東方青狼伝   作:白黒狼

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 仕事が忙しくて執筆が進まない……


人間たちと鴉天狗

 

 チルノとの日々は私の生活を大きく変えていった。

 まず、チルノは毎朝私の寝床である湖側の大木の根元の穴までやってきて私を起こしてくれる。尤も、彼女が近付けば周囲の気温が下がるので勝手に目が覚めてしまう場合が多いのだが……。

 彼女は私を寝床から引っ張り出すと、他の妖精の所まで連れて行き、一緒に遊ぼうと言って私を仲間の輪に入れてくれた。毎日同じ景色を眺めるだけだった生活から一気に騒がしくなった日常に、私は徐々に笑顔を見せる様になっていった。

 最初はそれなりに苦労した。チルノは妖精の中でも力が強く、彼女の周囲は常に気温が低くなる。そのせいか他の妖精達がチルノの側に近づくのを躊躇っていたのだが、私の能力で冷気の寒さを緩和させると喜んで遊んでくれた。おかげで私も彼女達に懐かれ、今では私の尻尾を枕に昼寝をする子までいる。

 

 そして、妖精達と遊ぶだけの日々が百年を過ぎた頃……ふとしたチルノの一言から私の日常は再び大きく変化することになった。

 

 

「桜花……桜花ってばぁ!!」

 

「……ッ、ごめんチルノ。何だったっけ?」

 

 これまでの生活を振り返っていたらチルノの言葉を聞き逃していたらしい。不満気に頬を膨らませた顔は可愛らしいが、機嫌を損ねた彼女はなかなか許してくれないので素直に謝った。チルノはジト目でこちらを暫く見詰めた 後、やれやれと言いたげに肩を竦める。どうやら許してくれたようだ。

 

「人間の村を見に行こうって話だよ」

 

「ああ、最近人間の様子がおかしいっていう話か……」

 

「そうそう、それよ。妖精の皆が人間の村が凄いって騒いでるから興味が湧いてさ」

 

 腕組みしてうんうんと頷くチルノは地面を蹴ると空に舞い上がった。私もそれに続いて空に舞い上がる。一気に高くなる視界に最初は戸惑ったものだが、今はこの感覚が楽しくて仕方がない。

 高鳴る胸の鼓動を楽しみながら、私は先に進んでいたチルノの隣に並び、人間の村がある方角へと向かった。

 

◇◇◇

 

「…………」

 

「……なに、これ」

 

 今、私達は人間の村……いや、村〝だった〟ものの上空にいる。眼下に広がるのは立派な木材の家屋が所狭しと並んでいる光景であり、人々はしっかりとした着物を着て生活をしている。これは村と言うよりも都と呼べる規模である。チルノは絶句し、私は思わず目頭を押さえた。

 

「……桜花、人間って凄いんだね」

 

「いや、これはおかしいよ。百年前まではまだ洞穴生活だったんだよ?」

 

 百年で人間の文明がこんなに発展するものだっただろうか。

 私達は都の正門らしき入口の門番に話を聞くことにした。妖怪だとバレない様に耳と尻尾は消して人間に化ける。妖精は人間には無害な存在だと知られているらしいのでチルノはそのままで行くことになったが、私もチルノも目立つ見た目をしているためやたらと視線を集めてしまった。さっさと情報を集めて深入りはせずに帰ることにした。

 軽く情報収集してみたがたまたま近年は文明の発展が著しいだけの様だし、私が深く考えていただけかもしれない。だが、一つだけ引っかかる記憶がある。大昔に発展した文明が月へと旅立ち、月の裏側に都市を築く。その月でとある事件が発生し、地上に追放されてしまう姫の話。その姫の名は蓬莱山輝夜。チルノと同じく東方projectの登場キャラクターである。

 もし、あの都がやがて月へと旅立つのだとしたら、やがて輝夜の従者である八意永琳が誕生するのかもしれない。そしたら文明は一気に進化し、未来都市の様になるのだろう。その時まで、私は人間達を観察することにした。

 

◇◇◇

 

 人間達を観察するようになってから数ヶ月後、私は湖の側にある山の中へとやってきていた。

 この山は少し前から妖怪達が住み着き始め、リーダーである熊の妖怪を中心に大きな勢力を築き始めている。私も何度かその一員にならないかと誘われているのだが、チルノ達との生活が気に入っているので断り続けている。

 そんな私に相談があると連絡を受けたのが昨日のこと。別に対立関係でもないし、断る理由もないので話だけでも聞いてみようと、こうして足を運んでいるのである。

 

 そして、山の丁度中間辺りに差し掛かった頃、遠くの空からそこそこ大きな妖力が此方に向かってくるのを感じて足を止める。

 

「……知らない気配。しかも、速い」

 

