2023年 6月4日 第11層 ひだまりの森
現在の最前線は41層、あと数日でこのデスゲームも7ヶ月目に入る。そんな昼下がりに、俺は1人で11層を歩いている。アスナは今日から1週間、血盟騎士団の遠征に同行している。何やら鍛冶屋の友人に素材収集を頼まれているらしい。現在の最前線のテーマが鉱山だから都合がいいとか言ってたな...
勿論俺も同行しようとしたが、1人の間にアスナに内緒で済ませたい用事があったので、非常に心配だがその友人の鍛冶屋とヒースクリフに任せる事にして今朝見送ったのだ。結婚しているので互いの位置情報はわかるため、何かあったら即飛んでいくという約束だ。
そして俺の用事が済み、エギルの所にでも寄ろうかと考えながら歩いていると、5人パーティがカマキリ型mob一体、ハチ型mob二体と戦闘しているのが見えた。適正レベルで5人なら死ぬことはまず無いだろうからそのまま歩き去ろうとしたが、前列で攻撃を受け止めている盾持ち片手剣の女の子が少し気になった。
(あの子...大丈夫か?)
どこか武器の扱いが他の4人と比べて不器用で、慣れていないように見える(というか盾で攻撃受けては驚いてるから初心者かもしれない)。他の4人も各々の動き方が甘く、パーティとしての完成度が低い。
まぁそれを補えるのがパーティ戦であるが、何か心配になってきたので見守ることにした。
数分後、ハチ2匹は倒され、カマキリのHPバーはレッドゾーンに到達している。後スキル一撃入れば倒せる範囲に入ったその時、ふと思い出した。
(あれ、そういえばアイツ確か...)
「キシャァァァァァァ!!」
「きゃぁっ!」
カマキリの雄叫びに驚いた女の子は後ろに下がり、その拍子に転んで尻もちをついてしまった。目の前でカマキリが腕の鎌を振りかぶる。
そうだ、あのカマキリは死亡寸前に≪ハウル≫を使ってくるんだった。行きはサクサク倒しすぎて忘れてた。
女の子は腰が抜けたのかそこから動こうとしない。ここでアレを受けたら...流石にあの子が危ない。
「っ!」
俺は咄嗟に腰から投擲用ピックを取り出し、『投剣』スキルの中位技≪スピード・ショット≫をカマキリの腕に向けて放った。投剣とはいえレベルの差があるため命中と同時にカマキリは怯む。
「今のうちに攻撃を!」
俺の声に合わせ、その隙を仲間の短剣使いが下位短剣技≪アーマー・ピアース≫で突いた。カマキリはポリゴンとなって四散し、それを見届け終えた5人がこちらに駆け寄ってくる。
「助かったよ!危ないところを本当にありがとう。僕はケイタ、君は?」
優しそうな印象の青年が話しかけてきた。どうもこういう爽やか系は苦手だ...
「俺はキリト。さっきは割って入るような真似してすまなかった」
「全然!あの...助けてくれて、ありがとう」
「あぁ、間に合って良かったよ」
女の子の礼に受け答えた後、他のメンバーが一斉に話しかけてきた。
「あんた凄いなぁ!俺ダッカー、宜しくな!」「俺はササマル。そうだ、お礼も兼ねて一緒に飯食べに行こうぜ!」「いいなそれ!んじゃ早速...」
「えっ、いや俺はこの後ちょっと...」
違う、俺がコミュ障とかでは断じてない。ただ彼らの勢いが強すぎるだけだ。本当だ。
「さぁ、街まで戻ろうぜー!」
「はぁ...」
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第11層主街区 宿屋下の料亭
「それでは、命の恩人キリトさんに乾杯!」
『乾杯!』
「か、かんぱーい...」
ふと思ったが、16年生きてきて同年代の奴らと一緒に夕飯を食べたのは初めてかもしれない(アスナ除く)。しかもそれがネトゲの中って...いやアスナともネトゲ内か...益々大丈夫か俺。
「失礼ですけど、キリトさんってレベルどのくらいなんですか?」
「57。あと、キリトでいいよ。歳近いみたいだし」
テツオの質問に正直に答えると、ダッカーが後ろからグイッと身を乗り出してきた。
「すっげー!ひょっとしなくても攻略組なんだろ!?」
「あ、あぁ、一応ボス戦にも出てるよ」
こいつ何かクラインみたいな奴だな...
ここに来る途中、各メンバーが名前を教えてくれた。短剣持ちはダッカー、槍持ちはササマル、盾持ちメイスがテツオ、そして片手剣のサチにギルマスで棍(槍とメイスの中間に位置する両手武器)使いのケイタの5人からなる『月夜の黒猫団』というギルドで活動しているようだ。彼らはリアルでは高校のゲーム研究会として活動しており、それなりに深い仲でもあるらしい。
と言うかダメだこの空気。早くなんとかしないと...
