超.黒の剣士   作:しもつかれ

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お待たせしました4話です!

今回はちょいと長めですが生暖かい目で見てやってください。


@4 攻略会議

2022年 12月 2日 トールバーナの街 噴水広場

 

SAOがデスゲームと化しておよそ一ヶ月が経ち、ここ、トールバーナでも多くのプレイヤーを見かけるようになってきた。

 

この街は第一層迷宮区塔に最も近いため、ほとんどのフロントランナーはここを拠点としゲーム攻略を進めている。かくいう俺、キリトもその一人だ。

 

そして今日、遂に第一層フロアボス攻略会議が開かれる。俺の予想としてはもう少し時間がかかると思っていたが、攻略が早いに越したことはない。そして肝心の参加者数は...

 

「44人...か」

 

SAOのボス戦は、6人パーティ×8つの計48人でレイドを組んで挑む。フルレイドには少し足りないが、一度でも死ねないこの状況でこの人数が集まれば、まぁ上出来と言えるだろう。

 

「中々の人数だな、そして各々の強さも申し分ない」

 

ヒースクリフが続けて言った。何故強さまで分かったかというと、SAOでは強化された武器は色が濃くなっていくからだ。攻略メンバーの武器は、初期状態よりも濃く光っているものが多かった。

 

「あとはレベルだけど...装備を強化してる時点で心配ないですね」

 

装備強化には、大体の場合成功確率を上げるための添加材を用い、最高確率まで上げて強化するのが当たり前なので、添加材集めに多くモンスターを狩ってることは容易に想像できる。

 

「そうだな...キリト君、始まるようだ」

 

ヒースクリフが言うと、青髪の男が広場の舞台に飛び乗った。

 

「はーい、みんな注目してくれー!」

 

爽やかな感じの声音で、青年は続けた。

 

「俺の名前はディアベル!職業は、気持ち的にナイトやってます!」

 

青年...ディアベルのジョーク(じゃなかったら正直痛い)に、「ジョブシステムねーだろ!」とか「勇者って言いたいんだろー!」などの愉快な声が上がる。掴みは上出来といったところか。

 

 

ディアベル...イタリア語で「悪魔」だったか。リーダーが悪魔って何かヤダな...まぁいいや。

 

「昨日、俺たちのパーティが、一層迷宮区のボス部屋を発見した!」

 

ディアベルが真剣な顔で言うと、賑やかだった広場の中央部がしんと静まった。

 

「俺たちは一層のボスを倒して、始まりの街に居るみんなにこのゲームはクリアできるってことを伝えなきゃいけない!そうだろ?」

 

ディアベルの発言に、「おー!」という声があちこちで上がる。その時。

 

「ちょお待ってんか!」

 

関西独特の喋り方とともに、何者かが広場端から中央にジャンプしてきた。

 

「えー、発言時には名前を言ってくれるかな?」

 

ディアベルが言うと、男は素直に名乗った。

 

「ワイはキバオウってもんや。ボス戦の前に、これだけは言わせてもらうで。こん中に何人か、この一ヶ月で死んでいった2000人に詫び入れなアカン奴がおるハズや」

 

来ると思ったこの話題。さて、どうするかな...

 

俺の思考を他所に、話は続く。

 

「キバオウさん、その『詫びを入れなきゃいけない人』っていうのは、βテスト上がりの人たち...かな?」

 

「そうや!β上がりのヤツらはこのクソゲーが始まってすぐ、新人を置いて始まりの街からさっさと出て行きおったんや!」

 

そのあとはキバオウが散々文句を言い散らし、最後には...

 

「だから、汚い元テスターどもが金とアイテム全部差し出して、謝るまで、仲間ごっこはでけへんな」

 

と言い出した。

 

何で賠償先がお前なんや。

 

そんなことより、ここでβ上がりと新規プレイヤーの間に壁を作ってしまうと、この先の攻略に大きな障害を来すかもしれない。いや、きっとそうなる。だから....