 その気配はまるで彗星の様に一直線に私の前へと降り立つ。それは少女であった。

 長い黒髪が風邪で舞い上がり、明るい緑の着物が靡く。着地の衝撃で彼女が履いている下駄がカラン、と音を立てた。だが、それらよりも目を惹くのは彼女の背中にある巨大な黒い翼だ。彼女自身を包める程に巨大なその翼は広げたらさぞや力強いに違いない。

 

「ふぅ、やっと着いた。疲れたなぁ……およよ?」

 

 溜息を吐きながら手に持った紅葉型の扇をヒラヒラさせ、彼女はそう呟いた。そのまま歩き出そうとして私に気がついたのだろう。きょとんとした顔をしたまま暫く固まっていたが、やがて我に返ったのか慌てて私に頭を下げた。

 

「あ、どうもはじめまして。こちらの山の方ですか?」

 

「どうも……この山に住んでるわけじゃないけど、一応所属してるよ」

 

「そうなんですか。私は別の山から引っ越してきたんですけど、この山の長は何方にいますか?」

 

 どうやら別の山から引っ越してきたらしい少女はにこにこと笑みを浮かべながら私を見つめている。私が今からその長に会いに行くから一緒にどうかと言うと、彼女は笑顔で頷いた。

 

「私は桜花。普段は麓の湖に住んでる狼の妖獣よ」

 

「桜花さんですね。私は――――」

 

彼女は綺麗な紅い瞳で私を見つめながら、笑顔でその名を口にした。

 

「―――真矢。射命丸真矢(しゃめいまるまや)といいます!!」

 

 驚愕に目を見開く私に、彼女――――真矢は黒髪を揺らしながら小さく首を傾げるのだった。

 

◇◇◇

 

「桜花、よく来てくれた」

 

「久しぶりね」

 

 この山の長である熊の妖怪である彼は低く唸る様な声で私を出迎えてくれた。

 彼はこの辺りの妖怪達を統率し、実質的なリーダーとなっている。実力も優れており、この山の中で彼に勝てる妖怪は一人しかいない。

 

「桜花よ、やはりお主はこの山の長になるつもりはないのか?」

 

「何度も言うけど、そんな気はないわ」

 

 そう、彼に唯一勝てるのが私。単純な力勝負では敵わないが、スピードは私が上だし、私の能力で彼の怪力は無力化できる。彼は能力を持たないので、真正面から挑むのであれば私が圧倒的に有利なのだ。

 しかし、それ故に彼は今まで私と顔を合わせる度にこうして長の座を私に譲ろうとしてくる。真っ直ぐな性格だから自分より強い私を長にするべきだと考えているのだろう。

 だが、私はチルノ達とゆったりとした平和な日々を遅れればそれでいい。山の妖怪達を纏め上げるなんて面倒なことはしたくないのだ。

 

「私はチルノや妖精達を守るので手一杯なの。山の妖怪達のことまで面倒見切れないわよ」

 

「……そうか」

 

「それで、本題は?」

 

 私の答えに溜息を吐きながら落ち込んだ長は続く私の言葉に真剣な顔をした。こうした意識の切り替えがハッキリできるのは彼の良いところだろう。

 

「うむ、最近人間達の力が強まっているのは知っているな?」

 

「ええ、かなりの速度で文明を築いているわね。あと数十年もしないうちにとんでもない文明まで発展するんじゃないかしら?」

 

 思い出すのは百年で洞穴から都まで発展していた人間達の姿。あのペースなら私の記憶にある現代の文明まで発展するのにそんなに時間はかからないだろう。

 

「うむ、そこで人間達の詳しい様子をより近くで観察し、報告してほしい。お前は人間に化けられるからな」

 

 この山の妖怪達の中で完璧に人間の姿になれるのは私しかいない。実際は何人か他にもいるのだが、気配の隠蔽が不十分だったり、長い時間持続できなかったり、成功率自体が低かったりと、まだまだ未熟な者ばかりだ。

 私は気がついたらできていたけど。

 

「まぁ、いいわ。私も人間達の様子は気になっていたし、やりましょう」

 

「ああ、助かる」

 

「……あ、あの」

 

 とりあえす今後の予定を考えようとしていると、背後からおずおずと真矢がやって来た。そういえば一緒に来ていたんだった。

 

「私、こんな重要っぽい話を聞いていてもよかったのでしょうか?」

 

「大丈夫よ。実際に動くのは私だしね」

 

「桜花、こいつは?」

 

 長が首を傾げているので真矢を彼の前に立たせて紹介した。二メートル近い長と比べ、真矢は小柄な事もあってかなり身長差がある。親子と言われても納得できるだろう。

 

「ほぅ、別の山から来たのか。我らは来る者を拒まん。歓迎しよう」

 

「あ、はい……よろしくお願いします」

 

 こうして私は真矢という新たな友人を得ると同時に、暫くの間人間社会に混ざって生活する事になったのだった。

 

 

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