東方青狼伝   作:白黒狼

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 仕事が忙しくて執筆がががががががががががg


暗闇に潜む者

「いつもすまないねぇ、なんでも屋のお嬢ちゃん」

 

「こっちこそ、いつも仕事以上の報酬貰っちゃって……。正直に言うと、お婆ちゃんのおかげで助かってるんだよ?」

 

「ははは、なら今日はもう少し奮発してあげようかねぇ。チルノちゃんの分もさ」

 

「ええ!?流石にそれは貰い過ぎになっちゃうよ!?」

 

 人間にとっては重たいであろう木箱を抱えながら、私は今年で80歳になるお婆ちゃんの隣を歩いていた。杖を使いゆっくりと歩く彼女に合わせて歩幅は小さい。

 本来ならチルノも手伝ってくれるのだけれど、今日は別件で山へと向かっている。空を飛べばそんなに時間はかからないし、あと1時間もしないで帰ってくるだろう。

 

 人間達の様子を観察する為に、私は人間に化けて彼らの中に紛れ込むと何でも屋を開業した。

 依頼を受けるかは私次第だけど、大抵の依頼はこなしている。評判は上々で、一緒についてきたチルノの客受けがいいのも理由の一つだろう。見た目が子供なので特に年配の方からは孫の様に可愛がられている。

 

「ありがとね、そこの倉庫の中に置いといてくれるかい?」

 

「わかった」

 

 同じ様な木箱が並ぶ倉庫の中に依頼品を置くと、お婆ちゃんから封筒を受け取った。今回の報酬だろう。

 中を確認すると何時もより少し多めにお金が入っているのがわかった。どうやら、先程の話は嘘ではなかったらしい。

 

「お婆ちゃん、こんなに貰ったら今日の仕事以上の報酬になっちゃうよ。チルノもいないし、ちょっと奮発し過ぎじゃない?」

 

「いいのさ、ちょいと暫くは店を休むからね。仕事の依頼もしないからちょっとしたサービスだよ」

 

「……お爺ちゃん、ダメそうなの?」

 

「……ああ、最期はしっかり看取ってあげたいからねぇ」

 

 お婆ちゃんは寂しそうに笑うと、手を振りながら隣の家に入っていった。それを見送ってから来た道を歩いて帰る。ふと、視線を周りに向ければ様々な工場が立ち並び、中では大勢の人が働いている。

 人間達の文明はここ数年で爆発的な進化を遂げていた。チルノと見た都は三十年で昭和時代の規模にまで発展し、機械が発明され、工場が増えていった。不可思議な程に早い文明の発達はいっそ不気味に思える程に進んでいた。最近は発展も緩やかになりつつあり、十年程停滞しているが、このペースなら本当にあと数年で近未来的な風景を見ることになるかもしれない。

 振り返って先程のお婆ちゃんの家を見る。発展した工場地域にぽつんとある小さな店。工場拡大の為に立ち退きを要求された中で唯一残り続けている小さな駄菓子屋だ。二十年前からあるその店は老夫婦二人で営業していたのだが、二年前にお爺ちゃんが病に倒れてからはお婆ちゃんが一人で店を支えている。私に在庫の運搬を依頼しに来るようになったのもそれからだった。

 報酬のおまけに貰った飴玉を口に放り込み、私はその店に背を向けた。何となく、もうこの飴玉は食べられない様な気がした。

 

◇◇◇

 

 私の拠点であるなんでも屋は目立たない路地裏が入り口になっている。いくら人間に化けていても私は妖怪だ。長い間歳をとらない人間がいたら誰でも不審に思うだろう。だから目立たない場所に建てたのだが人の噂とは凄いもので、数件依頼を完璧にこなしただけであちこちから依頼がくる様になってしまった。

 ドアを開けて中に入ると、冷んやりとした空気が中から流れてきた。どうやらチルノは先に帰ってきているらしい。

 

「ただいま」

 

「あ、おかえり桜花」

 

 ソファーに寝転がって漫画を読んでいたチルノが立ち上がって駆け寄ってくる。彼女の頭を撫でながら台所へ向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲む。工場地域の空気は酷く悪いので喉が痛くなる事があるので、帰ったら真っ先に水を飲むのが恒例になっていた。

 チルノに報酬の封筒を渡してソファーに座る。中身を見たチルノは私と同じく中身が多いと感じたのだろう。首を傾げて何度か確認をやり直している。

 

「それ、暫く店を休むからサービスだってさ」

 

「わお、お婆ちゃん太っ腹だね!!」

 

 封筒を棚に仕舞うと、チルノは私の隣に座る。その瞬間から真剣な空気が部屋を包んだ。

 

「桜花、山の皆に聞いてきた。やっぱりこの辺りにいるらしいよ」

 

「そう……もう今週で三人も犠牲者が出てる。早く見つけないと人間達が我慢できなくなるかもしれないわね」

 

