読んでいただきありがとうございます!
茅場はキリト君のお隣のお兄さん的な人です。