 

スッと手を上げ、広場中央まで歩いて行く。

 

「俺はキリト、元テスターだ」

 

俺の超思い切った発言に、プレイヤーたちがどよめく。そんなことは気にせず、俺は続けた。

 

「アンタ、アイテムと金が欲しいんだよな?」

 

「そ、それがなんや」

 

言い出した当人のキバオウがうろたえ始める。

 

「欲しけりゃやるよ。ホラ」

 

俺はウィンドウのアイテム欄にある『全アイテムオプジェクト化』をタッチし、ストレージに入っているアイテムを全部広場の床に撒き散らした。続いて『所持コルオブジェクト化』をタッチし、『全所持コル』を選択。所持していた数万コルが金貨になって入っている革袋が出現したので、キバオウに差し出す。

 

ここまで来る間に、広場の全員がポカンと口を開け目を点にしていたが、やがてキバオウが言い出した。

 

「な、何のつもりや!」

 

まさか本当に渡してくるとは思わなかったんだろう。俺はそのまま続ける。

 

「自分で言ってたじゃないか。汚い元テスターを代表して、アンタに賠償してるんだよ」

 

ここまでOKだ。あとはそろそろ...

 

「キリトさん!アンタがそいつにくれてやるモンはないぜ!」

 

「そうだ!その人は俺たちを助けてくれたんだ!汚いテスターなんかじゃねーよ!」

 

そう。彼らは確か3日前に迷宮区でモンスターに囲まれており、そこを助けてやったのだ。

 

フッ、計画通りだ。

 

なんて心の中でカッコつけておいて、俺はキバオウに向き直り言った。

 

「いいか、キバオウさん。βテストは募集1000人だった。この製品版に1000人全員がログインしてるわけじゃないから、テスターは700人くらいだとしよう。アンタは700人で残る9300人を1人も死なないように面倒見ろって言ってるのか?そんなの無理だよな」

 

キバオウは焦ったような表情でこちらを見続けている。反論してこないのを確認し、俺は続けた。

 

「俺はこれまでの一ヶ月、可能な限り危ないプレイヤー達を助けてきた。さっきの二人も含めてな。俺の他にもそうした元テスター達は大勢いるはずだ」

 

キバオウは、決まり悪そうな顔で、「....もうええわ」とだけ言って席へ戻っていった。

 

アイテムとコルをストレージに戻しながら、俺はディアベルやほかのプレイヤーに言った。

 

「このゲームは新規プレイヤーだけでも、元テスターだけでもクリアできない。だから、双方がこの先協力してやっていく為の第一歩となるこの会議で、俺はテスター代表として情報を提供したい!」

 

俺の宣言に、あちこちで拍手が上がった。こんなに支持されるとは思ってなかったが、そちらの方がありがたい。

 

俺が話し終えると、節目と判断したのか、ディアベルが口を開いた。

 

「キリトさんもこう言っているし、そろそろ本題に入ろう!まずはボスの情報確認からだ!実は今朝から、第一層ボス攻略本がそこの露店に0円で委託販売されていた!」

 

...タダ!?アイツ俺からはキッチリ500コル取ってさらに飯まで奢らせたくせに...っと、この件はあとでしっかり確認するとして、ディアベルの話に集中せねば。

 

「この本によると、ボスの名は≪イルファング・ザ・コボルドロード≫。HPは100万程度で、4段あるHPバーが残り一本の赤ゾーンに到達すると、片手斧とバックラーから曲刀カテゴリの『タルワール』に武器を変える。それと、取り巻きに≪ルインコボルド・センチネル≫が出現する。センチネルは最初に3体出現して、ボスのHPバーが一本減るたびに3体ずつ追加で出現する」

 

そう、一層のボスの情報はディアベルが言った通りだ。βテストのときなら、だが。

 

こちらを見てきたディアベルに頷き返し、俺は再度立ち上がって言った。

 

「確かにその通りだが、情報はあくまでβ時代のものだ。ここに来るまでも幾つか変わっている所があって、俺も一度死にかけた。だから、ボスにも何か変更があると考えるのが妥当だ。疑うとすれば、武器の種類や、取り巻きのpop数かな」

 

俺が製作に携わったのはソードスキル関連だけであり、製品版とβの違いまでは勿論知らないので(製品版が楽しみであえて聞かなかった節もある)、情報的にはβテスター達とそう大差はない。あるとすれば、β時の最高到達階数である十層までたどり着いたのは俺だけ、という点だけだ。

 

その後は考えられる武器種をみんなで話し合い、それぞれのスキルモーションと対処法を俺が教える、という形になった。さらにその後ディアベルの

 