「実は俺たち、攻略組入りを目指してるんだ」
良いタイミングでササマルが良い話題を振ってきてくれた。
「そうだったのか...なぁ、皆はどうして攻略組に入りたいんだ?」
「そりゃ、攻略組は全プレイヤー解放のために日々戦ってる訳だからさ、僕らも力になりたいって思ったんだよ」
「......」
「...へぇ」
(”僕ら”ね...)
終始黙りきって下を向いているサチには気付かず、ケイタは楽しそうに話した。
「それで聞きたいんだけど、今から攻略組を目指すならどうすれば良いかな?」
多分サチ以外のメンバーは、攻略組が正義の味方的なポジションだと思っている節があるんだと思う。実際には自分やギルドの強化が目的ってのが殆どで、初期ならともかく今の攻略組にそんな奴は3割いないだろうけど。
「なら、まず武器種を見直したほうがいいと思う。特にサチ、次点でダッカー」
呼んだ2人がこちらを見る。
「レベル上げは優先しないのか?」
そこで出たテツオの質問には、皆に向けて答える。
「レベルが高くてもプレイヤースキルが低ければ勝てる敵にも勝てないからな。もちろんレベルも大事だけど」
なるほど、と声が上がる。
「まずダッカー、短剣は元々当て逃げ...ヒットアンドアウェイの繰り返しが基本なんだ。だからソロやコンビでは重宝するんだけど、パーティ戦だと動きが制限されて長所を最大限活かせない」
「そうか...盗賊っぽくていいなーと思ってたんだけど、やっぱり戦闘優先かー...」
「君には折角仲間がいるんだから、パーティの火力になれる武器を選ぶと良いと思う。俺だったら...そうだな、曲刀を育てて、最終的に刀にするよ。立ち回りが短剣に似てるから慣れるのも速いし、場合によっては盾も持てるから戦い方の幅が広いしね」
「わかった、俺もそうしてみるぜ!ありがとなキリト!」
ダッカーはやっぱりクラインに似てるな...だから曲刀を勧めた訳ではないけど。
「次にサチ。先に聞きたいんだけど、もしかして最近片手剣に変えたばかり?」
「う、うん...」「実は、僕たちのギルドには壁できるのがテツオしかいなくて...人員補充する当てもなかったから、サチを槍から盾持ち片手剣に転向させたんだ」
サチは返事しただけで、あとは変わってケイタが解説を入れた。この短いやり取りの中でも、ギルド内でのサチの立ち位置がわかった気がする。
「そうか...でもさっきの戦闘を見た感じ、サチに前衛は向かないと思うよ。ダッカーが曲刀を持つなら槍に戻って後衛に回ったらどうかな?」
「うん...私はそれが良い」
サチ自身が返事をしたし、取り敢えず一区切りつけるか。
「まとめると、テツオとダッカーが壁兼攻撃の前衛、サチとササマルがヘイト管理の後衛、ケイタは状況に合わせて前衛後衛を兼任...って所かな」
「そうだな...そうした方が戦いやすいのか?」
「このゲームは知っての通り、たった一度のミスが文字通り命取りになる訳だから、基本は防御や逃亡...身を守ることを常に考えながら戦うべきだと俺は思ってる。今俺が提案したのは、敵のヘイトをなるべく分散して各々の危険を下げる防御的な陣形だ」
俺が解説を終えると彼らは何やら話し合い、ケイタが一歩前に出た。
「キリト。もし良かったら、僕達に戦い方を教えてくれないかな?本当はギルドに入って欲しいけど...最前線で戦う君には頼めないしね」
マジかよ...というか俺のレベルが低かったらギルドに入れようとしてたのか。その日初めて会った奴によく頼めるな。
本当はアスナが留守のうちに一人で消化したいクエストが結構あったんだけどな...でも散々偉そうにアドバイスした手前お断りしますとは言い難いしなぁ...