 目の前にあるテーブルの上に置かれた写真に目を向ける。

 先日、とある人物から依頼された少し厄介な仕事だった。内容はとある危険な妖怪の討伐だ。ある日、町の周囲を巡回していた警備員がバラバラ死体で発見された。しかも、その死体は猛獣に襲われたかの様に食い千切られていた。最初は野犬か何かの動物の仕業だと思われていたが、それが何件も起これば流石に怪しくなってくる。

 そして、遂に被害が十人を超えた頃にそれは見つかった。絶命する瞬間に撮ったと思われるカメラの写真だ。そこには暗闇から手を伸ばしてくる何者かの姿が写っていた。華奢な細い手と、暗闇から覗く鋭い瞳。写真が白黒なので詳しくはわからないが、専門家によれば間違いなく妖怪だと言われたらしい。

 山の妖怪達は文明が発達した人間達を警戒し、人間達は妖怪を刺激しない様に警戒する。お互いが睨み合う様にして成り立つこのバランスはちょっとした刺激で一気に崩壊してしまう程に危うい。だから私は今回の件でそのバランスが崩れないかと非常に心配になっているのだ。

 

「山の妖怪達は何か言っていた?」

 

「そんな妖怪はこの山にはいないってさ。何処かから流れてきた妖怪みたい。真矢も知らなかったから、もっと遠くから来たのかもね」

 

「なるほどね。一応、明日から本格的な調査を開始しよう」

 

「了解」

 

 その後、チルノと二人で何をするわけでもなくのんびりと過ごし、いつもの様に夕飯を食べて風呂に入り、就寝した。

 

◇◇◇

 

 翌日、夕方になるまで私とチルノは犯人が次に現れそうな場所の予想をしていた。

 犯人は夜中に暗闇に紛れて人間を襲っている。活動時間は夜中で間違いないから、後は場所の特定だけだ。

 

「これまで襲われた人達は町の外だけじゃなくて路地裏でもやられてるみたい」

 

「つまり、この妖怪は既に町に侵入しているということね」

 

 町中にいるのに目撃情報がないということは、犯人の妖怪は気配を断つ術を持っているのか、それとも……。

 

「……私の様に人と同じ姿をしているか、人に化けられるということ」

 

「だとしたら相当厄介だね。見た目じゃわかんないんだから」

 

 やれやれと首を振るチルノに私は「大丈夫だよ」という意味を込めて手をヒラヒラと振った。首を傾げるチルノに自分の鼻を指差す。

 

「私が何の妖怪か忘れたの?」

 

「ああ、なるほどね」

 

 そう、どんなに隠れるのが上手くても私は簡単に騙せない。どんなに見た目が人間に近くても、妖怪特有の臭いは誤魔化せないからだ。私は狼の妖獣……鼻は良い。

 その後の話し合いで町の外はチルノが他の妖精達と協力して探すことになり、私は町の路地裏を歩き回る事にした。

 

 夜の町は今回の事件が原因で殆ど人が出歩かなくなっていた。普段ならザワザワと人の営みが齎す音で溢れている通りも、今は静かになっている。

 そこから適当に路地裏へと曲がり、特に目的地も決めずに歩き回る。ただし、同じ道は通らない。町を横断する様に歩いていく。臭いがしないから中心街にはいないのだろう。ならばと中止から外れた工場地帯へと向かう。

 昼間なら轟々と音を響かせている工場も、深夜の時間帯は不気味な程に静かだ。それでも工場特有の臭いが漂っているのに少しだけ安心感を覚えるのは、私が最近頻繁にここを訪れているからだろう。

 

「……ん?」

 

 油臭い臭いに混じって微かに別の臭いが漂ってきた。ほろ甘い様な鉄に近い味の、甘い、甘い、赤い液体の香り。

 

「……こっちか」

 

 工場と資材置き場の隙間から入れる灯りもない通路。月明かりだけが照らすその路地を進んでいくと、更に左右に分かれていた。

 何気なく足元を見下ろせば赤い点が左の路地へと続いている。迷いもなく左へと曲がり、月明かりがはっきりと路地を照らせる位置になった瞬間、私の目の前には半分予想外で半分予想通りの光景が広がっていた。

 臭いで大体の予想はしていた。恐らく人が襲われ、喰われているだろうと。しかし、その喰われている人間に私は見覚えがあった。

 

「……お婆ちゃん」

 

 殆ど原型を留めていないけれど、唯一無事に残っている顔で何とか判別できた。瞼は閉じられ、静かに寝ているだけにも見える顔から彼女は最期の瞬間まで抵抗しなかったのが想像できた。近くには笑顔の老人が写った写真が落ちている。

 

 ……ああ、よかった。最期には立ち会えたんだね。

 

「……誰?」

 

 お婆ちゃんの隣に座っていた誰かが立ち上がった。

 背中まで伸びた金髪、瞳は真紅に輝き、黒いワンピース型の服からは返り血が滴り落ちている。

 少しだけ姿が違うけれど、私はこの少女を知っている。

 

「私は桜花。はじめましてかしら……ルーミア」

 

「……へえ、私を知ってるんだ」

 

 金髪の少女……ルーミアは宝石の様な瞳を嬉しそうに細めながら呟いた。

 

「あなたは、食べてもいい人類?」

 

 

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