「対処法も学んだ所で、そろそろパーティを組んでみてくれ!」

 

という声と共に、ゾロゾロとプレイヤー達が動き出した。

 

 

メンバーは44人。理想で言えば、 6人パーティ6つに、4人パーティが2つになればいいのだが、装備やビルドの都合上そう上手くはいかないだろう。

 

ディアベルのリーダーシップのおかげか、結構短時間で決まったのが、

 

片手武器装備で高速型ダメージディーラーのA隊、

両手武器装備で高火力ダメージディーラーのB隊、

盾持ち鎧装備で壁担当のC隊とD隊、

長物装備で支援担当のE隊とF隊、

そして様々な装備の取り巻き潰し担当のG隊。これで7パーティ、42人は決まった。そして俺はと言うと...

 

「キリトさん、本当に2人でいいのか?」

 

残り2人のアブれ組だったのだ。

 

「ああ、俺は構わないよ」

 

これは本当にアブれたんじゃなく、ボスの動きを観察し、非常時に円滑に指示を回すために、少数かつ取り巻き担当にしてくれ、と俺からディアベルに頼んだのだ。本当だよ?

 

「取り巻きを片付けたら、A隊に合流してくれ」と言うディアベルに頷くと、その後の金とアイテムの分配説明を最後に攻略会議は終了となり、プレイヤー達は何人かでまとまって散っていった。それに合わせて「じゃあ、今日は別行動ということで」と俺がヒースクリフに言うと、彼は頷きC隊の方へと向かっていった。

 

 

んで、俺の唯一のパーティメンバーはと言うと..

 

「んじゃ、自己紹介。さっきも言ったけど俺はキリト。よろしく」

 

パーティ組んでるから名前はわかるが、一応お約束ということで自己紹介した。

 

「...アスナ」

 

随分、いやかなり簡潔に自己紹介を済ませた彼女の腰に目をやると、始まりの街の店売り最安価品である≪アイアン・レイピア≫が吊るされている。その剣じゃトールバーナまで来るのにも頼りない位なのに、ここにいられるレベルということは相当な手練れなのだろう。というか、俺が彼女をパートナーに選んだ理由はそれだ。

 

しかしここまでは良くとも、ボス戦になればそれじゃ厳し過ぎる。暫定でもこのフェンサーはパートナーだし、死なれたら困るので、一応教えとくか。

 

「図々しいかもしれないけど、その剣変えといたほうがいいぜ。中々の性能の細剣落とすmob知ってるから、よければ連れてくけど、どうする?」

 

フェンサーが俺の提案にこくり、と頷いたので、

 

「じゃあ行こうか」とだけ言って俺は歩き出した。

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トールバーナ周辺の林エリア

 

「アイツだ。結構早く見つかったな」

 

少し先の方でホバリングしている少々大きめの蜂型mobを指差して、俺は言った。

 

因みにこの蜂、林の中ボス扱いなのでHPバーは二段あって中々に手強いが、コツさえつかめば実は雑魚敵なのである。それにこのフェンサー、道中の戦闘でも確認したがやはり中々に強かったので、余裕を持って戦えるだろう。

 

「アイツは攻撃速度は速いけど、その分間隔は長い。俺が攻撃を弾いたら、スイッチして突いてくれ。細剣の硬直時間なら一度に二発は...」

 

と、ここまで言ってからフェンサーがポカンと口を開けている事に気付いた。

 

「ど、どうした...?」

 

恐る恐る尋ねてみると、

 

「その、スイッチって...何?」

 

「えっと...もしかして、パーティ組むのってこれが初めて?」

 

フェンサーはこくっと頷いた。

 

前言撤回。どうやら前途多難のようだ。

 

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30分後

 

「あと一撃!スイッチ!」

 

「セアァァァァッ!」

 

フェンサーの気合十分な≪リニアー≫が蜂の下腹部を貫き、蜂はポリゴンとなって四散した。congratulations!の文字とファンファーレと共に、戦利品のウィンドウが表示される。

 

「ふぅ。フェンサー、剣はドロップし...たみたいだな」

 

フェンサーの方を見やると、彼女はドロップした≪ウインド・フルーレ≫の刀身をじっと眺めていた。

 

「うん...ありがとう、お疲れ様」

 

フェンサーはどこか嬉しそうに返事を返した。

 

