第2話です!
2022年 11月6日
あと3分。今日13時に、SAO正式サービスが開始される。
ついにこの日がやって来た。どれだけ待ちわびただろう。
あと2分。部屋を見渡しながら、俺は思った。
ネットゲームは、生きることに退屈していた俺に目標を、喜びを、希望を与えてくれた。
SAOは、そのネットゲームの究極型と言えるゲームだ。五感全てで、ゲームの世界を感じることができる。
あと1分。俺はナーヴギアを被り、ベッドに横たわった。
これから始まる冒険に夢と期待を膨らませ、大きく息を吸い込む。そして.....
13時。
「リンクスタート」
呟いた途端、目の前が光に包まれ、俺は剣の世界へ飛び立った。
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第一層 始まりの街
Welcome to sword art online!
文字が視界から消えると、懐かしい景色と一斉にログインしたプレイヤー達の歓声が俺を出迎えた。
「戻ってきた...この世界に!」
喜びのあまり震えるアバターの体を動かし、俺は走りだした。
さて早速フィールドに...イヤ、その前に武器を買わなくちゃな。確かこっちの方に、始まりの街で最安値の武器屋が...
「おーい!そこのあんたー!」
などと考えていると、後ろから男の声が聞こえてきた。
「はぁ、はぁ...なぁあんた、その迷いのない走り、もしかしてβテスターじゃないか?」
正確にはβの二ヶ月に加え、アバターの動作確認やらソードスキルの調整やらで四ヶ月の計半年はプレイしているが。
まぁそんな事をコイツに教える義理はないし、言えば後々面倒そうなので、
「あぁ...そうだけど?」
と冷静に対応する。
「やっぱりそうか!俺、VRゲームって初めてでさ...序盤のコツ、ちょいとレクチャーしてくれねぇか?」
言うと思った。どうしよう...面倒そうだな...
まぁゲームのコツを他プレイヤーに尋ねるのは正しい楽しみ方と言えるだろう。俺はやったことないけど。
「あぁ、いいよ」
「マジか!よっしゃぁ!俺はクライン、宜しくな!」
「喜びすぎだろ...俺はキリト、宜しく」
だから俺は、勘を取り戻しがてらこの男...クラインに序盤のコツをレクチャーしてやることにした。
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第一層 フィールド
クラインを連れ武器(俺は片手直剣、クラインは曲刀)とポーション類を初期金額ちょうどまで買い、意気揚々とフィールドに出た...所までは良かったが...
「ぐっはぁ!」
.....まさか経験もなければセンスもないとは。
腹を抱えて悶絶しているクラインを横目に、呆れた態度で指摘した。
「痛くないだろ、ゲームなんだから...というか、ソードスキル使えって言ったろ。初期技でも当てればここらのmobは一撃なんだぞ」
「んなこと言ったって...スキル出ねぇし、こいつ動くしよ」
呆れるのにも疲れた。
「あのなぁ...敵が動かないなんて、ヌルゲーとかいうレベルじゃないだろ。んで、スキルの方は...」
ここまで言って、俺がまだ一度も見本を見せていないことに気づいた。幾らなんでも、実際に見ずに発動するのは無理か。
「いいか、重要なのはスキルの前動作だ。しっかり構えれば、あとはシステムが勝手にやってくれる」
落ちている石を拾い、投剣カテゴリの初期技≪シングルシュート≫を発動する。俺の手から放たれた石は赤い軌道を描き、モンスターに命中。HPゲージが申し訳程度に削れる。
「ほらな。構えて、武器にエネルギーが溜まる感じがしたら、剣の先から一気に放出する感じだ...いよっと」
向かってきたモンスターをヒラリとかわし、横腹の辺りを蹴り飛ばす。進路を変えたモンスターはクラインに向かって突進していく。
「構えて...溜まったら...一気に!」
勢いある叫び声と共に、キィィィィンというソードスキル特有の効果音が聞こえる。
「でりゃぁぁぁ!」
クラインは見事曲刀カテゴリの初期技≪リーパー≫を発動し、モンスターはポリゴンの粒子となって爆散する。
「いっ...よっしゃぁぁぁぁぁ!!」
超喜んでいるパーティメンバーに、賞賛の声をかける。
「おめでとう。と言っても今の≪フレンジーボア≫、ドラ○エでいうスライム相当だけどな」
「うぇぇ?!俺はてっきり中ボスとかだと...」
