以前読んでくださっていた方も、初めての方も、つたない文章ではございますがよろしくお願いします。
―――この世界はつまらない
街中にはビルが立ち並び、科学の発展に伴い自然は減少。温暖化による生態系の変化や砂漠化の問題。
私はこの世界がつまらないと感じていた。それは私自身の辛い体験も相まってか、それとも罪の意識からか……私はいつしか現実を否定し、〝拒絶〟していたのだろう。
私が望んだのは未知の体験。現実では起こりえない不可思議な世界。―――きっと、私が眠りに落ちるその瞬間、その願いが聞き届けられたんだと思う。それからの日々は驚きと、わくわくの連続で、退屈なんて一切なかったのだから。
◇◇◇
聞こえるのは風と、それによって揺れる草の音だけ。それを心地よく思いながら私はゆっくりと目を開いた。ぼうっとする頭であたりを見渡せば一面知らない草原が広がっている。
「……ここ何処?」
こんなに沢山の自然を私は見たことがない。私が持っている図鑑ですら一面の草原なんて描かれていない。……はて、私はいつのまにこんな場所までやってきたのだろうか。
「……そう、たしかいつもみたいにパソコンで暇を潰して、それから昼寝をしていたはずなんだけど」
額に手を当てて考えながら背伸びをする。心地よい感覚が背中から伝わり、ゆっくりと息を吐き出した。
まず、此処はどこなのだろう。わかるのは私が住んでいた街ではないということだけだ。私が住んでいた街はビルが所狭しと並ぶごみごみした街だったし、自然なんてそれこそ道端に植えてある街路樹程度だった。
誰かに攫われたのだろうか―――いや、神経質な私がそんなことをされたら真っ先に目覚めるだろう。これでも気配には敏感なのだ。以前は鳥の羽音で目が覚めたこともあるし、窓からのそよ風で真夜中に飛び起きた経験もある。日中常に着けているヘッドホンも寝るときは外しているんだからなおさらだろう。
となると、誘拐ではなく自然な形で私はこの草原にやってきたというのだろうか。まさかそんなアニメやゲームのようなことがあるはずが……。
「……っ!!」
なんでだろう、そんなことを考えてたら頭が痛くなってきた。
おかしいな、私はこんな経験を前にも……
―――前にも?
それって、一体いつのことだっけ?
思い出そうとしたら……頭が…痛くて――――
………………――………―――――――――………………
はて、今私は何を考えていたっけ?
何か重要なことがわかりそうな気がしたんだけど……まあ、いいか。
立ち上がってみれば爽やかな風が私のコートを靡かせる。お気に入りの真っk―――――――いや、違うな……真っ青なコートだ。襟と袖の先に白いもこもことした毛がついたお気に入りのコート。外出には必ず着るようにしていたお気に入りだ。
携帯を探してポケットを探るとなにやら桜の花を模った髪飾りが出てきた。可愛らし鈴まで付いていて、揺らせばリンリンと音が鳴った。丁度よかった、長い髪が風に靡いて鬱陶しかったところだったし、これで纏めれないかな。幸いにも長い紐まで付いているし、簡単なポニーテールにでもしておけばいいかもしれない。
早速そうしようと髪を束ねていると、不意に頭の左右からやわらかい何かの感触を感じた。同時に敏感な場所を触られたみたいなむず痒い感触も。
「……なに、これ」
触ってみたらきちんと感覚があるし、どうやらそれは頭と一体化しているようだ。
もしかしなくても、これって動物の耳じゃないだろうか。人間の私に動物の耳なんて、そんな馬鹿なことが―――――
―――……―――――――――………………………………――――――――
はて、何かおかしいだろうか?
私は〝狼の妖獣〟なんだから、別におかしくないはずだよね。ほら、私の自慢の〝尻尾〟だってきちんとあるし、いつも通りだもん。どこもおかしくなんてないよ。
でも困ったな、周りは草原だし、山も丘もないし、人や動物の気配も全くしない。食糧とかどうしたらいいんだろう。まぁ、何とかなるよね。……たぶん。
しばらく歩いていたらちょっとした林があって、そこには小さな池があった。水も綺麗で魚が元気よく泳いでいるのが見える。ちょっとした驚きだ。こんなに綺麗な池なんて私が住んでた街ではお目にかかれない。もしかして、此処って外国の辺境の地とかじゃないだろうか。まいったなぁ、私外国語なんて話せない。それに、飛行機とかに乗るならパスポートとか――――――あれ?
「私の名前――――なんだっけ?」
なんとなく水面に映る〝見慣れた〟自分の顔を覗き込む。
真っ青な髪に真っ青な瞳。一緒に映った青空みたいで自慢の髪だ。
そんな自分の顔を見ても名前に関する記憶は一切思い出せない。本当にどうなっているんだろう。
「はぁ、家に帰りたい………いや…」
思わず呟いた言葉に自ら疑問を覚える。帰りたい?――本当に?――あんな退屈なだけの世界に?
日常にうんざりして、否定して、拒絶して、新しい世界を求めてた。そんな日常に帰るだって?
そんなの、いらない。ほしくない。―――そう、元の日々なんて、いらない。
「帰らなくていいか……」
その瞬間浮かんだ言葉。それは私の中にある一つの力。これまでの日々との決別を決定づけた能力。
『ありとあらゆるものを拒絶する程度の能力』
この瞬間、私は確信した。ここは、私がいた世界じゃないんだって。