こ、この無口なフェンサーが御礼はともかく労いの言葉までかけてくださるとは...よっぽど嬉しかったのか。20分も(パーティ戦闘の説明に15分)かけた甲斐があったというものだ。

 

「よし。んじゃついでに、ソレの強化素材集めにも行くか。+3くらいまでは強化しておきたいしな」

 

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トールバーナの街

 

街に戻った俺とフェンサーは、早速≪ウインド・フルーレ≫の強化に向かった。もともと彼女が持っていた≪アイアン・レイピア≫を溶かして添加剤に代えたため、新しい剣は+3まで強化できた。鍛冶屋を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。そういえばトールバーナに着いたのが夕方だったしな...

 

「...あっ」

腹からぐぅぅーっという音が鳴って、我に帰る。そういえば今日は昼飯抜いてたっけ...

 

「じゃあ、今日は解散ってことで。明日は8時に今朝の噴水広場だ」

 

フェンサーに手を振って、俺は歩き出す。

 

...なんか付いてきてね?

 

「.....何だよフェンサーさん」

 

「今日は貴方に世話になったから、晩御飯を奢らせて」

 

唐突な申し出に、5秒ほど間を置いて、

 

「...えーと。なら、お言葉に甘えるけど、怒るなよ?」

 

「そんなに高価なものはお断りですからね」

 

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トールバーナの街 噴水広場の隅っこ

 

「あなたね...」

今、フェンサーは怒り半分呆れ半分といった割合である。

 

「怒るなって言ったろ...」

 

だが、先程彼女の発言にあった『高価なもの』を奢らせたわけではない。

 

なら何故こんな事になっているか。それは...

 

「...どうして黒パンなんか頼むのよ」

 

彼女の出費がたったの2コルだったからであろう。

 

 

「こんな無味無臭の安いパンで遠慮して...私がお金持ってないと思っているの?」

 

高いのダメで、安いのもダメって...と突っ込もうとしたが、後が怖いのでやめておこう。

 

「遠慮はしてないし、お金がないとも思ってないよ。俺コレ結構好きだし。まぁちょっと工夫するけどな」

 

そういって俺は、ストレージからボトル型のアイテムを取り出し、フェンサーに黒パンに使うよう促した。

 

「そのパンに使ってみろよ」

 

フェンサーの指がボトルの先端に触れると、指が青白い光を発し、パンの表面を指でなぞると...

 

「...これって、クリーム?」

 

「そ。一つ前の村で受けられる、『逆襲の雌牛』ってクエストの報酬。コレさえあれば、無味無臭の安いパンでも田舎風ケーキに早変わりだ」

 

フェンサーはパンをじーっと見つめていたかと思うと、大口を開けて食いついた。どうやらよほど気に入ったらしい。その光景を眺めつつ、俺も自分の腹を満たすのだった。

 

 

両者がパンを食べ終え、短い沈黙のあとフェンサーが口を開いた。

 

「ねぇ。聞いてもいい?」

 

「ネトゲの良識の範囲内でなら」

 

「ね、ねと...?」

 

「ネットゲームのことな」と補足すると、ちょっと顔を赤くしおほんと咳払いをして、フェンサーは続けた。

 

「今朝の会議で、何故あんなことをしたの?あの二人が庇ってくれなかったら、貴方が全テスターの責任を取らされたかもしれないのよ?」

 

『あんなこと』というのは、俺が元テスターだと自白したことだろう。だから俺は素直に答えた。

 

「あの場を放置していたら、今後の攻略が効率悪くなるだろ。俺の賠償だけで済むんなら御の字だ。というか、俺が素直に自白したのは、彼ら二人が広場にいることを確認したからだ」

 

「それってつまり、あの展開は貴方の考えていたそのまま、ということなのかしら」

 

「ああ。だから、ハナっから賠償なんかする気は無かったんだ。第一、自分が助かる保証も無しにあんな大胆なことできるほど俺は立派じゃないさ」

 

フェンサーは完全に呆れ十割になって、溜め息混じりに言った。

 

「貴方って、何を考えてるのか全くわからないわ」

 




読んでくださり、ありがとうございます。
最後のアスナのセリフは、プログレッシブで「心理戦のプロ」と自負していた彼女でも本質を見抜けないという、キリト君の凄さを表しているのです。
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