やっぱりな。
ワラワラとリポップする猪を眺めながら、
「中ボスがこんなにいて、しかもスキル一発で倒せてたまるか。どんなゲームだよそれ」
と、現実...いや。VRゲームの厳しさを教えてやるのだった。
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あの後、どんどん湧いてきた≪フレンジーボア≫を狩りまくっていると、時刻は17時20分になろうとしていた。(因みにレベルは俺が3、クラインは2に上がった。)
夕焼けが見える小高い丘で、クラインが素直に言った。
「なぁキリト...ありがとうな」
「いいや、礼はいらないよ。俺も勘を取り戻せたし、レベルも上がったしな」
「それじゃ、俺は一旦落ちるぜ...っと、その前にキリト。
始まりの街に、俺が前やってたMMOの仲間がいるんだが...そいつらともフレンド登録しねぇか?」
...ほんの数時間だが、一緒に戦ってわかった。こいつはいい奴だ。この誘いも、純粋に善意からだろう。しかし、それでも拭えない。
「ごめん。俺は...」
俺の実の両親は、俺が生まれて間もなく事故で死んだらしく、俺は親族の所を転々としていた。何でも出来てしまう俺を見せつけようとしたんだろう、コンクールだの大会だのに嫌という程出された。今いる桐ヶ谷家に来たのが10歳の頃で、その頃にはもう他人は自分を利用したいだけだと考えるようになっていた。
だからクラインは良くても、他の仲間は俺の持つ知識やステータスを利用するんじゃないか、と考えてしまうのだ。
「あぁいや、無理にとは言わねぇよ。嫌ならいいんだ。
それじゃ、俺はこれで」
「...悪い。また、縁があったらな」
俺にニッと笑いかけ、クラインはログアウト.....
「...あれ?ログアウトボタンが....」
「どうしたんだ?ボタンならここに....ん?」
クラインのウィンドウのログアウトボタンは暗くなっていて、押しても反応しなかった。
俺も自分のウィンドウを確認するが、やはりボタンは暗くなっていた。
「クッソ、なんでログアウトできないんだよ!もうすぐピザが届くっつーのに...」
...どういうことだ?つい三日前の最終テストプレイの時はこんな不具合は無かったはずだ。とすると発売までの短い時間にバグ....?
いや、それはない。三日前の最終チェックの後にはもう誰も手を加えなかった....いや。違う。俺が気付いてないだけで、誰かが手を加えたはずだ。そうでなければこんな現象は起こらない。ということは...
「...この現象はシステムの不具合じゃなく、開発チームの誰かが故意に起こしたもの...かもしれない」
「はぁ?なんだってそんなことを...今後のゲーム運営にかかわる一大事じゃねえか。しかもそれを故意にって...というかキリト、なんでお前そんなことわかるんだ?」
あ。口に出てたか、これはマズイ。
「い、いや、なんとなくだよ。.....そんな事より、本当にこれが故意に起こされたものなら、そろそろ....うわっ」
言いかけた途端、俺達の体を青白い転移エフェクトが包みこんだ。そして視界が晴れると...
「ん、ここは...始まりの街の広場...だな」
俺達は始まりの街に飛ばされたようだ。さらに続々とプレイヤー達が集まってくる。
「どんどんプレイヤーが増えてくな...なぁキリト、βの時もこういう強制イベントみたいなのってあったのか?」
クラインの問いに、俺は首を横に振った。
「いや、無かった。クエストを受けてれば別だけどな」
「だったら、何のためなんだ?しかもログアウト出来ないようにしてまで、って...」
クラインが疑問を投げかけたのと、空から赤いドロドロした液体のようなものが漏れ出してきたのはほぼ同じタイミングだった。
「何か出てきたな...」
赤いドロドロは形を変え、顔がなく赤いローブを纏ったアバターとなると、プレイヤー達に向け話し始めた。
『ようこそプレイヤー諸君!私の世界へ!』
私の....世界?ということはこのアバターは...
『私はこの世界の頂点に立つ、いわば神だ!』
いや、違う。あの人はこんな喋り方じゃない。声も違う。アバターのボイスは変更不可だ。
まぁ話し方は意識して変えればいいし、管理者権限ならボイスも変えられるだろうが、俺がコイツの中身を予想できたのは、SAO開発チームに似たようなヤツがいたからだ。
やっぱり茅場さんじゃないな。コイツは...