まぁそれで彼らの生存率が上がるなら安いものだ。行く行く攻略組入りするなら、何かの縁ってこともあるし。
「今、俺のパートナーが血盟騎士団の遠征に同行してるんだ。一週間後に帰ってくるから、それまでで良ければ協力させて貰うよ」
「そうか、ありがとう!!」
「よーし!そうと決まれば明日からの為に食いまくるぜー!」「おおー!」
俺の提案に、メンバー皆で喜んでくれた。...死と隣り合わせなだけあって、このゲームは本当に人間性をよく映し出すものだと思った。
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深夜 第40層主街区 転移門前
あの後は各メンバーとフレンド登録し、明日の為に早めの就寝とする事にした。俺も同じ宿屋で部屋を取ったが、今日彼らと居た時間を取り戻すため、40層のフィールドでレベリングしようかと思い宿を抜けてきたのだ。
水路に沿って少し歩くと、街の出口が見えた。40層まで上がってきた理由はそのテーマ故に剣士系のモンスター(通常の敵より強力だが武器熟練度が上がりやすい)が多い事と、もう一つ。
俺は足を止め後ろに声を掛けた。
「...流石にフィールドに出たら守りきれないよ」
「っ!...ごめんなさい」
尾行してきたサチが、上層まで上がってくる事は無いだろうと思ったからだ。俺の≪索敵≫により、宿屋を出たときからつけられている事には気づいていた。
「謝らなくていいよ。...丁度、俺も君と話がしたいと思ってたんだ」
*
近くの階段を下に降り、手招きすると彼女がついてくる。2人で水路沿いの足場に腰掛けると、少しの沈黙が訪れた。水の流れる音と、夜間特有のフクロウが鳴くSEだけが聞こえる。
「...戦うの、怖いのか?」
「...!うん。本当は、始まりの街からも出たくなかった。けど...一人でいるのは、もっと怖かった」
ごく普通の生活を送ってきた人間がいきなり死と隣り合わせの世界に監禁なんて言われたら、大半は死に怯えて街から出られなくもなるだろう。
「...そうか」
「何度も、逃げようとしたんだ。でもどうしたら良いかもわからなくて...」
これが彼女と他メンバーとの差の原因だ。デスゲームという異様な状況に加えて、男性四人に対し女性一人という自分の考えを通しづらい環境に置かれ、それでもたった四人の知人たちから離れる事は出来なかったらしい。ストレスも溜まって精神的にもかなり辛いだろう。
「ねぇ、どうしてキリトは一番危険な所で戦ってるの?死ぬの、怖くないの?」
...ずっと前から、第1層攻略戦の時から考えていた。何故俺はここで剣を振っているのか、と。最初は命懸けの戦いに燃えた、なんていう理由もあった。でも今は..何となく違う気もしている。
「俺、ちょっと事情があってさ、このゲームが始まる前はずっと一人だったんだ。他人は信用できなくて、友達どころか家族にも信頼をできる人はいなかった。だから俺は現実なんか要らないと思ってたし、死んだら死んだでそれまでだ...とも思った」
「...」
サチは頷きつつ聞いてくれた。
好きで頭が良い訳でもなく運動が得意な訳でもない。なのに周囲に妬まれ、勝負した覚えのない相手に恨まれ...そう思うようになってから、互いに知らない者同士なのが前提であるネットゲームにのめり込み、現実はクソゲーだと決めた。そこから茅場さんと出会う訳だが...取り敢えず省略だ。
「でも、初めてのボス戦のとき、思ったんだ。どうして彼らはたった1つの命を懸けてまで現実に帰りたがるんだろうって」
サチは少し目を見開いた。
「そのときから、そうまでして取り戻した現実に何があるのか知りたくなったんだ。今はそのために戦ってる」
「そっか...キリトは強いね」
「いや、今は相棒がいなきゃロクに戦えないよ」
アスナの存在は俺を変えてくれた。俺は彼女から生きる理由を得て、愛を教えてもらった。とても感謝しているし、愛しい人だ。そんな彼女を守り抜くことも、今の俺が戦う理由の1つだ。
「サチ、本当に辛ければ俺に言ってくれ。場合によっては戦闘には出ずに鍛冶や裁縫とかの生産系スキルを取って後方支援に回るってプレイスタイルだってある。......でも、勇気を持って一歩踏み出せば、見える世界も変わるはずだ」
サチは、昼に比べると随分と活気がある顔をしていた。
「...うん。あの、話聞いてくれてありがとう」
「役に立てたなら何よりだ。じゃあ、そろそろ戻ろうか」
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翌日 第21層 転移門前
「じゃ、今日の特訓を始めよう。皆、6日間よろしく」
「おう!」「あぁ!」
威勢良く聞こえたのは男性陣の声。そして...
「よ、よろしくお願いします!」
槍を握り締めたサチ。
(勇気、出たのか。良かった)
「全員いるな。...さぁ、行こう」
俺たち6人はフィールド目指して歩き出した。
ありがとうございました。ちょっと内容が薄い気がしますが後編もあるのでご了承。気付いたかもしれませんがこのキリトはアスナと同い年になってます。
久しぶりにステータスでも書いときますね↓
kirito Lv57
片手剣/索敵/隠蔽/疾走/武器防御/体術/投剣/所持容量拡張
主武器...ペルセウスソード(38層LA)
副武器...ルーンブリンガー(35層ドロップ)
次回もよろしくお願いします!