俺の推測なんかに構うわけもなく、アバターは説明を続けた。それを要約すると、
・プレイヤーは自分の意思でログアウト出来ない
・ログアウトするには百層のラスボスを倒す以外方法はない
・現実側からナーヴギアを外そうとすると、ギア内のバッテリーから高熱信号が照射され、プレイヤーの脳を焼く
・既にこれによって二、三百人の犠牲者が出ている
そして...
・アバターのHPがゼロになれば、現実のプレイヤーの脳が焼かれ、仮想、現実両世界から永久にログアウト。いかなる蘇生手段も効果なし。つまり...
「それって、ここで死ねば、現実の自分も...」
クラインの言葉に続いて、
「死ぬ...」
呟いたが、それ以上言葉は出なかった。すると件の赤ローブがまた話し始めた。
『クックック.....最後に、神から冒険者への選別だ。ストレージを見たまえ』
やっぱりコイツは...と考えつつも、アイテムストレージを確認する。≪フレンジーボアの肉≫や≪HPポーション≫などの中に、見慣れないアイテム名が。
「≪手鏡≫...?」
その≪手鏡≫をオブジェクト化し、覗き込んでみると、イケメン勇者顏な青年が見え...
「うわぁっ!?」
急に手鏡が青いライトエフェクトを発し、俺を包み込んだ。どよめきの声から察するに、周囲の他プレイヤーも同じ状況になっているんだろう。そして光が消えていく。とりあえず、一旦状況を確認しておこう。
「大丈夫かクライ....ん?お前、その顔どうしたんだ!?」
「お前はキリトか!?そっちこそどうしたんだよ!?」
....まさか。それは流石に...いや。
恐る恐るもう一度手鏡を覗き込むと、先程の勇者は跡形もなく、代わりに居たのは...
「お、俺.....?一体、どうなって...」
何故か現実世界の《桐ヶ谷和人》の顔があった。
まぁどうせ説明してくれるだろう。と思ったので、推測はここまでにし、神とやらの話を聞いてやることにする。
『ククク...気に入ってもらえたかな?脱出不可能で、一度死んだら終わり。君らにとって、ここはもう現実だろう。だから顔も現実と同じにしてやったよ.....と。それではこれでチュートリアルを終了する。攻略、頑張ってくれたまえ。ま、どうせクリアなんてできないだろうけどね!』
クッハッハッハ!とかいう下卑た笑い声と共に、赤ローブのアバターは消えていった。途端、
「ふざけるなー!!」
「出せ!出しやがれー!!」
「こんなクソゲー、やってられっかー!!」
すごい数の罵声がいたる所から聞こえてくる。
こうなれば、やることは一つ。
「クライン...ちょっとこっちこい!」
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クラインを引っ張り、街の出入り口近くの路地裏へ出る。
「いいか、よく聞け。この世界で生き抜くには、ひたすら自分を強化するしかない。始まりの街周辺のフィールドは、真っ先にmobが狩り尽くされるだろう。だから俺は今すぐに次の村まで行く。だから、お前も一緒にこい」
MMOゲームは、リソースの奪い合い。誰も到達していないエリアなら、最高効率でレベリングできる。だが。
「...悪い、キリト。さっきも言ったが、広場に仲間がいるんだ。だから、そいつらを置いては行けねぇ。ついていっても、足手まといになっちまうしな。」
やっぱり、コイツはいい奴だ。だから助けたいのに...
「なーに、心配すんなって。お前に教えて貰った知識で、必ず追いついて見せるぜ!」
説得は、無理そうだな...。
「...わかった。何かあったらメッセ飛ばしてくれ。じゃ...」
「キリト!」
走り出した俺を呼び止め、クラインは
「おめぇ、本当は案外カワイイ顔してやがんな。結構好みだぜ」なんて言ってきた。
元気付けようとしてくれているんだろう。だから俺も、
「お前こそ、その野武士ヅラの方が10倍似合ってるよ!」
『心配するな!』の意を込めて、こう返してやるのだった。
デスゲーム1日目、俺はこの世界で初めて知り合った友を見捨て、始まりの街を後にした。
お読みいただき、ありがとうございます!
展開はアニメ1話と丸っきり同じですが、次話からはガラリと変わる(予定)です。
3話もよろしくお願いします!